明日方舟 短編集   作:すきゃーいふれあ

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約束したからね

騎馬警官グラニはヴィクトリア出身で今はロドスとの契約でオペレーターとして雇われている身だ。

 

彼女は明るく元気が一杯というのが最初に出会った時多くの人物が感じた印象だ。事実彼女は天真爛漫で誰に対しても分け隔てなく接する。その評価は間違えではないのだろう。だがそれでも彼女と少しでも付き合いを持つことがあると分かることもある。彼女はとても責任感の強い女性であり、同時に勇敢な女性でもあるという事だ。

 

 

 

「んー…いい空気だな、ホントに。」

 

 

そしてその話題の女性、グラニは現在ロドスから遠く離れた村。カジミエ―シュに位置する村で「滴水村」と呼ばれていた。少々前まではこの辺境の村に大量の賞金稼ぎが訪れていたがそれはもう昔の話…

 

 

 

「さってと…キャロルは元気にしてるかなぁ。」

 

 

グラニは以前この村にまつわる騒動に関わっていた経緯を持つ。そしてその経緯でこの村の村長である少女、キャロルと親交を持ち、解決した後、彼女がロドスに戻った後もその親交は現在まで続いていた。

 

 

 

「村の修繕もすっかり済んでるね。ボブおじさんたちが手伝ってくれたって言うのも大きいのかもね。」

 

 

ビッグ・ボブというレユニオンムーブメントの元幹部もかつてこの村での騒動で関わり、一度は敵対したが後に和解して今彼らはクルビアに根を下ろして自給自足の生活をしているという。

 

 

「しかし…結構久しぶりだね。もうあの騒動から一年も経ったのかぁ。」

 

 

滴水村の財宝の騒動から一年。一年前は村を横暴の限りを尽くした賞金稼ぎも今は影も形もなかった。何処にでも溢れる平穏な村の光景がそこにあった。

 

 

 

「スカジも来ればよかったになぁ。」

 

 

オペレータースカジ。バウンティハンターとしてロドスで雇用されておりその実力は圧倒的の一言。そんな彼女もまたこの一年前の事件に関わっていた。そして村を再訪するにあたってグラニは彼女を誘ったが…

 

 

「そう、興味ないわ。」

 

の一言にバッサリと斬り捨てられてしまった。

 

 

「思い出を懐かしむのは別にいいとは思うし私はそれを止めようとは思わない。でも私はそれをする必要がない。だから強制でもない限り行くつもりはないわ。それに私には私にやるべきことがあるから。」

 

 

と更に追い打ちの一言でグラニは完全にバッサリと断られた。

 

 

「まぁしょうがないよね…スカジも今やドクターにお熱だもんねぇ。」

 

 

ドクター。ロドスに所属する者にとってその言葉が指す対象は一人。最高執行責任者、かつての天才神経科医、源石研究の第一人者、各方面へ精通する天才、そして戦場においては無敗の指揮官…。謎に溢れたドクターという男がロドスを動かす人物だった。そして現在スカジはそのドクターに対して付いて回っている。護衛をしているというのだが周囲から見れば彼女がドクターに執着しているのは丸わかりだろう。

 

 

 

 

「まぁいないことに文句を言ってもしょうがない!あたしもあたしでやることやろう。」

 

 

そして彼女が再びこの村を訪れた理由。一年前の騒動以来、復興を記念した村を挙げての祭りを開催するという事で彼女が村長キャロルの直々の賓客として招かれていた、グラニはその招待に二つ返事で回答し、今この日に至る。

 

 

「さて、キャロルは…」

 

 

辺境の村は総出をかけた祭りという事で近くの町や遠くの所からも今日は多くの人間が訪れていた。村長である彼女も今日は大忙しなのだろう。

 

 

 

村を歩いて行くグラニ、一年前はなかった活気に溢れており今はこの復興の象徴としてかつての財宝の話が出回っているという話だ。

 

 

 

「あ、いた…」

 

 

グラニの視線の先には何やら複数人の村人に指示を出しているらしい少女の姿、村長であるキャロルがいた。

 

 

 

「おーい!」

 

 

指示出しを終えた瞬間を見て彼女はぶんぶんと手を振った。そんなグラニにキャロルも気が付いたのか、控えめに手を振って応えた。

 

 

 

「やっほ、キャロル。久しぶりだね。」

 

 

