紅月の下、世界は赤く染まる 作:夕闇
あと、次話投稿でクルス(クイーン)の衣装閉め切ります。
ネレイスとテーベを連れたカミラは、予め見つけておいた水場のある隠れ家へ隠れる。そして、到着するなり、カミラは身を清めたいと伴侶達も強制的に水浴びに参加させた。半裸のまま、話し合いをしたくなかったのだ。
水場を前にしたカミラはぼろぼろである服を脱ぎ、ネレイスも倣って服を脱ぐ。一方で、カミラを警戒したままのテーベは神骸石を大事に握り、水浴びを遠慮する。
けれど、カミラは拒否を許さず、テーベから器用に服やアイテムを強奪すると、全裸にして強制的に入浴させた。
無理やりな行為にテーベは苦言を呈する。
「……無理矢理行為に及ぶのは関心致しません」
「後で監視するのも面倒なの、貴女が合わせなさい」
マイペースにカミラは言い放ち、ネレイスとテーベに背を向けると顔から布を取った。
テーベは不可解そうに、ネレイスは不思議そうにカミラを眺めるが、カミラは素顔を見せない。否、見せられない。
「監視するという割には背を向けるのですね」
「ネレイス、任せたわよ」
「仰せのままに」
「ネレイス……」
言いなりの妹にテーベは眉を寄せる。
「テーベお姉様、あの方は継承者様です。お気づきになられませんか……?」
テーベはネレイスに言われずとも継承者と似た気配を纏っていることは感じている。けれど、継承者にはなかった不快感が拭えず、敬う気にはなれなかった。
「……継承者様と同等な気はするのですが、あの方に対する悪感情が拭えません」
「お姉様……」
ネレイスは悲しい顔でテーベを見つめる。
伴侶の行動としては、テーベが間違っていると理解しているのでばつが悪かった。
「意外と好戦的なのね。それとも根が真面目なのかしら? まっさらで綺麗なものでないと許容できないのね」
「あなたが望みとあらば態度を変えましょう」
「あのお方でもあなたでも、好きに呼んでくれて構わないわ」
「でしたら、あなたと呼ばせて頂きます」
「律儀ね」
反発気味だったり、態度に角があるものの、最初に出会った時のように殺しにくる気配はない。ならば、カミラはそれでいい。
対して、カミラとテーベのやり取りを見ていたネレイスは「お姉様……」と落胆する。自分がカミラを受け入れただけに、テーベも共感してくれるのではないかと勝手に期待してしまったのだ。
それから静かな時間が続き、伴侶達が先に上がる。
長い髪に時間を取られ、伴侶達より遅れて終えたカミラは体を適度に乾かすと、目元を布で覆ってトランクケースの前に立った。
前の約束守り、内なるクルスのお楽しみタイムだ。衣装を吟味する。
《ん~、今度はこっちがいいかなー》
とある人間の女性と同じ衣装である。クルスが指定した服は前回と比べて袖がなく、前回の衣装よりは私服に向いているが露出度は上がっていた。
(……ねぇ、他にもあるのだし、一度スカートから離れましょう?)
《やだし、こっちがいい》
(……どうにも、短いスカートは履き慣れないのよね)
《んー……どうしても嫌だったら、伴侶の服でもいいよ。妖精っぽいし、カミラも着慣れてるよね》
(やめて、やめて。本当にやめて。時と場所を選んで。ネグリジェでももっと控え目で、就寝前はガウンを羽織っていたし、あんな格好で外出したことなんてないわよ)
《カミラって派手な露出苦手だよね。でもこの感じなら、もうちょっと際どいラインを攻められそう。ギャル服とかいけるね?》
(……何故かあるのよね。カーミラおば様は何を思って用意したのかしら?)
