マサラタウンのきのみ屋さん(次話執筆中▷▶︎▷▶︎)   作:ソーマ=サン

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※ サブタイトル修正(詳細は11話(6/8 0時更新分)前書き参照)
※ サブタイトル修正。中身はそのまま。


マサラタウン:VSチャンピオン

 

 

 

 久方振りに四天王を降し、チャンピオンに挑む者が現れた。

 

 その赤髪の少年の名は、シルバー。

 以前、挑戦者の彼と同じようにこの場まで辿り着き、そして見事に玉砕したゴールドという少年と同郷──ジョウト地方のワカバタウン出身だという。

 シルバーと(まみ)えた時、レッドの朧気な記憶の片隅に、彼の赤色とよく似た赤が残っているような気がした。が、思い出せないということはそう大したものでもないのだろう。

 彼は意識を切り替え、何らかの意志の篭った強い眼差しに真っ向から応えていた。

 チャンピオンを見据える双眸に、胆の据わった少年だと、レッドは素直に感心した。憧れなどという浮ついた感情は、その真っ直ぐな瞳からは窺い知れない。

 それよりももっと攻撃的な、対抗的な色が深かったが、嫌悪とは違う。レッドの感性からは言い表せない特殊な感情の発露が、そこにはあった。

 

 無言で佇むレッドから、対戦者に掛ける言葉はない。

 今までも、これからも、レッドは唯一の君臨者として──絶対強者として、()()を受けてなお這い上がって来た者達を全力で以て叩き潰す。ここに(いただ)くにはその実力では力不足だと、完膚無きまでに磨り潰す。

 手心を加える余地はない。態々(わざわざ)手加減する、その調整が煩わしく、それは逆説的に、レッド自身を基準に、高みを目指すにはお粗末な能力であると判じていた。

 地上を這うが如く、無様。故に、再び地に這い(つくば)るのがお似合いだと、容赦なく劣等感という心折る刃を突き付ける。

 

 それこそがレッドのチャンピオンとしての顔であり、妥協を許さない負けず嫌いな性格の(あらわ)れだった。

 マサラタウンでクリアに対戦を申し出たレッドとは、完全に纏う雰囲気が異なっている。抜き身の刃、などと生易しいものではない。()って喰らう殺気の奔流。仮に大気が色付くならば、彼の周囲は濁り赤黒いものが(とどこお)っていたことだろう。ともすれば血臭を錯覚していたかもしれない。

 それ程に闘気が漲っている。

 

 それを前にして、しかしシルバーは(ひる)まない。

 

「⋯⋯チャンピオンに1つ、尋ねたいことがあります」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 モンスターボールから相棒のリザードンを解き放った。

 対戦を前にした問答に、レッドは微塵も応えるつもりはない。

 ただ、その挑発的な視線は、彼の内心を雄弁に物語る。

 

 ──もしも俺に勝てたなら、その時は好きなだけ聞いてやる。

 

 傲慢さが垣間見える。然れど幾度となくチャンピオンの座を防衛してきた、実力に裏打ちされた余裕。侮っているのではない。これがレッドの自然体だった。

 

 レッドに近しいレベルにまで昇華しているシルバーという少年は、納得の末、自らのモンスターボールに手を掛けた。

 シルバーの手持ちは、レアコイル、クロバット、ニューラ、オーダイル、フーディン、ゲンガー。

 対するレッドの手持ちを、シルバーは既に知っている。

 現在場に出たリザードンに、フシギバナ、カメックス、カビゴン、ラプラス、そしてピカチュウの計6体。

 各地のバッチを集め、セキエイ高原に夢馳せる時、挑戦者はまず初めにチャンピオンリーグ公式サイトに辿り着く。そこにはチャンピオンを初め四天王の繰り出すポケモンが公表されており、少しでも勝率を上げるために挑戦者は有利な編成を考えるのだ。

 シルバーも数多(あまた)いるチャンピオンを目指す者達と同様に、公式サイトはチェック済であった。とは言え、生半な実力ではチャンピオンリーグを踏破することなど夢のまた夢。到底太刀打ちできるものではない。

