明日方舟 短編集   作:すきゃーいふれあ

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貴方の幸せが一番

オリヴィア・サイレンスには己の命を放り捨ててまで守りたい存在がいた。かつて自分が生み出した自分の罪の象徴であるイフリータが彼女の全てであった。だから彼女の幸せを願い、何より彼女の願いを叶えたかった。…そんなサイレンスではあるが今日、この場に居るのは彼女としては予想外だった。

 

 

 

 

 

「…暑い。」

 

 

照り付ける日差し、蒸し暑さを超える温度、そして何より見渡す限りに集まる人。人、人。サイレンスは人混みが苦手である、というよりも人が集まる場所が苦手である。元々研究者気質な彼女はコミュニケーションが得意なわけではない。最低限の社交性というものを身に着けてこそいるがそれでも消極的だ。そんな彼女が何故シエスタの人だらけのビーチにいるというと…

 

 

 

 

「サイレンス!アイス買ってきたぞ!!」

 

しっぽを振るのが幻視してしまうかのような上機嫌な少女がサイレンスに駆けよって来た。サイレンスの現在の格好は水着に軽く上着を羽織っているだけ。その少女もまた元気そうに水着で砂浜を駆け回っている。

 

 

 

「イフリータ、ごめんね。ありがとう。」

 

 

 

彼女こそがサイレンスの大切な人、イフリータ。普段出不精なサイレンスが外に出て来たのも何より彼女の存在によるものである。

 

 

「おう気にすんなよ。でも早く食わねえとこの暑さだとすぐに溶けちゃうぜ。」

 

 

「そうだね、一緒に食べようイフリータ。」

 

 

 

サイレンスは彼女を日傘の下に招きともにアイスを食べ始めた。イフリータが選んだのはかき氷で美味しそうにしゃくしゃくと食べ進めている、一方サイレンスはオーソドックスにソフトクリームを食べている。

 

 

 

「美味しい?」

 

 

「おう!冷たくて美味いぞ。ほら、サイレンスも食べてみろよ!」

 

 

イフリータはスプーンを差し出し、サイレンスに食べるようにと促した。サイレンスは少し躊躇いを持ったが彼女の他ならぬ望みなので大人しく差し出されたものを食べる。

 

 

 

「…美味しいね。これ、何の味なのかな。」

 

 

「確かぶるー…何だったっけ。まあオレサマとしてはもっと辛いのとか欲しいけどねえしな。これも美味いしまあ良いか。いやでも味何だったかな…」

 

 

イフリータはおおむね満足しているが味を思い出すことに四苦八苦している。彼女は何となくの流れでおすすめを食べたので詳しくは覚えていなかった。

 

 

 

 

「おそらくその味はブルーハワイと推測します。」

 

 

そんな二人の団欒の中で二人ではない声音が混じった。

 

 

 

 

「ん?この声はフィリオプシス?でもどこに居るんだ?見えねえぞ?」

 

 

 

イフリータはきょろきょろと辺りを見回した。サイレンスも何処に居るのかを探している。そんな声は下から聞こえた。

 

 

 

「ここです。私はここにいます。」

 

 

 

そんな声に二人はつられて下を見た。そこにはフィリオプシスが顔だけ残した状態で砂に埋まっていた。

 

 

 

「…!?」

 

 

「ビックリした!?」

 

 

 

そんな彼女の様子に一度サイレンスもイフリータも怯んだ、見知った顔が顔だけ出ているのを見ればそれはもうビビるし怯むだろう。

 

 

 

 

「…フィリオプシス、貴方は何をしているの?」

 

 

サイレンスは努めて冷静な口調を取り戻し彼女に聞いた、この奇行には理由があってのことだろう。

 

 

 

 

「マゼランさんに言われた海の楽しみ方というのを実践します。」

 

 

彼女の答えは実に簡素だった。他人に教わったから実行したというそれだけの単純なこと。だがイフリータもサイレンスもその言葉に頭を捻らせた。

 

 

「こ、これが楽しみ方…?楽しいのかこれ…いや、でもマゼラン的には楽しいのか…?」

 