「グラニ…良かった、貴方が来てくれて。貴方が忙しくて無理があるんじゃないかって思ってた…」

 

 

「まあ忙しいのは否定できないけれどロドスだって休暇が出ないほど黒い組織ではないよ。それにあたしの上司がそこらへんは融通利かせてくれるしね。」

 

 

「…良かった。貴方が来てくれなけばこの祭りの意味がなくて…」

 

 

「そんなことないよ、あたしだけじゃない。この村があってこその祭りでしょ?勿論、招待してもらったのは有難いけれどね!」

 

 

二ッと彼女は天真爛漫な笑みを浮かべた。そんな彼女につられてキャロルもまた微笑んだ…が、すぐに彼女が一人ということに気が付いた。

 

 

「スカジさんは…」

 

 

「いないよ、残念だけれど…」

 

 

「そう…ええ、何となく分かっていたわ。あの人は応じてくれないって…」

 

 

紆余曲折あったが彼女もこの村の恩人であることには違いない。だからキャロルはその意も込めて招待したが彼女からバッサリと蹴られて流石に少し悲しそうにしていた。

 

 

「ご、ごめんね…スカジも悪気があったわけじゃないんだ…」

 

 

「良いよ。でもその分グラニには楽しんでいった貰うよ。」

 

 

「それはもちろん、呼ばれたからには全力で楽しんじゃうよ!」

 

 

 

それからキャロルは予定を開けてグラニを案内した。多くの屋台や出店が出ていて彼らの周りには更に多くの観光客が押し寄せている。かつての賞金稼ぎを思い出すがそんな粗暴さもなく礼儀正しくお金をちゃんと払う者たちばかりだ。

 

 

「一年前の騒動以降、この村からある特産品を作ることにしたんだ。」

 

 

「へぇー、それってどんなもの?」

 

 

キャロルは懐に閉まっていた物を取り出してグラニに見せた。

 

 

「記念硬貨かな、多分。」

 

 

純金で作られたそれは恐らく売ったとしてもかなりの値打ちが付く物だろう。あの財宝のいくつかを元に作られているのだろう。そのコインの表面には騎馬、裏面には牙を剥く鯱が描かれていた。

 

 

「これって…」

 

 

「そう、グラニとスカジさんの事。村を救ってくれた恩人に対する何かを残して置かないかという話になって、こういう形になったんだ。」

 

 

「へぇー、あたしがコインに刻まれるっていうのもなんか気恥ずかしいけど…カッコいいね!」

 

 

「気に入ってくれてありがとう…」

 

 

ホッと胸を撫でおろしたのかキャロルは安心した様子を見せた。当人の不興を買ってしまったのかと気が気ではなかったようだ。

 

 

「ううん、あたしは勝手にやったとか全然気にしないよ。それにこんなカッコいいコインにしてくれたんだからね、むしろ感謝しなきゃ!」

 

 

一方グラニはまたニッと微笑んだ。彼女はおおらかなためそんな細かいことは気にしないのだ。そしてそれからまた歩き出して出店で食べ歩きをしているとキャロルの元に不穏な空気を漂わせた村人が来た。

 

 

 

「村長、すぐにお耳に入れておきたいことが…」

 

 

「…何でしょうか。」

 

 

「村の外に到底観光客とは思えないような柄の悪い男たちがいて…」

 

 

「…案内してください。」

 

 

不穏な空気が伝染した。このままではまたあの時の繰り返しになってしまうと判断したのかキャロルはすぐに行動を開始した。

 

 

「待って、キャロル。あたしも連れてって。」

 

 

「で、でもグラニ…貴方は今日はお客さんで…」

 

 

「客だとかそうじゃないとか関係ないよ。今日ここに居る時点であたしも当事者なんだ。…だから、お願い。」

 

 

「…分かった。でも無茶はしないで。」

 

 

渋々といった様子でキャロルはグラニの提案を受け入れた。そして村の入口へと足を進めた。

 

 

 

入り口には報告通りにまともには思えない柄の悪い連中がいた。

 

 

 

「…当村に何か御用でしょうか。」

 

 

 

「へぇ本当に噂通りこんなガキが村長なんだな。」

 

 

しかし男たちのリーダーと思える男は答えなかった、むしろ嘗め回すような視線を送ってる。そして一言だけ告げた。

 

 

 

「俺たちゃ賞金稼ぎとは名ばかりの盗賊だ…この村の全部、頂くぜ。」

 

