紅月の下、世界は赤く染まる 作:夕闇
カミラは呆けたままのミアから、身包み全て剥がして薄着だけにする。正気に戻ったミアは抵抗したが、あれよあれよと脱がしていった。
流石に浄化マスクを取り上げはしなかったが、多感な年頃の少女を薄布一枚で野外露出させる行為は鬼畜の所業だろう。
もちろんニコラも薄着である。カミラに言われ、自分で脱いだのだ。隙ができるのを嫌ったカミラが、ミアの左胸に銃剣を突き付けつつニコラを脅したのだから、ニコラは唯々諾々と従うしかなかった。
その後、ミアとニコラがカミラの前を歩く。もしも今、堕鬼に襲われでもすれば、武器も冥血のストックもないミアは柔肌ごと蹂躙されるだろう。カミラとしては、隠れた場所で話すことができればいいので、適当な建屋へ誘導する。中へ進み、3人+1はひとつの部屋に腰を落ち着けた。
カミラはミアとニコラに名前など当たり障りのないことを喋らせた後、ニコラへの尋問に入る。すっかりカミラが苦手になったニコラは借りて来た猫のように大人しく従順だった。
「君、姉より早く目覚めたって言っていたけれど、どの程度早かったの?」
「2年くらい前です」
ミアはそれも聞いていないといった様子である。ニコラはどうとでも捉えられるような話で誤魔化していたので罪悪感に身を削られた。
「君に魂がない理由って何かしら?」
「それは今の僕が分身で、本物の僕は別な場所にいるからだと思う」
「姉に秘密にした理由は?」
「きっと正直に話してしまえば、ミアはぼくを探しにくるんだと思たんです。でも、ぼくはミアと同じ時間を生きられないから……」
それからニコラは事の始まりについて語る。けれども、まずは前提からだ。
世界の人々を困らす悪い奴をジャックという人と仲間達がやっつけた。だけど、悪い奴を倒せるだけでこの世からいなくなりはしなかった。何度倒しても蘇る。
そこで、困ったジャック達は悪い奴を細かく分け、”神骸”という名で持って封印した。唯一の方法だそうだ。けれど、封印には人柱が必要であり、悪い奴をその身に封じ込めなければならない。封じる人を”継承者”といい、ニコラはそれに志願した。ミアが生きる世界がなくなるのは困ると思ったからだ。
そうして、本物のニコラは封印された。あらゆる情報が遮断された場所で。今ここにいる分身は継承者となった力で発現させたものである。しかし、本物から離れた現在では人柱となったニコラがどうしているかわからないそうだ。
壮大な話にミアは言葉がでない。一方で、カミラは別のことを考えていた。
「結構な話ね。けれど、まだ足りない。魂がないのもあるけど、君の有り様が希薄なの。弱いのよ。その隔絶された地からよく、姉の元に辿りつけたものだわ。誰かの手でも借りたの?」
「分身は作っちゃ駄目だって言われてて、一人でミアの所まで来たんです。あの時は継承者の力があったから何とか辿り着けたけど、今は毎日を生きる力しかないです」
「力の衰退から思うに。君は命を繋ぐのに必要な補給ができていないのね。人間なら食事を、吸血鬼なら血液を、君は何かしらね?」
「少しずつ力を使っていつかはいなくなる。そういう風にできてるから必要な食べ物とかないんです……」
「そう、雪みたいね、君」
続けて、カミラはニコラに「血涙は意味あるの?」と問い、「本当は必要ないんだ」と顔を伏せて返された。そして、「だ、そうよ」とミアに話題を振れば、「何も知らなかった……」と内罰的に自信を攻めるミアの姿が見て取れる。その苦悩する様は何も知らなかった人そのものだ。
重い空気になるが、カミラは気にしない。身内でもなければ、赤の他人。至って冷静であった。
ミアの取り巻く環境は見えない事情が積み重なり、面倒なことになっているとカミラは思う。何せミアはニコラが人柱に志願してまで守りたかった人物だ。政治も絡んでくるかもしれない。まさか施設で保護され眠り続けていたミアを放置することなぞないだろう、人道面で悪意がでてくる。
