「さてナターシャ先生、この訓練では如何言った事をやるのか説明を」
「え?一夏君が説明するんじゃ無いの?」
・・・はい?
俺は今日、教官をやらされる事を知ったんですよ?
何をするかなんて考えてないぞ。
だからナターシャさんに振ったのだが、如何やらナターシャさんも考えてないみたいだ。
「困りましたね」
「大丈夫、訓練方法ならすぐ考え付くから」
「それまでは如何するんですか?」
「一組ずつ連携に必要な動きかなんかを確認しておくから」
「・・・考えるの俺ですか?」
「だって一夏君の方が慣れてるでしょ?そう言うの」
それはそうだが、こう言うのって教師の仕事でしょうが。
愚痴を言いたい気分だったが、これ以上時間を無駄にするのは効率が良くない。
俺は諦めて訓練メニューを考える事にした。
「それじゃあ皆はアッチに移動して動きを見せてもらいます」
「先生?何の動きですか」
「とりあえずは前衛の人の動きと後衛の人の動きね」
そう言ってナターシャさんは生徒を引き連れて俺の傍から離れていった。
代表候補生が居る今日のメンバーなら、動きを確認する必要は無いんじゃないのか?
「それじゃあまずはオルコットさんと夜竹さんね」
一夏君が何か思いつくまで私はこの娘たちの動きの確認をする、と言う名目で訓練メニューを考える事から逃げ出した。
だって一夏君が居るから考えなくても良いって思ってたのに・・・
真耶と組むはずだった時も真耶に任せようと思ってたし、正直そう言った事を考えるのは得意じゃない。
「それで、どっちが前衛をやるとか考えてます?」
「機体から言っても、私が後衛ですわね」
「って事は私が前衛かぁ~、正直不安だな」
夜竹さんのIS操縦技術は成績を見る限り悪くは無い。
だが、彼女もどちらかと言えば後衛の方が向いていると私は思う。
「オルコットさんは確か、複数人での戦闘に慣れてないと織斑先生が言ってましたが不安とか無い?」
「大丈夫ですわ!この私が同じ失敗を繰り返すはずありませんもの」
噂には聞いてたけど、オルコットさんの自信は何処から来るんだろう?
別に複数人での戦闘訓練を重点的にして来た訳でもなさそうだし、凰さんと組んで真耶と戦った時は手も足も出なかったって織斑先生が言ってたのだが・・・
「それじゃあメニューが決まるまで二人で打ち合わせなどしてて」
「分かりましたわ!」
「はーい」
正直言えば、不安しか無いんだけど・・・
まあ訓練だし、怪我くらいなら個人の責任だからね。
「次はデュノアさんと谷本さんね」
「「よろしくお願いします」」
「はいよろしく。それで、二人はもう決めてるの?」
「僕の専用機はラファールですからね。僕が後衛をします」
「私が前衛で敵を切り捨てるよ!」
「なるほど」
デュノアさんの専用機は確かに後衛向きだ。
そもそも一年生の専用機持ちの中で、前衛向きなのは一夏君と布仏さんだけな気がする。
ボーデヴィッヒさんの専用機もどちらかと言えば中遠距離の武器が多い。
今日の訓練、如何言うメニューになるのか分からないけど、前衛に不安ありね。
「先生?」
「ん?何かな」
「いえ、何か考えてるようでしたので」
「何でも無いよ。それじゃあ二人も打ち合わせをしてて」
「「はい!」
後どれだけペアが居るのよ・・・
一夏君、早く訓練メニュー考え付いて!
急に考えろと言われてもそう簡単に思いつくものでもない。
周りに人が居なくなったので集中して考えられるがこれは困った。
そもそもこう言うのは即興で考えるものじゃ無いだろ。
「さて、如何するかな」
誰も居ないので答えなど返ってこないつぶやきをして、俺は他の班のメニューを確認する。
山田先生は銃を使って的を射抜く練習をしている。
あの的、今は止まってるが動かせるみたいだな・・・
遠距離攻撃で大切なのは精度だと思ってる。
幾ら威力のある銃でも当たらなければ意味が無い。
動いている的を狙うのはとても良い訓練だろう。
一方の近接戦闘の班は互いに木刀を構えて間合いの取り方や隙の突き方などを織斑先生に教わっているようだ。
ISを使わないのなら武道場でも良いんじゃないか?
