マサラタウンのきのみ屋さん(次話執筆中▷▶︎▷▶︎)   作:ソーマ=サン

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 ちょっとシリアス

※ サブタイトル修正(詳細は11話(6/8 0時更新分)前書き参照)


日記:黄色く速くて強い

 

 

 

○月■日

 ()()()()()が火傷のため、トレーニングが休みの今日、『チートデイ』と称して、ヨクバリスはきのみの古漬けを頬袋に溜め込んで恍惚としていた。程よく発酵したそれは、人を選ぶ癖のある味をしているが、ヨクバリスにとってはほろ酔い気分にさせてくれる、ちょうど良い嗜好品らしい。ピカチュウの仕事振りを眺めながら、木陰でダラしなく休憩していた。そしてそのまま寝入ってしまい、──詰まるところ、今日の仕事をサボり倒した訳である。

 正直、まだ仕事が残っている最中(さなか)に、1人大役を成し遂げたと言わんばかりに顔を赤らめ出来上がっているところを見るのは少々苛ついたが、ピカチュウに指示を出すのに忙しくてそれどころではなかった。後々()()()()()に絞って貰うから覚悟しておけ、と念を送っておいた。

 

 それはさておき、収穫が忙しいこの時期になると、週に数度、俺の農園にはトキワの森のピカチュウ一族が収穫の手伝いにやってくる。

 彼等へのお駄賃は規格外のきのみである。

 ただ、『規格外』といっても、サイズと糖度(ものによっては辛味や酸味)の数値から『秀』『優』『良』に分け、その等級分けから漏れたものであるから、味以外に問題がある訳ではない。それに森に自生しているものと比べると、肥料や剪定、摘果等の管理をしている分、ウチの方が味も大きさも優れており、ピカチュウとしてもリスクなく食料が手に入るという彼等側のメリットもある。

 こちらとしても、作業負担の軽減は勿論、どうしても出てしまうロスを限りなくゼロに──無駄なく消費できるメリットがある。

 所謂、win-winの関係。選定漏れのきのみを近所にお裾分けするにしても、到底その程度で処理し切れる量ではなく、産業廃棄物としてゴミの収集に出すにしても処理費が馬鹿にならない。当然、山林への違法投棄は処罰の対象だ。

 そんな中で、ピカチュウたちの手伝いの対価として、そうしたきのみを渡せる今の関係は、願ったり叶ったり。この関係が構築される以前と比べると──お互いに作業環境・住環境の違いはあるものの──大幅に環境が改善されたため、今ではなくてはならない存在と言っても過言ではない。非常に有難い存在であり、今後とも末永くお付き合いしたいと考えている。

 また、きのみを渡すと毎度のこと披露してくれる感謝の舞には思わず頬が緩む。イエローがいれば発狂するであろうことは想像に難くない。

 

 それに、長老ピカチュウたちにとっては、ヨクバリスの密造酒が堪らないらしく、今日も収穫の手伝いをピチューや若い衆に任せ、長老衆は昼間から酒を煽っていた。

 ピチューたちには『あんなダメな大人になるなよ』と注意しておいた。

 

 

 

○月◎日

 ピカチュウにとって、マサラタウンはある種の夢を叶える町である。

 それは、この町で生まれ育ち、旅立ち、ポケモン大好きクラブという彼女にとっての揺籃(ゆりかご)に意気揚々と飛び込んだイエローに起因する。

 このイエロー、大のピカチュウ好きである。他のどのポケモンよりもピカチュウを愛し、そして愛されたいと思っている、超が付く程のピカチュウ好きである。

 故に、手持ちポケモンは全てピカチュウであり、森の外に想いを馳せる若きピカチュウたちにとって、イエローに見初められることこそが、夢の第一歩。

 だからこそ、トキワの森のピカチュウは力を求める。元々は野性的で本能的な狩りを生業としていたはずなのだが、今では()()()()()()。⋯⋯もちろん、皮肉だが。

 それもこれも、全てはイエローが生まれてから、ピカチュウたちの人生ならぬポケ生を狂わせた、と俺は思っている。

 それを裏付けるのが、この時期のピカチュウたちの行動だ。

 

