明日方舟 短編集   作:すきゃーいふれあ

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ホシスワ。


貴女の腹部で。

龍門近衛局特別督察隊隊長、チェンが緊急搬送された。その報せが近衛局の面々に届いたのは直ぐだった。彼らのそれからの行動は非常に迅速で、隊長不在であっても完璧に仕事をこなして見せた…一部を除いて。

 

 

 

 

「チェン!!」

 

 

緊急治療室の前で叫ぶ愛らしい容姿の女性、彼女は龍門近衛局、上級警視。スワイヤーだった。

 

 

 

「チェンは無事なの!?」

 

 

今にも突っ込みそうな勢いの彼女を食い止めながら医療オペレーターが必死に説得を試みる。

 

 

「現在、心拍は安定していますが如何せん出血が多いためあまりにも予断は許されない状態です、どうか落ち着ていてくださいスワイヤー警視!」

 

 

スワイヤーは優秀な捜査員である。今まで多くの犯罪者を検挙してきて、龍門の犯罪率減少に貢献した来た。されど彼女に応急手当の心得はあれど本格的な医療知識の類の物はなかった。

 

 

 

「放しなさい、あのバカ女に一言言ってやらなき…」

 

 

そんなスワイヤーの肩に手がかけられた。彼女を諫めるかのように。

 

 

「…そこまででいいでしょう。スワイヤー氏。彼らはプロです。…隊長の事は彼らに任せましょう。」

 

 

「…ホシグマ。」

 

スワイヤーよりニ十センチほど大きな体躯。女性においては長身にあたる彼女が、同じく龍門近衛局のエリート、ホシグマだった。彼女は取り乱すスワイヤーとは打って変わって冷静に状況を見ていた。

 

 

 

「申し訳ありません。身内がご迷惑をおかけしました。…それから、隊長の事をよろしくお願いいたします。」

 

 

その恐れられる見た目とは裏腹に非常に丁寧に彼女は頭を下げた。スワイヤーも彼女に諫められたことで多少は落ち着いたのか押し入るような真似はせずその場から何処かへ行ってしまった。

 

 

 

「…これだから、『お嬢様』は…」

 

 

ホシグマの小さな呟きは誰にも届かなかった。

 

 

場所が変わり廊下。椅子が併設されている場でスワイヤーはあちらこちらをウロウロウロウロと忙しなく歩き回っていた。一方ホシグマは誰かに通信をかけているようだった。

 

 

「はい。チェン隊長は一命は取り留めました。ですが今は油断できない状況、とのことです。しかしロドスの医者たちは優秀ですのであまりそこの心配はしておりません。はい、ではまた後程連絡させて頂きます。失礼します…ウェイ総督。」

 

 

そして通信を切ったホシグマは五メートルほどをウロウロウロウロしているスワイヤーに漸く声をかけた。

 

 

「ミス・スワイヤー。隊長の事が心配なのは分かります、が今のあなたはあまりに落ち着きがありません。もう少し冷静にお願いします。」

 

 

「ち、違うわよ…あたしはアイツの心配なんかよりアイツがいないときに引継ぎだとかを考えていただけで…」

 

 

「どちらにせよ…今の貴女は冷静さを欠いています。小官が咎めることでもありませんが近衛局の看板を背負ってる身なのです。」

 

 

ホシグマは椅子から立ち上がりうろつくスワイヤーの元に迫った。そんなホシグマに威圧感を感じたのかスワイヤーはあっという間に壁際に追い込まれた。追い詰められた鼠のようになってしまったスワイヤーはおずおずとホシグマを見上げた。

 

 

「現在チェン隊長にメスを執ってるのはかつて神の腕を持つと呼ばれた外科医です。間違いなく隊長は助かりますよ。ミス・スワイヤーも目覚めた隊長にそのような姿を見ればまた笑われてしまいますよ。」

 

 

「…む、そ、それは腹ただしいわね…アイツの思い通りになったみたいで…」

 

 

「不思議なものですよ、ミス・スワイヤーは。いつもあれほど隊長と喧嘩をしているかと思えば今は全力で心配をしているのですからね。」

 

 

「し、心配なんてしてないと言ってるでしょ!ただアイツが欠けたら今それだけで近衛局は混乱するしそれの埋め合わせにあたしは必死になるっていうか兎に角今アイツがかけた方が損失は大きいという事を考慮してるだけであって…」

 

 

ホシグマはドンと、スワイヤー横の壁に手を置き、所謂壁ドンの状態になった。

 

 

「妬ましいですね。」

 

 

「ほ、ホシグマ…?」

 

 

「ミス・スワイヤーの視線を独占する隊長がこの時ばかりは小官は妬ましいですね。」

 

 

更に密着する、スワイヤーの首元とホシグマの腹部がくっつく。

 

 

「貴方の視線を独占したいと、こんな状況でも思ってしまう自分が惨めに感じられます。」

 

 

そこには二人以外の誰もいない。壁際で至近距離でくっついている二人以外何者も存在しない空間だった。

 

 

 

「自分自身の醜さに死にたくなりますよ。」

 

 

「ホシグマ…」

 

 

「今は小官が心配すべきは隊長のことなのでしょうに、それを上回り嫉妬が湧いてくる。こんな小官は…ミス・スワイヤーは嫌いでしょうね。」

 

 

 

暫く沈黙が流れる。どちらも何も言わない時間が少しだけ続きやがて一言だけスワイヤーが呟いた。

 

 

 

「き、嫌いじゃ…ないわ…よ。」

 

 

 

顔を真っ赤にしたスワイヤーはその顔を見られたくないとホシグマの腹部に顔を思い切りうずめた。

 

 

 

 

 

 

それから手術が成功したという知らせを持ってきた医療オペレーターに見られるのは5分後の出来事であった。

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