『悪魔』と始めるブラ鎮建て直し計画   作:si@新米書き手

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疑惑と真実

暁が連れていかれた。

 

今度の提督は重巡洋艦のようなスタイルが良い人だけじゃなく暁のような子供までもそういう対象として見ているのかもしれない。

正直気持ち悪いとさえ思う。

もし、姉妹艦の夕立や村雨に何かされたらと思うだけで怒りや恐怖で手が震えだす。

新しい提督が『英雄』と繋がっていないかもしれない、僕達を救ってくれる人かもしれない。

皆が絶望して諦めていたけど、僕だけは密かに期待していたんだ。

でも、確かに僕は聞いてしまった。

 

提督「うむ、今日は楽しめそうだ。それでは失礼する。」

 

それまでの会話も何もかも聞いた。

吐き気が込み上げてくる、あの人も結局『英雄』や憲兵と同じ。

人間そのものがそういう生き物なんじゃないかとさえ思えてくる。

だから僕は姉妹艦を呼びにきた暁を見て驚いた。

最初に提督の元へ向かった時の警戒していた目は艦娘達と話す時と同じになっていたから。

しかも、幼いけど妹思いで姉妹艦を差し出すことなんて絶対にしない暁が提督が呼んでいることを理由に響達を連れていったのだ。

 

暁は、確かに幼い。

けれど、姉としての責任感や姉妹愛に関しては見た目以上の大人な感性を持っている。

僕達はそれを知っているし、勿論、響達も知っているからこそ暁についていったのだろう。

 

そして、10分程経って戻ってきた4人はなんとも嬉しそうな顔をしていた。

どういうことだろう、彼女らに何かしたのだろうか。

他の皆が心配して話しかけてもいつもの彼女達で何かされたという感じはしない。

それに、気になるのは4人が持ってきたお盆。

見たことのない食事とスープが1人1つ用意されていてなんとも芳しい香りを放っている。

僕のお腹もその誘惑に負け音がなってしまう。

少しだけ恥ずかしいな…。

と、周りを見るとどうやら皆気持ちは同じだったようだ。

僕のお腹の音など気づかずに暁達の持つ食事に目を奪われている。

そして、4人が食事を口にした。

 

暁「美味しいわ!!!」

 

響「これは…いいね」

 

雷「おいひいわね」

 

電「今までのご飯で1番なのです」

 

4人が上げた歓声は僕達の暗い沈みそうな気持ちを払拭するには充分だった。

提督は僕達に美味しいご飯をくれるというのだろうか。

それに何かされるにしても10分では襲われたということもないだろう。

何より暁達の表情を見てそれはないと確信できる。

皆、気持ちが軽くなっていったのだろう、場の空気も和らいでいく。

しかし、僕だけは違う。

僕は提督のあの発言を聞いているから。

憲兵と話していた内容を全部記憶しているから。

何が正しいかなんて分からないけど、どこか信用しきることはできない。

僕が思考の海に潜っているとついに僕達の番がきた。

どうやら暁達の次は僕達の番のようだ。

 

時雨「じゃあ、行ってくるよ。」

 

夕立・村雨「うん、いってらっしゃい(っぽい)」

 

二人に見送られ僕は提督が待つキッチンスペースに入る。

 

提督「改めて初めまして、だな。」

 

時雨「僕は白露型駆逐艦二番艦の時雨だよ、提督」

 

提督「そうか、よろしく頼む。早速だが本題に入ろう。」

 

きた。ここで何をするのかが勝負所だろう。

暁達のように夕立と村雨を危険に巻き込まず美味しいご飯だけを手にできる。

それが理想だと思う、だからこそ提督には最大限の媚びと共に警戒を向ける。

 

時雨「うん、分かっているよ。姉妹艦を集めればいいんだよね?」

 

提督「話が早くて助かる。では、頼めるか?」

 

時雨「提督、1つだけお願いがあるんだけどいいかな。」

 

提督は僕の言葉に首をかしげながら答える。

 

提督「あぁ、私のできる範囲の願いでならできる範囲で聞こう。」

 

時雨「夕立と村雨には手を出さないで欲しいんだ。提督の衝動は僕が受け止めるから。」

 