話に聞くジャックがカミラの知る人物と合致するかはわからないが、総督府の人物であるなら、国内における最高機関だ。本人に告知せず、足長おじさんのように支援し、相応の待遇を施せるように思える。だがしかし、ニコラという継承者が守りたかった人物はここにいて、日々の生活に苦しんでいるという。
家族が会いに来たならミア何が何でも抜け出すのはわかるが、総督府の管理がおざなりすぎないだろうか。一方でニコラはおそらく深く物事を考えていない。子供だから当たり前だが。姉が淋しがり屋だから会いにきた。それだけだ。当時、その後の展開など予測もしてないはずだ。
今のニコラが現状どう思っているのか知らないが、満足感は得ているのだろう。姉に世話を焼いてもらっていることに。姉もまた、ニコラとの暮らしが維持できれば求めるものは少ないとわかる。
心中、思うことはある。けれど、カミラは部外者であり、彼らの事情に口を挟んでも得することはない。言葉を飲み込んだ。
「なら、この話はお終い。最後に一つ聞くわ。この部屋に私達3人以外いないかしら?」
「あっ、えっと、いないと思います」
唐突な質問をぶつけられたニコラは面を食らう。
「貴女は?」
「いないと思うけど……堕鬼でも潜んでるの?」
「二人が見えないなら私の気のせいよ。音に敏感なの」
マイペースに喋り、不意に内なるクルスについて問うてみた。が、ミアとニコラは不安げに周囲に気を配るばかりでカミラを気にしない。
息を潜めていたクルスが自由に動いているものの、何ら指摘もなかった。で、あるなら彼らに聞くことはないだろう。
「そして、もういいわ。貴方達を開放します。武器も返すから好きにしなさい」
カミラは銃剣ブローディアをその場に刺し、腰に下げた袋から血涙を一つ取り出す。「それから」と言って血涙の詰まった袋をミアに投げ渡した。
「これが欲しかったのでしょう? 持っていきなさい」
用は済んだカミラはさようならと言ってミア達に背を向けた。カミラの足音が遠のく中、ミアは袋を開けて中を覗く。そこには十分な血涙があった。二人で分け合っても1年以上持つだけの量だ。先ほどから容赦のない対応をしていたこともあり、冷酷な人物だと印象を受けていただけに目を疑う。
手痛い仕打ちを受けたが、親切も受けた。ミアはお礼を伝えようと顔を上げ、視線でカミラを追いかけるも、既に退室しており、二人の前から立ち去った後だった。
早々にミア達の前から早々に姿を消したカミラは内なるクルスと会話する。
《血涙、一つで良かったの?》
(私達にはそれほど必要なものでもないもの)
《そう?》
何か勿体なーいと呟くクルス。
(それはそうと、移動している間に棺の気配を忘れたりしないでしょうね?)
《うん、あの子のおかげで棺の場所をちゃんと記憶できたよ》
カミラはニコラと喋りつつも、内なるクルスへニコラと同様のものを特定できるか頼んでいた。結果として、分身ニコラより強い存在を感知できてしまう。これは同じ存在ゆえにできた芸当だった。
(移動している神骸が2つに、一定の場所から動かない神骸が6つ。ヤドリギや血の泉、霧の監獄に神骸と継承者の気配有りと。対処するには何とも面倒ね)
だが、優先は無き実家に立ち寄ることだ。大崩壊が起こる前は水辺の付近に建つ、景観の素晴らしい邸宅であった場所である。そこは大崩壊の影響で海が干上がり、巨大な海溝を見れる場所でもある。
今は厄介ごとを棚上げし、カミラ達は故郷へと歩みを進めた。
原作の神骸――15個
主人公:血
アウロラ:肋骨
ニコラ:肺
エミリー:爪
エヴァ:喉
ジャック:目
シルヴァ:脳髄
カレン:心臓
ミドウ部下:部位不明3個
シルヴァ戦第二形態条件(外から):部位不明4個