 

 

そして瞬間、男は獲物であるナイフがキャロルに向けて刺そうとした…が間に入った長槍に受け止められた。

 

 

 

「悪いけれどそうはさせないよ!」

 

 

警戒していたグラニが彼女への攻撃を防いだ、そしてキャロルは一歩下がった。リーダーを蹴り飛ばし、グラニは槍を構えた。

 

 

「今日は大切な日なんだから…村には手を出させない!」

 

 

 

「なんだこのチビ…おいお前ら、全力でやれ!」

 

 

 

そして一味の男たちがグラニに襲い掛かる。グラニは槍で剣を受け止め、足払いをして転ばせて男たちを巻き込む。そしてその隙に槍の側面で男の腹を叩き衝撃を与え気絶させる。更に突っ込んできた相手と鍔迫り合いのような形になりその隙に他の男たちに横を抜けられて行ってしまった。

 

 

 

「しまっーー」

 

 

「よそ見をしてる場合か馬鹿め!!」

 

 

思い切り弾かれ、グラニは切られそうになる…

 

 

 

しかしそこで男は吹き飛ばされた。わき腹からフルスイングを受けて男は吹っ飛んだ。そして、グラニの横を抜けていった男たちもいつの間にか地面に転がされていた。

 

 

 

「…相変わらず詰めが甘いのね。」

 

 

 

そしてそれをやったと思われる張本人が声を上げた。

 

 

「…スカジ!!」

 

 

長髪を持った帽子を被った女性…件のオペレータースカジがそこにはいた。

 

 

 

「助かったよ…でもどうしてここに?」

 

 

「任務よ。」

 

 

「に、任務…。」

 

 

「ええ、そう任務。ドクターから直接言われたわ。『休暇を楽しんで来い』って。だからこれもある意味の任務でしょう?」

 

 

「任務…なのかなぁ…?ってそんなこと言ってる場合じゃなくて…」

 

 

「ええ、分かっているわ。まずはこの無粋な連中をさっさと片付けましょう。息の合わせ方はもう分かってるわよね。」

 

 

「勿論、あたしだって一年間何もしてこなかったわけじゃないよ!!」

 

 

 

 

——————それからはもう語るまでもないだろう。荒くれ者達は村に入ることも叶わず一掃され、めでたしめでたしということだ。(ワルファリン)

 

 

 

 

 

 

 

 

「…グラニ、スカジさん…本当にありがとうございました。」

 

 

キャロルはまた改めて彼女たちに頭を下げた。あの後賞金稼ぎたちは命が惜しくなり次々に撤退していき今は問題なく祭りが行われている。

 

 

 

「良いって。このお祭りを荒らされるのはあたしも嫌だからさ。せっかくのお祭りなのに略奪何てあったら許せないよ。」

 

 

「私も…別にただ障害を排除しただけだから。」

 

 

 

スカジは相も変わらず興味もなさげに呟いていた。

 

 

 

「その、スカジさん…来ていただけないかと思っていました。」

 

 

「もともと来るつもりは無かったわ。ただあの人に勧められたから…あとは少し気になっていたわ。」

 

 

「…気になってること?それって何、スカジ。」

 

 

「…私が一年前に壊したところ。気が立っていたとはいえ申し訳ないことをしたもの。」

 

 

キャロルは驚いた、一年前のあの時はあまりにも話を聞かなかったため怖い人物かと思っていたがその実彼女は不器用でもありながら優しかった。

 

 

 

「修復は完全に済んでいるので大丈夫ですよ…それよりも二人とも。」

 

 

キャロルは二人の視線を浴びた。

 

 

「折角来たのだから楽しんでいった。貴方達二人はこの村の恩人だから精一杯歓待させてもらうわ。」

 

 

 

グラニとスカジは顔を見合わせ、グラニは天真爛漫な笑みで、スカジはしょうがないわねという風にうなずいた。

 

 

 

「勿論、約束だからね!!」

 

 

 

「そうね…たまにはこういうのも悪くないわ。」

 

 

 

 

そしてまたロドスのファイルに一枚の写真が追加された。

 

 

 

 

 

 

「この日に乾杯!」という文字と共に樽ごとお酒を飲もうとするスカジとそれを慌てて止めるグラニ、そして微笑んでいる村長…そんな何てことのない一枚だった。

 

 

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