後で使うのかもしれないが、向こうで射撃をしてるのだ。
万が一流れ弾でもくれば・・・心配無いか。
何せ近接戦闘の担当は織斑先生だ。
あの人なら生身でも流れ弾くらい如何とでも出来るだろう。
「いっくん!須佐乃男のメンテナンス終わったよ~」
「そうですか」
「ちぇ~、いっくんを驚かそうとしたのに~!」
「十分驚いてますよ。もう30分経ったんですか?」
「ううん、いっくんが大切に使ってるからそんなに時間が掛からずに済んだんだよ~」
「一夏様、お待たせしました」
別に待ってない。
この3日間は須佐乃男に乗る事は無いだろうな・・・ん?まてよ。
「束さん、須佐乃男はもう使えるんですよね?」
「うん!束さんがチェックしたんだから変な動作不良無く動くよ!」
「それならすぐ使わせてもらいます」
「ねえねえいっくん」
「何です?」
束さんが俺の袖を引っ張る。
身長差があるからだろうが、子供みたいですね・・・
「いっくんの稼動データから新しい武器を須佐乃男に積んだんだけど、役に立つかな~?」
「新しい武器?」
今の須佐乃男の武装で十分なんだが、これ以上何を積んだんだ?
俺は渡されたデータを見る。
「なるほど・・・面白いですね」
「でしょ!」
これが本当に機能すれば格段に間合いが広くなる。
「でもエネルギー消費が問題ですね」
「燃費の悪さはしょうがないよ。でもでもいっくんなら問題無いでしょ?」
「持続時間によりますが、問題は無いですかね」
「だよね~!ちなみに持続時間は精々20秒かな?」
「意外と長いですね」
「いっくん以外が使えば5秒も持たないけどね~」
とんだ欠陥品だな・・・
束さんは俺以外には使えない武器なんて作って如何しようとしたんだか・・・
「一応注意しておくと、持続時間が過ぎると簡単に壊されちゃうからね」
「つまり時間内に元に戻しておく必要があると」
「さっすがいっくん!威力は高いけど使い所は難しいんだ。いっくん、この武器をヨロシクね!」
「それでまたデータを取って新しい武器でも作るんですか?」
「そ、そんなこと無いよ?」
・・・あるんですね。
まあ使えるものは使わせてもらうとするか。
「じゃあ束さんは上から見てるね~」
「帰らないんですね」
「いっくんの戦闘を近くで見たいからね~」
「どうせ学園のデータバンクにハッキングして映像で見てるんでしょ?」
「な、何の事かな?」
あてずっぽうで言ったら図星だった。
てか、簡単にハッキング出来る管理方法じゃ無いんだが。
まああの人なら何でもありか。
「あんまり行動が過ぎると怒られますよ?」
「バレなきゃ平気だって!」
「もう俺にバレてるんですが」
「いっくんはちーちゃんに告げ口なんてしないもんね~」
その自信は何処から来てるんだ?
俺だって行き過ぎれば怒るし、千冬姉に報告だってする。
千冬姉や俺と一緒に居るから勘違いされがちだが、束さんだって生身でISに立ち向かえるくらい動ける人なのだ。
規格外なのは頭脳だけでは無い。
俺は、この人と戦わなければならない状況にならないよう願う事にした。
「それじゃあ頑張ってね~」
「隠れる必要あるんですか?」
例のステルスを使って姿を隠した束さんに俺は質問をした。
居る事は分かってるし、俺にはあのステルスは通用しない。
恐らくだが、千冬姉にも、もう通用しないだろう。
同じ失敗を繰り返す千冬姉だが、同じ手で騙せる人では無いのだ。
「一夏様、恐らくは他の人間から隠れてるのかと」
「別に隠れる必要なんて・・・ああ、あの人はある意味国際指名手配されてるもんだからな、隠れるのが日常なのか」
「天才は後先考えない馬鹿って言うのは本当なんですね~」
「誰から聞いた、そんな事」
また俗世に毒されてるのだろうか。
TVなんかで聞いた言葉を使いたかったのだろうが、あまりにも表現が辛辣過ぎるぞ。
すべての天才がそんな訳では無いだろう。
「一夏様、それじゃあ束様に対するフォローになってませんよ?」
「別に束さんをフォローしたかった訳じゃないし」
「一夏様も十分辛辣ですよ」
「かもな」
俺と須佐乃男は顔を見合わせて笑った。
結局二人共束さんには辛辣だったのだ。
「さて、それじゃあ訓練と行くか」
「私も頑張りますよ」
新しい武器も試せるし、悩んでたメニューも出来たし一石二鳥だったな。
「えーと最後は凰さんと篠ノ乃さんのペアね」
一夏君がメニューを考えてるであろうから、私は精一杯時間を稼いだ。
でも、ついに最後のペアになってしまった。
「そうよ!」
「そうだ!」
しかも最後は一夏君の昔なじみペアだった。
申請順に確認してたのだから当然と言えば当然か。
何せこの二人が申請しに来たのは他のメンバーが整列し終えてから5分くらい後の事だったからね。
それにしても凄い威圧感。
「それで、どっちが前衛か決まってるの?」
「私が前衛だ!」
「アタシが前衛よ!」
「・・・決まってないのね」
互いに我が強いからね。
これは長引きそうね・・・
「鈴の専用機は中遠距離型だろ!ここは私に前衛を任せてもらおうか」
「アンタだって打鉄かラファールかを選べるんだから偶には後衛をやりなさいよ」
「何だと!」
「あによ!」
ああ、喧嘩だけは止めてよね。
仲裁するのが大変そうだし、私ではそもそも仲裁出来そうに無いから。
「何騒いでるんです?」
「あっ、一夏君!」
仲裁出来そうな人が来てくれた。
「どっちが前衛やるかでもめてるの」
「我の強い二人ですからね。どっちかが折れるのを待ってたら日が暮れますよ」
「でも私じゃどうしようもないし」
そう言うと一夏君はため息を吐いた。
一夏君、ため息を吐くと幸せが逃げるらしいわよ?
