紅月の下、世界は赤く染まる   作:夕闇

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主人公なオリバーはこちら。名前なしNPCに名前つけてます。
次の裏はヤクモの人間環境の変化。原作キャラ同士のCP発生。
人間の女性衣装(コードヴェイン)に合わせる髪型はポニーテールとなりました。前回も今回も1位の得票数が突出しています。次点はだいたい横並び。
それと、ちびクルス(クイーン)の閉め切りは長期で未定です。


裏1/2

 

 

 最近、総督府の頭を抱えさせる問題が発生した。墜鬼の活動が活発になり、中でも狂い咲く毒蝶や崩壊都市の下にいた浸潤の処刑者など、取り分け強力な固体の行動範囲が不定になっている。また、弱小堕鬼はこれまで道理だが、毒蝶らの強力な固体がいる地域に限り下僕化し、その強力な固体と戦っている際には乱入してきたりして討伐が難しくなってきた。逆に言えば、組織立って行動しているので発見が容易になり逃げやすくはある。

 

 けれども、保護区などの拠点を持つ総督府は軍隊蟻のように通った道にいる生物へ捕食及び殲滅を繰り返す堕鬼を放っておけず、その脅威にサーベラス隊は立ち向かい、灰化したり、堕鬼の仲間入りするなど被害を拡大させていた。

 

 様子見はできなかった。強力な固体がいる集団はヤドリギを破壊しまうからだ。必ずではないものの、瘴気が濃くなるとヤドリギの枯れを加速させ人の住めない地域となってしまう。ゆえに対処しなければならなかった。

 

 単なる治安部隊ではどうにもならず、上級隊員が毒蝶らの目の前にやっとの思いで辿り着いても、毒蝶らにネームドのついた理由を教えられる。強力な固体さえ倒せば統率が取れなくなるはずなのに、討ち取れず、度重なる凶報を受け、総督府は遂にジャックまでをも動かした。

 

 要請のあったジャックは最初こそ表舞台は自分の仕事ではないと蹴ったが、増える犠牲と士気低下により動かざるを得なかった。もちろん、ジャックに引けをとらない者はいる。だが、本拠地や支部から人を動かせば、背後からレジスタンスの襲撃を受ける可能性があった。

 ジャックはやもえず治安部隊と合流し、強力な固体の一体、最も保護区に近い狂い咲く毒蝶の討伐へ向かった。

 

 現場に到着すると上級隊員らが切り込み隊として攻め、ジャックとエヴァは後ろに続き、並みの隊員がさらにその後ろへと続く。鋒矢の陣形で弓で射った矢のごとく突撃していった。

 

 敵味方共に屍を積み重ねながらも総督府側は前進。ジャックとエヴァは余力を残して毒蝶のもとへ送り届けられ、毒蝶と対峙。激闘の末、毒蝶を見事討伐した。

 倒された毒蝶は、最後に断末魔を上げながら、薪が白く燃え尽き滓になるように地へ伏し砕けて消えた。

 

 そして、毒蝶が敗北したことにより他の堕鬼の統率は失われ、散り散りに逃げたり、堕鬼同士が邪魔になり連携がとれなかったりする。それを契機に各自が毒蝶が討たれたことを察し、士気が向上。治安部隊は歓声を轟かせて、毒蝶一派を壊滅させた。

 

 次第に戦いの音も落ち着き、勝利したことでサーベラス隊員が喜び合う。ジャックの横でエヴァが労うが、ジャックは素直に喜べず、苦々しい顔を作った。

 

 

「堕鬼共め、無駄に知恵をつけるか……」

 

 

 ヤドリギを狙われる可能性はあった、少なくともジャック視点では。

 

 知性を失い獣のような存在になったとはいえ、死んだふりをしたり、死角で待ち伏せしたりと何かと悪知恵を働かせていた。強力な固体となればヤドリギから出現する敵吸血鬼の対策として、逃走経路を塞ぐ意味でもヤドリギを駆除するのはなくはない話だった。