おかげで着せ替え人形だ。お互い感情を隠せないせいで露出の下限ラインをどんどん探られる。
恐らく、次回は露出度の高い学生服風の衣装も指定されるだろう。できれば着たくない。だが、悲しいことに羞恥はあっても嫌悪感はないのだ。そうなるとクルスは遠慮しない。
しかし、カミラにはまだ手は残されている。お互い感情がわかっても、何を考えているかまでは読めないのだ。そうであるなら、合法的に服を無くしてやればいい。
カミラは将来の選択肢を潰すため、ネレイスに話を持ちかけることにした。
手早く人間の女性の衣装を身に纏ったカミラは、可燃物を燃やして焚き火をしているネレイスへ近づく。その横にはテーベも一緒になって薄着を乾かしていた。
「ネレイス、それからテーベも。伴侶を知る者からすれば、その格好は目立つわ。衣装が余っているから貴女達も着替えたらどうかしら?」
伴侶達の薄着は伴侶を知らない者からしても目を引くのだが、今はどうでもいい。大事なのは遠慮せず着替えろということである。
しかし、カミラの想定とは異なって、伴侶達の反応は悪かった。単なる着替えのはずなのにネレイスは怯え、テーベはあからさまに不満な目をしている。
「……なにか、問題があるかしら?」
「……申し訳ございません。この衣装はお母様から頂いた大事な物なのです……おはようからお休みまで共にあった衣装なのです……ですから、他の格好をするのは承諾しかねます」
ネレイスの横ではテーベも大きく頷いていた。
まさかのライナスの毛布である。母から与えられた物を手放せず、精神安定剤として機能していた。余計な事をするとこじれそうだ。
カミラは口惜しく思うものの、引き下がることにする。
「そう、ならこれ以上言うのは止めておきます」
内心落胆した。真っ当な着替えが拒否されるとは。
そこでカミラの企みに気づいたクルスは意地悪な笑みを浮かべて笑う。
《残念だったね?》
(むぅ……)
唸っていてもどうしようもない。カミラはネレイスからテーベに視線を移し、テーベとの話を進めることにする。
伴侶達の服もいい具合に乾いたようだ。カミラは伴侶達の着替えを待ってから、話を再開した。
「単刀直入に聞きましょう。私に従うか従わないか、今この場でテーベの意思を聞かせて下さる?」
「……また難しいことをいいますね。私の継承者様を殺しておいて降れとは……神経を疑います」
「あら、ネレイスから話は聞いていなかったかしら?」
「神骸を完全に破壊できると聞いておりました。ですが、私が目にしたのは事実とは異なる出来事。一体、継承者様はどうなったのです?」
「壊れた器を破壊しきって神骸から分離させたのよ。継承者は蘇ることはないけれど、永遠に囚われることもなくなったわ」
「どれだけの方々が開放されたのでしょう……?」
「知っていたの? 多少成長する程度には取り込んでいたみたいね。人柱を繰り返していけば、神骸を抑えられる期間が短くなって、いずれはクイーンの再来になっていたわね。それでも神骸を封じるには実行しないといけなかったのでしょうけど」
「ジュウゾウ・ミドウは私達を意思無き人形と思っているらしく、口が軽かったのです。研究の方と話していたことをよく覚えています。継承者様が現れない間は器の入れ替えが早く、それこそ1日単位で犠牲者が発生してしまう時も……また、適性の高い方々でも、自らの意志で立ち上がって頂かないとさほど効果はないのです」
「人柱を立て分割しないとクイーンが復活し、人柱があっても、同じことを繰り返せばいずれはクイーンに相当する化け物が蘇る。八方塞がりね」
「だとしても、人類を長期的に延命できるのは継承者様だけです。だからこそ、尊き意思を敬うのです」
「それで現状、解決できるのは私だけで結果も出している。嫌がる理由は何かしら?」
「……引っ掛かりを覚えるからです。あなたが総督府の方々に協力を求めたのなら、きっと喜んで手を貸しますのに」
「狙われる力を晒すつもりはないわ。吸血鬼研究機関、何よりも貴女達を使い潰したジュウゾウ・ミドウに知られるのは危険じゃない」
