『英雄』から異動の話を聞いた。
正直、嬉しいとか感じもしない、なぜなら奴が昇進しての異動だからだ。
「大本営に異動になった、まぁ、私の功績を考えれば当然だな。」
「おめでとうございます…『英雄』様」
「「「おめでとうございます」」」
言葉だけの祝辞を述べる。
こんな男が出世するんだ、と内心ではとても黒く澱んだ感情が消えない。
「ちなみにだが、私の後任には横須賀で提督補佐をしてた者が来る予定だ。」
「あの…横須賀鎮守府からですか…。」
横須賀鎮守府といえば誰もが知ってる日本の最重要拠点だ。
その様な重要な場所に配属される人間、しかもそこで提督補佐ということはやはり優れた…いや、大本営に好かれた『英雄』のような人間ということだろう。
「フフ、私と違い周囲からは『悪魔』と呼ばれている男だ」
「くれぐれも私の評価まで下げてくれるなよ?」
そう言い残し、『英雄』は大本営に向かっていった。
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榊「あーあ。普通に見りゃ出世なんだけどなぁ。」
誰にも聞こえないようにため息と愚痴をこぼす。
それこそ、提督補佐から提督になるということで中佐から大佐になったし、横須賀と呉は他の鎮守府より扱いは上だ。
だけどなぁ、とまた愚痴が溢れる。
榊「何が『英雄』だよ、ブラ鎮産み出すくらいならアイツの方がよっぽど『悪魔』じゃねぇか…」
『英雄』に文句をぶつくさ言ってる間に鎮守府が見えてくる。
憲兵もこちらに気づいているようだな。
憲兵「止まれ」
榊「ご苦労、本日付けで呉鎮守府司令官の任に着いた。榊 柚紀、階級は大佐だ。よろしく頼む。」
憲兵「ハッ、確かに確認致しました。どうぞお通りください。」
…憲兵も疑っておかないといけないな、まぁ詳しい話は艦娘から聞かなきゃ分からんけど。
一見、真面目そうに見える分、『英雄』に買収されてたらかなり達悪いぞ。
そんなことを考えながら、門をくぐり鎮守府の入り口に向かう。
そこには二人の女性が立っていた。
出迎えか…。それにしても表情も空気も暗い。
鳳翔「…お待ちしておりました、提督。航空母艦、鳳翔です。」
夕張「兵装実験軽巡、夕張です。て、提督、お待ちしておりました。」
榊「あぁ、本日より私が艦隊指揮を執る榊 柚紀だ。鳳翔と夕張、よろしく頼む」
言葉は普通の自己紹介だ。だが、明らかに覇気がない。
鳳翔「それでは提督、執務室にご案内致します。」
そう言って歩き出した鳳翔についていく。
夕張も俺の数歩後ろからついてくる。
これ、連行されてるみたいだな。
そんなどうでもいいことを考えながら数分歩く。
鳳翔「お待たせしました」
鳳翔が扉を開けてくれた部屋を見て固まった。
やけに豪華な扉に広い部屋、高そうな机に高そうな椅子、明らかに金のかかっているボトルラックが並び(酒は無い)、全体的に金色過ぎて目がチカチカしてくる内装に頭が痛くなる。
榊「…この趣味の悪い部屋は?」
鳳翔「『英雄』様が使われていた部屋ですが…お気に召しませんでしたか?」
榊「あぁ。少しもな。」
鳳翔「申し訳ございません」
榊「君らが謝ることじゃないだろうよ。」
何故か鳳翔が頭を下げ、夕張がそれに続いたのを制し、改めて部屋を見渡す。
うん、この部屋で執務とか無理。
榊「…妖精さん、頼む」
俺がそう言うと、鞄から5人の妖精さんが飛びでてきた。
鳳翔「え?!」
夕張「妖精?!」
なにやら鳳翔と夕張が驚いているようだが今は執務室をどうにかすることが先決だろう。
そう思い、無視して妖精さんと話始める。
榊「いつもの感じで部屋を変えてくれないか?」
「ゴホウビハー?」
「メガチカチカスルー」
「モウツイタノー?」
「アタマナデテー」
「マダネターイ」
相変わらず自由人のようだが彼女らには世話になってるから無下になどできない。
「ご褒美はシュークリームだ、おやつの時に撫でるのでどうだ?」
「マカセテ!」
「シュークリーム!!」
「サスガニキブンガコウヨウシマス」
「ナデナデタノシミー」
「ヨンジュウビョウデシタクシナ!!」
そう言って妖精さんが部屋の中に散っていく。
勿論、企業秘密とやらで俺らは部屋から出されて待つこと5分。
匠の手により生まれ変わった執務室があった。
榊「ふっ、流石だ。」
満足げに頷いて執務室に入る。
そのあとを続きながら鳳翔と夕張も部屋の変わりように驚きを隠せないようだ。
榊「鳳翔、夕張」
「「は、はい」」
まだ驚きが抜けないらしい二人をソファーに座るよう声をかける。
榊「妖精さんに出すシュークリームは多めに買ってきたからな。お前達の分もあるぞ。」
「「…え?」」
榊「何をそんなに驚くんだ?」
鳳翔「いえ、あの、その。」
夕張「…提督、質問よろしいでしょうか。」
今まで無口だった夕張が真剣な顔で言ってくる。
榊「勿論だ、どうした?」
夕張「はい、妖精に好かれているようですが、その妖精達は提督についてきたということでしょうか?」
榊「そうなるな。移動中に気づいたが鞄に入り込んで勝手についてきてしまったのだ。」
夕張「…そう、ですか。」
そう言って何やら考え込む夕張。そのまま見守ろうかと思ったが妖精さんに服を引っ張られ断念する。
榊「とりあえず、シュークリーム食べないか?」
「ハヤクー」
「オナカヘッター」
「ミンナデタベヨー」
「アタマナデテー!!」
「タマゴトーストハアリマスカ??」
騒ぐ妖精さんに「はいはい」と苦笑しながら頭を撫でる。
榊「さ、二人も座ってくれ。見ての通り妖精さんがお腹を空かせてしまってな。」
鳳翔「は、はい」
夕張「はい」
二人が席に着くと待ってましたとばかりに妖精さんがシュークリームを頬張りだす。
「「「「「ウマーー!!」」」」」
シュークリームに夢中な妖精さんの頭を撫でながら夕張に顔を向ける。
榊「それで?俺に何か話したいんじゃないか?」
鳳翔「え?夕張、まさか?」
夕張「うん。ここまで妖精に好かれる人って居ないから話すだけ話してみようかなってさ。」
鳳翔「そう、ですね。分かりました、私も覚悟を決めます。提督、お話、聞いてくださいますか?」
あとがき
というわけで最初は提督視点での着任です、次話は艦娘視点(夕張or鳳翔)を予定しています。
ちなみに主の鎮守府には夕張も鳳翔さんも何故か着任してくれない悲劇が起こっています泣
次回より榊→提督となります。
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