紅月の下、世界は赤く染まる   作:夕闇

10 / 17
名前なしキャラをそのまま通すのは辛いので、ギリシア神話から名付け。理由:作品がギリシア神話から持ってきてるから。今後も増えます。




 

 

 

 棺に辿り着いたカミラ達。二人は幾つもの棘に囲まれ、その中央にハチの巣のようなオレンジ掛かった半透明の半球ドームを目の当たりにする。また、その中に焦れた様子の青年がいることがわかるだろう。

 

 青年……男の継承者は人影を見つけると、慌ててドームの端まで移動し、へばりつく。けれども、思ったのと違う人物、顔も知らぬ女性が現われ、困惑した。

 

 

「君は誰だい? いや、それよりも、黒いフードを被った白髪の少女を見なかったかな? 白い斧槍の武器を操るんだけど……」

 

 

 男の継承者は洞窟に響くような声で、一方的に捲し立てる。

 

 

「うん、誰かしら? 白かはわからないけれど、長物なら拾ったわよ」

 

 

 カミラは目クラであることをいいことに、人がいたとは知らなかったと何食わぬ顔で伴侶の斧槍を継承者に見えるよう掲げた。

 

 

「嘘だろ……それはネレイスの斧槍……!? それをどこで見つけたんだ、教えてくれ!!」

 

「拾ったとしか言えないわね」

 

「そんな筈はないっ!! 彼女はそこらにいる奴等に倒されるほど弱くなんかないんだ!!!」

 

「ふうん、その人は女性なのね、それも大事な人みたい。でも申し訳ないけれど、拾ったとしか言えないし、こんな目だもの、私に期待されても困るわ」

 

 

 自身の身体的特徴を理由に、これ以上の問答は無駄だと悟らせる。男の継承者も理由があって知らぬ存ぜぬと釈明されれば強くは言えない。

 

 

「うっ、あ……そうか、そうだよな、ごめん……取り乱した。君のような女の人に酷な質問をした、本当にごめん」

 

 

 男の継承者は伴侶の事について問い詰めたい衝動を抑え、態度を改め謝罪する。知らぬ女性が現れたことに釈然としないとはいえ、隠密に優れた吸血鬼かつ伴侶と出会わないならここに辿り着く可能性はなくもない。

 

 

「別にいいわよ。ところで、ここで何があったの?」

 

「ああ、実はさ、ここ等一帯の地域を根城とする堕鬼の主とその取り巻きが突然暴れ出してね。この近くにあった血涙の泉を使い物にならなくしたんだ。それを……俺と共にいてくれた少女、ネレイスっていうんだけど、そいつ等を障害を排除するといって、俺の制止を聞かずに出ていっちまったんだ。なぁ、その斧槍を拾った以外のことで何か知らないか?」

 

「んんん~……あとはガラス物を踏んだくらいかしら。今にして思えば、あれは浄化マスクかもしれないわね」

 

「ま、まだ他にはないか?」

 

「そうね、あとはそこ等で遭遇することのない一際強い堕鬼の気配を感じ取ったくらいかしら」

 

「少女の声を聞いたりなんかは……」

 

「貴方達は住み慣れているかもしれないけれど、人がうろつけるほど簡単な道ではなかったわ。私は気配に敏感だから時間を掛けてここまでこれたのよ。そんなに必死になって私に聞くくらいなら、貴方が助けに行けばいいじゃない」

 

「いや………事情があって、ここから動けないんだ」

 

「聞いても?」

 

「すまない。とある人から君の話を聞いていないし、情報を開示できないよ……」

 

「なら、今度は私の話。血涙の残りに困っていてね、新たに開拓中なのだけれどアドバイスとかあれば助かるわ」

 

「君が、か?」

 

 

 拾った斧槍の他に女王討伐隊の剣を手にしている。健常者のように歩いてはいたが強いとは思えない。気配に敏感ともあることだ。話の流れ的に、直接戦闘は最終手段だと行き着いた。

 

 

「このご時世、目の見えない足手纏いは欲しくないでしょう?」

 

 

