明日方舟 短編集   作:すきゃーいふれあ

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銀博。私銀博好き


隠されもしない好意

「盟友よ、困ったことはないか。」

 

 

それは突然の一言。シルバーアッシュとドクターがカランド貿易とロドスの今後についての会談での場の一言だった。

 

 

「困ったこと…?正直言えば色々課題は山積みだからな。どれを困ったことと言えばいいのかと分からないほど前途多難だな。」

 

 

ドクターはふむむと考え込んだ。正直言えばロドスは勢力こそ伸びたが組織を管理する人材の方があまりにも未熟であり、人手不足だった。その先導をしているのがドクターであったが彼もまた記憶喪失であり、目覚めたばかりの為本来は赤子のようなものだ。

 

だが記憶を失うための優れた頭脳は健在だったためたとえ一からであったとしても瞬く間に知識を習得し実行に移してきた。だがあくまでもその場しのぎの騙しだましでやってきたことの為やはりどうしても穴が出る。

 

故に優秀な指導者であるシルバーアッシュを頼るという事もあるのだが…

 

 

「まずは一つずつ話してみてくれ。」

 

 

「まあ相談に乗ってくれるなら有難く相談させてもらうが…」

 

 

ドクターは現在抱えている問題を軽く整理してから考えを話す。まずは重要度の高く早急な課題として。

 

 

 

「やはり人材不足が深刻だな。ああ、いや…オペレーターの数は十分すぎるほど足りている。足りているんだが指揮官が圧倒的に足りていないんだ。重要な作戦こそ指揮を執るのは私だが私が全ての指揮を担当しているわけでもないし、どれほど優秀な指揮官だったとしても5個の作戦を一手に引き受けるのは不可能だからな。戦術立案に長けた者たちに分隊指揮をお願いしているがやはりそれでも足りない…」

 

 

レユニオンムーブメントは兎に角数が多く、分隊単位で行動し、そのリーダーが統率し行動するといった体を執っている。総指揮官こそドクターではあるがそれでも指揮を執れる人間が多いに越したことはないとドクターは考えていた。

 

 

「それならば我がカランドのクーリエやマッターホルンを使うといい。彼奴らには私が直々に兵法を手解きしている。一分隊程度なら余裕で指揮は可能だ。それでも足りないというのならば一部の見どころのある者達を集めて講習会を開くといい。お前の手が足りないというのならば私が引き受けよう、なに心配することはない。これでも用兵には心得があるつもりだ。」

 

 

「それは把握しているさ。この前のチェスでシルバーアッシュが優秀な指揮官であることは疑いはない。…だがそれでも分からないことがある。」

 

 

「…どうした。話してみるといい盟友よ。」

 

 

彼の低いバリトンボイスがドクターの耳にしっかりと届く。彼らの身長差はかなりのものになるがそれでも見下すような視線ではなく対等な視線を送っていた。

 

 

「シルバーアッシュがそこまで私に好意的な理由だ。今の私たちの理由は良好な物であったとしても我々は互いに組織を預かる者。貴方の言うとおり、将来的には敵対することもあるはずだ。むしろあなたはそれを望んでいる節すらある…だが、何故そんなにも私に、ひいてはロドスへ好意的なんだ?」

 

 

不平等条約ですら呑んでしまう彼の行動。あまりにも常軌を逸しており、利益を度外視している。その行為は他の者から狂っていると見られても可笑しくない。

 

 

 

「私がお前たちに対して利益になる行動を取る理由だと?そうだな…色々とお前に抱えている感情はあるが。」

 

 

 

シルバーアッシュも言葉を選んでいるように考えている。彼にも彼に考えがあるようで少々悩んでいるようだった。そして慎重に言葉を吟味しているようで漸く口を開いたのが。

 

 

 

「お前は覚えていないだろうが、私はまだ幼いころ、学生だった時だ。お前にはかなり世話になった。野心を持ったのも、今の私を形成したのも全てお前がいたからこそだ。勝手にだが恩を感じている。借りを返すという意味もあるがまずは感謝の気持ちとでも思っていればいい。」

 

 

「…しかし私がそれを覚えていないのでは私が貴方に恩を売ったかということすら分からない。そんなものは無視をすればよかったのでは?」

 

 

ドクターの言う事はもっともだ。ドクターはその恩を覚えていないためその恩返しを必ずしも実行する必要もない。ましてや不平等条約では釣り合う気もしない。だがシルバーアッシュはフッと笑った。

 

 

 

「覚えている覚えてないなどそういう次元の問題ではない。私がそれほどまで感謝しているという事だ。だがそれだけではない。私とて打算なしにこのようなことをやっているわけではない。」

 

 

