明日方舟 短編集   作:すきゃーいふれあ

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His answer

ドクターの仕事は本人が自認するよりもロドス・アイランド全体へ影響する。仕事のローテーション、貿易の決定、製造所での製品決定を含め、作戦指揮、事後処理、書類その他、山のようにある仕事を片付けている。

 

ある時はチョコレートをほおばり、またある時は如何にも怪しげな薬を飲み仕事する。ドクターの仕事を中心にロドスは回り、動いていた。そんな大役をになっているドクターはよっぽどの体調不良でもない限り休むことが許されないのでいつも命を燃やしながら仕事にいそしんでいた。

 

 

そんなある日、激務を終えて理性が燃え尽きたドクターが机に突っ伏したままの時にドクターはふと、こう独り言を漏らした。

 

 

「甘いもの…甘いものが食べたい…」

 

頭を使った時は脳の活性化のために糖分を取るというのは良くある話である。実際ドクターも塩味のチョコという糖分と塩分を同時に取れる画期的なものだが味が壊滅的なチョコを頬張りながら仕事に勤しんでいるときもある。だが今夜はチョコの在庫を切らし、購買にも置いてなかったためドクターは怪しい薬を飲んで仕事をこなした。どちらにせよ仕事は終わったのでもう甘いものを取る必要はなかったがドクターの酷使された脳は糖分を求めた。

 

そんなドクターの呟きを秘書を務めていた彼は律儀に拾った。

 

 

「ドクター。この後、少し付き合っていただけませんか?」

 

 

「アドナキエル…?」

 

 

コードネームアドナキエル。いつも笑顔のサンクタ族の青年。そんな彼の柔和な顔がドクターの目の前にあった。

 

 

「多分、ドクターの要望にお応えできると思いますよ。」

 

 

「…甘いもの?」

 

 

「甘いものです。」

 

 

コクリと彼は笑顔で頷いた。

 

 

「まだ30種もレパートリーはありませんが幾つか習得したんで味見、してくれませんか?」

 

 

ラテラーノ人はスイーツが上手い。そういうお国柄なのかは不明だが兎に角ハズレがない。ドクターはそれを知っていたため目の前で釣り下げられた極上の餌に食いつかない選択肢はなかった。

 

 

 

「是非!!」

 

 

飛び跳ねるように顔を上げながら勢いよく返答した。

 

 

 

 

 

出されたスイーツはシュークリームだった。

 

 

 

「甘い…美味しい…」

 

 

シュークリームの中のひんやりとした生クリームの甘みがドクターの酷使された脳内に染み渡った。ドクターの顔は甘く蕩け切っておりそんなドクターの顔を見ながらアドナキエルはニコニコと微笑んでいた。

 

 

「何か飲み物を淹れますね。」

 

 

彼はごく自然にエプロンを付けていたがむしろ違和感なく、というよりもかなり似合っているためドクターは気が付かなかった。今のドクターは理性がゼロのため細かいことは気が付かない。

 

 

 

「今日もお疲れ様でした。はい、冷えたお茶です。」

 

 

アドナキエルはアイスティーが入ったカップを置きドクターはありがとうとお礼をしてシュークリームを食べながらアイスティーも堪能していた。

 

 

 

「はぁ…美味しい…」

 

 

「気に入ってくれたみたいで嬉しいです。」

 

ドクターはその味がすっかりと気に入っているのか先ほどからしきりに美味しいと漏らしていた。アドナキエルはそんなドクターを見ていても柔和な笑みを崩さなかった。

 

 

 

「しかしラテラーノの人は本当にスイーツが上手だね。勿論君の作るスイーツは絶品だ…。」

 

 

「そうですか?…故郷じゃオレはまだまだの方ですからね。そう認めていただけるのは嬉しいです。」

 

 

「まだまだ…どれほど魔境なんだ、ラテラーノ…」

 

 

スイーツに関しては間違いなく世界トップレベルであるラテラーノにドクターは夢を馳せていた。そんなドクターの気持ちを察したのかアドナキエルは親切に解説を始めた。

 

 

 

「故郷の先輩方は皆軽く50種類のスイーツは作れました。だからオレの技術なんてまだ小手先だけのものですよ。」

 

 

そうきっぱりと言い切るという事は間違いなく事実であり、ラテラーノが修羅の国であることをドクターは何となく分かった。と思考しているうちにドクターはシュークリームを食べきってしまった。

 

 

 

「…あ、もう全部か…美味しかったよ。ご馳走様。」

 

 

「はい。お粗末様でした。また食べたくなったらいつでも言ってくださいね。」

 

 

「…え?本当?いつでも良いの?…毎日食べたいなあ、なんて…」

 

 

「どんなに好物であっても三日間同じものを食べれば舌があきちゃいますよ。ドクターがお望みなら毎日違うものをローテーションして作りますよ。」

 

