残念だが、俺はAじゃない 作:しおむすび
俺がこの世界で最初に目覚めてから、随分長い時間が経った。体感にして100年は経っているだろう。死んでいないどころか、身体が成長すらしていないのは、多分ここが現世じゃなくて尸魂界で、俺が既に死んでるからだ。斬魄刀を使える人間なんて余程の事がなければ存在しないのだから、当然といえば当然だった。
あれから俺はビナーの精神世界でL社を管理し続けている。新しいアブノーマリティこそ存在しないが、精神的に非常に厳しい事に変わりはない。代わりと言っては何だが、全てのE.G.Oを扱えるようになった。所謂始解ってやつだ。まぁ技術とかはE.G.Oに任せきりだから剣術の腕なんかは上がっていないし、鬼道や白打なんてのはからっきしなのだが。とにかく、俺はこの世界で最低限生きることが出来るようになった。
しかし来る日も来る日も
ここが尸魂界だろうという事は分かる。一面ずっと荒野だが、砂漠ではないからだ。まぁもしかすると虚圏かもしれない。とにかく人というか、
「それで、今日はどんな話をしてくれるんだ?」
「……全く、私の想像をはるかに超えたふてぶてしさだね、貴様は」
「そっちから先にちょっかい出してきた癖に。それじゃ傷つくぜ」
「勝手に傷ついていろ。……まぁ良い。そうだな、あれは私がまだ巣に居た頃の話だ」
俺たちは互いの身の上話を交互にするようにしていた。ビナーはここまで俺が生き残るのを想像していなかったらしい。なんとも間抜けで失礼な話だが、俺もここまで来て死んでやるつもりはない。ここが尸魂界のどこなのかは依然として分からないが、ずっと一方方行に進めばいずれはどこかにたどり着くだろう。
ビナーと話す以外で起きている時にすることといえば、こうやって移動の簡略化の為に習得した瞬歩で、ひたすら一定の方向に向かうことだ。まぁ話しながらでも移動はするけど。なんもないからな、ここ。建物でもあれば落ち着いて眠れるし、木があれば建物を造るんだが、ここには
そして、その時は来た。時空のひずみに通じる穴を発見したのだ。正直入って現世に行けるかもこの荒野の尸魂界に戻ってこれるかも分からないが、この荒野で永遠に生きるよりは遥かにマシだろう。そうやって意を決して飛び込むと、そこは断界だった。
いや、確かにその可能性は高いと思っていたが、割と嫌な場所に出たな……。これならまだ荒野の方がマシだったかもしれない。いやまぁ、拘突に出会わなければ良いだけだし大丈夫だろ。詳しくはないが、一応ここでも生きていけるらしいし。……と思っていたのだが。
「え、嘘だろ?」
目を凝らさなければ見えない程度だが、確かに数キロほど先、拘突が向かってきているのが確認できた。ビナーが笑っているのが分かる。ふざけるなと言いたかったが、出会ってしまったものはしょうがない。それに見た感じではあるが、拘突は逃げられないほどの速度が出ているわけでも無いようだった。最悪の場合はずっと逃げていればどこかに出られるだろう。
それとは他に少しだけ疑問が生じていた。愛染もやれたんだから、ワンチャン拘突倒せるんじゃないか?という疑問だ。すぐに考えるのをやめたが。いや、無理だろ。拘突から発せられる圧が半端ない。ALEPHと比べても遜色ないレベルだ。愛染のヤツよく倒せたなアレ……流石はラスボスの一人である。
となれば逃げるしかないのだが、逃げたら逃げたで確かヤバいんだよなぁ……。なんとか断界から出れないかと試行錯誤するも、霊圧等の技術なんて無いに等しい俺が試行錯誤してもうんともすんとも言わない。大体どうやったら次元の裂け目なんて作れるんだ……。
拘突から逃げつつ頭を働かせる。こうなるともうE.G.Oに頼るしかないのだが、この状況を何とか出来るようなものがあっただろうか。
「無理だな……卍解使っていい?」
「お前の力だ、自由にしろ。と言いたいところだが、この程度始解で何とかしろ」
”ラブ”で足止めしつつ何とか出来ないかと現状打開の策を考える。ハッキリ言って俺だけの力だとどうしようもない。いつかどこぞの死神が断界に来るのを待つしかないだろう。それまで逃げ続けてもいいのだが、そうすると多分俺は死ぬと思う。既に断界に来てから1日ほど時間が経っているのだ。断界の中の時間がどうなっているのかは詳しく思い出せないが、これ以上はまずいだろう事は分かる。
また都合よく次元の裂け目でもないかと思っていると、拘束された人間が上から降ってきた。上を見ると、穴が開いており、そこから無数の人間が同じように投下されているようだった。正直何をしているのか分からなかったが、この機を逃すわけにはいかない。俺は跳躍すると、その穴へと身を投じた。
「な、何だ貴様は!?」
穴から出るとそこにはおっさんが数人居た。多分全員死神だろう。刀をこちらに向け警戒している様子。となるとここは尸魂界だろうか。建物の中である為確認はできないが、かなり綺麗な場所だし多分瀞霊廷内だ。
「いや、怪しいものじゃないですよ。ちょっと断界で迷子になっちゃいまして……というか本当に人間?実は
「いきなり何を言い出すかと思えば妙な事を……貴様、一体何なのだ!とにかく武器を捨て大人しく投降しろ!」
「投降しないと……?」
「悪いが実力行使をさせてもらう。縛道の九、撃!」
おっさん達は有無を言わさず縛道を使ってきた。まぁ10番台にすら乗っかってない縛道なんてたかが知れてるんだろうが、正直自分の実力もよく分からないので喰らわないに越したことはない。
「待て!貴様には聞かねばならんことがある!」
「残念だがこっちはアンタ達に用はないんだ!逃げさせてもらうよ」
壁を壊して外に出る。やはり瀞霊廷内だった。少々形が違う気もするが、見覚えのある景色が広がっていた。とにかく瀞霊廷から出る必要がある。隊長クラスが一人とかであれば何とかなると思うが、二人とかだと逃げるのは難しいだろう。ゆえにぱっぱと退散する必要がある。
大体、今はいつ頃なのだろうか。原作開始直前とかなら割と面倒だ。ああいう世界の危機連発!なんてのは精神世界の中だけで十分である。
とにかく瀞霊廷から脱出して、そして出来れば現世に行きたい。拘突も卍解を使えば多分なんとかなるし。なんならどこかに存在する地獄蝶を奪うなり盗むなりすればいいのだ。
方針は決まったので流魂街を目指す。瞬歩を使えば瀞霊廷の端まではすぐであった。”笑顔”で無理やり壁を破壊する。少しだけ申し訳ないと思いながら、俺は流魂街に溶けるように潜り込んだ。