「おい鈴、篠ノ乃、お前たちはどれだけ迷惑を掛ければ気が済むんだ」
「迷惑など掛けてない!」
「迷惑なんて掛けてないわよ!」
「やかましい!十分迷惑掛かってるんだよ」
「「は、はい・・・」」
一夏君に怒鳴られ大人しくなる二人・・・一夏君は本当に凄いな。
世界最強である織斑先生も、一夏君に怒鳴られれば大人しくなるほど、一夏君の怒鳴りには威力がある。
「丁度良い、お前らから訓練の相手をしてやろう」
「え?相手って!?」
「俺一人相手に二人掛かりで攻めて来い。須佐乃男も戻ってきたし、コッチにも試したい事が出来たからな」
「一夏、顔怖いわよ」
凰さんの言ってる事は冗談ではなく本当だ。
一夏君は悪い事を企んでいるのが良く分かる笑顔で二人を見ているのだ。
「怪我はしないように気をつけろ」
「で、でもまだアタシたちはどっちが後衛をやるか決ってないんだけど」
「そんなもん鈴がやるべきだろ」
「何でよ!?」
「ろくに射撃経験の無い篠ノ乃が後衛をやったってまともに機能するはず無いだろ。そもそも鈴の機体は中遠距離型の武器が多いんだ。セシリアと組んだ時とは違い、篠ノ乃は前衛向きなIS操縦者だ」
「な、なら射撃の練習をさせるために後衛にしたほうが・・・」
「それは後日山田先生が担当する訓練ですれば良い事だ。あくまでもこれは連携の訓練だからな」
「わ、分かったわよ!」
一夏君に言い包められ凰さんが後衛に決まった。
でも、一夏君が考えたメニューって何なんだろう?
「それじゃあ篠ノ乃は打鉄に乗り込んでくれ。くれぐれも降りる時は注意しろよ」
「分かってる」
篠ノ乃さんが打鉄に乗り込み、一夏君と凰さんは専用機を起動させた。
いったい何を企んでるのだろう・・・
「それで!一夏、アタシたちは如何すれば良いの!!」
「制限時間内に俺に一定のダメージを与えろ。ただししっかりと連携を組んだ攻撃で無ければ無効とする。そして、此方からも攻撃はするので油断はするな」
「一定ってどれくらいだ?」
「シールドエネルギーの1/10だ」
「それって楽勝じゃない」
「一夏、あんまりナメ無いでもらいたいな!」
「言ったろ、油断するなって」
そもそも俺はダメージを受けるつもりなど無い。
連携訓練は俺にとってついでだ。
「(一夏様の目的はこれですよね)」
須佐乃男がデータをモニターに出した。
新しい武器、蛇腹剣・黒雷。
持続時間の確認と威力を確認するためにこの訓練メニューを組んだのだ。
「制限時間は5分。ナターシャ先生、合図をお願いします」
「わかったわ!それじゃあ準備して」
ナターシャさんの合図を待つ間、二人の方を見る。
俺相手に油断はしてないようだが、勝利条件が楽なので何処か気合が入ってないようだ。
これなら瞬殺出来るな。
「(一夏様が勝っても仕方ないですよ)」
勝敗は関係無いが、あんまり長い間動くとエネルギー消費がな。
幾らお前の回復速度が速いとは言え、余計な時間は使いたくない。
「(一夏様らしいですね)」
「行くぞお前ら、簡単に終わってくれるなよ」
「それはアタシの台詞よ!一夏こそ油断しないでよね!!」
「私だって一夏に一矢報いる!」
「それは楽しみだ。期待するとしよう」
前哨戦が終わり無言になる。
そろそろ開始の合図が来るだろう。
「それでは始め!」
ほら来た。
合図と共に鈴が龍砲を放ち篠ノ乃がそれに合わせて動いた。
「想像通りでつまらんな」
「何!?」
篠ノ乃が切りかかってきた方向に龍砲を逸らし動きを止める。
やっぱりつまらんな・・・
「(一夏様、もう使います?)」
もう少し動きを見なきゃ駄目だろうな。
あくまでもこれは俺の訓練じゃなくあいつらの訓練だから。
