長らく続きを書けず申し訳ありませんでした!!
ようやく仕事が一段落して執筆を再開できそうです
仕事が佳境に入ると亀更新になりますがお付き合い頂けますと幸いです。。。
暁、時雨達の後は比較的スムーズに終えた。
もっとも駆逐艦の娘達は全員入渠させる必要がある。
明日以降損傷の激しい順に入渠させるしかないだろうな。
写真に納めていく内に怒りが募っていく。
そんな俺の肩に、鳳翔が手を置いた。
鳳翔「提督、お気持ちは察しますがもう少し抑えてください。」
提督「…。そうだな、すまない。」
鳳翔の言葉を受け、少しだけ深呼吸をする。
このあとは巡洋艦の順番だろう。
特に重巡洋艦の娘達は『英雄』の接待係をさせられていた娘達だ。
それは要するに今見てきた以上に傷をおった娘達が来るということと同義なのだから。
怒りを露にして恐怖を与えてはいけないだろう。
提督「私もまだまだのようだな。」
鳳翔「いえ、そんなことはありませんよ。提督が怒ってくれていること、駆逐艦の娘達にも伝わってると思います。だから、皆信用してくれたんだと思います。」
提督「そうだと助かるな。」
鳳翔「では、軽巡の娘達を呼びますね」
そう言って鳳翔が食堂に向かう。
俺はもう一度深呼吸をして怒りを逃がす。
正直、実際の傷を見てしまうとなかなかに抑えるのが難しいものだ、と、後ろで待機している夕張に聞こえないように呟いた。
鳳翔「提督、お待たせ致しました。」
鳳翔が、軽巡の娘を連れてキッチンに入ってきた。
確か、この娘は知っている。軽巡洋艦で最も有名な娘であろう。
提督「……神通か。」
神通「…………」
神通はこちらに虚ろな視線を向けているだけで返答がない。
彼女は、華の二水戦にして最強の軽巡としても有名だ。
元々は佐世保に居たが数々の作戦で武勇を示し改二にまで至っているところが評価され、呉に配属になった筈。
しかし、呉に異動してからは彼女の話を聞いたことはない。ましてやその神通は今や見る影も無いほど弱々しく感じられる。
提督「…何があった?」
神通「………………………………」
神通は何も喋らない。部屋は重たい沈黙が支配する。
見かねた鳳翔と夕張が神通に声をかけようとしたが視線で何もするなと訴える。
二人は頷いて下がってくれた。伝わったようで良かった。
提督「神通」
名前を呼び、彼女の肩に触れようした瞬間、初めて沈黙を破り動きを見せた。
しかしそれは望んだ動きでは到底無いものであったが。
神通「ヒッ、ごめんなさい、ごめんなさい」
彼女は目に見えて怯えている。
それも全身を震わせてポロポロと涙を流して。
そこに居たのはかつて武勇を響かせた軽巡の姿は無く、恐怖に支配された一人の少女だった。
提督「神通」
神通「ごめんなさい、ごめんなさい」
提督「神通!!」
言葉に怒気を持たせて名前を呼ぶ。
彼女は「ごめんなさい」を繰り返しながらも怯えた顔を俺に向ける。
いや、正確には俺個人ではなく軍人に怯えている様に感じた。
何故なら、彼女の視線は提督に支給される白い軍服と胸につく紋章を捉えていて一度たりとも俺の顔を映していない。
提督「よく見ておけ。」
俺はそう判断すると軍服を脱ぎ竈に放り投げる。
神通「!?」
神通は当然だが夕張や鳳翔も驚愕の顔をした。
初めて、彼女の目に俺が映ったように感じる。
提督「神通、俺が見えるか?『英雄』や『軍人』ではなく私が見えているか?」
神通「…は………い。」
掠れていたが確かに神通は答えた。
提督「そうか。ならいい。」
神通「……え…?」
俺は神通を抱き締めた。
神通が困惑していたが次第に「嫌…はな、して…」と腕の中でもがく。
だが、ここで離しては彼女の心を知ることはこの先無いだろうと俺の直感が告げているから離さない。
そのまま10分程暴れる神通を抱き締め続けた。
神通「どう…して、?」
神通の動きは疲れもあるだろうが弱々しくなり俺の腕の中でポツリと呟いた。
