明日方舟 短編集   作:すきゃーいふれあ

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ライン生命三人組の話


果たされて欲しかった約束

どれほど後悔しても過去は変わらない。どれほど過去を呪詛しても今が変わるわけではない。もう時計の針は戻らない、過ぎてしまったことは進まない。

 

そんなことは誰だって分かってる。だけれども人は祈らずにはいれらないのだ。もし、あの時失敗していなかったら、もし呼び止めて入れたら、もし上手く行っていたら。

 

 

そして彼女たちもそのもしを考えていた。もしも、あの時の約束のちゃんと果たせていたらと、彼女たちは全員がそう祈った。

 

その祈りが叶うことはないと知っていたとしていても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事は数日前まで遡る。

 

 

 

 

 

「…眠い…なぁサイレンス…この検査受けなきゃいけねぇのかよ…」

 

 

「我慢してイフリータ…これは貴方にも大事なことだから…」

 

 

「分かったよ…まあ他の奴らじゃねえサイレンスならいいけどよ…オレサマの体をどうこうしねぇだろ?」

 

 

「…うん、約束するよ。」

 

 

 

ライン生命医科学研究所。それがこの施設に与えられた名前だった。そこの一室に眼鏡をかけた女性とその女性の前に眠そうに座っている少女がいた。

 

 

 

「しかしヒマ過ぎて死にそうだぜ…なんかやる事ねぇのか…」

 

 

「やること…」

 

 

サイレンスはつい顔を俯いてしまった。彼女は研究一筋で何年もこの道を進んできた根っからの研究者だ。だから彼女のように幼い相手に対してどのように接するかが、気の利いたことが言えるかは怪しかった。とはいえイフリータはサイレンスのことが基本的には好意的なため彼女たちは悪い関係にはならなかった…のだが。

 

 

 

「イフリータ、サイレンス、いるか。」

 

 

部屋をノックして扉を開けて来たのは長身の女性だった。

 

 

「…サリア!」

 

 

イフリータは退屈そうにしていた顔をぱっーと輝かせその来客の長身の女性に振り返った。

 

 

 

「ああ、居たか。良かった。」

 

 

「…サリア…今、イフリータの検査中。」

 

 

サイレンスは訪ねて来た女性、サリアに少ししらっとした視線を送ったがサリアはそれを躱してイフリータに声をかけた。

 

 

「イフリータ…サイレンスも聞いておいてくれ。」

 

 

「なんだ?なんだ?楽しいことか!」

 

 

イフリータはふんすと無邪気にサリアの言葉に耳を傾けている。

 

 

「明後日のこと…あれが終えたら外出許可を得ている。イフリータ、外へ連れていってやるぞ。」

 

 

 

「…ホントか!!」

 

 

彼女の表情は途端に明るくなっていった。イフリータは外へ出たことがない。そのため外にあるものをサイレンスやサリア、マゼランといった知り合いに聞くしかなく、実物を見たことがない。彼女は外へ出るという事が夢の一つであった。

 

 

 

「…ああ、本当だ。だからイフリータ。明後日の治験…いい子にしているんだぞ。」

 

 

「分かった!でも明後日はサイレンスが担当なんだろ!なら心配いらねえだろ!」

 

 

イフリータは彼女を信頼していた。彼女のやることに間違いはないだろうとそう信じていたためいつもは気が進まない治験に関しても大丈夫だとそう思っていた。

 

 

 

「…サリア、少しいい?」

 

 

サイレンスはサリアを端に連れていきイフリータに聞こえないように話を始めた。肝心のイフリータは外へ思いを馳せているため特に気にしてはいなかった。

 

 

 

「よく、上層部はイフリータを外へ出すことを許可したね。」

 

 

「許可を取り付けるには少しばかり苦労した。だがこれも彼女のリフレッシュのためだ…サイレンス、イフリータの源石融合率は…上がっているのだろう?」

 

 

「…やっぱりあなたは知っていたんだ。」

 

 

「保安とはいえ一応研究員だ。彼女の様子を見ていれば分かる。とにかく…彼女は何かしら気分の転換を図る必要がある。上にもそうやって説得した。」

 

 

「…そっか、ありがとう…」

 

 

「いや、礼は良い。明後日の治験、サイレンス…お前にかかっているプレッシャーは相当なものだと思う。だがお前が確信しているのならそれは間違いではない筈だ。」

 

 

 

「…そう言ってくれて嬉しいよ。正直、どうなるか私にも分からない…けれどこれはあの子のためにもなるはず。」

 

 

サイレンスやサリアの言う治験。それはオリジニウムの断片を直接イフリータに投与するというものだった。源石を体内に取り入れさせることで融合を遅らせて集まった結晶を時期を見て取り除き、血中源石濃度を下げるという試み。

 

 

 

だがこれはサイレンスが考案したものではなくライン生命の幹部が直接提言して来たことだった。

 