 

マゼランはイフリータとも仲のいいライン生命の外部観測員である、同じく出向でロドスに滞在しているため今も彼女たちは仲が良いがイフリータばかりもこの時は彼女の気持ちが読めなかった。

 

 

 

「このようにして砂に埋まっていると波の音、人々の喧騒、遠くから聞こえる音楽。様々な物が聞こえてどこでどんなものが動いているのかなどという推測が立てられて見てもないものをまるで見たかのように楽しめます。」

 

 

「まさかの好評だったか。」

 

 

だがフィリオプシスにはそれが好評だったらしくイフリータもついいつもの尊大な口調を忘れてツッコミを入れてしまった。

 

 

 

「まあ貴方が楽しければ…楽しい…?…ばいいと思うよ。私たちに貴方の趣向を否定することはできないから。」

 

 

 

「はい、フィリオプシスは現状を楽しんでいます。余計なご心配をおかけしましたが、心配には及びません。」

 

 

ツッコミどころしかないが本人が満足してるならまあいいかとイフリータは無理やり納得した。

 

 

 

そんなフィリオプシスが砂に埋まったまま眠り始めたのでとりあえずサイレンスは他のことを考えることにした。

 

 

 

 

「…暑いね。」

 

 

アイスは既に食べきってしまった。彼女は水分を摂取しながらそんなことを漏らした。現在のシエスタの気温は三十六度。猛暑日とも呼べるので外に出ているだけで体力を使ってしまう。それにサイレンスは己の体力に自信がある方ではない。人並み程度にはあると言いたいがどうしても室内に居る時間が多いため頑丈ではない。

 

 

 

「サイレンス、やっぱ無理矢理連れてきちまったか?やっぱ帰るか?オレサマ、ホテルまでサイレンス運ぶぞ。」

 

 

イフリータはオロオロとしてサイレンスの心配をしている。イフリータは彼女と共に海に来れたのは嬉しいが彼女の無理をさせたくはないと心より願っているため自身の望みの優先度はかなり下がる。

 

 

 

「…大丈夫。少なくとも私は耐えれるから。」

 

 

しかしサイレンスも自身よりイフリータのことを優先したいという強い望みがあるため譲りはしなかった。

 

 

「そ、それならいいけどよ無理しないでくれよ?本当にさ…」

 

 

イフリータはかなり心配そうな表情をしていた。そんな彼女を安心づけるようにイフリータの頭を撫でながらサイレンスは立ち上がった。

 

 

 

 

「飲み物が切れたから買ってくるよ。イフリータはなにが飲みたい?」

 

 

「いやオレサマが行く。オレサマなら暑いのも十分耐えれるしわざわざサイレンスが行く必要なんて…」

 

 

「いいから。貴方はここでフィリオプシスを見ておいて。万が一にでも何か盗られることがあったらことがあると困るから。」

 

 

「…む…まあ分かったよ。けれどあんま遠くいかないでくれよ。」

 

 

イフリータはかなり不服そうな顔をしていたがサイレンスの頼みのため渋々承知した。サイレンスは立ち上がりイフリータの希望の飲み物を聞くとそのまま安定した足どりで歩いて行った。

 

 

 

 

少し離れた売店で彼女は自身の欲しいものとイフリータの望みの飲み物を買うとそのまま帰りの道を進んでいたのだが。

 

 

 

「…っ…想像以上に暑い。」

 

 

日差しが焦がすように彼女に照り付けてくる。彼女の足取りが少しふらふらとしたものになってきた。更にタイミングが悪いことに。

 

 

 

「あっれーそこの美人さん大丈夫ー?」

 

 

明らかに柄の悪そうな男が数人、サイレンスに目を付けたのだ、サイレンスは地味ではあるが彼女もかなり美人だ。そんな美人が一人でいたら軟派な男には見逃す手はなかった。

 

 

 

「連れを待たせているから、どいて。」

 

 

サイレンスはそんな男たちなど歯牙にもかけず通り過ぎようとした。

 

 

 

「まぁまぁそんなつれないこと言わないで、俺達とそこの岩場でも休憩しようよ。」

 