 それは男の継承者に突き刺さる言葉だ。継承者はかつていた仲間の足手纏いであり、卑屈に過ごす中、たまたま神骸を受け入れる器として適性があると判明し、話に飛びついて継承者になった経緯がある。

 

 

「足手纏い……そうだよな、世間は厳しいもんな。あと、度々でごめん。長い間外出をしたことがないから、この中の事くらいしか知らないんだ」

 

「あら、日の光が苦手なの? 本当の吸血鬼だとするなら、風の噂で聞きそうなのだけど」

 

「君の期待に応えられる存在じゃないさ。噂にならないのも、ネレイスが――……そう、ネレイスが頑張ったからね……」

 

 

 カミラは言葉の続きを待つが、継承者は顔を伏せて落ち込み、口を閉ざす。

 

 伴侶が頑張ったというのは棺に近づく侵入者の撃退であり、心臓を破壊して灰にする行為である。この地の足を踏む者を抹殺し、継承者の噂の流出を防止しなくてはならない。

 

 そのネレイスが堕鬼を追い、行方をくらました。総督府の関係者以外でここに立ち入れた者はいないのだ。男の継承者は信じたくはないが、伴侶の生存が限りなく低いと理解してしまった。良くも悪くも、ネレイスとの交流だけが男の継承者にとっての心の寄る辺である。唯一の安らぎが儚くも崩れていく現状に顔が真っ青になり、嫌な耳鳴りがした。

 

 

「……ごめん。君と長々と話していると、余計な口を滑らしそうになる。申し訳ないけど、他所へ行ってくれないかな。それと、厚かましくて申し訳ないけど、君の持っているネレイスの武器も置いていって欲しい」

 

「了解。気にしないでいいわよ、慣れているもの」

 

 

 気遣いの言葉を掛けるが、継承者に余裕はなさそうだった。

 

 カミラは足元から斧槍を置き、踵を返す。これで神骸の伴侶を誘拐することが決まった。継承者は背を向けて洞窟から去ろうとするカミラへ言い残した言葉をかける。

 

 

「ごめん、一方的で悪いんだけど、この場所の事とかも口外しないで欲しい」

 

 

 カミラは背を向けたまま片手を挙げ、了解したとの意を示す。それから数歩歩くと、カミラの後ろで「俺は一人か……」と、継承者のボヤキ声が風に乗った。

 

 そして、次の瞬間異変が起きる。継承者が膝をつき、苦しみだしたのだ。継承者の変調に気づいたカミラは振り返った。

 

 

《あ、暴走しはじめたっぽい》

 

(今になって? 心の支えを失ったから? それとも、ようやくクルスの存在に気づいたのかしら?)

 

《どうかな。一見すると、精神的な支えを失って封印の均衡が崩れたのかに見えるけど、アレの娘を心配して、湧き上がる衝動を抑えつけて会話してた可能性もあるから、あの個体だけだと判断つかないね》

 

 

 異変を観察している間にも、継承者は脂汗を垂らし、体の変化が進む。継承者は目線でカミラに逃げろと訴えかけるが、カミラはじっと観察した。

 

 継承者の体が盛り上がり、衣類がはち切れる。露出した肌は青い筋肉質の体であった。顔も人間のものではなくなり、悪鬼羅刹のような形相の青い鬼となった。

 

【挿絵表示】

 

 

「オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛ーーーーー!!!」

 

 継承者は唸りのような咆哮を終えると瞳から理性が失われた。棺の封印は解かれ、半透明の壁は硝子が割れたように霧散する。3メートルを超える鬼が狂気を振り撒き、カミラ達へ襲いかかってきた。

 

 

(結局、殺し合いになったわね)

 

《楽でいいじゃん。まとめて壊しちゃえ》

 

(周辺の監視を頼んだわよ)

 

《おっまかせ~! 侵入者は排除しておくねー!》

 

 

 そうして、鬼との戦いが開始された。

 

 継承者だったものは、丸太をも超える筋肉質の足に力を込め、地面を陥没させて風圧を突っ切り、一気にカミラとの距離を縮める。その迫力はダンプカーの如く。

 