 

 繰り返しになるが、堕鬼は死ぬことがあっても滅ぶことはない。毒蝶もいずれ蘇るだろう。レジスタンス問題もあるのにさらに問題が積み重なった。テトリスのように消えてくれればいいのだが、そんなことはなく、ジャックの気が重くなる。

 

 それから時間が経過し、場所は保護区にある総督府支部へと移る。ジャックは脅威を退けたと報告するため、支部の長のもとへ報告に訪れた。

 その後、支部長への報告を済み、ようやく仕事が終わると思っていた矢先に、ジャックは申し訳なさそうな顔の支部長から先ほどの悩みが可愛くなる事実を聞かされる。

 

 

「棺にいた継承者が2名も行方知らずというのはどういうことだっ!?」

 

 

 ジャックが棺の管理から離れている間に棺の問題が発覚。いい様に使われていただけに、流石のジャックも感情を爆発させた。

 

 ジャックに睨み詰み寄られ、支部長は手を前に落ち着いてくれとジェスチャーし、怯える。

 

 

「近い、近いってラザフォード君! あと、顔怖い! 眼力やばいって……!」

 

「ふざけている場合じゃないんだぞっ!!」

 

「ひ、ひぃぃ……!? れ、歴戦の勇士の気迫に耐えれるほど私の肝は太くないんですぅぅぅう!!」

 

 

 支部長に詰め寄ったジャックの腕を掴むエヴァ。

 

 

「ジャック、焦る気持ちもわかるけど、少し落ち着いて。拠点長もそんなに近いと話しづらいと思うわ」

 

 

 ジャックは深く息を鳴らし、普段より目を吊り上げたまま後ろに下がる。

 

 

「はぁ……これでようやく頭が回るよ。まぁ、巡回に人を送り込んだとたんこれなんだし、棺の監視者として怖い顔になるのもわかるものだよ。ああ、でも火の振る街はミドウ博士が管理だったね。で、話の続きなんだけど、そのミドウ博士がとんでもないことになってるね。棺の中にいるはずのミドウ博士は実は継承者じゃありませんでしたーってね。それでもう大変で、重要書類の改ざんに加えてミドウ博士の手がけた堕鬼がサーベラス隊を殺しまくってるんだから総督府も顔を真っ赤におかんむり。しかも、サーベラス隊の吸血鬼の支給品がミドウ博士のテリトリーで見つかっちゃったもんだから変な憶測が飛び交うし、ミドウ博士も身内が裏切ったんじゃないかって疑心暗鬼。その情報が錯綜中、最近の堕鬼が活発になった原因ってミドウ博士のせいじゃないかって矛先を向けられたもんだから博士も博士で怒るわ、怒るわ。全体がもう大混乱だよ」

 

 

 あまりにも頭の痛い出来事だ。ジャックは言葉がでなくなり、片手をさまよわせては苛立たしげに頭を掻き毟る。それから少しして冷静さを取り戻すと、頭から手を離すと話に戻った。

 

 

「……この際、あのマッドサエインティストのことはどうでもいい。問題は行方不明になった継承者達の足取りだ」

 

「いや、ごめん。なーんもわかんない。伴侶も掴まらないみたいでね……睨まないでくれないかな? オジサン泣いちゃう。唯一わかるとすれば、単独犯ではないってことかな」

 

「話してくれ」

 

「あ、ああ、もちろんもちろん。ミドウ博士んとこの隠しカメラ全部壊されちゃったみたいでさ。しかもミドウ博士の自信作の実験体も全部倒されて、パァ。灰すら残ってないよ。その実験体、継承者並みのスペックがある話しなんだけど、そうなると火の振る街には継承者が4人分いたことになっちゃうんだよね。暴走した継承者ってクイーンの力に蝕まれてて、毒蝶とかの強力な堕鬼より強いのにどうやって倒したの? ってなる。だからかな、弱点を突いて突破したってことで、ミドウ博士は吸血鬼研究機関を疑ってるよ」