「それは、そうでありますが……」
テーベとてミドウの危険性は理解している。けれど、総督府だって馬鹿じゃない。重要人物であれば、それだけ丁寧に扱ってくれることだろう。
テーベなりに常識に則って判断しているのだが、カミラが何を恐れてそれほど慎重に動いているのかわからなかった。
《人類希望の揺り籠、エイジス島を跡形もなく更地にしたのが足を引っ張ってる件について》
(裏では一握りの人類のみを生かす計画を進めていたもの、一片たりとも手心なんて加えないわよ。けれど万が一、億が一、総督府がその情報を掴んだ場合を考えると最終的に手の平をひっくり返されるのよね。外交を思えば、私という極悪人はさっさと捨てたいでしょうし。だからこそ、人となりを知っていて、かつ組織の中核にいるであろうジャックに接触しようと考えたのよね)
《人も研究も核となる人造生命体も何もかもを破壊し尽くしたし、大した証拠はないんじゃない? 慎重になり過ぎかなって思うけどね。ん~、あの時みたくまた暴れたいな~、愉快痛快だったもん。でも、首謀者が留守でいなかったのは残念だったね》
(日本中を探せば発見できたのでしょうけど、深追いは流石にね。探すつもりで逆探知なんてされたくないもの、追われる日々はまっぴらごめんだわ)
これがカミラ達のやらかしの一つだ。
クイーンがクルスと名を騙ってカミラに隠し事をしていた時期、人間対バケモノが争う最中、カミラはロシア中のバケモノを食い尽くすがごとく影で猛威を振っていた。
何せ、吸血鬼は伝奇的な存在であり、最悪人類に排斥される可能性もある。血液を必要とするカミラは独りでも生きられるよう奮闘していたのだ。
もちろんバケモノは弱くない。錬血が確立されていない第一世代の吸血鬼に国から追い払われ、人間に拳銃10発で倒されていた頃よりはずっと強化されてる。
しかし、クイーン討伐期間を挟んで強くなってもなお、一週間と経たず復活したクイーンがフルスペックで各個撃破をしてくるのだから、狙われたバケモノはどうしようもなかった。
その結果、吸血鬼が人類に仇名すというグレゴリオ・シルヴァが恐れていたことがずっと後になって起きる。
始め、外で目覚めたカミラは仲間を作らずバケモノばかりを狩り、生け捕りにしたバケモノを拠点に持ち帰って、内なるクルスが創った施設に取り込ませた。この時カミラは内なるクルスがシルヴァの娘だとも思っていた。そうしてバケモノから半永久的に血液を搾取し苦しめ続けた。無限に蘇る性質を利用し、原型を無理やりその場に留めさせて。
堕鬼とはまた違う、人類を追い込むバケモノをクイーンが食べまくればどうなるか。カミラが味方を作るのを嫌い、クイーンは下僕という提案をできず、クイーンのリソースが個人にのみ振られるとしたらどうなるか。誰であっても想像は容易だろう。
地下深くにバケモノが大合唱する血液精製所を創ったことで、クイーンのシルヴァの娘を捨てたことによる弱体がなくなり、単騎でバケモノ軍団を殲滅できるほどに能力が増強され、やがてクイーンの全盛期すら超えるに至った。
そして、それらが巡り巡ってロシアにいるバケモノ達を一致団結させてしまい、旧ロシア地区連合が準備していた”掃討作戦”がなされる前に、ハイヴという人類の拠点がバケモノ達により陥落してしまう。
また、その拠点を中心に活動していた武力組織を纏めるロシア支部長と洗脳を得意とする大車ダイゴが死亡する原因にもなった。更にそれが切欠で、カミラはその二人が首謀者の傀儡だと知る起因ともなる。
最後は、人類の反攻の出鼻を挫かれ、バケモノにハイブが陥落されたと世界各国がどよめき慌てふためく中、カミラは日本へ飛び、エイジス島の本格的な建設が始まる前に島を陥没させ更地にした。
ただ独善的な判断でそこにいた守り手も、善良な研究員も、世界各国から集められた代えの利かない人材や貴重な資源も何もかもを破壊の限りを尽くして。
そうして、人類は夢と希望を失い、人生を賭して計画を進めていた黒幕には虚無のみが残った。彼らの物語は始まる前に潰えたのだ。