 カミラは猛進する重量物を身を翻して横に避け、ついでに女王討伐隊の剣を振るって、鬼の腕を傷つけた。鬼の肌は鋭利に切れて感触は悪くない。大型車の標準的速さでも十分に対応できる。カミラの横を通り過ぎた鬼は勢いのまま突き進み、洞窟内の壁にぶち当たった。洞窟内が揺れ、天井から砂利が落ちてくる。

 

 

《んー脳筋っぽい。物理一辺倒って感じ?》

 

(見るからにパワータイプだものね)

 

 

 軽口を叩いている間にも鬼が反転し、地響きを鳴らしてカミラに迫る。カミラは真っ正面から迎え撃ち、鬼の豪腕から放たれる巨大な拳を女王討伐隊の剣でもって受け流した。洞窟内を轟々とする音の振動が駆け巡る。鬼は次々と拳を繰り出すが戦況に変わりはない。もとより、クイーンの初期能力は周辺国家を追い詰めた化け物である。カミラがその恩恵を受けている以上、質量差は物ともしなかった。

 

 カミラの頭上から怒涛の勢いで繰り出される拳。けれども、カミラは全てに対応し押し潰されず、遂に鬼の方に疲れが見え呼吸がする時がきた。技の反動だ。技後硬直にカミラはすかさず片足を骨ごと切る。鬼は後ろに飛んで仕切り直しをしようとしたが、間に合わなかった。足は繋がっているが、完全に機動力を奪われた。着地後、片膝を立て、手を地面に置くことで転倒を防ぐ。しかし、深く抉れた足からとめどめもなく噴出する。赤い血がとまらない。

 

 

(継承者もこうなってしまっては理性なき怪物ね、堕鬼化と変わらないわ)

 

 

 殺す。その一点においては難しくなさそうだ。恨めしそうにカミラを睨んでいた鬼だが、可能な限り目を大きくひらくと苦しみ出す。カミラが相手の次の行動に注意していると、内なるクルスから叱咤の声が入った。

 

 

《観察してちゃ駄目! 早くトドメを刺して!!》

 

 

 内なるクルスの警告から間髪入れず、カミラは疾走、足の回転を上げる。地面を縫うように移動し、鬼の心臓目掛けて跳躍。斜めに剣を振るっては上半身を大きく切り裂いた。赤……ではなく、青い血が滝のように吹き出る。だが、確実な手応えだ。

 

 けれども、上半身が映像を巻き戻すように肉体が再生される。鬼の体が一層盛り上がり、鎧を纏ったように無骨になる。鬼が顔を歪めて笑うと、宙にいるカミラへより無骨になった拳を振り上げた。

 

 カミラはグローブがはち切れるのを構わず、左手をオウガ型に変形させ鬼の手を弾いた。音の大爆発が巻き起こる。加えて、弾いた反動でカミラは後ろに吹き飛ばされた。地面に二本の線の軌跡をつけ、土煙を巻き上げて長い線を残したのち、ようやく停止する。

 

 

(再生力もそうだけれど、拳の威力も速さもいきなり爆増するとか何事よ)

 

《大変、大変! あいつの中、わたしの残滓とアレの欠片が両方暴走してる! 最初は暴走するわたしの残滓を抑えきれずにって感じだったけど、カミラと戦ってアレがようやく気づいたっぽい!》

 

(よくわかったわね)

 

《滅ぼしたいほど頭にくるけど、わたしはアレと一緒にいたし、残滓は昔のわたしだからね。たぶん、棺が情報を遮断して感知できなかったと思う。あとは、アレのことだから、暴走するわたしの残滓を抑えるのに必死だったと思うよ。完全に制御できるなら、それこそ道ずれでわたしの残滓とこの世から消えるだろうし。色々要因が重なって反応が遅れたのかもね》

 

(貴女の残滓は何とかならないかしら?)

 

《アレが直接干渉しちゃってるし、半ば融合しちゃってるからね。今も送ってるけど言うこときかない。こうなったらあれだね、わたしの力で壊しちゃうのが一番だよ。具体的には、錬血を使お》

 

(禁止ではなくて?)

