明日方舟 短編集   作:すきゃーいふれあ

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銀博。

過去は完全に捏造なので注意。


今度は私が言おう

[その男と初めて会った時、抱いた感慨は綺麗、だった。

 

その男は特段顔立ちに優れていたわけじゃない。むしろ顔をフードを多い、素顔を見せずその目だけを見せていた。だが初めてその目を見た時、私は確かにキレイと感じた。その瞳に確かに引き込まれた。]

 

 

 

「やぁ、済まない。隣を座らせてもらうよ。」

 

 

学び舎というものは基本的に食堂などを併設しているのは当然だ。だからこうして食堂を利用していればその隣に座る人がいるというのも分かりきっていることだ。だから隣に座ることは大して珍しいことでもない。

 

 

 

「……」

 

 

「ん?ああ…突然こんなフードを深くかぶった不審者が隣良いかって聞かれたらそりゃあ困るか。でも安心してくれ。ここの学生だ。このフードは何というか、ただの日光避けに過ぎないからそう気にしないでくれ。」

 

 

先客だった青年のその隣に座りながらその男は饒舌に語った。確かに彼の風貌は一見して異質のため人の目を引くだろう。だがそれよりも彼は風貌だけではなくその名が知れ渡っていた。

 

 

 

「…おや、こちらの顔に何かついてるかな?」

 

 

「…いいや。」

 

 

「ならオーケー。隣、座らせてもらうよ。」

 

 

何故ならこのフードを被っている男こそが既に大成したと称される男。…ヴィクトリアのこの学び舎において誰よりも注目されている男だったからである。

 

 

 

「そんな歯を食いしばるような表情ばかりしてると折角のカッコいい顔が台無しだぞ。」

 

 

「は…?」

 

 

「笑顔とは言わないけれどそんな目で見られ続けるのは慣れてないからすこーし変えてくれると有難いんだが…」

 

 

「え…?あ、ご、ごめんなさい…」

 

 

銀髪の青年はぶしつけな視線を送り続けていたことを悔いた。だがフードの彼は深く気にしていたわけでもなく。

 

 

「視線というのはその人となりを見極めるために向けられるものだと個人的には推測する。つまり視線で相手を見極めているわけで今の君は私を見極めようとしていたのかな。ああ、でも私はそんな評価にも値しないし見るだけ無駄なんじゃないかなと思うんだけれどそれはそれで何というか落ち込むしやっぱり評価されないのは悲しいというは、でもやっぱり目立つのは…うーん。」

 

 

そのまま彼は一人で百面相をし始めた。顔はフードで隠れて見えなかったがその顔の表情は恐らくコロコロ変わっていただろうと銀髪の青年はその声の様子から予想した。急に饒舌に語り始めたかと思えば自虐をしだし、落ち込み始めた。そんな彼の様が面白かったのか、銀髪の青年は少しだけ表情を緩めた。

 

 

「ああ、やっといい表情になった。」

 

 

「…え?」

 

 

そんな彼の表情の変化にフードの彼はしっかりと気づき良かったと安堵したように息を吐いていた。

 

 

「そんな浮かない顔はするもんじゃないよ。やはり楽しくいないと…特に笑顔でね。」

 

 

「…?」

 

 

その言葉の意味を彼はまだ理解することが出来なかった。しかしフードの彼はそんなこともどうでもよいのか勝手に話題を作り、勝手に話題を変えていったのだった。

 

 

 

「_____だ、君の名前は?」

 

 

 

「…シルバーアッシュ。」

 

 

 

「よろしく、シルバーアッシュ。」

 

 

 

それがこの天才で何よりもの変人と、彼「エンシオディス・シルバーアッシュ」との出会いだった。

 

 

 

 

エンシオが彼と親交を持ってから幾つかすぐに分かったことがあった。

 

 

 

「将来の進むべき道?そうだね、あまり深く考えてないけれど多分おそらく医者になると思うよ。」

 

 

彼はこの学び舎において何よりも、誰よりも天才であった。教師でも彼に頭脳で勝ることはなく彼の頭脳はそれだけで戦略的な価値があった。

 

 

そんな彼の注目の的であるのは困難な話題であった。

 

 

 

「しかし…出来るのか。鉱石病の解決など…」

 

 

「出来る出来ないの話ではないさ。やるんだよ。」

 

 

彼は確信めいた表情で語る。彼にとって不可能で困難な課題も良いハンデにしかならない、エンシオは確信した。この男ならば鉱石病に対して一手を投じることが出来ると。彼は学生の身でありながら既に研究者として名を挙げており、その分野も鉱石病だけでなく天災、源石と多岐に渡る。

 

 

「確かに…お前ならば出来るかもしれんな。」

 

 

「そういう君は?エンシオ。君は将来に進むべき道を考えてるのかい?」

 

