19時。
時間丁度に食堂に着くと、そこには夕張と鳳翔が扉の前に待機していた。
夕張「提督、お待ちしておりました。呉鎮守府所属全艦娘、集合完了しております。」
そう言って敬礼する二人を手で制し、「うむ、ご苦労様」と返し返礼しておく。
しかし、俺は夕張の言葉に違和感を覚える。
提督「全員か?」
夕張「はい、所属艦娘は全員食堂にて待機しています。」
提督「…その中に『龍田』はいるのか?」
夕張 鳳翔「「!?」」
二人は驚愕の目を向けているが構わず続けた。
提督「先程、憲兵から話を聞いたぞ。『英雄』に逆らった罰として難関海域に単艦出撃している、とな。」
夕張「…その通りです。」
提督「そうか。日付と出撃場所は?」
夕張「えっと…」
鳳翔「2日ほど前に出撃しています。場所は、南西海域ですが、詳細の場所までは…。」
こういった事務関連はどうやら鳳翔が管理していたのかスラスラ出てくる。
しかし、話している鳳翔は顔を暗いものに変えながら俺に伝える。
鳳翔「提督、改装前の軽巡洋艦が単艦で2日も生き残る可能性は0に等しいです。諦めるのも仕方ありません。」
そういった鳳翔は手を強く握りしめていて、言葉とは裏腹に本当は諦めたく無いと強く訴えていた。
提督「…そうか。まぁいい、まずは挨拶を済ます。」
夕張「は、はい」そう言いながら夕張が扉を開けてくれる。『英雄』は艦娘を侍女か何かと勘違いでもしてたのか。
提督「夕張、お前は艦娘だ。」
夕張「え?…はい、そうですけど」
提督「だからそんな扉を開けたりとか侍女のようなことはするな。『英雄』はどうか知らんが俺は好かん。」
そこで夕張はまたも目を見開く。
そして、うっすらと笑みを浮かべながら「はい」とだけ答えて後ろに下がった。
食堂に入ると完全な静寂と艦娘からの目線だけが場を支配していた。
しかし、どの艦娘もあまりに暗い表情をしていて歓迎なんてされていないのが目に見えて伝わる。
そして、俺が来るからと用意してくれたのであろう正面の台座に向かう。
提督「初めまして、だな。私が本日より呉鎮守府の司令官を受け持つことになった、榊 柚紀だ。以後、よろしく頼む。」
俺のその言葉に全員一糸乱れぬ敬礼を返す。
……横須賀ならタメ口で「よろしくー」なんて言われてたのが嘘のようだ。
提督「敬礼はいい、全員座れ。さて、さっそく本題だが……榛名」
駆逐、軽巡、重巡、大型艦の順で席についている中で目に入った艦娘の名を呼ぶ。
榛名「は、はい!なんでしょうか、提督様」
提督「その、粗末な食事はなんだ?」
果たして食事と読んで良いのだろうか。多分…戦時中に食べられてたスープだろう物が1人1皿並べられている食卓を指して俺は聞いた。
しかし、榛名はどうやら誤解してしまったようで慌てながら必死に弁明する。
榛名「あ、えと、提督様には別にちゃんとしたお食事をご用意しています!」
"ちゃんとしたお食事"ね。
自分達がまともな食事じゃないと把握しているということだろうな。
提督「艦娘の食事はいつもそれか?」
榛名「はい、艦娘は燃料の補給があれば死にはしませんので、大丈夫です」
提督「なるほど、食事担当者は誰だ?」
俺がそういうと中から割烹着を着た軍人が数名出てきて俺に敬礼をする。
軍人「提督様、私がここの食堂を任されております。」
提督「そうか。して、何故艦娘の食事はあんなに粗末なのだ? 呉にはそこまで金がないのか?」
軍人「いえ、そのようなことはございません。しかし、『英雄』様の指示で効率を考えた結果このようになりました。」
ここでも『英雄』の指示か。ということは、こいつはそんなに悪いやつじゃないんじゃないか?と、考えた瞬間軍人の「それに、」に続く一言でその考えが甘いと知る。
軍人「艦娘ごとき、我々軍人と同じものを食べるなど烏滸がましいにも程があります。食べさせて貰えるだけありがたいと思って欲しいものですな。」
提督「……なるほど、理解した。」
いよいよ、俺は鎮守府の軍人全員クビにする覚悟を決めて艦娘に向き直る。
鳳翔と夕張は期待の目を向けていたが明日までに軍人共に感づかれる訳にはいかない。
提督「各自、食事を摂ったら速やかに入渠し23時にもう一度食堂に集合。以上だ。」
「提督様、質問よろしいでしょうか?」
そう言って手を挙げたのは呉鎮守府の恐らく主力であろう扶桑だった。
提督「なんだ?言ってみろ。」
扶桑「23時に集まる理由をお伺いしても?」
提督「フム、身体検査だ。」
俺がそう言った瞬間、艦娘達の間では絶望的な空気が漂い軍人は鼻息荒く提督に意見する。
軍人「提督様、ぜひ私共にお手伝いを!!」
提督「いらん、最初くらい1人でじっくりと悩みたいのでな。貴様らは22時には軍人寮に戻りその後の外出を禁ずる。いいな?」
軍人「ハッ、畏まりました」
提督「では、挨拶は以上だ。夕張、鳳翔お前たちには引き続き用がある。執務室まで同行しろ。」
そう言って俺は食堂を出ていった。
後ろから夕張と鳳翔が酷く暗い瞳で俺を睨んでいたがそれさえ無視して執務室に戻る。
あとがき
すれ違う提督の思惑と艦娘の感情。
次は艦娘視点(鳳翔)でのお話をします、なかなかテンポが悪いのですが、もう少しだけ辛抱してくださいますと助かります。
まだ準備期間といった感じで本当のスタートは2日目になってからの予定です!
あと1、2話お付き合いください