ゆえに、人類へ深刻な出血を強いたカミラは心底表に出たくない。選ばれた僅かな者だけを生かす情報を掴み、日本に赴き、人々の最後の希望を首謀者の計画もろとも潰して全人類に喧嘩を売ったのだから好き好んで目立つわけがなかった。
黒幕の計画を止めるにしても、手段を間違えたと言われ断罪されるのはわかりきっている。
そんな訳だ。
「貴女達の母親を蘇らせる件は交渉材料に弱いのかしら? ネレイス、どこまでこの子と話したの?」
「神骸の完全破壊で話し合いが終わっています」
「待って、待って下さい。お母様が蘇るだなんて聞いてません……!」
「テーベが今首に下げているアミュレット、それに嵌った石で蘇るのよ。安定させて復活させるにはもう幾つか数が欲しいのよね」
「悪用するために集め始めたのではないんですね……?」
凄まじい形相をするテーベへカミラはそうだと肯定する。
テーベは続けて、ネレイスに視線を移すとネレイス頷いてカミラの言葉を保証した。
するとテーベの眉間が和らぎ、敵対雰囲気もだいぶ落ち着いてくる。けれども、まだ煮え切らないようで答えを出さなかった。
カミラはテーベの言葉からとっかかりを得、試しにテーベを揺さぶってみることにした。
「何か勘違いしているようだから、その石、今ここで壊しましょうか。その方がお互いすっきりしそうよね。私は最低限数が揃えばいいもの」
カミラは片手を前にずいっと差し出す。
テーベはカミラの行為にアミュレットを慌てて両手で隠し、身をよじってアミュレットを隠した。
「だ、駄目です……! お母様が蘇るというのなら、また話が違います……!」
「冗談よ。ネレイスに預けたのだから、いい加減に返して頂戴」
早く返せと手を揺らし催促するカミラ。
テーベは数秒悩み、そういうことならと首からチェーンを外してアミュレットを握ったままカミラの手に置いた。
「ねぇ、貴女の手からソレを放して下さらない?」
「わかっています……わかってますから……」
真面目な顔である。別の言い方をすれば真剣な様子であるのだが、テーベの手は微振動するばかりで放す気配が全くなかった。
カミラは仕方がないとテーベの手首を掴んでは引っくり返し、反対の手でもぎ取ろうとする。
「返す気があるというのなら、力を緩めなさい」
「やっています……!」
《顔こわぁ……余裕ないね。ね、これ襲ってこない?》
本人は至って真剣だが放してくれない。呪術も罠も何もしかけてないので、あとは本人の意思で返すだけなのに手が固いままだった。
そこへ、見かねたネレイスが助け舟を出す。
「継承者様。私はいいですから、テーベお姉様にお預け下さい」
「聞けないわね。味方でもない人に預ける義理はないわよ」
徐々にテーベの握った手を開くカミラ。アミュレットがもう間もなく回収できる……直前になって、テーベが遂に折れた。
強気な態度は何処かへ行き、すっかり弱弱しくなる。
「お止め下さい……私から大事な物を奪わないで……! 今はっきりと自覚しました……、このお母様の温もりがないと不安で仕方なくなるのです……!」
「聞きたい言葉ではないわね」
「…………わかりました。今後、あなたに従いましょう」
「貴女の継承者を殺した女よ、そう簡単に納得できるのかしら」
「今になって手の平を返さないで下さい! 継承者様は皆様に必要だからこそ大事ですが、私にとってお母様は大切なのです……! クイーンの束縛からお母様を解き放って頂けるのでしたら、喜んで従属致します……!」
「そこまで言うのならば仕方ないわね」
テーベが認めたことでカミラはアミュレットを回収するのを中断し、掴んでいた手首と抉じ開けようとした拳から手を離した。
「そうゆうことよ、ネレイス。譲って貰って悪かったわね」
「いえ、テーベお姉様のお気持ちは理解できますので大したことではありません」
ネレイスは静かに首を横に振り、自分は大丈夫なのだと示す。
早急に解決すべきことは終わった。次の棺の場所へ向けて、カミラはしばし休息を取ることにする。
本日一日の疲労により早々にテーベが熟睡。寝ているテーベから少し離れた所でカミラとネレイスはリラックスした状態で会話をする。