 

 

 支部長の脳裏に個人で動いた可能性がよぎるものの、目的も手段もわからなくなってくるので考えを否定する。また、クイーンが蘇って秘密裏に行動するというのも、ひたすら目立って暴れていた大戦を思えば馬鹿らしい話だ。あれは人の言葉を解さない獣である。

 

 

「あいつを出し抜ける組織は限られている。他に考えるなら、シルヴァ派かレジスタンスくらいなもんだ。だが、シルヴァ派が内部を混乱をさせる理由がないな」

 

「そうなんだよ。なもんで、レジスタンスが持っていったと考えるのが自然なんだけよね。レジスタンス独自のブラッドヴェイルもあるし、ミドウ博士ほどではないにせよ、いい技術者を抱えている。ただまぁ、ミドウ博士も自信過剰なきらいがあるし、倒された実験体もスペックを盛っているんじゃないかなぁ?」

 

「何にしても、レジスタンスの幹部を捕まえて証明しなければ話の進展はなさそうだな。もしかすると、見つかっていない左の神骸を奴等が所持しているかもしれん」

 

「あー……確かに持ってそうだねぇ。決め付けたくはないけど、他に思い当たる組織がないし。まぁ、レジスタンスの件は私ら支部の仕事なんで、ラザフォード君は引き続き、適合者探しやら封印したバケモノの監視とかその他もろもろかな。それと、今まで二人っきりの行動のところ悪いんだけど、何人か信頼できる部下を見繕って引き連れてね」

 

「理由は?」

 

「いやいや、ここまで話しておいてそれはないでしょ。ラザフォード君達は屈指の実力者とはいえ、一人一つずつ神骸を持っているじゃないか。二つも行方不明なのに、今まで通りの同じ仕事内容でって訳にはいかないよ。あ、これ上のお達しだから、超怖い顔をしたってオジサンじゃあどうにもならないから。どうしても二人っきりで仕事したいってなら、総督府に篭りっきりの仕事になるからね」

 

「……動きが鈍くなるのは嫌だったんだが、仕方ないか」

 

「君達はワーカーホリック過ぎだし、この際、総督府でのんびりしたりとかどうかなって思うんだけど」

 

「ミドウが研究を辞めたら考えんでもない」

 

「……はは、堕鬼が降ってくるか、世界が滅んだ後のどっちかじゃないかなぁ。彼、吸血鬼研究機関の統括の座から下ろされはするだろうけど、研究員のままでいてもらわないといけないし」

 

「だろ、諦めろ」

 

 

 拠点長はジャックから視線を横にずらし、エヴァにたまには長期休暇でも取ったらと目で訴えかけたが、エヴァは微笑むばかり。拠点長はにへらと笑い、最近の若い子は精力的に行動し過ぎて休みづらいと愚痴を零した。

 

 その後、幾分か話し、ジャック達は部屋を退出する。

 

 拠点長は人がいなくなると、部屋の周りをぐるぐると歩き周り、考えに耽った。血涙の量が先細り、日々怯えるばかりのシルヴァの政策。人道軽視の吸血鬼の研究に、この度の継承者行方不明や研究の長の不祥事。暗い未来に拠点長の胃がきりきりと痛んだ。

 

 拠点長は大きくため息をつき、椅子を引き出しては腰をかけて座る。今更どうしようもない。リークした情報が少なくとも、魔が差し、隠れてレジスタンスに協力しているのだ。今回の件に巻き込まれ、バレないよう祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い夜闇。オリバーは黒い制服と最新の装備を身に纏い、ミドウが廃棄したといわれる研究所に来ていた。装備はレジスタンス専用のブラッドヴェイルと槌だ。海溝で渇求の暴君を撃破したことと、オルガの口添えにより、期待の新人として支給となった。

 

 今回の任務は総督府が活発になった堕鬼の対応に追われている内に、捨てられた研究所を探索することである。メンバーはオリバー、オリフィア、生物探知の錬血を得意とする元乾ききった吸血鬼、細身の男ペーターだ。ちなみに、オリフィアもオリバーと同等の質の装備で片手剣を持ち、ペーターは一般的に支給される装備で銃剣を所持していた。