提督「何がだ?」
神通「…おこ、らないの…です、か?」
提督「怒る理由がないからな」
神通「あばれ…まし、た」
提督「それは急に抱き締めた私が悪いだろうな」
神通「え、と…」
『提督』という存在が怖いのだろうな。俺を呼ぼうとして口が震えているのが分かる。
提督「私は榊 柚紀だ。榊でも柚紀でも好きに呼ぶといい。」
神通「柚紀…さん」
提督「ああ。何だ?」
神通「……怖かっ、たんです…」
神通はついにその心に抱えていた闇を口に出した。
俺は話を聞こうと離そうとしたが慌てて俺の背中に手を回す神通に、離すのをやめ頭を撫でる。
神通「佐世保から、…異動し、て……使われなくなって……殴られ…て、姉さんが、沈ん、で…」
神通「でも、最強、の、軽巡とか、鬼の、神通とか周囲、の、期待も、あって、誰にも、話せな、くて…」
嗚咽混じりに語られたのは神通が呉で体験した地獄だった。
一人呉という大きな鎮守府に異動して、使われないことに焦りを覚え、『英雄』に話に行くと意見するなと殴られ、弾除けとしての扱いをされ始めても改二まで至ってる自分が敵と戦うために弾を避けたことを『英雄』には責められ、また殴られた。
そして、その事を周囲の艦娘からは期待の眼差しを向けられていて言い出せず、唯一そんな話を出来るようになった川内は『英雄』の難関海域の弾除けとして犠牲になった。
そこで彼女は何の為に戦えばいいのか分からなくなったのだろう。
そして『軍人』という生き物に恐怖を覚えた。
提督「そうか。本当に、すまない。」
神通の話を聞いた俺から出た言葉はそれだった。
神通「どう、して…?」
提督「私達軍人がもっと君達を大切に扱っていれば、あんなふざけた奴に鎮守府を、君達を任せてしまったのは、私達全員の責任だろう。」
提督「神通、君は確かに華ノ二水戦で軽巡洋艦最強と名高い。しかし、君だって周りと何一つ変わらない一人の少女だ。」
彼女を抱き締めたまま続ける。
提督「もう、頼っていいんだ。君は独りで苦しみすぎだ。少なくとも私は『提督』としてではなく榊 柚紀個人として君に寄り添おう。」
神通はまた、ポロポロと涙を流し始める。
俺は彼女の顔が見えないように彼女の頭ごと抱く。
神通「もう少し、だけ…強く…」
提督「了解した。」
そこから彼女が泣き止むまで強く彼女を抱き締めていた。
神通「柚紀さん」
神通の声か今までよりしっかりとしていることに気付き彼女と顔を合わせる。
提督「もう、大丈夫か?」
神通「はい。すいませんでした。」
提督「謝らなくて良い。また何かあったら頼ると良い。」
神通「はい、でも、あの、そんなに見つめられると、照れちゃいます」
提督「そうか。それはすまなかったな。」
そう言って神通を離すとだいぶ不機嫌な夕張と鳳翔がこちらに来る。
鳳翔「提督、早く写真を撮りませんか?」
夕張「……私の時はここまでやってくれなかったくせに…」
何だろう、鳳翔から謎のプレッシャーを感じるし夕張は何か言っていたが声が小さすぎて聞こえなかった。
しかし、今は鳳翔の言葉を無視して夕張に問い掛けることは無理だろう。
彼女の目が剣呑としているからだ。
提督「…そうだな、鳳翔、写真を頼む」
鳳翔の頭を撫でながら俺は後ろを向く。
さすがに軽巡洋艦からは俺が見るわけにいかないからな。
鳳翔「…もう、ズルいんですから。」
鳳翔は何かを呟くと神通と夕張を連れ傷の撮影を行ってくれた。
その後、神通にもチーズリゾットとコンソメスープを渡して食堂に戻した。
まだ半分も終わっていないことに少しだけ焦りを覚えながら「まぁ、仕方ないよな」と、誰に向けた言葉でもない言葉を漏らす。
時間なんて気にしてられないのだから。
あとがき
本当に本当にお待ちしてくたさった方々本当にお待たせ致しました。
まだまだ艦娘のケア話は続くと思います。
各艦種一人は書きたいのでしばらくお付き合いできればと思います。