「さて、勝手に仲間扱いにさせて貰ったけれど、否定がなかったということは答えが決まったとみていいのかしら」
「はい、私もテーベお姉様と同じく貴方様を第一として従属致します。如何様にもご命令下さい」
ネレイスは頭を恭しく下げる。そこへ、カミラがネレイスの頬に触れ顔を上げさせた。
カミラと触れ合う肌に嫌悪感を現さず、ネレイスはカミラが行った行為を静かに受け入れる。
「だいぶ、地に足がついた感じね。この受入れようなら、酷い拒絶反応は発症しないかも」
「……?」
「貴女にはこれから高い支払いをして貰うわ。ここではテーベを起こすでしょうし、もう少し離れましょう」
カミラはネレイスの手首を掴み、就寝場所から離れ、明かりのない暗い夜道を歩く。声を出してもテーベに聞こえない所までネレイスを引っ張った。
それから、ネレイスを座らせたカミラはネレイスの背後に回り、ネレイスの肩に両手を置くと、「後ろを振り向かないでね」と言い含めた。
「あの、継承者様……? これから何をなさるのでしょう?」
ネレイスの肩に手を置いたカミラはしゃがみ、ネレイスの癖っけのある髪を首から後ろに押さえて首を晒す。カミラのその様は楽しげだ。
「私は吸血鬼よ」
「存じております」
「なら、わかるわね」
「申し訳ありません。よく、わかりません」
「貴女の血が欲しいのよ」
「でしたら、お待ちくだ……いっ!!?」
自身の手の平を噛み破ろうとしたネレイスは背後から襲ってきたカミラに首筋を噛まれた。もっと言えば、異様に伸びた二本の犬歯がネレイスの柔肌に突き刺さる。
牙が食い込んだネレイスの首筋から熱い血潮が湧き出、カミラの口腔に流れ込んだ。清き乙女の血液がカミラの舌に触れると、思った通りの好みの味にカミラは顔を緩ませる。目を細め、口に溜まったぬめった液体をゆっくりと嚥下し始めた。
一方、ネレイスは何が起きたかわからなかった。一瞬の痛みに体が硬直する。
吸血鬼といえど、強い肉体を代償に血を必要とする強化人間の意味合いが強い。牙を生やして人を襲うなど、正しく伝奇などに登場する吸血鬼であった。
体の中から自分を抜き取られる感覚が、冷たい灼熱が体の底から吸い取られ自分が奪われてゆく。ネレイスは捕食者に食われる始原の恐怖が何よりも恐ろしかった。
最早、願い事による対価なのだとすら思い浮かばず、ネレイスはカミラから逃げ出そうとする。けれど、背後から抱きしめられて体を固定され、立ち上がろうとするが足を絡み付けられ、前のめりに倒れた。
献血とは違う、自身のナニカを奪う音が鳴り止まない。ネレイスは無様な様であろうとも、地面をもがき、カミラから逃れようとする。どうにもならず、姉に助けを求めようとして声を張り上げようとするが、カミラに手で口を塞がれてテーベに声が届かなかった。
ネレイスはカミラと最初に出会った頃のように理性を失くし、しばらく抵抗していたが、それも無駄だと知るとだんだんと気力がなくなり暴れるのを止めた。
無抵抗の間もネレイスはカミラに食われ続ける。首筋から血液を奪われる音がする。
気がつけば最初にあった痛みもなくなり、じっとりと濡れた沁みる心地よさを覚える。変に身体が熱を持ち、肌が敏感になって、抱き締められて圧迫されるのが気持ちいい。
次第に声が口から漏れ、目から涙が零れる。カミラに何かを口に押し付けられたかと思えば、血涙だった。
中の血液を口に含む行為すら身体が高ぶり、口腔に絡みつく液体を喉を鳴らして嚥下する。飲むというだけなのに身体が喜ぶ。
何がなんだかわからず、ネレイスはカミラにされるがままであった。そしてこの日、ネレイスはカミラの手によって喰われる快楽を身体に刻みこまれた。
それからそれなりの時間が経過すると、若い乙女の血を堪能したカミラは行為の手を止めて、ようやくネレイスを開放した。しかし、ネレイスは気絶しており、薄布がはだけたまま深い呼吸を繰り返し、胸を前後させて寝入ってしまっていた。
《これは酷い、血と乙女の汁で見事にぐしゃぐしゃだね》
(ふふふ……乱れれば乱れるほど血が美味しくなるわね。今後の約束も取り付けることができたし、次回も楽しめそう)
