紅月の下、世界は赤く染まる 作:夕闇
朝日が昇る日中、カミラ達は海の海溝へ訪れた。しかし、晴れやかな天気と裏腹に内なるクルスの天候は悪い。嵐が吹き荒れている。
《くぁーっ!! わたしの力なのに、審判の棘を利用して心象世界を創るとかナマイキぃ!! ――あぁっ……!? 棘破壊するの邪魔しないでよぉ!!?》
訪れて早々、遠隔操作にて隆起した黒い結晶を全て破壊しようとする内なるクルスをカミラは止めた。
「隠密という概念をぶん投げないで。一発で異常事態だって丸分かりじゃないの」
《むむぅ……っ! わたしの力を勝手に使ったからには平穏無事になんて暮らしはさせないんだから!》
「どうどう、貴女の半身がこちらにある時点で予想できたでしょ」
《あー、もぅ……っ! わたしだけの特権だったのにぃ~!!》
「貴女の力をどうすることもできず封印しているという話もあるし、神骸を剥奪、もしくは破壊を視野に入れてきているのだから、落ち着きなさい」
《殺し合いだねっ!!》
「断定しない。それよりも、あの筋骨隆々な漢達ってコリンズが話していた治安部隊に似ているのだけど、どう思う?」
《……プロテイン、キメてそう》
「そうね、大剣片手に大盾持っているものね。並大抵の男性では碌に扱えもしないでしょう。でも、そうじゃないわ。あれはシルヴァの兵隊よねってこと」
《まー、国の管轄だよね。そーなると、あのちびっ子が言っていた豆の木さんはカミラの知る豆の木さんなんだろうね》
カミラはジャックが聞いていたら憤慨しそうなあだ名だと思いつつ、内なるクルスの言葉に頷き、肯定する。
カミラとクルスが話をしている間にも、治安部隊は梯子の点検を終わらせ、辛うじて生えている苗木程度のヤドリギへ近づくと、それをを使って何処かへと姿を消した。
《う゛ー、ヤドリギが移動にも使われてる~……真似されたぁ―……! 血涙の泉になくて、ヤドリギには機能がありそうだったからまさかとは思ったけどぉ……! 成長後と違う部分あるとか聞いてない……!》
「正確な座標を把握してないと移動できないシロモノなのだけど、使い慣れてそうね。クイーンの研究、もしくは派生が当時より着実に進歩しているわ」
《む゛ー……、なんか悔しい……》
「両方の機能を併せ持たなくてよかったじゃない。とはいえ、棺の周りを移動されるのも面倒ね。突然現れても困るし、棺の周りあるヤドリギと念のため血涙の泉も処理してしまいましょうか。重要そうな個所の特定と襲撃、お願いできる?」
《もちろん! この怨みぃ、晴らしてやるんだからぁ……!》
一方的な怨みで悪霊と化した内なるクルス。彼女の指揮下により、堕鬼を使役して各地に点在するヤドリギの破壊が開始された。ただし、広範囲での大号令は継承者に感知される恐れがあるので、小規模での行動である。
内なるクルスが嬉々としてヤドリギの数を減らす最中、彼女は妙な気配を感知し、棺辺りから何かが移動しているとカミラに報告。カミラはクルスに堕鬼の使役を中断させ、そちらに足を運んだ。
気配を追った先には、一人の少女が一体の堕鬼と交戦している。浄化マスクに黒い頭巾のブラッドヴェイル、妖精のような煽情的な薄着を身に纏っていた。武器は斧槍である。彼女は神骸の伴侶、継承者に寄り添う存在だ。
カミラは知らないが、内なるクルスは記憶の底で覚えがあり、頭を悩ました。
《んんん~、なんだっけ。どっかで見覚えあるんだけどなぁ……》
(二コラのような分身とか)
《近いといえば近いけど……》
(二コラの話で出なかったのよね。何にせよ情報が欲しいし、会話してみましょう)
《大丈夫かなぁ……》
不安げなクルスを横に、カミラは幅の狭い崖ばかりの道を移動し、伴侶との距離を詰める。伴侶が堕鬼を倒したと同時に、後ろから足音を立てて自分の存在を知らした。伴侶は音を察知し、身構え反転する。けれど、カミラを見るなり「継承者様?」と困惑。両手に持った斧槍を下ろした。
それから、会話できるほどに互いの距離が近づくと、伴侶は目を丸くするなり、その瞳に敵意が満ち、いきなりカミラへ襲い掛かる。伴侶の斧槍とカミラの女王討伐隊の剣が触れ、火花を散らした。
(悍ましい生き物と遭遇したかのような目をしているわね。これは気づかれたか)
《あー、あー、あー、思い出したよ! そいつ、アレの娘だ!》
(あら、シルヴァの娘の子供? 学生時代に懐妊したのね、お盛んだこと)
《違うよー。わたしがアレを乗っ取った後も抵抗してて、わたしの力で錬金術みたいに創った娘。贖罪だとか何だとか言ってたね》
(……つくづく、シルヴァの娘は私と生き方が真逆ね)
脳内会話をしながら戦いを続けるカミラ達。火花が飛び散った後は剣で反らした斧槍がカミラの横を通る。カミラは伴侶を剣の柄で軽く殴打を入れようとするが、その前に、伴侶が長いリーチを生かし、斧槍を反転させて柄で殴打してきた。
けれど、カミラは斧槍の柄を片手で掴み、自身の方へ引っ張る。瞬間的に手を鋼鉄化したことで、グローブ越しに鉄同士が接触した重い音が響く。
一方で伴侶は、カミラの巨漢の化け物と変わらない豪腕により、無理やり体を持っていかれ、前のめりになった。続けて、伴侶はカミラから頭突きを喰らわされる。鈍い音が鳴り、内なるクルスが《痛そ~》と言葉を漏らした。
伴侶は涙目になりながらも、コマがずれたように意識を飛ばすが、斧槍から手を放さない。それならばと、カミラは斧槍で伴侶を器用に持ち上げ、柄ごと伴侶を岩壁に叩きつけた。伴侶は強烈な勢いで体ごと壁に激突。一瞬、呼吸を詰まらせ、その衝撃で伴侶は武器から手を離してしまう。
砂埃が舞う中、伴侶は重力に従い、地面に崩れ落ちる。けれども伴侶は殴打の痛みにもめげず、「バケモノを滅さなくては」と錬血を行使しようとした。しかし、追撃の手を緩めなかったカミラにより、錬血が発動するよりも先に斧槍でもって伴侶は頭を殴打され、意識を失った。
《おー、頭から血が出てる……死んじゃったかな?》
「人の体って意外と頑丈だもの、死にはしないわよ」
《んー? そいつを担いでどうするの?》
「継承者のところへ行くに決まっているじゃない」
《そいつを連れてっ!?》
「いえ、縛ってそこらに放置するわよ。継承者と対話して、駄目そうならこの子を持ち帰りましょ。幸い、見張りに事欠かないわ」
《躊躇なく悪事に手を染めるカミラってぐう畜》
「殺しにきたんだもの、当然でしょう?」
その後、カミラは他の吸血鬼が救助し難い場所に少女を寝かせて上着で縛り、渇求の暴君等に預けては継承者のもとへ急いだ。