マサラタウンのきのみ屋さん(次話執筆中▷▶︎▷▶︎)   作:ソーマ=サン

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 サブタイトルは、シンプル・イズ・ベスト。


マサラタウン:行き先

 

 

 『未知』の事象を回避する。その難度は計り知れない。

 『未知』とは読んで字の如く『未だ知らぬこと』。知らないのだから対処のしようがない。安全か危険かも判断できず、もしかしたらその1度の遭遇が取り返しのつかない結果を齎すかもしれない。(おぞ)ましく、(おびただ)しく、(むご)たらしく──、そんな結末を下すかもしれない。

 『未知』とは『恐怖』だ。

 故に、テレパシーも多くにとっては『未知』であり、精神に直接干渉することから、悪意ある者が行使すれば最悪廃人化する恐れもある、紛れもない『恐怖』。

 しかも、それを拒絶する感覚は、テレパシーの経験がなければ容易くは掴めない。経験したとしても必ずしも獲得できる感覚ではなく、当人のセンスに多分に左右される。電話のようにボタン1つで気軽に拒否するのとは訳が違う。

 

 一方で、『既知』となれば対処法が生まれてくる。

 テレパシーを例に挙げれば、『既知』となったことで拒絶する感覚を掴めるだろう。あたかも電子機器のセキュリティの如く、己の精神を防衛する障壁を張ることも可能だろう。

 更に、『既知』の深度を掘り下げれば、無意識下でも抵抗することができるだろうし、眠っていようと覚醒時と同等の強固なプロテクトを己の精神に備えることが可能となろう。

 そして更に深く、『既知』について精通すれば、相手の意識を受け入れてなお、何の影響もない鈍感とも底なしとも言える許容量へと成長するかもしれない。相手の侵入を許したからと言って、何かしらの情報を抜かれるでも、精神を(いたずら)に弄られるでもなく、ただテレパシーの繋がった感覚だけをフィードバックする空虚な受容器となるかもしれない。

 それはもしかしたら、クラッキング側が発狂しかねない、混沌だけを返信するパンドラボックスと化すかもしれない。

 

 ──何故、このようなことを唐突に述べ出したかと言えば、クリアの現状が正にそうだからだ。

 『未知』を『既知』とし、ケーシィとの意思疎通の中で自然と突き詰められて来た結果、彼のテレパシーに対するファイアウォールは、金剛石の如き強固さを秘めていた。

 

「チッ、何だこいつ、全然入り込めないぞ⋯⋯! どういう精神構造をしてる⋯⋯!?」

 

 焦ったように悪態を付くのは、サイキッカーの少年。

 10代前半の幼い風貌の彼だが、その実、見た目通りの年齢ではない。(よわい)は既に30を超え、『超能力』という人智を超えた異能を有した影響か、若々しい外見を保っている。

 そんな彼が、遥々(はるばる)海を越えてカントー地方に踏み入ったのには、とある理由があった。

 

 それは、1本の動画だ。彼の所属する()()の情報部が掴んだ、カントー・ジョウト地方リーグチャンピオンの対戦動画。先月中頃にPika-Tube に投稿され、現在は権利者の申し立てにより削除されているそれが、上司の(めい)を通して彼をこの地に(いざな)った。

 

 動画には、彼等にとって見逃せないポケモンが1体、映り込んでいた。

 筋骨隆々の赤い体躯。蚊のような鋭い口吻(こうふん)。カイリキーよりも逞しいそのポケモンの名は、マッシブーン。又の名を、UB02(ユービーゼロニ) EXPANSION(イクスパンション)

 彼等が極秘裏に研究している異次元のポケモン──ウルトラビーストの1種だった。

 

 サイキッカーの男に下された最重要の命令は、そのUB02 EXPANSION の調査。

 そして情報収集のために彼の選んだ手段が、『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』。UB02 EXPANSION の主人と(おぼ)しき青年──即ち、クリアの拉致、そしてテレパシーによる情報の強奪だった。あわよくばそのまま()()まで連れて帰り、ゆっくり情報を抜き取ることも考えていた。

 だが、現実はそう簡単には事が運ばない。

 

「多少は抵抗されるとは思っていたけど⋯⋯! それにしても硬すぎる!」

 

 彼も例の動画は何度か視聴している。

 対象を把握するために、限られた素材から最大限の情報を読み取るのは、()()の者にとっては当然のことだ。とは言え、今回に至っては情報部が態々(わざわざ)クリアの正体を特定するまでもなく、件の動画投稿サイトのコメント欄で『チャンピオンと対等に遣り合う青年』として華々しく認知され、加えて従来からメディアへの露出があり、農園のPRを自前のHPで行っていたことから、どこの誰で何をしているのか、赤裸々な情報は労せず入手することができていた。HPには農園の郵便番号や住所、日々の作業ブログも載っていたのだから、寧ろ情報を取り零す方が難しい。

 その動画の中で、クリアはケーシィを(そば)に控えさせていた。エスパータイプのポケモンと暮らしている者が、そのポケモンとコミュニケーションを取るためにテレパシーを使わない、なんてことは殆ど有り得ない。基本的にエスパータイプのポケモンは声帯が退化しているから、声以外の方法でコミュニケーションを図るのが大半なのだ。

 だからサイキッカーの男は、クリアの()()も一定の強度を有しているであろうことは想定していた。だが、日頃の意思疎通をテレパシーで行っていたこと、サイキッカーとしてのプライドから、まさかこれほどまで手古摺るとは思ってもみなかった。

 青天の霹靂。このような言葉を同じ土俵に立たない──サイキッカーでもない一般人に使う日が来るとは、想像だにしていなかった。

 

「ムシャーナ! ネイティオ! ランクルス! もっと出力を上げてもいい! いや、全力でやれ!」

 

 港のあるクチバシティを目指して道路を走行するバンの後部。座席を倒し、そこで寝かされたクリアの周りに、サイキッカーのポケモンたちが必死の形相で(たたず)み、或いは浮かんでいた。サイキッカーの顳顬(こめかみ)にも、力みによる青筋が浮かんでいる。

 

 それから数分か、十数分か、それとも数十分か。果敢にクラッキングに挑んだ結果、クリアの()()()()()()()()に綻びが生じていた。

 

「っ!? 一気に畳み掛けろ! こじ開けてしまえばこちらのものだ!」

 

 そこに気の緩みがなかったとも言い難い。

 ただ、そうでなかったとしても、その後の展開はサイキッカーにとっても、彼のポケモンにとっても、そして運転手を務めていた()()の者、助手席に座っていた情報部にとっても、想定外であったに違いなかった。

 まさか()()を破ることで、()()()()()に陥るなどとは。

 

「──⋯⋯⋯⋯『────』──」

 

 クリアの唇が微かに動く。

 日によく焼けた浅黒い肌。色素の抜けた白い髪。ところどころ汚れた白の作業着に、安全靴、そして作業用の赤い手袋。首には麦わら帽子が掛かっていて、腕時計と2本のラバーバンドが左右の腕に巻かれている。

 彼の腰に掛かるモンスターボールは存在しない。サイキッカーが取り上げたのでなければ、初めから1つとして彼は所持していなかった。

 彼の呟きは、その後口の中で転がって──。

 バンの中で威容が膨らむ。

 

 ──次の瞬間、

 

「なっ⋯⋯!? 」

 

 蠢くは()()()()

 車体のドアが弾けるように、強烈な勢いで吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 




 言い忘れていましたが、テレパシーは、エスパータイプの大半が持つ性質としてを設定しています。今更ながらご了承ください。
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