 

 

 

『サイレンス君、いいかね…彼女の源石融合率を抑えるのは毒を食らう必要がある。だがその毒を克服した時に「アレ」の鉱石病は遅らせることが出来る…いや、むしろ治すことも見込めるようになるだろう。』

 

 

だがそれは実証されてもない理論、仮説も彼女は立てたが今の手詰まりの状態であるサイレンスはそれをやることを決めざるを得なかった。何より上層の決定には彼女は異議を唱えることは許されないのだ。

 

 

 

「サリアー、サイレンスー…何話してんだー?」

 

 

話している時間が長かったためかイフリータはしびれを切らしたようで退屈そうな視線を送っていた。おまけに眠そうに欠伸をしていた。

 

 

 

「おっと…あまり待たせるわけにいかないか。戻ることにしよう。」

 

 

「ええ…それとサリア、ありがとう。」

 

 

「フッ…どういたしましてだ。」

 

 

サリアとサイレンス、彼女たちはパートナーであり、信頼できる友人であり、そして何よりイフリータの保護者でもあった。

 

 

 

 

「…ごめんね、待たせて。」

 

 

「別にいいぜ。オレサマには分からねえ話してたってことは分かるからな。どうせ聞いてもオレサマ眠っちまうだけだろーな。」

 

 

「いや、案外とそうでもないかもしれないぞイフリータ。お前も将来はサイレンスのようにとても頭がよくなっているぞ。」

 

 

 

「ホントかよー…そりゃあさそういう時のサイレンスはカッコいいと思うし憧れるけどよオレサマがそれになれるかったら実感がねえぞ。」

 

 

「幼いころなどそういうものさ。サイレンスとて最初から今のような頭脳明晰だったわけではない。あるきっかけで今のここまで来ているだけだ。そのきっかけなどこれから幾らでもある。だからイフリータもその機会を逃さなければサイレンスのように格好良くなれるぞ。」

 

 

「きっかけかぁ…でもオレサマ分からないぞ、ならサリアそのきっかけを教えてくれよ、オレサマもサイレンスみたいにカッコよくなりたい!」

 

 

「ああ、良いとも。」

 

 

 

「ふ、二人とも…あまり褒めないで…」

 

 

サイレンスはうつむいた、彼女はあまり褒められなれてないため現在進行形で目の前で褒められていることに気恥ずかしさを感じた。

 

 

 

「…全く。」

 

 

サイレンスはそんな二人にふぅと嘆息し、そして自分のデスクを開けて中からある物を取り出した。

 

 

 

「イフリータ、こっち向いて。」

 

 

「ん?どうしたんだ、サイレンス。」

 

 

そして正面を向いたイフリータの首もとにペンダントのようにその物をかけた。

 

 

 

「ん、なんだこれ…」

 

 

「それは私の羽根から作ったお守り。貴方に受け取っておいてほしくて。」

 

 

「へぇ…サイレンスかぁ、なんか暖かいな!」

 

 

そしてサリアにも向き合い、彼女の手にも同じものを握らせた。

 

 

 

「私にも、か?」

 

 

「そう。貴方にも…私も同じものを持ってるから。」

 

 

 

「いっひひ…オレサマにサイレンスにサリア!お揃いだな!」

 

 

イフリータは嬉しそうに笑った。つられてサイレンス、サリアも笑った。そしてサイレンスが二人に聞こえるように言った。

 

 

「これは、約束の証。明後日の治験が終わったら外へ行こうっていう約束の証。」

 

 

「それは…いいな。ああ、約束だ。サイレンスの羽根に誓ってな。」

 

 

 

「絶対に約束だぞ、二人とも!破ったら本当にただじゃおかねえからな!」

 

 

「ふふ…それは怖いな。…ああ、守るとも。必ずな。」

 

 

 

そして三人は改めて約束を交えた。これからも過酷な環境であってもこの穏やかな関係が続くとそう思っていた。思われていた。

 

 

 

 

二日後…とあるアクシデントがライン生命で発生した。後に『炎魔事件』と呼ばれる出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちの約束は二度と果たされることはなかった。

 

 

 

 

 

 

「イフリータへ 言えた義理ではないが、私は自分の事をお前の親だと思っていた。お前が生まれてから今まで私はお前と接し、色々なことを教え続けて来た。お前と色々と経験し、通じ合っていたと思っていた。さながら私は父親でサイレンスが母親。そのように思えていた…女である私がそういうのもおかしな話に思えるが。だが、私は結局目を背けていただけに過ぎなかった。お前の現状を理解していても変えようとはせず、正しいことだと思って、自身をお前の親だと思い込んで偽り目を背けていただけだった。そして結局お前を傷つけてしまい、取り返しのつかないところまで来てしまった。…こんな私にお前の親だと名乗る資格はもうない。どうか、私のことは忘れて、幸せを掴んで生きてくれ。   サリア」

 

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