 

《今回は仕方ないって。ブラッドヴェイルに混ぜるから、トドメの時に使ってね》

 

 

 あーあ、仕方ないなと内なるクルスが嬉々として口ずさむ。武力戦になった際は、継承者を一度殺してどうなるか調べるつもりだったが、ああも鬼の再生力が高いと一息に破壊するしかない。

 

 

(難儀ね……)

 

 

 とはいえ、単なる物理的な戦いでどうにもならないのも事実。錬血を行使することに決めた。力の行使により錬血に反応した者達がヤドリギから飛んですぐさま駆けつけないでと祈るばかりだ。

 

 時間が止まったかのような脳内会話が終わり、カミラと鬼が双方動き出す。お互い距離を詰め、カミラは剣を、鬼は拳を振るう。嵐のような剣と拳の応酬、カミラは鬼に幾つか腕に傷をつけ、出血させるが入りが浅い。今回はカミラに分が悪かった。剣が軋んで悲鳴を上げている。武器破壊されそうだ。

 

 

(……よろしくないわね)

 

《回避に切り替えだね。次くるよ》

 

 

 鬼は拳を引っ込めて、上半身を下げ、地面を横一面に削る回し蹴りを放ってきた。カミラは腕に飛んで回避。鬼はチャンスとばかりに、崩れた姿勢からでもカミラを片手で捕まえようとしてくる。それはカミラも承知の上だ。カミラは体を捻ることで捕まるタイミングをずらし、鬼の拳の上に乗った。

 

 だが、鬼は笑う。カミラは嫌な予感を受けた。内なるクルスの警告もくる。冥血が膨れ上がっていると。

 

 カミラは鬼の手を蹴ってすぐに脱出。距離を置く。すると鬼は青い放電に包まれた。けれど、終わりではない。青い放電を纏った鬼の指が二本伸びてきた。追撃だ。

 

 カミラは伸びてきた指を剣で切り落とす。さらに鬼は反対の手をカミラへ向け、おかわりを送った。カミラはこれも対処、全ての指を切り落とした。しかし、同時に嫌な音が響く。小さな鋼鉄の欠片が弾けて何処かへ消える。女王討伐隊の剣が刃こぼれしたのだ。体勢を立て直した鬼が口角を上げて顔を歪めた。

 

 

「やってくれたわね」

 

《でも、さっきみたいに一瞬で再生してないよ。肉の復元だと回復が遅いみたい》

 

「なら、剣ごとくれてやるわ」

 

 

 カミラは全力で駆けた。音を置き去りにして。意外にも生地も靴も丈夫で壊すことはなかった。カミラはそのことに感謝する。鬼は視界からカミラの姿を見失い、カミラは剣を振り抜き、一閃。剣は半ばから砕け散ってしまったが、代わりに鬼の片足を宙に切り飛ばした。鬼は予想だにしない攻撃に、前のめりに体勢を崩し倒れた。対して、カミラは女王討伐隊の剣を捨て、地面に捨てられた伴侶の斧槍を回収する。

 

 

「こういう長物は得意じゃないのよね」

 

 

 不満を漏らすと、内なるクルスから悪い一報が入った。

 

 

《カミラ、アレの娘が起きて、こっちに来てるけどどうしよう?》

 

(暴君達は?)

 

《別の吸血鬼のお相手中》

 

 

 なんとも間が悪いものだ。

 

 

(痛めつけたのに根性あるわね。いいわ、こっちに移動させといて。決して、他の吸血鬼に接触させてはならないわ)

 

《うぇいっさ~~~!!》

 

 

 カミラは斧槍を握り、突撃。一方で、鬼は足が切り飛ばされたことで肉の再生が追いつかず、しゃがんだままだ。そこにカミラは、鬼の顔面を狙って、伴侶の斧槍を投げつける。 

 

 斧槍は音無く突き進む。鬼はカミラの槍投げ動作に気づいており、両腕で顔と胸を覆うことで飛来する斧槍に備えていた。

 

 斧槍は鬼の腕に突き刺さる。だが、左胸に衝撃を受け、体が揺れた。ありえない。そんな顔で腕の構えを解く。

 