 

 

「ペーターさん、どうかな? あの吸血研究の第一人者ミドウ博士が造った堕鬼がこの近辺で暴れているとのことなんだけど」

 

「あ、ああ、ちょっと待っててくれ。今確認する…………オッケー。すぐ近くにいないみたいだ」

 

 

 さっそくお得意の錬血を行使し、銃剣を構えながら体から赤い粒子を撒き散らす。半径200メートルほどの勢力を把握したペーターは手持ちの手帳型電子地図に大雑把なマーカーを更新した。なお、これほどの高い探知能力はレジスタンスでも珍しい程度に希少である。

 

 

「えっ? ここが火の降る街なの……?」

 

 

 オリフィアは二人の会話から目的地付近に着いたのだと理解した。火の振るとの名称がつけられているのに、明かりもなく暗い。暑くもないのだ。廃墟のような市街地と大して変わりはなかった。

 

 全然景観が違う、というオリフィアに対し、オリバーは苦笑を浮かべて答える。

 

 

「なんでも舞台装置が無くなって街が燃えなくなったみたいだね」

 

「……ふうん」

 

 

 オリフィアの態度にペーターはまたかと呆れる。出撃前に説明があったからだ。

 

 

「ブリーフィングくらいしっかり聞こうぜ」

 

「要はでてきた敵を倒せばいいんでしょ? さっさと行く」

 

 

 オリフィアは疑問が解消されると他のことは興味がないとばかりに、剣を片手に先行した。

 

 途中、少人数サーベラス隊を発見したが、オリバー達は逆探知されないよう距離を取りつつ移動する。堕鬼との戦闘も避け、遂に荒れ果てた研究所へと辿り着いた。内部に侵入すると、中は何かが暴れたように酷く荒れていた。

 

 

「これは酷い。廃棄するからって、ずいぶん力任せに壊したもんだね。何かしら持ち帰りたかったけど、無事な機材はなさそうだ」

 

「中は期待するなって話だったんだ、仕方ないって」

 

 

 会話するオリバーとペーターへ、五感を澄ませていたオリフィアが警告を発する。

 

 

「二人とも、この先に人の気配を感じる。注意して」

 

「いや、入る前に一度探知したんだけど……?」

 

「その探知、遮蔽物とかに弱いじゃない」

 

 

 ペーターも絶対の自信があるわけではない。無駄打ちにならないように祈り、錬血を発動させると薄っすらとだが引っかかるものがあった。

 

 

「あー……マジか、いるわ。あんた、やっぱ本気になるとすげーのな。いつもその調子で頼むよ、ほんと……で、さ。奥に一人いるけどどうするよ? リーダー」

 

「……会ってみようか」

 

 

 答えを出したオリバーに、オリフィアがじと目で視線を突き刺す。

 

 

「あの人はいないと思うよ」

 

「いやいや、違うって。こんな場所に一人でいるんだ、もしかすると研究の関係者かも、とね」

 

 

 純粋に任務をこなそうとしていただけに寝耳に水であった。嫉妬深いのも考えものである。けれども、指摘されたことで少し気になったのも確かだ。

 

 オリフィアというとオリバーが動揺することなく否定したので機嫌を直し、それを眺めていたペーターは嫌な笑顔でにやついていた。対して、オリバーは力なく笑う。色男とからかわれるのはいつになっても対応に困るものである。

 

 ともかく、今は敵地だ。気を抜くのもほどほどにし、気持ちを入れ替える。そして、何者かがいるであろう奥地へと目指した。

 

 フロアの奥へ進み、裂け目のような細い道を直進すると岩に囲まれた広場へと出る。その広場の真ん中で、オリバー達に背を向け、腕を組み、考えに耽る大男がいた。

 