今のカミラは弾むように上機嫌だ。クルスからすればあまり面白いものではない。
《カミラの恋愛観破綻してるし、別にいいんだけど~……家庭の事情で仕込まれて、男も女も喜ばせられるって、カミラの家庭歪すぎだね》
(政治の道具だった面も強いもの。幾人もの女性を教師としてあれこれしたことがあるって、教えたじゃない)
《そだったね。お母さんの前では仮面を被ってるけど、お父さんは子供を道具としか思ってなかったっていう話だね》
(そうね、お父様はお母様しか愛していないから。お母様の前では取り繕っているけれど、何かと縛ってきて面倒だわ)
《ハデスとペルセポネみたいな関係でカミラのお母さんを落としたんだっけ。皆に愛されているお母さんを無理矢理物にしたんだから、恨まれて当然だね》
(おかげで家同士での確執も多かったわね)
《で、お母さんみたいな人気者に許嫁を取られて負けヒロインと》
(許嫁がいた事実に発狂気味だったのに、よくその話を持ち出したわね)
《よくよく考えたら負けたし、いいかなって。結局、女を武器にもしなかったし》
(真面目で堅物、そしてロマンチストだったもの。いい人過ぎて、無理やり迫ると断固拒否するような雰囲気を持っていてね。距離が離れそうだったのよ)
《無駄な教育が裏目に出てるし……それにしても、お母さんはよく気づかなかったね》
(兄達の教育の失敗から学んだお父様は前々から画策していたみたいでね、その女性はお母様に信頼されていたのよ。私も普通でないと気づいたのはずっと後の事だわ。けれど、教育では教えてくれないことを学べたのだから意外と重宝したのよ? お父様を裏切って私の味方についてくれたのだし)
《あー、んー、闇が深い……やめやめ、気分が陰鬱としてきた。続きはまた今度にするとして、このぶっとんで戻らなくなったの、明日動けるの?》
(移動の間は背負うわよ。あと、話が脱線して聞きそびれたのだけど、伴侶の血から私達の気配を隠蔽できる結果は得られそうかしら)
《ぱっとわかったことだけ言うと、継承者を探索する範囲割かしおっきい。身体リニューアルしてなかったら大変な目に遭ってたところだよ……。でもでも、素材が手に入ったから伴侶になら襲われないまでに調整できそう。神骸持ちに関してはなんともいえなーい》
(錬血の使用はどう?)
《身体の内から練り上げてるし控えたほうがよさげかな~。棺を挟んで正体がバレないって言っても、あくまで話し合うならって感じだし》
(戦闘スタイルはこのままね)
《もうちょっと融通が利くように弄ってみるね。わんわんハウンズ型が持ち腐れになってるし。あーでも、あっちで代用して使ってもいいのかも?》
(代用ってバケモノの力を? 影から出現させる疑似自立生物を、血を行使しないで言い訳しきる自信がないのだけれど……)
《ブラッドヴェイルを持ってないのにオウガ型とか使ってる時点で今更だし。向こうは継承者だって言ってるんだから、その論法でごり押ししちゃえ》
(肉体ならまだしも影からなのよ?)
《じゃあ、影から鎖を伸ばしてそれっぽくしてみたりとか》
(んー、移動時間もあるのだし、その時に考えましょ)
《りょうか~い》
絶対に戦闘に必要というものでもない。本来のハウンズ型からかけ離れた技の運用をどうするかは後回しになった。
それに、ハウンズ型より先に解決しないといけない問題がある。カミラは眠っているネレイスの薄布に手を掛けた。
《あれ、そいつの服を脱がせるの?》
(綺麗にしてあげないとね、このままだと臭うもの。それに何もしないで寝床まで運ぶと、朝からテーベの詰問に詰問されるわ。折角なんだから、秘密にしておいて背徳感を楽しみましょ)
相手の身と心がどろどろに溶けるほどストレスが緩和され血液が美味しくなる。腐っていた技術も久方に使え、嗜虐心も満たされ、実に趣味と実益を兼ねた行為だ。
内なるクルスとの関係も悪くはないが、可愛い子が堕落していく様はやはり愉しい。
カミラはくすくすと艶やかに笑い、闇夜に紛れた声は愉快そうに響いて溶けた。