鳳翔「…どういう、ことですか?」
提督は何故か執務室に入らずその隣の仮眠室に私たちを招いた。
ここは……『英雄』が接待に使っていた部屋だ。
自然と私と夕張さんの表情が強張っていく。
しかし、提督は私達を一瞥すると「計画通りだ。」とだけ返した。
鳳翔「計画通り、ですか…?」
提督「ああ。」
瞬間、私は艤装を展開して弓を構えていた。
夕張「鳳翔さん!!」
夕張さんの慌てた声も今の私には届かない。
提督「鳳翔、艤装の使用許可は出してないぞ」
分かっている。艤装の使用許可の無い私が提督を怪我させることなど無理に等しい。
それでも、私は弓を構えるのを止めない。
いつの間にか涙が流れていたことにさえ気づかず提督を睨む。
鳳翔「夕張さんのあの訴えを聞いても貴方は、『英雄』と同じ事をするというのですか?!」
提督「あぁ、その通りだ。」
やはり表情1つ変えず提督は返した。
しかし、提督はキョロキョロと辺りを見回して、しきりに壁、家具やわざわざ執務机に乗って天井まで触って何かを確認し始めた。
そのあまりに不可解な行動に私も夕張さんも提督を見つめて首をかしげる。
しかし、同時に私は苛つきを覚えながら提督を睨み付けて言った。
鳳翔「私の話など、真面目に聞く気もないと…?」
提督「…………」
ついに返答さえないことに私は弓を本当に射ってやろうかと構える。
そんな私を必死に止めようとしているのか、妖精さんが私の弓や服に飛び付く。
「アブナイヨー??」
「テイトクサンハイイヒトナノデス!」
「ガイシュウイッショクヨ!」
「テイトクサンヲマモレー!」
「ユミガスベリダイミタイデタノシイヨ!」
「「「「ヤルッ!!!」」」」
止めに来たのだろうが妖精さんは私の弓を滑り台にして遊び始めた。
どうして、妖精さんはここまで提督を庇うのだろうか。
言ってることは『英雄』と何も変わらない。
それなのに、『英雄』の時代には必要最低限の会話しかしなかった妖精さんが提督を慕っている。
私がそんなことを考えているといつの間にか提督が戻ってきていた。
鳳翔「提督、その紙とペンはなんですか?」
そう、何故か提督は紙とペンを手にして戻ってきたのだ。
意味がわからずそのまま質問する。
提督は紙に何かを書いた後、「なに、少しばかりは執務を始めないといけないと考えてな。」と答える。
そんなノートとペンでは執務ができるわけがない。本当に意味が分からない。
しかし、提督がノートをこちらに向けた瞬間、私はさらに困惑することになった。
『この部屋は盗聴されている』
紙に書かれている内容に私は息を飲む。
鳳翔「どういう、ことですか?」
提督「どういうもなにもお前たちには私の執務を補佐してもらう為に連れてきただけだが?」
『カメラは妖精さんにお願いして不具合に見せかけて止めてある』
提督「私は『英雄』殿に感服してな。あの方を見習おうと思っただけさ。」
『これからの計画を話す。協力して欲しい。』
提督が言葉にしている内容と紙に書いてあることが違いすぎて頭がパンクしそうになる。
『会話はダミーとして続けてくれ』
いつの間にか怒りは消えて、困惑ばかり広がるが、なんとか会話には応じることはできた。
鳳翔「私たちは『英雄』を認めていません。」
提督「お前がどう思おうが知ったことではないな。」
『皆を傷つけてすまない。』
『明日まで耐えて欲しい。』
鳳翔「提督、見損ないました。」
明日?どういうことだろうか、提督は何がしたいのだろうか?
提督「ふん、どうとでも言うがいい。」
『この場所が監視されていることは憲兵からの情報で既に把握していた』
やはり疑問ばかりが浮かび提督が考えていることが分からない。
私がそのような状態と知ってか知らずか提督は続けて言う。
提督「このあと、私もこの部屋を使うつもりだからな。掃除を手伝いたまえ。」
『22時になったら私と一緒に艦娘全員分の料理を作るぞ』
鳳翔「え?」
私は会話することも忘れ、声を漏らした。
それでは、23時の集合は…。
提督の思惑が少しだけ分かって嬉しくなる。
しかし、まだ半分だ。
なぜ提督は盗聴されてる部屋でこんな話を?そもそも盗聴させる意味とは?
それに、艦娘に対するあの態度は何だったのだろうか。
私と夕張さんに向けられた優しさはまだ私たちしか知らない。
でも、信じてみたいと希望を持ってしまうくらいの心強い言葉を皆にも投げてほしかった。
提督がそれをしない心理は、なんなのだろうか。
提督「何を呆けている。」
提督の声にハッとする。そうだ、会話しないといけないのだった。
『憲兵共は俺の権力ではどうにもならない』
『だから、明日、元帥権力で潰す。』
明日の意味、盗聴させてまで『英雄』を慕う提督を演じている意味が全て繋がった気がした。
提督は自身が改革する前に憲兵にありもしない罪で潰されることを懸念しているのだろう。
そして、元帥権力。この人は元帥にそこまで頼める力を持っているのだろう。
鳳翔「……はい、かしこまり、ました。」
もう私は提督に弓を向けたことへの後悔と本当にこの鎮守府を救うつもりなんだと分かって嬉しさが混じり自分でもよく分からない感情で頷く。
提督「フン、泣いたところで俺には逆らえまい。」
『困惑させてしまってすまなかった。』
言葉は冷徹な毒を吐くくせに紙に書かれた言葉には私への気遣いがこれでもかと籠められていて、私の目元を濡らす。
そんな私を見て提督は、そっと私の頭を撫でた。
正直、驚いた。
誰かの頭を撫でたことならいくらでもあった、でも逆に撫でられることは1度さえもなかったから。
この人になら、甘えてもいいのかもしれない。
いつの間にか涙は止まり、私の中に燻ってしまっていた感情は消えていた。
提督「さぁ、23時までに間に合わせるぞ。このあと、私が楽しむために必要だからな。」
鳳翔「…はい。」
本当に、この人は。
私の頭を撫でることをやめず何を言ってるのか。
ちぐはぐ過ぎて自然と口元には笑みが浮かんでいた。
あとがき
日にちが相手の投稿になってしまいました
服屋さんは忙しいですね、SALEが始まり時間が作れなくてなかなか次話を書けずとなりお待たせ失礼致しました!
今回は鳳翔さん目線でのお話です。
彼女は艦隊の母的な役割が多いですが母も少しは誰かに甘えたいんじゃないかなと僕が勝手に考えている為、このような性格になってます。
できるだけ早く次話を書けるよう努力しますので、もう少しお付き合いください。