紅月の下、世界は赤く染まる   作:夕闇

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 あらゆる生物を苦しめ、死へと至らしめる赤い濃霧を突破したカミラ。目元を覆った布をずらしてみれば、その霧を抜けた先は約10年前とほとんど変わらぬ景観であった。林立するビルの一部は倒壊し、ほとんどの窓ガラスは割れ、舗装された道はひび割れている。審判の棘が隆起し、世紀末さながら乾いた大地の街並みのままだ。

 

 カミラは景色を目に焼き付けると、布を元に戻す。

 

 

「昔と何も変わらない懐かしい景色ね。けれど、何か違和感。外の空気と違うのかしら」

 

 

 カミラは同意を求めるように内なるクルスへ話しかけるが、当のクルスは困惑した様子だった。

 

 

《……あれ? んー?》

 

「どうかしたの?」

 

 

 珍しくカミラの問いに返答せず、小首をかしげて唸る。何かを探る様に、カミラはそれ以上問いかけず待つ。

 

 

《あ、大変、大変! カミラ、早く錬血を解いて!》

 

「え、ええ……?」

 

 

 弾けたように慌てはじめた内なるクルスに、面を喰らうカミラ。

 

 カミラは内なるクルスに急かされた通り、人目のない廃棄されたビル内でカモフラージュを解き、不可視化を解除する。けれども、内なるクルスの焦燥感は燻っており、不安を覚える。

 

 

《大丈夫? 大丈夫だよね? ……う~ん? ……よしっ、たぶん、バレてない!》

 

 

 内なるクルスは、右よし、左よし、上下後ろよしと、周囲の気配に気を配り終えると胸を撫で下ろした。しかし、内なるクルスが良くても、カミラの疑念は解消されない。

 

 

「一体何なの?」

 

《ちょっと、移動しながら話そ。アレに気づかれても面白くないし、カミラも困るよね? あとあと、冥血の使用は禁止だから……!》

 

 

 カミラは釈然としないまま移動をはじめた。霧を突破した現場に背を向け、疾走。軽快に建物へと跳躍して飛び移り、宛てもなく突き進む。

 

 カミラ達は風を切りながら会話を続ける。

 

 

《ここの空気は惑星が青い時のままだったから気づけたよ。結局の所、わたし達って瘴気を生み出す存在だからね。限りなく匂わないようにできても、微量に纏っているし》

 

「つまり?」

 

《冥血放出する系はアレにわたし達の居場所がばれる可能性が高いってこと。ロシアと違ってここ狭いし、最初から吸血鬼の存在知っててノウハウあるし。どうしてもの時は使うけど、正体ばれ嫌だったら冥血使用はできないかな。……はー、どーしよ、粛清の棘撃てないぃ、絶対フラストレーション溜まるってぇっ!》

 

「長距離遠征もあって、身軽な物しかないのだけど……血武器は使用できるの?」

 

《微妙かなぁ……。肉体変化のブラッドヴェイルならまだいけるかもだけど、専用防具もないんだし目撃者を必殺していかないと面倒なことになるよ》

 

「なんて難儀なの……いきなり攻撃制限なんて。荷物入れでも持ってくるべきだったわね」

 

《アレが一箇所に留まってるならまだしも、あっちこっちか細い根を張っているからねー。あと、致命傷とか負っちゃ駄目だよ。気配から特定されちゃう》

 

「また遠回りね、被弾制限か。未知が既知になるまでなるべく争いから遠ざからないといけないわね」

 

《だから面倒ごとになるって言ったのにぃ~》

 

「ふぅ、ぐうの音も出ないわ。それはそうと、シルヴァの娘は使われてるようだって言ってたけれど、より詳しく教えてくれないかしら」

 

《もー、仕方ないなー。なんか、幾つもにバラバラって感じ。あ、そこの道路右に行って。たぶん、地下かな? その場所にヤドリギあると思う》

 

 

 カミラは内なるクルスの示す方向に従い、20メートルのビルを飛び降り、落下の浮遊感を楽しむ。この感覚が好きなのだ。

 

【挿絵表示】

 

 地面が近づくと、くるりと1回転して着地。道を屈折し、落盤した道にできた穴を発見しては滑るようにして飛び降りた。

 

 無事地下へと下りると、目の前は灯りのない道の先は鬱蒼として暗い。けれども、カミラ自身、視覚に頼って行動をしていないのでなんら問題もなかった。

 

 

