竹林を歩く。
鬱蒼とする竹林と薄くかかる霧が視界を奪い、
方向感覚を狂わせるが、
今はてゐの案内でなんとかなっていた。
「あれから2年、竹林も少し色々あってね。
いや…………幻想郷全体がおかしくなってる。
それは2人も知ってるだろ?」
てゐの言葉に2人も頷くが
勿論オレは知らないので首を傾げる。
だが、確かに幻想郷の管理者の八雲紫が
行方不明なのは異常事態だろう。
後ろを歩くルーミアが口を開く。
「伝えてなかったけど、
行方不明なのは紫だけじゃないのよ」
「え、そうなのか?」
「その他にも河童とか天狗とかね。
問題なのは、あの花妖怪ですら消えたこと」
「………幽香が?」
その言葉に驚愕する。
幻想郷でも強さを信頼できる1人が幽香だったし、
太陽の丘の花を世話する役目がある彼女が
行方不明とは考えられない。
驚いていると、後ろで霊夢が溜め息をつく。
「吸血鬼とか冥界の幽霊とかも同じよ。
結界の見張りは私がしないといけないし、
全く………面倒で仕方ないわ」
「レミリアに、幽々子さんまで………?
ていうか霊夢、おめー心配とかしないのかよ」
「幻想郷は何度も異変が起きてるのよ?
そのうち帰ってくる……と思ってたけどね。
流石に2年も仕事放って
帰ってこないのは私が面倒だし」
「………あぁー……お前が
手伝ってくれるのそんな理由だったか………」
正直、霊夢なら
『そのうち帰ってくるだろうし放っておけば?
探しに行くのも面倒だし』
と言うとでも思っていたがやはりか。
仕事やるより探した方が楽と思ったのか……
「竹林も、あの月の医者が消えたよ。
それにタイミングも悪くて……色々あってさ。
私も見過ごせない。助けてほしいんだ」
「永琳さんまで………それは置いておくけど、
助けてほしいって何かあったのか?」
「…………ここまで来たなら見た方が早いね。
ほら、着いたよ」
すると、竹林の中に屋敷が現れる。
霧はそこだけ少し晴れており、見晴らしも良い。
そのまま玄関へと進む。
「ここが永遠亭だよ………下がってて」
「え?なんで?」
「いいから。とにかく戸の真ん中にいないで」
言われた通りに戸から離れ、
てゐが中から見えないように戸を開く。
その瞬間だった。
「うわっ!?」
家の中から突如として弾幕が発射される。
その速度は凄まじく速く、
とてもじゃないが知っていないと
明らかに被弾するだろう初見殺し。
数秒ほど掃射が続き、沈黙。
足音が聞こえ、中から1人の兎が出てくる。
「………てゐに、博麗の巫女。
残り2人は………見ない顔ね、名乗りなさい」
「………名前はソラ。一応初対面じゃないけど」
「同じく初対面じゃないわ。ルーミアよ」
「………えっ嘘?人喰い妖怪?
じゃなくて………あなた、何者?」
まぁともかくこちらは覚えていない、と。
見覚えのある紫髪に赤い瞳、長い兎の耳が特徴的。
どこかやつれており、濃い隈が出来ている。
彼女はこちらを警戒し構えようとするが、
それをてゐが手で制する。
「私が探してた人間だよ。
博麗の巫女もいるし、これなら………」
「…………いきなり悪かったわね。
私は鈴仙・優曇華院・イナバ。鈴仙でいいわ。
てゐから話は聞きたのかしら」
「助けてほしい、としか言われてないわ。
言っておくけど面倒事なら無視するから」
「霊夢はこう言ってるけど
問題があるなら手伝わせてもらえると嬉しい」
「…………成る程、そういうことね。
助かるわ、取り敢えず上がってちょうだい」
鈴仙に案内されたのは、永遠亭の入口近くの客間。
ちゃぶ台を囲んで座布団が敷かれており、
彼女が茶を淹れてくれる。
「早速、本題に入ろうか。いいよね?」
「えぇ、私は少し輝夜様を見てくるわ。お願い」
「はいよ」
てゐとやり取りを交わした鈴仙は
永遠亭の廊下を進んでいく。
どうやら、てゐが話をするようだが………
「また輝夜は引きこもってるのか?」
「はっ、それならどれだけ良かったか」
「…………………蓬莱の姫に、何かあったのね?」
てゐはオレの問いに鼻で笑う。
その苦い笑いにルーミアが聞くと、
てゐは今まで見たことないような真剣な顔で頷く。
「あぁそうさ…………不味いことになってる。
お姫様を人質に取られてるようなもんでね」
「………ごめん、心にもないことを」
「いいや、ソラに悪気がないのは分かってるよ。
お姫様の友達だしね」
「人質に取られてる、って言ってたわよね。
一体誰に? あいつ、確か不死でしょうし
人質に取れるような奴はそうそういないわよ」
そう霊夢が聞く。
オレも2年前に輝夜と出会って仲良くなり
幻想入りしたというゲームを一緒にしたりしたが、
彼女は自分を除いた全ての時間を超極端に遅くする
能力を使えると聞いたことがある。
それに、年齢は何億とか言っていた。
実力的にも相当なものだろう。
霊夢の問いに、てゐは一度眼を瞑り……
驚きの言葉を口にした。
「…………月の連中さ」
「つ、月!?」
思わず口に出る。
神社で襲ってきたあいつらのことだ。
だが霊夢とルーミアは平然としている。
「何を驚いてんのよ、
あいつを狙うような奴等は月しかいないでしょ」
「いやなんで驚かないんだよ!?」
「普通に考えれば分かるでしょ。
問題です、普段お高くとまってる
月人連中が地上で降りて来るなんて理由は?」
少し考える。
確かに神社で襲ってきた月兎たちは高圧的だった。
月人たちも、そうだとして…降りて来る理由、か。
「……何か、やらかした時、
もしくは落とされた、とか?」
「まぁ、正解ね」
「何をやらかしたのかは聞かない方がいいか、
しかし……なんで落とした月の連中に輝夜が?」
「それは─────っ!?」
言いかけたてゐがバッと顔を上げる。
霊夢とルーミアも立ち上がり、外を向く。
「え、どうした?」
「敵よ」
「………遂に見つかったか。
しかもこの感じは………あいつが来てるのか。
3人とも、私はお姫様を守る役目を言われてる。
外の連中を……なんとか撃退してほしい」
「………………先に行くわよ」
「あ、おい!」
霊夢とルーミアは外へと向かう。
オレも立ち上がって2人を追いかけ、
その客間を出ようとした時だった。
「ソラ」
立ち止まる。
てゐの顔は、焦燥と危機感に満ちていた。
それを飲み込んで、てゐは頷く。
「頼むよ」
「………あぁ、任せとけ」
頷き、外へと向かう。
そして、扉を開けて。
「───────っ!?」
喉元に刃を当てられたかのような感覚。
背筋が凍てつき、息が詰まる。
「まさに、一石二鳥………拠点と標的、
両方を見つけられるとは思わなかったわ」
威圧感の主は、霊夢たちと遜色ないほどの少女。
刺客は、静かにその手の刀をこちらへ向けてくる。
「悪いけれどあの方の命よ。
貴方に直接の恨みはないけれど─────」
視界に入る、霊夢たちも動けていない。
話をしているというのに、隙が無さすぎる。
「私の名は綿月依姫。
死んでもらうわ、我等が敵」