紅月の下、世界は赤く染まる   作:夕闇

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 カミラ達は横柄な吸血鬼達から強奪した品々を持ち、ヤドリギや血涙の泉がマッピングされた地図を片手にかつての実家を目指す。場所は遠く現地点から離れているので、まずは街を抜ける必要があった。

 

 争いの現場から離れた今、急ぐ理由もなく、堕鬼の気配が進路上にいるなら指示を飛ばして移動をさせる。目立った障害がないと思われたが、内なるクルスは妙な気配を感知した。

 

 

《うーん? アレのにおいがする。けど、すごく弱っちい感じ。どうするー?》

 

(向こうから何かしらのアクションをしてこない限り放置。藪をつつかなくてもいいわよ)

 

《でも、進路的にぶつかるよ?》 

 

(なら、一度接触してみましょ。これで大丈夫なら、人の集まる場所へ行き易くなるから)

 

《じゃあ、わたし、じっとしてるね》

 

(ええ、お願い)

 

 

 内なるクルスはサーチを中断し、大人しくする。カミラは歩調をゆるめ、手に入れたばかりの無骨な造り女王討伐隊の剣の感触を確かめた。使用感はあるが、しっかり手入れされている。

 

 しばし舗装のはげた道を進み、横から出てきた二人とついに出会った。

 

 カミラは目を布で覆っているおり詳細がわからない。なので、内なるクルスより教えてもらう。相手は少女と子供の二人で、少女は姉、子供は弟といっていい外見だそうだ。内なるクルスが言うアレのにおいは弟の方である。

 

 弟はニコラ、姉はミアという。金髪の姉弟だ。

 

 ミアとニコラの方もカミラの存在に気づき、足を止めてカミラをじっと見つめる。顔半分を覆う浄化マスクはいいとして、目元を布で覆う女性は珍しい。特にこの殺伐としたご時世で目が見えないというのは致命的だといえる。ましてやマスクをしているのだ、鼻の利きも悪いだろう。

 

 なにより目を引いたのが、桃太郎のごとく腰に結わえた布袋であった。透けて見える訳ではないが、膨らんだ布袋が何かしらあるのだと確信できる。

 

 ミアは困っていた、血涙の残りに。日々弱っていくニコラのために幾らあっても足りないのだ。そして、目の不自由な女性が持つのは近接武器で、自身が扱う銃剣ブローディアであれば優位に戦える。言い方は悪いが、取引して世話になった吸血鬼を見捨てたこともある。ミアはニコラのためならば幾らでも人の道を踏み外せた。

 

 ニコラは困った顔を見せるが、ミアは止まらない。

 

 カミラはまっすぐ進み、二人の姉弟の前をゆっくりと横切る。ミアはニコラを避難させ、カミラから距離を置いて後を追う。カミラの足の速度は常人より遅い、詰め過ぎないように気をつける。ミアはこの場にいるのが二人だけだと確信した時、カミラの背中へ静かに銃口を向けた。狙いは心臓だ。

 

 ミアは冥血を消費し、血液を弾丸にして射出する。凝縮された血が弾丸となって回転し、カミラへ襲い掛かかる。

 

【挿絵表示】

 

 カミラはミアの攻撃に反応。手荷物を捨て、振り返り、剣で弾き軌道を反らした。弾丸が建物の壁に衝突し、煙が立つ。

 

 

(いい射撃手ね、完全に私の心臓を捉えていたわ。ところで、殺意があるのは姉の方なのだけれど?)

 

《うん、弟は困るばかりで気づいてないっぽい。でも、あいつ吸血鬼じゃないよ。姉は普通なのにね》

 

(あら、子供の姿は擬態? 少女が精神支配を受けている可能性はあるかしら?)

 

《特殊能力が強いパターンとかあるかもだけど、存在がほんと弱いんだよ。たぶん、大人の人間にも負ける程度》

 

(で、あるなら、姉の方を捕まえてみましょうか。絆があれば助けに、ただの消耗品であれば脱兎のごとく逃げるはずよ)

 

《いいんじゃない? どう転がるかな》

 

 

 日常とは違い、殺し合いの中ゆえに高速で脳内会話を済ませる。カミラの体勢は最初に弾丸を弾いたままだ。

 

 一方で、ミアは危機感を持つ。必殺の弾丸は剣技にて対応された。今まで倒してきた吸血鬼とは毛並みが違う。相手の間合いに入ってはならないのだと理解した。

 

 ミアに距離の優位はあるが、銃剣ブローディアはマシンガンのように連射に優れた銃器ではない。猟銃程度の間がある。彼女は先ほどまでは倒す自信があったのに、途端に余裕がなくなった。

 

 ミアはより多くの冥血を消費し、銃剣による強力な連続射撃を繰り出す。ただ撃つより血の消耗の激しい技だが、近づかれるよりは、と考えたのだ。

 

 カミラは真っ向から対抗、剣豪さながら斬り捨て突撃。スピードのトップギアが速い。爆発する速度にミアは悲鳴をあげた。

 

 

「眼帯は飾りって訳!? こんなの初見殺しじゃないっ!!」

 

 