僕は、自己犠牲を選んだんだ。

そうしてでも夕立と村雨を守りたい。

僕の可愛い妹達には手を出して欲しくなかった。

僕の必死な願いを聞いた提督は何かを考えた後、1人で納得したのか頷いて僕を見る。

 

提督「すまないな、そこは夕立と村雨の意見を尊重させて貰う。2人が協力してくれるというなら私は喜んでお願いするしな。」

 

まずい、提督は2人の意見を尊重すると言っているが夕立や村雨は僕が自己犠牲をしようとしていることを知れば確実に一緒にやろうとする。

 

時雨「提督、お願いだよ。僕はどうなっても良いんだ。だからあの二人だけは手を出さないでくれないかい?」

 

提督「そこまで言うなら2人は免除でもいいが傷の写真撮影がそこまで厳しいのか?」

 

時雨「え?」

 

提督「ん?」

 

なんだろう。凄く話が噛み合ってない気がする。

 

時雨「傷の写真撮影?」

 

提督「そうだ、『英雄』や憲兵共につけられた傷の証拠写真を集めているのだが、暁達から聞いてないのか?」

 

時雨「聞いてないよ!」

 

提督「なるほど、時雨は私が何をすると思ったんだ?」

 

時雨「それは…」

 

言いかけて頬が赤くなる。

それを見た提督が「もういい、察しがついた。」とだけ言って手のひらをこちらに向けた。

それにしても、どういうことだろうか。

提督は僕の想像していた人間と全く違って見える。

 

時雨「提督、夕食前に憲兵と話してたよね?」

 

僕は切り込むことにした。これで提督の本性が分かるかもしれないから。

提督は何故か納得したような顔をして僕に苦笑して見せた。

 

提督「なるほどな、だから私に恐怖以外に猜疑心みたいな感情を向けてきたわけか。納得だ。」

 

そう言うと提督はボイスレコーダーを取り出し音声を再生させる。

中には僕が聞いた内容と同じものがそこにはあった。

 

時雨「提督、これって。」

 

提督「勘が良いな。相手から情報を聞き出したいのなら仲間と思わせて口を割らせるのが一番てっとり早いだろう。」

 

驚いた。

提督は僕の期待に応えてくれるかもしれない人だったから。

この人に賭けてみようかな。

そんな感情さえ浮かんでくる。

 

時雨「それで、アイツらはどうするんだい?」

 

提督「当然、全員クビにする」

 

提督が即答する。僕達が待ち望んだ環境が生まれるかもしれない。

自分の勘違いが嫌になる。

さっきまでは夕立、村雨を守ろうとしていた筈なのに今は早く提督に会って欲しい。

 

時雨「色々と勘違いをしていたみたいだ。ごめんね、提督」

 

そう言って夕立と村雨を呼びにいく。

2人は怯えていたが僕と提督の会話を聞いてビクつきながらも提督に挨拶をしてくれた。

 

夕立「提督さん、夕立っ…ぽい」

 

村雨「提督、私は村雨です…よろしく、ね?」

 

提督「あぁ、よろしく頼む。夕立に村雨だな。時雨を見て気づいてるかもしれないが敬語でなくても私は怒らんぞ。」

 

提督の言葉に僕は苦笑しながら、2人に事情を説明する。

2人共、3人一緒を条件に写真撮影に協力してくれた。

その後、提督から暁達が食べていたご飯を貰った。

 

夕立「提督さん、ありがとうっぽい」

 

村雨「ありがとうございます」

 

時雨「もしかして、全員分用意しているのかい?」

 

提督は僕達の頭をそれぞれ軽く撫でた後に「当然だ、鳳翔と夕張にも協力を頼んだがな。」と、後ろで控えている2人に目を向ける。

2人共凄く優しい顔をしていた。

そっか。提督がこういう人だから暁達も鳳翔さんもあんな顔しているんだね。

 

その後、食堂に戻って食べたご飯は今までで一番美味しくて、少しだけ、しょっぱかった。

 




あとがき

ということで今回は長らくリクエスト頂いていた時雨の登場です。個人的にも夕立と時雨のわんこコンビは大好きなのでこの後も活躍してくれる話になればと思っています。

相変わらずの不定期更新で申し訳ないです!
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