 左胸を見てみれば、スティンガー型のブラッドヴェイル、鋼鉄の蠍のような尾が背中の後ろから左胸を貫通して青白く燃えていた。カミラに視界を移せば、カミラのスカートの中からスティンガー型が生えていることがわかるだろう。

 

 即死だ。が、鬼は己なら動ける。そう思って、鋼鉄の尾を引き抜く動作をしようとするものの、手が動かない。それどころか、自身の根本的存在が脆く砕け、足元から崩壊する感覚がした。

 

 

《うぇっへっへ~、昔のわたしにすら通用する破壊因子の味はどうかなー? 再生できないだろう……!!!》

 

(……最高に上機嫌ね)

 

《邪魔者と嫌いな奴等が苦しみもがく様って大好きだもん!》

 

(貴女って性格が丸くなっても邪悪な存在だって、改めて思わしてくれるわ)

 

 

 二人が脳内会話している間にも、鬼の体を青白い炎が燃え広がって全身を包んだ。ブラッドヴェイルに宿ったクイーンの力が継承者の存在を破壊する最中、彼の伴侶ネレイスが戦いの終わりである現場に辿り着く。

 

 カミラという敵対者と鬼がいる。されど、ネレイスは鬼が誰であるかを直感的に理解した。

 

 

「継承者様ぁっ!!」

 

 

 壁に体を預けるネレイスは、甲高い悲鳴を上げて駆け寄ろうとする。しかし、余裕なく慌てたせいで足がもつれて転んでしまう。その間にも、鬼は心臓から崩壊し、胴、手、足、頭という順で消えゆく。鬼の体が炎の中に呑まれて消失すると、薄く明滅する青い核が出現した。

 

 青い核は神骸である。けれど、神骸はスティンガー型に突き刺されており、無限の再生を許されずに青白い炎の中、なすすべなく消えた。そうして、8つある内の1つの神骸が世界から退場した。他でもない、クイーンとその手の者によって葬られたのはある種の皮肉だろうか。

 

 ネレイスは何もできずただ見ていることしかできなかった。継承者も、神骸も、己の使命すら破壊された。突然現れた女によって粉々に踏み抜かれた。己の全てを失ったネレイスは、例えようもない心境に、脳の処理が追いつかない。

 

 そしてカミラは自失呆然する伴侶のもとまでコツコツと歩み、横にしゃがむ。伴侶の顔を持ち上げ、継承者がいた場所をよく見させた。

 

 

「死んだわ」

 

「ううぅ……あああぁぁぁあああ――――っ!!!!!」

 

 

 伴侶の心からの慟哭が洞窟内を反響する。カミラに無理矢理事実を突きつけられ、はち切れる寸前だった感情が爆発したのだ。

 

 ネレイスは目に涙をいっぱいに溜め、頭を掻き毟る。継承者を外敵から守れず、また神骸を受け継ぐ者に寄り添うという己の存在意義に等しい役目を失い、大事な存在が手から零れる光景しか見ることしかできなかった彼女は、ぐちゃぐちゃとなった思考の中、急速に精神が磨耗していき、考えることを拒否して気絶した。

 

 少しばかりメンタルブレイクさせるつもりだったカミラは予想以上の効果に満足する。

 

 

《あ、あくまたん……》

 

(たん? 私の血は青くないわよ)

 

《わたしが邪悪な存在っていうけど、カミラもカミラで素で悪人だよね。わたしと同等な気がするよ》

 

(継承者が死んでませんと言い張られても困るじゃない)

 

《建前の気がしてならないのです》

 

 

 カミラはぼやくクルスを置いておき、気絶した伴侶を肩に乗せてお米様抱っこをする。斧槍も回収してから洞窟を出て、内なるクルスに審判の棘に干渉を任せ、継承者を失った棺ごと洞窟を崩すと、何食わぬ顔で海溝から立ち去った。

 

 本来、処刑人に継承者を処断されて見守ることができず堕鬼化したネレイスだが、奇しくもカミラから過剰に精神過負荷を与えられ意識を失ったことで堕鬼化を免れることとなる。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告