 そこを曲がりなりにも達成してきたシルバーは、一先(ひとま)ずの挑戦権を得た状態だった。

 だから平静に見える彼の内心は、凄まじい程の緊張感に満たされていた──とはならない。彼がチャンピオンを目指した理由は、その座に座ることに憧れたからではない。チャンピオンという肩書きよりも、レッドという青年と1度話して見たかったのだ。

 

 ──あなたは()()()、何を思っていたのですか。何を感じていたのですか。

 

 ただ、それだけを問いたくて、その一心だけで強さを求め、ここまでやってきた。その執念は並外れたもので、(たと)えレッドの抱くものと比較しても決して劣るものではない。

 

 父の失踪と、その原因となった事件と直接的な関係を持つチャンピオン。

 

 遂にここまで来たという達成感と、あともうひと踏ん張りという振り絞った気合い。

 

 タイプ相性通りにオーダイルを出したシルバーの内心は、正直なところ、話が出来ればこれからの勝敗に特に(こだわ)りはなかった。負けたとしても胸に巣食っていた(わだかま)りは解消され、2度目の挑戦を望むことはないだろう。恐らく悔しさなどとも無縁なはずだ。

 しかし、チャンピオンとの会話のために、勝利という条件が提示された。ならば、その条件を飲むしかシルバーに取れる選択肢は残されていなかった。

 

 目を閉じ、心を落ち着かせるように深く息を吸う。

 そして瞼を上げた時、それが試合開始のゴングとなった。

 

 ◇

 

 素早さに優れていたのはオーダイルだった。

 分厚い皮の下で筋肉が鳴動する。2足から4足での疾走。体躯に見合わぬ俊敏さで距離を詰めた青い影が、初動の遅れたリザードンに襲いかかった。

 大口を開けた()()()()()

 それは自然界で狩りをするような容赦ない一撃で、如何なるものであれ食い潰す、万力の顎から繰り出される圧倒的暴力。獲物に対して舌舐めずりをするように、唾液の纏わる無数の牙が光を反射して鈍く光った。

 長い首を目掛けて迫った頭部が、──身を翻したリザードンの尾により弾かれた。横っ面を強烈に叩き付けられ、オーダイルの顔面に痺れが走る。

 左方に流れた体。思わず瞑られた右目。

 大きな隙を見逃さず、リザードンは攻勢に転じていた。

 

 レッドとリザードンの間に指示はない。

 それはつまり、クリアとの一戦は、飽くまでパフォーマンスでしかなかったということ。

 真に心を通わすトレーナーは、無駄な指示を挟まない。現にシルバーとオーダイルの間にも、指示らしい指示は発せられていなかった。

 トレーナーは、ポケモンの視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚・第六感──五感+‪αに更に付け加えられる第7の感覚器。ポケモンの目であり、耳であり、鼻であり──、戦況を俯瞰できる()()()()

 闘争の当事者たるポケモンの不足部分を補う外部器官だ。

 

 トレーナーが指示を出すということは、即ち、闘うポケモンの察知できない、或いは察知しにくい事象が起こり得ているということ。

 今回に於いても例に漏れず、シルバーがこれから発する命令は、オーダイルの右目が暫くの間に使い物にならないことを予感してのことだった。

 

 リザードンの左腕(さわん)が唸りを上げる。

 ドラゴンクロー。硬質な爪が追撃とばかりに放たれた。

 

「オーダイル! ねっとう!」

 

 鋭い技の咆哮。

 その意味を理解した瞬間、オーダイルの口から大量の熱湯が吐き出された。その水流はリザードンに向けられたものではない。差し当たって回避するための、そして自身に有利な場を整えるための第一手。

 床に叩き付けられる水流は、遮るものがない水平方向へと広がっていく。濁流の勢いで膨れていき、あと一歩という距離に詰めていたリザードンの巨体をも押し流す。

 トレーナーの立つ場所から一段低く造られたフィールドは、瞬く間に湯気の立ち上る温水プールの様相となっていた。

 

「続けて()()()()だ! 全力で押し潰せ!」

 

 水を得た魚のように、水底に張り付いていたオーダイルが、一気に水面に浮上する。そのまま矢のように跳ね上がると、追従して幾つもの高波が発生した。

 波に取り込まれるようにして引いていく水位。

 水に沈んでいたリザードンの姿が顕になる。

 

