「ほんと、男の癖に情けないわね」
「男より女が強い幻想郷で
それを言っちゃいけないと思うよオレ」
途中で霊力が切れかかり、落ちそうになったので
ルーミアが闇を束ねた縄で簀巻きの状態で
体を吊られて人里の空を飛ぶ。
霊夢の言い分は確かで情けないが、
この運び方されてるのに文句の1つは言いたい。
「………そういえば男の虐殺があった、
って紫が言ってたよな、霊夢は知ってたのか?」
「知らない。多分私が生まれる前じゃないの?」
「妖怪同士のいざこざがあったのよ。
あの頃には紫はおかしくなってたから、
その妖怪たちも消されたわ。
………ソラ、遅くなったけど本当に、ありがとう」
ルーミアの微笑みとその感謝に思わず
こっ恥ずかしくなり、そっぽを向いて
ブツブツと言う。
改めてだが、こうして感謝されるのは慣れてない。
自分がしたことは紫を止めただけだ。
「恥ずかしいっつーの……大したことはしてねぇよ」
「十分過ぎるくらいに大したことよ。
300年の狂気に陥った最強の妖怪を、
存在ごと消えかけになってまで止めた。
それは幻想郷の存亡にも関わること。
貴方は直接的に、幻想郷を救ったんだから」
「恥ずかしいって……やめてくれ。
やりたいことをやっただけだっての。
救いたいのは幻想郷じゃなくて紫だったしな」
「謙遜しないで受け入れりゃいいのよ、
幻想の賢者にもなれるような偉業よ」
霊夢の素っ気ないその言葉に、
聞いたことのないワードが混じっていた。
話題を変えたいので、
それについて聞いてみることにする。
「幻想の賢者、ってのがいるのか?」
「えぇ、幻想郷を創った存在のことよ。
もしくはそれと同格の偉業を成した者のこと。
私が知ってるのは紫と摩多羅 隠岐奈ね」
「またら……摩多羅神か。
改めてだけど、ヤバいな幻想郷………」
「あら、知ってるの?」
「外の世界の時にな。
ウチの近くに神社があって、
そこに祀られてるのが摩多羅神だった。
天狗避けの呪文とかもあったなぁ、懐かしい」
「教えなさい。あの天狗を追い払えるわ」
「嫌です。文が可哀想だし」
懐かしい気分に浸っていたのに台無しだよ。
ちなみに呪文は『
経を読むと更に効果は高まるのだそうだ。
というか経を読む前提なのだが。
「紫は狂気に堕ちても、
その思考力は失わなかったわ。
真っ先に対処したのがその摩多羅隠岐奈よ」
「へぇー……やっぱ凄い神様なんだな」
「秘神は後戸の国って異次元にいるの。
そこを突かれて幻想郷と断絶されたらしいわ。
紫が対処したとはいえ、顕現できないだけ。
各地の様子を覗いて干渉するのは容易なハズよ」
「それに確か、生命の真の能力を
引き出す力もあったわね、あの神様」
「紫の断絶を越える干渉力に
生命体の真の力を引き出す、ねぇ……ん?」
と、ここで紫の能力を少しでも緩和できる
存在がいることを知ったワケだが………
少し気がかりな点があったのを思い出す。
紫との戦闘の時、紫を蹴り飛ばした。
あの時、紫の能力で消滅されるとばかり思ったが。
白玉楼での妖怪桜との戦闘の時の、模倣の力。
あんなご都合主義な勝利があるかと思ったが。
「………まさかなぁ」
そんな話をしながら、
オレたちは迷いの竹林へと辿り着くのだった。
「さて、ここからは徒歩ね」
「あれ、竹林の上を飛んでいかないのか?」
「無理。妖精どもの
悪戯で方向が分からなくなるのよ。
それに、ほら。竹林の上の霧が見える?」
霊夢が指差す方向………竹林の上を見る。
そこには妖精の湖もかくやと思うほどの
濃い霧がかかっている。
そして、霊夢の手が肩に触れる。
そこから流れてくるのは霊力だ。
「目を凝らして見てみなさい」
「おう……………………っ!?」
なんかいた。
こちらを凝視するその巨大な怪物は、
爛々と輝く真紅の双眸を
霧の中からこちらへと向けている。
凄まじい悪寒が背筋を駆け上がる。
紫と同格、もしくはそれ以上の威圧感だ。
霊夢が手を肩から離す。
すると霊力が抜け、化物は霧で見えなくなる。
「分かるでしょ、あれは駄目よ」
「霧の、怪物……か……こっわ…………」
「ま、ソイツに会わないようにね。
あたしがいるから安心しなよ、3人とも」
そして、それはするりと、
まるで最初からそこにいたかのように
会話に入り込んできた。
そちらを向くと、小柄な兎の少女がいた。
癖っ毛のあるショート黒髪に、
半袖のピンク色のワンピース。
首からはニンジンの首飾りを下げている。
「よっ、ソラ。久しぶり。
そこの2人は博麗の巫女に闇の妖怪だね?」
彼女の名は、因幡てゐ。
この迷いの竹林の主として住み着く兎の少女だ。
彼女の言葉に、驚愕する。
「てゐ………お前、オレ覚えてんのか!?」
「まぁねー?さて………お役目を果たそうかな。
永遠亭に行きたいんでしょ?案内してあげる」
そう言って、彼女は悪戯っぽく笑う。