マサラタウンのきのみ屋さん(次話執筆中▷▶︎▷▶︎)   作:ソーマ=サン

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 ある種、読者のサビ分け回になるかもしれないです。『こんなんポケモンじゃねぇ!』って。今回そうならなくとも、たぶん次話はそんな感じになりそうです。

 カントー地方の位置関係については、ポケモンだいすきクラブHPのカントー地方の地図を見てみてね。
(Google『カントー地方』で検索するとすぐ出てくると思うよ!)



マサラタウン:大橋

 

 

 それがどういう経緯で彼の体に()()()()()のか、クリアは疎か、ケーシィにも分からなかっただろう。

 

「⋯⋯メタモンへんしん──」

 

 ただ、可能性があるとすれば(およ)そ10年前に山林を開拓した時であろうが、それがこのような場面で表面化するとは、それこそ理解の埒外だろう。

 一体誰が予想できるだろうか。

 

「──()()()()()()──“()()()()()”」

 

 テレパシーの防衛手段として、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()などと。

 

 ラバーバンドに()()()()していた2匹のメタモンが、クリアの呟きに応じて凄まじい速度で彼の腕に纒わり付き、赤い筋肉質なものへと変異していく。

 瞬きの間の、(まさ)しく『一瞬』。そんな極短い間に、クリアの腕はマッシブーンのそれに成り代わった。

 

「なぁっ⋯⋯!?」

 

 メタモンは広く知られている通り、擬態の得意なポケモンだ。()()()()時の能力は、()()()()の基となったポケモンと同等で、性質も全くの同じ。部分的に()()()()したからと言って()()()()元の性質を失うことはない。

 つまり、齎される被害は、マッシブーンの膂力によるものと大差ない。並外れた筋力による車体へのダメージとして、順当なものが結果として残された。

 

「──って、うわぁっ⋯⋯!?」

 

 単純明快、ドアが弾けた。

 

 人間の腕が異質なものへと変容したことに驚きを示したサイキッカーは、押し退けるように、ドア諸共に外に殴り飛ばすように伸びてきた赤い腕を、身を反らして間一髪避けることに成功した。

 しかし、ドアはサイキッカーのように脅威を察する脳を持ち合わせてはいない。振り(ほど)くように左右に叩き付けられた両腕に、漏れなくバゴンッ! と重い音を立てて吹き飛んだ。

 

 サイキッカーの顔に浮かぶのは、驚愕と唖然が()い交ぜになった表情だ。

 (たちま)ちのうちに『ドア』から『鉄板』に変貌し、流れる景色の後方に鈍い音を立てて転げていく車体パーツに、知らず知らず冷や汗が流れる。

 

 彼には手応えがあった。クリアの意識に張り巡らされたプロテクト──それを破ったという確かな手応え。疑いようもなく、彼の感覚が捉え、彼のポケモンも捉えていた。

 精神の中でのことであるから、その障壁の分厚さを正確に言い表すことはできない。けれども、彼にとっては、一般家庭に普及している窓ガラスの厚さと変わらない。当初の所感は『容易い』『殴れば砕ける』というもの。そう判断する以外に判断のしようがない()()と感じていた。

 だが、蓋を開けてみるとどうか。ガラスのような脆い反応を感じながら、その中層は金剛石の如く。加えて金属の粘りがあり、高耐久。

 

 ──この男は、UB02 EXPANSION に関する重大な情報を抱えているに違いない。

 

 その発想に至るのは、必然だった。

 そして後押しするように、この防衛反応。

 

「僕が選ばれて、正解だったよ⋯⋯!」

 

 上司の慧眼(けいがん)に、自身のサイキッカーとしての(おご)りの入り混じった賞賛を呟く。

 このままカントー地方で情報を抜くのは得策ではない。吹き飛んだドアによる後続車の事故は、幸運にも発生していない。だが、何の問題もなく走行していた車体から急にドアが()げたとなれば、善意から通報される可能性は高いだろう。