「バラバラね、5年前にクルス言っていたわよね? 貴女の左半身は私に融合しているらしいじゃない。それよりも細かく分割されたってことかしら?」

 

《たぶんねー。わたしほど濃い自我が残っているわけじゃないんじゃないかな? でも、わたしのように誰かの中とか、アイテム化で所持されてたりとかで、所有者に影響が出るはずだよ。そうなると面倒事だけどねー》

 

「ふうん、例えば?」

 

《絶対わたし達と敵対関係になる。だって、当時に人類を殺戮して1億人以上の人を不幸にしたわたしだよ? まだ自我の残っていたアレを肉体的にも精神的にも散々苦しめたし、復讐でなくたって、トラウマから襲ってくるかもねー》

 

「……社に祀られたりして、安置されていることを願うわ。というより、個人所有していないと確証を得るまで、シルヴァやジャックに会えなくなったじゃない。特にシルヴァなんて娘の形見を持っていたいでしょうし」

 

《全部わたしの憶測だけどね》

 

「そう自信たっぷりに話されたら憶測でも会えないわよ。再開早々、戦友達との殺し合いなんて嫌だわ」

 

 

 会話の区切りになると、カミラ達はヤドリギの前に辿り着いた。急制動したことにより、暴風と砂塵を周囲に撒き散らす。風圧に幾つもの赤い実が実ったヤドリギが揺らされた。

 

 カミラは内なるクルスからヤドリギの色形を知る。気になって目元の布をずらし、ヤドリギを一瞥した。

 

 

「あら、こっちのヤドリギもクルスが創造した木と似たような見た目なのね。でも何かちょっと違うかも」

 

《浄化機能の他に、施ししかないからだと思うよ。他者を養分にしてーとかないっぽい》

 

「あぁ、言われてみればそうね。シルヴァの娘はOne for all(ワン・フォー・オール)、私達はAll for one(オール・フォー・ワン)で性質が真逆ね。ヒロイックに対するヴィランのようだわ」

 

《あ、待って――うぅっ、また別人……! きもちわるーっ!!》

 

「どうかしたの?」

 

《なんとなーくで薄っすらとした気配を追ってたんだけど、アレと一緒にこのヤドリギを誰かが支えているっぽい。しかも霧を維持している人とはまったくの別人、わかっていてもすっごい奇妙な気分……! うー、あと、なんか気配が薄過ぎる気がする。たぶんキャパオーバーだ。ひょっとすると探知能力なんてないのかも》

 

「なら、あの実をもぎとっても居場所を特定されないのね」

 

《わたし達用に調整してないし、味気ないと思うよ。でもでも、血を振り掛けちゃ駄目だからね。ヤドリギから気配が伸びてるし、気づかれるかも》

 

「ヤドリギの付近での傷負いはNGと。どんどん行動制限が増えるわね」

 

《ちなみに、昔と違って浄化作用に新たな能力が更新されてまーす。堕鬼を追い払う防虫剤みたいのがあるよ。嫌いな臭いってだけだから、殺し合いになると効力はないと思うけど》

 

「私達は平気よ? 不快感もないわ」

 

《だってこの身体リニューアルしてるもん。あんだけバケモノをいっぱい食べたんだから別物になるよ……んー? あー、悲報です。バケモノの特殊能力も駄目だから。浮遊とか衝撃波とか。察知されるじゃなくて、超能力のない世界で無条件で力を行使するとわかるよね? 錬血じゃないって気づかれた時に大変なことになるよ》

 

「……もう戦士として戦う選択肢以外ないじゃない。第二世代の吸血鬼なのに、できることが第一世代の初等の頃に戻っているわ」

 

《そうなんだ》

 

「冥血という概念は吸血鬼が生まれてから後に確立したものよ。ところで、こんな辺鄙な場所に人の気配が近づいてきているのだけれど、対話できると思う?」

 

《うーん、まぁ……、運かなぁ? 今度は殺伐としないといいね! レッツ コミュニケーション~、駄目なら殺っちゃえ》

 

 

 情報収集のため人との接触はするが、二人は自ら会いにいくか、ここで待つか法廷を開催。決議の結果、逃走用経路を確保して待つことに決定した。

 

 それからカミラ達は待機。複数いた気配は次第に減っていき、しばらくすると一人の吸血鬼がカミラの前に姿を現す。それは比較的引き締まった体をしており、顔にガスマスクを装着し、血塗れた大きな槌を担ぐ青年だった。

 

 

 

 

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