マサラタウンのきのみ屋さん(次話執筆中▷▶︎▷▶︎) 作:ソーマ=サン
好きな人は多分好き。苦手な人でもポケモンと考えなければすんなり飲み込めるかも?
※ 描写の追加等、ストーリーの大筋は変えずに諸々を修正中(2020/06/24)
→ 改稿終了(2020/06/30)
→ 微修正(2020/09/12)
※ 次話投稿は修正完了後。
→ 本日(2020/06/30)作成開始。暫し待て。
→ 諸々終わったので執筆再開(2020/09/12)
「⋯⋯てか、何でこんなとこに⋯⋯?」
首に掛かっていた麦わら帽子を被り直したクリアは、周囲を見渡して小首を傾げた。
彼の脳裏に残る記憶は、休暇をとってマサラタウンに食材を買いに出掛けた、その帰り道まで。アンテナのような触角のような、何とも癖のある髪型をした少年に声を掛けられたのを区切りに、記憶が
己の身に何が起こったのか。行き過ぎた夢遊病のような形で空を飛ぶに至ったのか。はたと考え付いた妄想を軽く鼻で笑いながら、クリアは
だが、その鼻で笑った想像こそが、──彼の知り得ぬことではあるが──、真実に極めて近かった。
彼は、
クリアは相手の外見の幼さ故に、サイキッカーの男を『脅威』と判断し得なかった。それは『自身に生じた不可思議な現象』と『直前に
また、人が抱く警戒心だけの問題でもない。『ポケモンを連れて歩く人』というのは、この世界では有り触れた光景だ。だからサイキッカーの男がモンスターボールから出したポケモンを連れていたとしても、取り立てて言う程のことでもない。
木を隠すなら森の中。周りの環境に溶け込むのであれば、大胆な行動も目に付かない。それが事実であったからこそ、クリアはサイキッカーの術中に陥った。
ポケモンバトルに於いて、相手の行動を縛るというのは、有利な試合運びを実現する常套手段。そしてあらゆる生物に共通して最も無防備となる瞬間とは、即ち、睡眠時。だから試合では『相手を眠らせる』という点に重きを置いて行使されるが、ただ対象を眠らせるだけが能ではない。惑わせること──『暗示』こそが本質だ。
意識を朦朧とさせ、判断を鈍らせ、望む行為を遂行させる。──その操り人形の強制が根底にある。
そして技の隠密性。エスパータイプやゴーストタイプは、特異な音を発生させるなどの前兆なく行使できる。幼い風貌を活かして近付いて来たサイキッカーとそのポケモンの零距離の
そんなこととは露知らず、クリアが腕時計に視線を落とせば、3時に届こうかという時間。
「⋯⋯、昨日の夕方からの記憶がねぇ⋯⋯」
軽く
農園は年中無休で運営される。以前も述べたように、クリアが不在の場合でも問題なく経営される。とは言え、それが『クリアが仕事をしなくて良い理由』に繋がる訳ではない。
組織のトップが従業員に通すべき筋を示さないというのは、その下で副農場長として働くケーシィからすれば見逃せない事柄だ。クリア自身、看過できるものではない。
彼等の間柄が対等であることを考えれば、至らぬ点があれば互いに叱責が飛ぶのは無理からぬこと。その
ちょうど『サラリーマンが大事な会議を寝坊してすっぽかした時の心情』と言えば想像しやすいだろうか。クリアは血の気が引くような感覚を覚えていた。
「とりあえず、帰ろう。うん、知らん内に仕事ほっぽり出しちまったけど⋯⋯。⋯⋯⋯⋯、⋯⋯はぁ、やべぇ⋯⋯。ケーシィ怒ってねぇかな? ⋯⋯いや、怒ってるよなぁ⋯⋯」
相当
どうやらサイキッカーは外部との連絡手段を取り上げなかったようで、クリアはいつも通りズボンの右ポケットに入っていたスマホを慣れた手付きで取り出した。