「(関係無いと言っておきながらそう言った配慮を怠らない一夏様が好き!)」
そのネタまだやるのか。
須佐乃男がまだ人間の姿になれなかった時に散々やったネタだ。
「(ネタじゃないですよ!本当に一夏様の事が好きなんです!!)」
知ってるよ。
いくらなし崩しとは言え自分の彼女の気持ちくらいは理解しているつもりだからな。
「(一夏様・・・)」
「如何した一夏!動きが止まってるぞ!!」
「かかったな」
俺が作った隙を突いて篠ノ乃が突っ込んできたが、それは下策だ。
自分が見つけた隙が本当に隙なのかを確認しないで突っ込んでくるあたり、篠ノ乃はまだまだなようだな。
「コッチも忘れないでよね!」
「忘れてねえよ」
鈴が龍砲でけん制してくる。
連携は意外と出来てるみたいだな。
「どっちが前衛やるかで揉めてた割にはしっかりと連携取れてるな!」
「やるからには本気よ!」
「当たり前だ!一夏、私たちはお前に勝つ!!」
「なら、もう良いか」
俺は黒雷を展開して試し斬りをする事にした。
「(一夏様、出力は如何します?)」
そうだな・・・とりあえず5割くらいで。
「(了解しました)」
いきなり全力で試す必要も無いだろうし、半分なら持続時間は如何なるのかも試したいからな。
「(それでは行きます!)」
須佐乃男の合図で俺は離れた鈴に剣を向ける。
一見すると何をしたいのか分からないだろうな。
「何?一夏、何をしたいのよ」
「なに、試したい事があるんでな」
鈴に向けて剣が伸びる。
この剣の特徴の一つだ。
「え!?何これ、剣が伸びてる!?」
「それだけじゃ無いぞ!」
鈴に届くくらい伸びた剣で電を帯びた一撃を放つ。
さっき言った通り出力は半分だ。
「何よこれ!馬鹿げた威力ね!?」
「おっ、ちゃんと当たったか」
「お前の犠牲は無駄にしない!」
背後から篠ノ乃が襲い掛かってくる。
鈴の事を勝手に殺すなよ・・・
「篠ノ乃、ISにはセンサーがあるのを忘れたか?お前の動きくらい把握してる」
俺は鈴から篠ノ乃に標的を変える。
如何やら出力を変えても持続時間は同じのようだ。
だが、その後の待機時間は短く済むようなので、大勢相手でも使えそうだ。
「(今度はどれくらいで行きますか?)」
気に入ったのか?
「(面白いじゃないですか!剣が伸びて雷を横に落とせるんですから)」
落とすんじゃなくて描くんだけどな。
剣の軌道上にしか雷は現れないし、途中で剣の軌道を変えても雷の軌道は最初のままだ。
これは今度改良してもらうとするか。
「(雷を避けても剣で攻撃が出来る。便利ですね)」
持続時間が切れれば鈍ら以下の耐久度しかないからな。
その間に叩かれれば終わりだ。
「(完璧な武器を作るにはまだまだ時間が掛かるって事ですね)」
別に完璧な武器なんて必要ないだろ。
ようはその場を凌げれば良いんだから。
「一夏!!」
「連携相手が居ない時点で終わりなんだがな。仕方ない、相手してやるか」
篠ノ乃のやる気を酌んで相手する事にした。
「さて、次は誰にする?」
「一夏君、今の訓練って?」
「連携相手をいかに守れるか、そしていかに敵に隙を作らせるかです」
「一夏君って自分で隙作ったよね?あれは何で」
「作った隙が必ずしもチャンスとは限りませんからね。その事も覚える必要はあるでしょ」
俺の説明を聞いて篠ノ乃と鈴は俯いた。
隙とあらば突っ込む癖のある二人には良い薬となるだろう。
新武装蛇腹剣・黒雷
蛇腹のようにくねくねと伸び、振れば雷がその軌道上に現れる
その威力は最大で零落白夜と同等
しかし雷を使ったあとは数十秒間は鈍ら以下の威力と耐久度しか無くなる
燃費が悪さも零落白夜レベル