 大男は侵入者に気づき、振り向く。大男は3メートルも背丈がありそうな巨体で、全身白いフルアーマーだ。顔はフルフェイスのせいで人相がわからない。

 

 大男は、地面に突き刺さっている大剣の柄に手を添え、落ち着いた抑揚でオリバー達に向かって語りかける。

 

 

「その吸血牙装はレジスタンスか、しかも新型ときた。そんな君らがこんな所まで何用かな? まさか、忘れ物を取りにきたなんてつまらないことは言わないだろうね?」

 

「俺はオリバー、オリバー=コリンズ。ここがミドウ博士の研究所だと聞いて調査に入った。そういう貴方は誰だ?」

 

 

 愚直な、あるいは真っ直ぐな返答。後ろではそれはないだろという顔の二人に、ミドウは面白いモノを見たと毒気を抜かれる。

 

 

「くくく、素直に答えてくれる奴は嫌いじゃあない。いいだろう、礼儀に則り答えてやろうではないか。私の名はジュウゾウ=ミドウ。いずれ、吸血鬼全てを一つの種から超越させる男だ」

 

「貴方があのミドウ博士?」

 

「そうだと言っている」

 

「そんな貴方がここで何をしている?」

 

「君達と同じ調査だよ。何処かの輩がずいぶん好き勝手してくれたみたいでね。髪の毛一本でも見つけて追ってやろうとしたんだが、物的証拠になる物が何一つ無いのだから困ったものだよ」

 

「高名な博士が部下を付けないで、一人動き回るのは危険ですよ」

 

「そうか、君は知らないか」

 

 

 ミドウの問いにオリバーは訳がわからないといった様子だ。後ろにいる二人も同様である。

 

 

「姑のように五月蝿い者達がいてね。埃を見つけては、私を吸血鬼研究の総括の座から追い出したのだよ。いやなに、まだ確定していないのだがね。しかしだ、こうして部下を取り上げられたのも事実。おかげで身軽になったものだよ。業腹だが、愚かなグレゴリオを倒せる者は君達レジスタンスだけになったという訳だ」

 

「失礼ですが、貴方は総督府側では?」

 

「私は今の総督府を快く思っていない。君達の知る赤い霧の牢獄。それがグレゴリオ・シルヴァのせいだとしたらどうするかね?」

 

「……なくはないでしょう。むしろ、合点がいく」

 

 

 オリバーの硬い声音。シルヴァの印象が悪いことを示しており、ミドウは気分を良くする。

 

 

「だろう? しかも、初めに霧の牢獄を展開した頃よりも濃く、血涙もより必要としているんだ。視界も何物も、無機物すら通さない霧の牢獄は外の世界すら知りようが無い。今のままでは我々は衰退し、化け物に成り下がるだろうね。生物としての本懐を忘れ、堕落させるグレゴリオの政策は罪そのものだ」

 

「原因は、シルヴァは何を考えているんです?」

 

「それは君達がグレゴリオの前に立って質問するといい。グレゴリオは総督府内の地下にいる。なに、総督府を陥落させれば流石のグレゴリオも防壁を解除せざるを得ないだろう。強力な防壁であっても、グレゴリオ自身は王座から動けない。血涙の補給を断ってやれば、顔を出さざるを得なくなる」

 

「その時は戦争ですね……」

 

「質問に答えない代わりにこれを渡しておこう、君達の助けになるはずだ」

 

 

 オリバーはミドウから投げ渡された情報媒体を受け取る。ミドウは満足した様子で、柄に添えた手を握り、地面に刺さった大剣を引き抜いた。その瞬間、気配が変質する。

 

 肌が産立ち、息苦しく、両肩に岩を乗せたかのような重圧だ。友好的な振る舞いから打って変わり、空気に緊張を孕んだ。

 

 

「ただし、実力のない者にうろちょろされても後々私が困るのでね。その情報を持ち帰りたければ死なないことだ」

 

 