だが彼も一筋縄ではいかない人物。彼自身が優秀な王であり、最強の駒でもあるのだ。

 

 

「…それを私に聞かせても?」

 

 

「構わないとも。むしろ聞かせたことで危機感をあおるのもまた良い。お前ならば良い次の一手を考えるだろう。」

 

 

それすらも計算済みであるかのようにシルバーアッシュは言う。それは野望に満ち溢れていた目だ。

 

 

「お前との一戦を望んでいるのは肯定しよう。だがそれではまだお前たち、ロドスアイランドは羸弱すぎる。幾ら指揮官が稀代の化け物であっても兵が、軍が羸弱であれば物量によって踏み潰されてしまう。そして現状カランドではそれが可能だ。だがそれでは面白くない。」

 

 

「成程、貴方自らでロドスを強靭なものにして同じ高みへ立たせて戦いたいと…そういうことか。」

 

 

「そういうことだ。だがロドスの成長速度はかなり早いものだ。いずれは此方の支援など必要せずともこちらの領域へ達してくるだろう。」

 

 

シルバーアッシュはドクターの経営手腕とオペレーターたちの腕を買っていた。やがて障害と成り得るかもしれない相手を強靭なものにするのは非常に危険な行為だが…

 

 

「そう油断しているといつの間にか格上になっているかもしれないぞ?」

 

 

「それも一興だ。格上が相手でお前が相手となったとしたらそれは最高の戦場になるであろうな。」

 

 

しかし彼は流血を躊躇いはしない。ドクターとの戦争という行為そのものを心待ちにしているのかもしれない。だがそれだけではないと彼は指を立てた。

 

 

「だが、私にとっての本命はこれだ。」

 

 

「まだ、何かたくらみが?」

 

 

ドクターも怪訝な表情を隠せなかった。当然だ、戦争を望むという相手に警戒しない方がおかしいものだ。

 

 

「企みか…そんな俗事ではない、もっと崇高な私の理想だ。」

 

 

シルバーアッシュは堂々と言い切る、そして再びドクターへ複雑な視線を向けた。期待、好意、羨望、嫉妬、憧憬…色々と混雑し、そしてそれを超越した視線。その視線を向けられたドクターはつい顔を歪めた。

 

 

そしてシルバーアッシュは立ち上がりドクターの元へとずんずんと近づいて行った。ドクターも立ち上がり壁に追いやられていく。

 

 

「私の悲願は何よりもお前を超えることだ、私の人生を導いたお前という存在を超えたことで私の人生に意味が見出すことが出来る。それから漸く人生が始まる。」

 

 

そしてドクターは壁にぶつかり目の前に彼の巨躯が現れた。シルバーアッシュは手をドクターの顎に添えるとそのまま視線を見上げさせるように合わせた。

 

 

 

「お前こそ私の人生そのものだ。故に…お前を超えてお前を手にする。お前の持つ全てを収めて…そしてお前という人生を手にする。冗談などではない…本気だとも。」

 

 

彼の射抜く視線に人を揶揄するものは混じっていなかった。つまり彼にとってその発言は真理であり、全てであるという事だ。

 

 

 

「お前に抱いているのは好意などという簡単な物だけではない。全ての感情がお前に向いている。執着、羨望、嫉妬、歓喜、悲哀、好意、口惜しさ…いやこの感情は言葉などには出来ないな。」

 

 

だがとシルバーアッシュは言葉を切り再び言った。

 

 

「世間一般ではこの感情を『愛』と言うのかもしれないな。ああ、それもまたよかろう。確かにこの気持ちは一種の愛だ…」

 

 

低く貫く声がドクターの鼓膜へ伝達する。そしてここまで一言も言わなかったドクターが口を開いた。

 

 

 

「…ならば。」

 

 

そしてシルバーアッシュを押しのけて反対にドクターが壁側に立った。

 

 

 

「私が勝ったら君の全てを貰おう、シルバーアッシュ。いや、エンシオ。」

 

 

「ほう…」

 

 

 

「勝者にこそ与えられる権利というのはそういうものだ。だからこそ…私が勝ったのならば君のこれからの全ての人生を貰う。これからも私が君の人生として君臨する。」

 

 

ドクターはそう啖呵を切った。空気によって言ったかと思われるかもしれないがその声に迷いはない。シルバーアッシュは面白いと笑った。

 

 

 

「それもまた良いな。…お前に一生を縛られるのは楽しそうだ。…ああ、どう転んでも実に心が躍る。」

 

 

 

そして獲物を狙う捕食者の如くの視線で。

 

 

 

「一度しか出来ぬというのは口惜しいものだ…だが、実に楽しみだ、その時が…盟友よ。」

 

 

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