 

 

理性を蒸発させたドクターにとってその提案はどんな金塊にも勝る涎が出るような条件だった。そして是非と言おうとした所でドクターはふと正気に返り、疑問に感じた。

 

 

 

「ドクター?」

 

 

何かを言おうとして黙ったドクターに彼は首を傾げるように見た。

 

 

 

「…アドナキエル。君は…」

 

 

ドクターは言葉に詰まる。面と向かって聞くには少し聞きにくい内容だからだ。

 

 

「何でも聞いてください。オレが答えられる限りは答えますよ。」

 

 

「そ、そっか…じゃあ…」

 

 

ドクターの懸念を感じ取ったのかアドナキエルは心配するなと言わんばかりの言葉を送ってきた。その言葉に背中を押され、ドクターは聞くことを決意した。

 

 

 

 

「アドナキエル。君は随分と私を慕ってくれているみたいだけど…私は君に何か返せているのか?君に良くしてもらっているという何も返せている自身がない…」

 

 

アドナキエルがドクターに対する態度は人懐っこい後輩のそれだ。彼は良くドクターのことを慕っているがドクターはそんな彼に報いれているかが不安だったのだ。

 

 

 

「なんだ、そんなことですか」

 

 

しかしアドナキエルは笑顔を崩さないまま答えた。

 

 

 

「オレはオレを使っていただけることに満足しています。ドクターはオレを使ってくれるだけでなくてこんなにもオレの力を上手く引き出してくれたじゃないですか。もうそれだけでオレは満足なんですよ。」

 

 

「そ、そうかい…?オペレーターの力を最大に引き出すことは確かに努力しているがでもそれでは私が君に報いれてるかは…」

 

 

アドナキエルの答えを聞いてもドクターは不安がっていた。元々ドクターは記憶喪失のため自己肯定感は低い、その資質がたまにこのように不安となって具現する。

 

 

 

「本当ですよ。…オレはドクターを尊敬していますから。」

 

 

よく彼は何を考えているか分からないと称されているがそのように語る今の彼の表情は笑顔でそれが本心かどうかは今のドクターには判断するだけの力がなかった。たとえ…それが真実だとしても彼のポーカーフェイスはそれを隠してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翼もなく、光臨も傾いた天使

 

奇形

 

異形

 

生まれた時から存在が堕天するもの。生まれるべきではなかった。

 

 

 

 

何度、そういう言葉を聞いたことがあっただろうか。何度ちゃんと翼を持つ同級生に蔑まれ、光臨が真上にある彼らに嘲れられただろうか。

 

 

オレは生まれた時から奇形で、それが罪だった。前世はどれほど重い罪を犯したらこんな酷い罰を背負ったのだろうとオレは幾度も思った。

 

 

全員が全員、偏見に満ちていたわけじゃないけれど、人というのは自分と違うものを徹底的に糾弾し、排除したくなるモノだから、彼らの心理は理解できた。

 

理解は出来たけれど、認めたくはなかった。

 

 

 

そんなオレが鉱石病になった。いよいよ神様からも捨てられたものだと思った。

 

 

彼女は、メイリィちゃんはオレのために親身に尽くしてくれたけれどロドスに来ても希望はないとそう思っていた。

 

 

だけどそれは大きな間違いで。

 

 

 

 

 

『今日から君の主治医になる____だよ。気軽にドクターって呼んでくれたまえ。』

 

 

 

最初に思ったのは可哀そうだという憐憫の気持ち。こんな異形を相手にするなんてこの先生もツイてないなとそう思った。

 

 

『私の夢は鉱石病の根絶だよ。だから君も必ず治す。治して見せる』

 

 

 

次に思ったのは変な人だということ。鉱石病という困難な事に真っ向から挑んで、絶対にやると自身満々に言い切った変な人。

 

 

 

『へぇ…これがサンクタ族の光臨かぁ、触ってみてもいい?』

 

 

—————オレのを触るとドクターの腕が汚れちゃいますよ。

 

 

『こんなに綺麗なのに?』

 

 

—————綺麗?

 

 

 

『そうそう、綺麗で澄み切った白色…私の勘に過ぎないけれど君もこんなに暖かい光を持っているんだろうね。』

 

 

 

…そして暖かい人だとそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

すうすうと寝息を立ててドクターは机に突っ伏して寝てしまった。疲労困憊を忘れていたからが急に思い出したため眠気という反動で返って来たのだろう。アドナキエルはドクターの背中に自身の上着をかけてドクターの前に回り込んでドクターの顔を見た。

 

 

 

「…ドクターの休んでいる顔も…凄く印象的ですよ。…とても、暖かいです。」

 

 

 

そしてクッキーを添えて執務室から彼は穏やかなまま退出していった。

 

 

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