だが如何せん、気が重い。スマホ自体も重みを増したように思えてしまう。ホームボタンを押しても画面が付かないのは、思いの外、ケーシィに怒られることを恐れているからか。
「ん?」
いや、そんなことはない。
陽の光の強さを疑い、左手で影を作って覗き込むも画面は暗いまま。しっかりホームボタンを押したにも関わらず、純粋に反応していなかった。
数秒黙りこくって考え込んだ後、彼は得心したように頬を掻いた。
「もしかして、充電切れか」
幾ら“テレパシーへの自動防衛状態”から目が覚めたとは言え、まだ完全に覚醒仕切ってはいないらしい。
『電源そのものが落ちている』という当たり前に思い当たりそうな候補に至ることなく、彼はメタモンに対して口を開いた──
「⋯⋯しゃあねぇ、メタモン、
──が、ふと、冷静な部分が声を上げる。
『今、己がいるのはどこか?』と。
彼は変わらず橋の上に──その空中に、メタモンの
普通であればメタモン1匹でリザードンの両翼に
如何にクリアのメタモンが特異個体とは言え、──否、特異個体だからこそ、2匹はそれぞれ片翼にしか
そのような状況下で1匹でも
「───ッ!? メタモン! へんしんを維持しろ!」
文字通り、
空に留まる能力を失った時、自然、クリアは重力の鎖に縛られる。翼を持たない生物の宿命として、当然に大地に手を引かれる。
地上からの高さは目測20m以上。
模倣したレッドのリザードンの翼は、他個体と比較して非常に優れた性能を有している。喩え1度の
その結果として高々と滞空するクリアの体。それが不意に世界の物理法則を思い出した時、どういう結末を辿るかなど分かり切っていた。襲い来る衝撃が、一端の人間である彼に決して耐えられる代物でないことは明白だった。
クリアは慌てて命令を取り下げた。
普段の癖とは怖いもので、殆ど反射的に、無意識に完遂してしまう。今回は何とか、間一髪で窮地を脱したものの、小型充電器(+高性能太陽光パネル)に
「あっぶな⋯⋯、マジで危なかったぁ⋯⋯!!」
彼は股間が縮み上がるのを感じながら、早まった動悸を何とか押さえ、幾分まともになった頭でやっと考え至った電源ボタンに指を這わせた。
「ふぅ⋯⋯。よかった、充電切れじゃなかった⋯⋯」
数秒程ボタンを押さえたところで、ホーム画面が表示される。背景には、農園の看板を背にしてポケモンたちと撮った集合写真。新しい従業員が入る度に撮影しているため、その中には暑苦しくポージングをキメるマッシブーンの姿も見受けられた。
クリアは農園に電話を掛けるため、“受話器アイコン”に指を重ねた。重ねようとして──
『クリア──!!どこ──』
「うぉぉっ⋯⋯!!?? ──あ、」
──突如スマホから響いた大音量に、驚きツルリと手を滑らせた。
支えを失ったクリアのスマホが紐なしバンジーを敢行する。
あまりに突然。その突然が過ぎて彼は手を伸ばすことすら出来なかった。
視線が落下物を追う。生物の本能として、認識するよりも先に情報を求めて視覚が機能する。
時間にして数秒も経っていないだろう。ヒューッと落ちて行くスマホを見送る眼差しが、現実を直視して色褪せる。
そして、カンッと、鉄骨に激突した音が聴こえた気がして、
「──ああっ、ああああああっ⋯⋯!!!!」
悲しい咆哮だけが響き渡る。
スマホは物の見事に木っ端微塵に粉砕された。
あまりに無慈悲。この世に残滓すら残さぬように、破片は風に流れて海の方へと消えていく。
「俺の⋯⋯、スマホぉ⋯⋯」
古い型とは言え、長い間使っていただけに愛着も相当だった。それが目の前で砕け散ったことの衝撃は計り知れない。
しかし、不幸は連鎖する。
──────!