 バックステップをしながら射撃。命中精度は落ちるものの、それでも弾丸はカミラの体を捉えていた。けれど、ジグザグに回避、もしくは切り捨てられる。ミアは錬血で地雷を設置したのだが、カミラは踏むことはない。僅差射撃でも射線を読まれて駄目だった。

 

 ミアは今後の継続戦闘を捨て置き、全力の攻撃に賭ける。されど、もう間もなくカミラの攻撃範囲になる。冥血も空となった。ミアは射撃からブラッドヴェイルの展開へ切り替える。

 

 

「これならどうっ!?」

 

 

 背中より鋼鉄の蠍の尾を形成し、尾を長く伸ばす。スティンガー型のブラッドヴェイルだ。変幻自在に軌道が変わる尾でカミラの機動力を奪うべく足を狙う。たとえ突きを外したとしても、足に絡みつかせることができる。

 

 カミラはミアから突き出された尾を女王討伐隊の剣で地面に叩きつけ、先端を踏んだ。次に剣を地面に捨て、両手でブラッドヴェイルの尾を掴み、それに繋がるミアを力づくで上空へ持ち上げる。

 

 

「うっそぉっ!?」

 

 

 まさかのパワーファイトにミアは泡を食う。

 

 ミアは180度の半円を描く中、地面への衝突を避けるためブラッドヴェイルを脱ぎ捨てる。だが、対応が早く、カミラはすでにブラッドヴェイルから手を離しており、すかさず剣を拾い直していた。カミラは投げられた状態のミアとの距離を詰め、自由落下する片足を掴み、強制的に地面へと振り下ろす。

 

 頑丈な吸血鬼とはいえ、ミアは容赦なく頭ごと地面に叩きつけられた。一息、前後不覚となり、頭部から出血する。

 

 立ち上がらなければ殺される。けれど、上体を起こしたものの体勢を立て直すほどの力は入らず、吐き気がもようされた。そこへ、銃剣を拾い上げたカミラがミアの背中を蹴り飛ばし、再び地面に這い蹲らせる。

 

 うつ伏せに倒れたミアを横に転がし、仰向けにして腕を踏む。それから女王討伐隊の剣を心臓付近へと突き立てた。詰みである。左胸に刃物がわずかに刺さる感触を感じたミアは、目を閉じ、せめてニコラが逃げ出してくれるよう祈った。

 

 けれども、いつまでもトドメがこない。ミアは薄目を開ける。カミラとて、今現在殺す気はないのだから絶命させはしない。カミラはミアを見下ろし、顔を固定したまま隙を窺う弟に銃剣の銃口を向けた。冥血は消費できないのでハッタリである。

 

 

「そこにいるのでしょう? 姉を殺されたくなければでてらっしゃい」

 

「えっ、待って!? こっちに来ちゃ駄目ぇ!!」

 

《あー、これ悪役だ…………ぉ?》

 

 

 姉の心臓に剣を突き立てられる寸前である。どう見てもカミラが優位だ。ニコラは手に持った石を捨てて大人しく姿を現す。

 

 

「お願い! 僕ができることなら何でもするから、だからミアを開放して下さい!」

 

「話が早くて助かるわ。開放は君次第よ。それで、君って何なのかしら? 普通の吸血鬼とは違った存在に感じるのだけれど?」

 

「それは、ミアより早く目覚めたからだと思う……」

 

「賢い子供ね。でも、口舌戦をするつもりはないの」

 

 

 カミラはそう言って、ミアの胸に突き立てた刃をわずかに埋める。ミアは胸から血が滲み、痛みで呻いた。

 

 ニコラは迷う、男の約束だからだ。だが、今まさに世界よりも大切な姉が死の目前まで迫っていた。そうでなくとも、弟を想い、姉が自ら死ぬ可能性もあった。

 

 ついでに、内なるクルスが何か気づいたことがあったようで、カミラへ耳打ちするようにして伝える。

 

 

「ねぇ、君に魂がないのはどういうことなの? 誤魔化しても無駄よ。オカルトな話、私、そういったものを知覚できるの」

 

 

 もちろん嘘である。彼らが納得しやすいよう言葉を選んだだけだ。

 

 信じた訳ではないが寝耳に水といったように、ミアがそんなことはないニコラは本物だよね、とニコラに目で訴え、同意を求めた。だけれど、ニコラは姉の真摯な目を直視することができない。秘密にすることはできても、絶対的に信頼しているという、姉の問いかけには耐えられなかった。

 

 ニコラに視線を逸らされたミアは呆けた。なぜか弟は肯定してくれず、寝言を言う女の言葉を否定できない。言われたから反応し、二コラへ訴えかけただけなのに、否定が返ってくるとは思わなかった。

 

 

「今のやり取りで物語ったわね。観念して、君の知っていることを洗いざらい話してくれるでしょう?」

 

 

 短い沈黙の中、ニコラは折れ、首を縦に頷いた。弱いもの虐めである。人の弱みに付け込んで獲物を喰らわんとする捕食者に、ニコラは強い苦手意識を持った。

 

 敵ならば子供でも容赦しないあたり、カミラは破壊の権化に好かれた人物である。

 

 

 

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