 ミドウは錬血でダークマターのような球体を4つ手から射出。見たこともない攻撃にオリバー達は左右に分かれて避ける。その空いた道へミドウが突進して割り込み、反転して唯一の出入り口を封鎖してしまった。

 

 力強く、身軽な動きにオリバー達は取り乱す。とても研究者とは思えない身体能力だ。

 

 

「さあ、最新鋭の力。それを私に魅せてくれ」

 

 

 ミドウは意気揚々と大剣をオリバー向け、挑発的な様でオリバーを煽った。

 

 体勢を立て直したオリバーはミドウの挑発を受け、大きく深呼吸すると重厚な大槌を両手で構え、駆け出す。相手は吸血鬼研究の最高責任者。能力は未知数だがやるしかない。

 

 先陣を切ったオリバーは錬血を使用し、自己強化を施す。一時的に腕力を大幅に上げ、威力を増加させた槌を振るった。一撃必殺。装備が揃った今、オリバーは鍛錬した吸血鬼であっても防御ごと粉砕できる威力があった。何せ渇求の暴君を倒した実績がある。

 

 しかし、ミドウはあえて受ける。振るわれる大槌に合わせ、間に大剣を挟んでガードした。衝突の瞬間、インパクトが発生。洞窟内が耳をつんざくほどの轟音が轟く。

 

 オリバーは振り抜くつもりだった。だが、足の軌跡を多少残す程度に動かしただけだ。ガードした大剣でしっかり耐えられていた。

 

 けれど、オリバーには仲間がいる。ペーターはオリバーに合わせ、協力攻撃をし、射出した弾丸がミドウの頭部を捉える。弾丸はそのままミドウの頭部に直撃。しかし、メットに大した傷は入らない。ペーターはその光景を見て、悔しそうに言葉を吐き捨てた。

 

 

「ちくしょう、かてぇ……っ!」

 

「任せる!」

 

 

 今度はオリフィアが続いた。オリフィアは新型のブラッドヴェイルを剣に纏わせ、赤く赤熱かさせて生きた魔剣化させると、オリバーの後ろから彼の背中を蹴り、ミドウの首を直接狙いにいく。防御を捨てた攻撃特化の一撃だ。

 

 ミドウはオリフィアの魔剣から発する微弱な音に危機感を覚え、オリバーを武器ごと強引に押し退けると、オリフィアの魔剣が接触する前に全力で横に避けた。だが、剣先がわずかに届き。首の装甲が首皮ごと斬られ、ミドウは軽い出血をする。

 

 

「ちっ、デカイ図体の割りに速い……」

 

「なかなかの使い手だ、だが……!!」

 

 

 ミドウはすかさず大剣の機構を展開。刀身が伸び、冥血の燐光を纏わせる。凝縮する力により大剣が揺れ制御が難しくなるが、ミドウは腕力と握力で振動を抑え込む。間もなくして力が満たされると、冥血が濃縮された大剣を横凪に振り抜いた。

 

 凪いだ大剣から赤く輝く巨大な斬撃の刃が放たれ、オリバーとオリフィアを襲う。特にオリフィアは危険だ。ミドウへの攻撃からまだ体勢が整っていない。直撃すれば、一瞬で灰化しかねなかった。

 

 オリバーはオリフィアの方へと飛び込み、彼女を抱きかかえると、ブラッドヴェイルを展開する。背中に形成された片翼がオリバーとオリフィアを包み、二人の代わりに強力な斬撃を受けた。

 オリバーのブラッドヴェイルは防御特化型だ。赤い光を強く浴びた翼はたちまち深い傷跡を残したものの、所有者と庇護者を守ってくれた。

 

 けれども、ミドウの攻勢は終わらない。初めの時と同様、錬血でダークマターの球体を4つ手から射出し、オリバー達を襲わせた。

 

 オリバーの防御特化とて万能ではない。ダークマターの球体は生き物のようにうねり、四方から防御の隙間を狙ってオリバーとオリフィアへ飛び込む。

 オリバーは傷ついた翼を動かし、正面と横の2発を防ぐが、背後に回った一発だけは自ら被弾してしまった。直撃した痛みにオリバーはぐぁっと呻く。

 