「ぅぐっ⋯⋯!?」
遠方から空間が揺らぐような波が勢い良く伝達する。
微かに聞こえた音。それは彼への指向性と害意を併せ持つ。
上下が逆転したような錯覚。醜く歪んだ視界に、酔ったような気分の悪さ。メタモンの
「!? 不味いっ⋯⋯!!」
天を向いていた体が地上に引かれて傾いていく。
熱されたチョコレートのように溶けていくメタモンが、クリアの肩にへばりつく。自身も覚えた感覚と同様に、メタモンもぐるりと目を回していた。
「メタモン! メタモンッ、大丈夫か⋯⋯!!」
クリアの呼び掛けには
完全に気を失っている様子ではない。直ぐに立て直すのは難しそうだが、明確な反応を示さないだけでクリアの声は届いているようだった。
「くそっ⋯⋯! メタモン、何でもいい! 今できる範囲で、できるだけ柔らかいものに、衝撃を
肩に寄りかかった2匹のメタモンは、普段の速度からは数段落ちる
2匹に馴染み深いのは、やはり農園にいるポケモンたち。その中でもピンっと思い付くのがデンリュウだった。ただ、進化したため毛量が大分少なくなった今のデンリュウの姿ではない。メタモンたちが思い起こしたのは、デンリュウになる前、クリアが幼い時の姿──ふわふわのメリープだった。
付き合いが長いだけに、メリープだった頃の姿は鮮明に覚えている。あの綿毛の塊だった丸い輪郭は、クリアのお気に入りだった。冬場や春先の寒い時期はメリープに包まれて寝入ったことも数知れない。その当時からクリアのアクセサリーとして肌身離れず一緒にいたメタモンは、外見のみならずその肌触りまで覚えていた。
記憶の正確さは、メタモンの
クリアの肩口からモコモコと羊毛が膨らんでいく。それは人体の重要器官──頭部を中心に
不安を掻き立てる風切り音。
視界全てが白い毛で覆われたため、外の様子は窺い知れない。けれど最低限、頭だけは守るようにクリアは身を抱えて背を丸めた。
そして次の瞬間。
「イ゛ッ⋯⋯!!」
地上に激突した衝撃が、左腕から体の末端まで電流の如く伝播する。運良く路肩に落ちたものの、その代償は決して小さくない。
幾らか衝撃が吸収されたとは言え、鈍い音がして左腕の感覚がなくなった。代わりに激流のように纏わり付く熱があり、口の中を切ったのか、鉄臭い味が広がっていた。
左右の耳も聞こえ
「あ、ぁあ⋯⋯、く⋯⋯そ⋯⋯。⋯⋯メタ⋯⋯モン、腕に⋯⋯もど⋯⋯れ⋯⋯」
ゆっくりと立ち上がるクリアの傍を、何台もの車が通り過ぎていく。その音が聞こえない。直ぐ傍を吹く風すら、急激に肌が鈍ったかのようにして感じられなかった。
メタモンが羊毛状態から粘土
──大怪我だよ、クソが⋯⋯。
クリアは路肩の整備用通路に移動して、痛みを耐えるように鉄骨に
──クソっ⋯⋯、さっきの変な感覚はなんだ⋯⋯。
肉体を取り巻く倦怠感の中、彼は冷静に思考を回す。
彼の身に襲い掛かった天地逆転する奇妙な錯覚は、 自然に生じたものではない。車の走行音に紛れた『指向性のある音』を聞き間違えていないのなら、それは作為的な代物であることの裏付けだった。
あのような不可思議を実現するのは、往々にしてポケモンだ。
彼は荒く息を吐きながら、落ちてきた先、『何か』が飛んできた先に目を向けた。
──何もいねぇ⋯⋯、いや⋯⋯? 人、がいる⋯⋯?
通路の先に人影があった。橋の整備員かと思ってみたが、見るからに背丈が低い。ヘルメットを被っている様子もない。明らかにその場に相応しくない格好だ。
その人影は腰に手を忍ばせると、クリアに向かって赤い玉を投げて来た。
──なん、だ⋯⋯?
その玉は空中で不自然に制動すると、ぱかりと口を開く。
そして──
「モンスター⋯⋯ボール⋯⋯───っ!?」
そこからボールの勢いそのままに、ムシャーナが飛び出してきた。
それを後追いする形で命令が飛ぶ。
「ムシャーナ! サイコキネシス! その男を捕らえろ!」
「チッ、メタモン⋯⋯!
ムシャーナに向けて
続けて、
「外骨格:背部──オーロット⋯⋯! 俺を⋯⋯支えろっ⋯⋯!」
クリアの背面から木の枝が伸び、彼の体を支えるように鉄骨や通路の間に支柱を立てる。
突然だが、メタモンは擬態が得意だ。
故に──
「
──幾ら部分的な
クリアのケーシィ化した右腕から、力強い不可視の波動が放たれる。それは空間を歪め、鉄骨を軋ませながら、ムシャーナのサイコキネシスを押し潰した。
前話で下手に空に浮かべたもんだから、どうやって降ろしてやろうかめっちゃ悩み申した。
違和感あったら指摘してちょ。