 

エンシオは少々考え込む動作をした。そして神妙な面持ちで答えた。

 

 

 

「…家を。再興したいと思っている。」

 

 

だが彼にはどこか諦めが含まれておりその夢を自分で叶うわけがないと否定しているようにも見えた。

 

 

「エンシオ。」

 

 

不安げなエンシオに対して彼は手招きをするように誘った。怪訝な顔をしつつもエンシオが招かれた先にはチェスボードが置いてあった。

 

 

「チェスの経験は?」

 

 

「…一応得意の分野だ。」

 

 

「それは好都合。まずは一手打たないか?」

 

 

どういうつもりだとエンシオは訝しんだがそんなことは気にするなと彼はそのままゲームを始めてしまった。始めた以上は仕方ないとエンシオはチェスを始めた。しかし結果は…

 

 

 

「負けた…」

 

 

「チェックメイト、だね。」

 

 

結果はエンシオの大敗、つまりフードのこの男の圧勝だった。エンシオも並の相手では相手にならないほどの読み合いが出来るが彼はその何倍もの上を言った。間違いなく時代が時代ならば天才プレイヤーとして名を馳せただろう。だがそんなことよりもエンシオは急に何故彼がチェスを誘って来たかが分からなかった。

 

 

 

「何故急にチェスを?」

 

 

「まあそうだね。君が夢を語っておきながら腑抜けてるからそれに道を示そうと思ってね。」

 

 

「…道?」

 

その偉そうな物言いに少しムッと来たエンシオだが目の前の男は自分の何倍もの頭が回る男で、間違いなく有効な情報を引き出せるため彼は大人しく言葉の続きを促した。

 

 

「究極に敷き詰めれば世の中の大抵のことはチェスと同じだ。」

 

 

そして彼は語り始める。

 

 

 

「勿論何から何まで計算づくとはいかないが基本的に私たちは盤面の上で動かされているだけの存在に過ぎない。誰かの意図に踊らされて、自分で選択したつもりでもそれは誰かが計算した結果だったということもある。」

 

 

エンシオには心当たりがあった。むしろ心当たりしかなかった。

 

 

「しかしチェスを行われるという事は当然プレイヤーがいる。だから…そのプレイヤーになるんだ。」

 

 

「プレイヤー…」

 

 

「そう。手駒を増やし、勢力を広げる。そして踊らしていると思っていたプレイヤー達からその席を奪い、こちらがプレイヤーになるんだ。」

 

 

彼はエンシオに向き合い、言った。

 

 

「夢だけでは足りないかもしれない。だからこれは…野望だよ。誰しも野心を秘めている。だからそれに振り回されるのではなく、野心を利用するんだ。野心を制御できず身を滅ぼした人間など有史以前にたくさん居た。それこそ数えきれないほどにね。だけれど…野心を制御できればそれはもう秘めた物じゃない。『野望』だ。」

 

 

 

「…野望。…野望を持てば…」

 

 

「そうだよエンシオ、野望を持て。執念を持て。まだ何も始めてないのに諦めるのはどうしようもない弱者の言う事だ。君に弱者という言葉は似合わないし、何よりも弱者で終わるつもりは無いだろう?」

 

 

「…当然だ。俺は…妹たちのためにもここで…ここでは終われない。」

 

 

「うんうん。良い目だ。浮かない顔よりもやはりそちらの方がいいよ。生き生きとしている人を見るのは好きだしね。」

 

 

 

そしてフードは満足そうにうなずいた。覇気が宿ったエンシオに対して。

 

 

 

 

それからしばらくの事だった。フードの男が博士号を得て、学舎を飛び級卒業したという報せを聞いたのは。

 

 

たった2か月の付き合いだった。だがそれでもエンシオの心にはその出来事は全て記憶された。否、忘れることが出来るはずもなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その顔をずっと覚えていた。顔は見えないけれども彼の表情は分かった。あの時から彼の瞳は何も変わっていなかった。誰よりも優れていたというのに誰よりも子供のように瞳を輝かせていたその瞳は…何も変わっていなかった。

 

 

記憶喪失など些細な問題に過ぎなかった。

 

 

 

「イェラグのカランド貿易の社長。シルバーアッシュだ…本日よりこのロドスで世話になる。ドクターというのは貴方の事だな。」

 

 

そして彼は似合わずに頭を下げて来た。怪訝で、世界に対しての警戒心を抱いているその顔。その顔は何時かの少年の顔が重なった。

 

 

だが…

 

 

「似合わないな…」

 

 

「…え?」

 

 

 

「そんな浮かない顔をするな…私の前では楽しそうにしていてくれ、我が盟友よ。」

 

 

 

 

 

今度は私が言おう。あの時、言われたように。

 

 

 

「笑顔でいてくれ。」

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