 

「オリバー!?」「リーダー!!」

 

「敵に集中! まだいける……っ!!」

 

 

 仲間に心配されつつも、オリバーは防御特化を解除して槌を握り前に出る。防御特化はあるが2度目の強力な攻撃を防ぎきれるかわからない。負担が大きくなるが自己強化を重ね掛けをしようとし……うまくいかず、力が練れなかった。それどころか初めの自己強化が解除されていた。

 

 

「残念だが、その球体を喰らった者はしばらく錬血が使用できないんだ」

 

 

 手札が激減した。しかも強力な攻撃を連発できるようで、伸びた刀身に再び冥血の燐光をまとわせ、力を凝縮させている。出鼻を挫かれた今、攻撃は届かない。オリバーは急ぎ、防御特化を展開し、オリフィア共々傷ついた片翼の盾に包み込んだ。

 

 2度目の赤い光がオリバー達を呑み込む。

 

 眩い光が収まる頃には、オリバーの防御特化型のブラッドヴェイルは切り裂かれ、これ以上無理だと判断したオリバーがオリフィアを庇い、背中に浅くない傷を受けていた。

 

 なおも、味方を庇う姿をミドウは賞賛する。

 

 

「ほう、これは驚いた。2度も耐えたのは君が初めてだ。誇るがいいよ」

 

 

 戦闘の続行は厳しいオリバー。また、想い人をかつてないほどに痛めつけられたオリフィアは激情に駆られる。魔剣化したままの武器を硬く握り、ミドウへ突進。飛び掛かった。

 しかし、単調化した動きをミドウに読まれ、飛び掛った所で腹部を殴打される。オリフィアは反動により勢いをつけて吹き飛ばされ、オリバーの元へ返された。

 

 

「次回はしっかりと対策をすることだ……会う機会があればの話だがね」

 

 

 オリバーとオリフィアの幕を下ろすため、ミドウが一歩を踏み出す。だが、仲間へ止めをさせるまいと、距離を詰めていたペーターが雄たけびを上げてミドウの足に飛びついた。

 

 ミドウは「煩わしい!」と大剣でペーターを突き殺そうとするが、ペーターは不敵に笑い、オリフィアへ「リーダーは任せた!」と叫ぶと、腹に巻いていた爆発物を起動させて白い発光と共に爆発を巻き上げた。

 

 急な仲間の自爆に唖然とするオリバー。その間にオリフィアはオリバーに大槌やブラッドヴェイルを捨てさせ、自らもほとんどの装備を捨て、オリバーの下に潜って無理やり背負うと一目散に逃走した。

 

 煙が晴れると、足に深手を負ったミドウが現れる。

 

 

「ぐうううぅぅぅ…………自爆特攻をするとは。オリバーという男、余程人望があるらしい」

 

 

 蘇るとはいえ、記憶を失ったり後遺症が残る時もあるのだ。ペーターのような自らの命を顧みない相手は何をするかわからなく、苦手である。格下に怪我させられたのも気に食わない。

 

 とはいえ、オリバーは装備に見合った実力のある者だった。レジスタンスに情報提供できたのでよしとする。最悪、信用に不安が残る子飼いの研究者の元で打倒グレゴリオと奮闘するまであったのだから。

 

 その他に、レジスタンスの最新鋭の装備も手に入ったのはミドウにとって純粋に嬉しいことであった。レジスタンスの幹部達に嫌われており、今まで入手できなかったのだ。解析が楽しみである。

 

 なお、現在転落人生の真っ只中だ。中でも総督府襲撃計画が白紙に戻ったのは痛い。神骸を入れる実験体が全て倒されるなど想像だにしなかった。各地の実力者の調査を終えていただけに想定外のことだ。

 だが、レジスタンスへ役立つ情報を送った。ミドウとしては、せいぜい総督府と共倒れになるよう願うばかりだ。

 

 

 

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