 マサラタウンは、町の南方を除き、周囲を森で囲まれている。だから収穫時期になると、甘い匂いに釣られた無数のむしポケモンたちが、出るわ出るわと、目を塞ぎたくなる程に湧いてくる。いや、本当に。下手をすれば山越えを疑う程に。

 そんなむしポケモンを追い払うのは、普段であれば長髪のデンリュウ、夜間はゼルネアスやオーロットなど。

 日中は圃場で作業をするため、作業員の気配から侵入を忌避し、デンリュウ1匹でも対応として事足りる。ポケモンの侵入自体が稀である。

 しかし、夜になると一変して、一斉にむしポケモンたちが動き出す。しかも繁忙期となると防衛に手が足りない程の勢力で。

 

 そこで登場するのが、トキワの森のピカチュウ一族である。

 よくは分からないのだが、おそらくピカチュウたちの中で何らかの武術が生まれている。

 長老衆は日が落ちると同時に圃場内に陣取る。それぞれが一定の間隔をあけて木の上に静かに座すと、自身を中心に同心円状(球状)に()()()()を始める。この放電は肉眼では確認できず、同じでんきタイプが初めて察知できる代物らしい。デンリュウがそう教えてくれた。

 一見して穴だらけで、且つ無意味に見えるその()()()()は、レーダーとしての役割があるそうだ。

 樹体を包んで空と地面とを網羅しており、それぞれの()()()()同士が接触していることで、隣の()()()()範囲で異常があった場合は、互いに即刻感知できるらしい。

 そしてでんきタイプの視界には、異常があった場合に()()()()()表面が波打つため、()()()()していない圃場巡回班のピカチュウにも、むしポケモンの侵入が察知できるのだとか。そしてその巡回する若い衆が迎撃する、とそういう仕組み。

 

 ここ以外でそんなピカチュウがいるという話は聞いたことがないため、ほぼ間違いなくトキワの森固有だろう。

 何故こんなことになっているのか。トキワの森がピカチュウ一族一強となって生態系が狂っていないか、今更ながら不安である。

 

○月▲日

 サイレントキラーなのかな? と圃場を囲う柵の外で事切れたむしポケモンに首を傾げて始まった1日。

 取り決め通り、長老衆と若い衆は、昨晩夜通し防衛してくれたらしく、『骨が折れた』と言わんばかりに地面に寝転んでいた。そんな長老衆に、彼等にとって極上の寝床である敷き藁に昨晩(くる)まってぐっすり眠ったピチューたちが群がり、疲労の溜まった老体を酷使させていた。

 やんちゃ坊主が多いようである。

 

 それはさておき、若い衆も腕をあげたようで、最近では然したる戦闘音も立てずにむしポケモンを制圧できるようになったらしい。それにでんきショックに頼らず、肉弾戦のレベルも上達しているようで、昨晩は圃場の方から電光が閃くことは殆どなかった。

 圃場がある関係上、マサラタウンの()()にウチがあると言っても、真夜中にかみなりを落とされでもしたら近所から苦情が入ることは必至だったため、ピカチュウたちの体術のスキルが上がることは喜ばしいことである。

 ⋯⋯もしかしなくても、俺の手伝いをしているからピカチュウたちが普通でなくなっているのだろうか?

 いや、そんなことはない。ないはずだ。

 

 と、そんなことより事切れたむしポケモンの処理である。

 弱肉強食。俺も生活がかかっている以上、害を為すポケモンの駆除は致し方なし。

 森の中にヨクバリスに穴を掘ってもらって、ケーシィに死骸を運んでもらって埋葬した。

 このむしポケモンたちも(いず)れは朽ちて土に還り、新たな生命を育む床土となっていくのだろう。姿を見なくなった長老衆の一部も、そうして世界を循環する輪の中に入っていったのだと思う。

 ⋯⋯偶には、こういう真面目な日記もいいのかもしれない。

 

 




 追い追い、ゼルネアスについても言及予定です。

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