「ブラストバーン。喰い千切れ」

 

 静かな神託。世界最強の王者の威光を孕む、絶対的な命令。

 尻尾の灯火を守るため、翼を大きく広げて身を包んでいたリザードンが、水滴を弾くように強かに羽搏いた。それと同時に縦横無尽にエアスラッシュが発生し、周囲に薄く溜まる水を追い遣った。

 

 ──激震が、走る。

  

 (さなが)ら、太陽の如く。

 驚異的な熱量が迸り、リザードンの号砲に合わせて爆発が連鎖する。力強い連弾で奏でられる爆音が、オーダイルに喰らいつくように大気を走った。

 

「ぐっ⋯⋯!?」

 

 シルバーが苦しげに呻く。

 トレーナーへの衝撃は、それぞれの左右に控えるフーディンのミラーコート、光の壁により大幅に減退している。それでも肌が痺れるような感覚を受けるのは、決して眼前の光景に圧倒されたからだけではないだろう。

 

 破壊の連続は、オーダイルに近付く程に肥大する。

 セキエイ高原に聳えるチャンピオンリーグそのものが揺れるかのようだった。それが錯覚か、事実か、ここで闘うシルバーには確かめようがない。

 天の空いたこのフィールドから、もしかしたらカントー・ジョウト地方全域に破滅の胎動が響いているかもしれない。それを同様に判ずることは出来なかったが、シルバーにはそれが現実であるようにしか思えなかった。

 

 オーダイルの()()()()がリザードンを飲むのか、将又(はたまた)リザードンのブラストバーンがオーダイルを蹂躙するのか。

 改めて考察するまでもなかった。

 

 ──両者が、激突する。

 

 熱波が波を食い破り、水蒸気が発生する。

 そこから繋がる数多の轟音。外気に冷やされ、白い霧が戦場を覆い隠し、オーダイルの安否が案じられる。

 果たして、オーダイルは生きているのだろうか。

 試合に於いて意図的に生命を奪うのはご法度だ。仮に意図的でないにしても、耐久力には当然のことに限度がある。ポケモンが人間と比べて軒並み耐久力が高いと言っても、並のポケモンではリザードンのブラストバーンに耐えることはまず不可能。タイプ相性があったとしても、優にその()を超えてくる。

 

 千千(ちぢ)に砕けた大波が、幾らかの飛沫を残して霧散する。その飛沫の音さえ今では聞こえると言うのに、可笑しなことに、

重いものが落下するような音は聞き取れなかった。

 

「リザードン、かぜおこし」

 

 シルバーのみならず、レッドが違和感に顔を顰める。

 レッドの見立てでは、影も形もなくこの世から消し去るほど、オーダイルの耐久は薄っぺらなものではなかった。寧ろ五体満足で耐えるだけの優秀な()()()であると感じていただけに、引っかかりを覚えたのだった。

 

 真相を確かめるためにリザードンの巻き起こした風により、霧は払われる。

 その先には漂う影が2()()あり──、

 

『『──⋯⋯⋯⋯!?』』

 

 それを認めた時、トレーナーの左右に控えていたフーディンが一斉に(こうべ)を垂れた。

 何事かと思うシルバーに、納得したようにレッドは息を吐く。

 

「くぅ⋯⋯、相変わらず⋯⋯」

 

 呆れた溜息と共に(かぶり)を振り、再び見上げた視線の先。

 リザードンに翳した手の中で極小の太陽を丸め込み、

 

「悪いが今は試合中だ、後で出直してくれ──」

 

 もう一方の手で気絶したオーダイルを浮遊させ、

 

「──なぁ、クリアんとこのケーシィさんよぉ」

 

 クリア農園からテレポートしてきたケーシィは、静かにレッドを見詰めていた。

 

 

 

 

 

 




 セキエイ高原のチャンピオンリーグが各地のリーグの総本山らしいので、レッドの設定に『世界最強』が追加されました。
 タイプ相性なんてなかったんや。

 余談ですが、金銀版のライバルってサカキの息子だったんですね(wikiを見ながら)。初めて知りました。

※ 次話も念の為1週間前後。
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