 そうなれば最悪、作戦自体が駄目になる危険性がある。1度クリアを無力化して()()にまで連れ帰る方が、作戦の安定性を取るなら無難だろう。十中八九、これから人目をより集める。

 

 ここは橋の上──マサラタウン東側の山麓(さんろく)を迂回した海岸線から、セキチクシティへと伸びる巨大な自動車道の上。片側3車線の有料道路であり、カントー地方の流通に欠かせない大橋だ。

 ここには、交通事故発生時の現場特定や通行車両の確認などの観点から、一定間隔で監視カメラが幾つも設置されている。既に道程が大橋の半分を超えたとは言え、もしもカメラの3割でもこのバンの特定に使われたとすれば、恐らく時間はそれほど掛からない。渡り切る前に何らかの形で警察からの接触が予想されるだろう。

 だが、助手席に座る情報部には、監視カメラ程度なら幾らでも騙せるだけの手段があった。そういう人材を連れてきている。件の彼女は、今は無き後部座席のドアから突然発せられた大音量に目を白黒させて耳を抑えていたが、そんなものは関係ないとサイキッカーが命令を飛ばす。

 

「監視カメラの偽装工作は任せたよ! 」

 

 クリアから情報部へ。僅かに視線が切れた瞬間を見計らったかのように、赤い腕が天井(ルーフ)を掴む。

 ギシッと揺れる車体。その振動に振り返った時には、腕はずるりと外に身を引き上げるように曲げられて、

 

「──て、あぁ⋯⋯!? ランクルスぅぅ!!」

 

 どんっとクリアの体が当たったランクルスも、合わせて()()()()()()()()()()

 クリアとランクルスで決定的に異なるのは、車体に捕まっているか/いないか。引き留めるものがいるか/いないか。

 ランクルスはゴゥッと風に攫われて、風船のように空高く舞い上がった。

 

へんしん両肩部(りょうけんぶ)──リザードン」 

 

 器用にルーフに着地したクリアは、再度口の中で命令を転がす。

 彼の腕で『マッシブーンの腕』を象っていたメタモンは、そのまま肩──肩甲骨を起点に橙の翼を形作った。

 幅広の道路の左右には、更に広大な海が広がっている。景色は代わり映えせず、100km/hを超える速度で走行していても然程の速さは感じられない。クリアの白い髪を巻き上げ、肌を打ち、作業着を小刻みに靡かせる感覚、過ぎ去る橋の鉄骨だけが、速さの証明となっていた。

 バサリと翼が広がった。勢い付く風をその翼膜で捉える。

 びゅうびゅうと耳打つ音は、クリアの背後でその音を変える。

 

 ──浮遊感。

 

 パラシュートのように大きく空気を蓄えた翼が、クリアをその空間に押し留めた。足元からバンの硬さが消え、身が投げ出される。

 

 ──けたたましく、クラクションが鳴る。

 

 後続車は大型のトラックだった。

 高速道路上での数百mと一般道での数百mでは、体感距離が全く違う。例えば100km/hと50km/hでは、単純に倍の差。僅かな時間でクリアと接触するのは明らかだった。

 翼が変形する。ドップラー効果を示してクラクションが近付き、重なり、離れていく。風の捕らえ方を変えたことで、危なげなくトラックの横を通り抜けると、メタモンは一度羽撃(はば)いた。

 空気を叩いた翼が、クリアの体を安全圏へ、上空へと押し上げる。

 

 勢い良く眼下を通り過ぎていく車たち。

 その車窓からは、呆気に取られた者達の顔が──視線が、クリアを追って、そして追い切れなくなり遠ざかっていく。

 彼を誘拐した黒いバンも、遥か前方へと進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ドップラー効果って普通のクラクション音にも適用されますか?
 教えて、物理詳しい人! 

 あと、ランクルスの体重そのものは20kg前後あるらしいですけど、普段からふよふよ浮いてるし、こういうことになれば吹き飛ばされちゃうんじゃないかなぁ、って思ってこんな描写にしてます。ランクルスぅ。
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