 

サイレンスの肩に男の手がかけられた。明らかにそういう目的なのは語るまでもないだろう。

 

 

 

「放して。」

 

 

「良いから来い!!」

 

 

どこまでもチンピラな男はサイレンスの腕を掴み引っ張って行こうとしたがそんな腕が更に別に腕に遮られた。

 

 

 

「…いだだだだだだだ!!」

 

 

 

あまりの強い力に軟派男は悶絶しサイレンスから腕を放した。

 

 

 

「何するんだテメェ!!」

 

 

チンピラは腕をつかんだ本人に食って掛かったがすぐに怯んだ。

 

 

 

「彼女は私の連れだ。…失せろ。」

 

 

そのあまりにも鋭い眼光に怯み失禁しそうな顔でお仲間たちと共に逃げていった、その人物とは…

 

 

「サリア…。」

 

 

 

サイレンスもかなりかつては深い関係だった相手。その瞬間にサイレンスの体が倒れかけた。

 

 

「おっと…」

 

 

サイレンスが倒れかけたのをサリアは支えた。

 

 

 

「昔からサイレンス、お前は暑いのに弱いんだ。無理をするな。」

 

 

「…どうして貴女がここに?」

 

 

 

現在サイレンスとサリアはそれはもう不仲である。だが同じロドスに属している以上顔を合わせる機会は出来てしまう。

 

 

 

「誘われた。だが私のことは良い…とりあえずイフリータの所まで送るぞ。」

 

 

 

「…大丈夫、少し立ちくらみをしただけだから。」

 

 

サイレンスは自分の足で立ち、背負われるのを拒んだ。しかしふらふらとなったためサリアはため息を吐いた。

 

 

 

「それでもまだ行くか?」

 

 

「…お願い。」

 

 

サイレンスも無理と判断したのか大人しくサリアに背負われることを選んだ。

 

 

 

そしてサイレンスが背負われてイフリータの元へと戻った。

 

 

 

「…あれ、サリア?…背中にいるのはサイレンスか!?大丈夫か!?」

 

 

 

フィリオプシス周りで遊んでいたイフリータはサイレンスの様子を心配している。サリアはサイレンスを日傘の下に寝かしてそのままそそくさと立ち去ろうとした。

 

 

 

「ではな、あまり無理はするなサイレンス。」

 

 

 

「待って。」

 

 

サイレンスは声だけでサリアを呼び止めた。

 

 

 

「…イフリータは貴方といることを望んでいる。今日だけは彼女といてあげて。」

 

 

サイレンスを心配そうに見ていたイフリータはサリアの方に振り向いた。その瞳はかなり輝いているように見えた。

 

 

 

「…しかし…」

 

 

「良いから…今日だけは私も許す。…あの子の幸せのためにも。」

 

 

イフリータの幸せという言葉を聞きサリアはそれはもう強く出れなかった。なんだかんだでイフリータの幸せもサリアは願っているという証拠だった。

 

 

 

「…サリアも居てくれるのか!!」

 

 

凄く期待する視線でイフリータは見ている。サリアは困ったように頭を少し掻き、戻った。

 

 

 

「…イフリータ、何がしたい?」

 

 

 

「んー…そうだな…もう少し涼しくなってから…サイレンスが楽になってからでいい。バーベキューがしてぇ!!」

 

 

道具もドクターから借りたんだぜと笑う彼女にサイレンスとサリアは顔を見合わせて苦笑した。

 

 

 

「ああ、良いぞ。お前がどれほど上手く焼けるか見せてもらおう。」

 

 

「焦がしたら宿題を増やすよ。」

 

 

 

「ええっ!?そりゃねえだろサイレンス!!」

 

 

 

日傘を囲み彼女たちは談笑する、この時ばかりはあの時に戻ったように。そんな彼女たちを見ながら少し離れたところでフィリオプシスは一人呟いた。

 

 

 

「これにて一件落着です。ちゃんちゃん。」

 

 

 

そんな彼女の手元には端末がありサリアの呼び出し記録が残っていたという…

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