生きることは悩むこと 2   作:天海つづみ

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この片仮名三文字は
大嫌いな単語のひとつ


センス

 

「これでよしっと」

エミナがベルトを締めるのを手伝う

 

「あ、ありがと」

 久しぶりの剣士の装備に緊張するナズナ

 ハンターナイフは錆びていなかったが…

 少し太った…?ベルトが…

 

 気のせい…ということにする

 

 場所は森と丘のキャンプ

 

「じゃ基本の回避と抜刀納刀」

 エミナが澄ました顔で指示する、

師匠気取りらしい

 

 年下から指図されるのはムカつくが、

ここは黙って従う

 …私19なんだけど

 

 剣を振る、抜刀斬りから斬り上げ、

問題なく動ける

 

 「連携が問題なのかなぁ?」

 エミナが首を傾げる、

 どこが悪くて片手剣に向いてないんだろ?

 生き物を近くで殺す度胸が無いとか?

 

「特に問題は見受けられませんね」

 ミハエルも不思議そうに

 

「大体よ、センスなんて言う時点でおかしく

ねぇか?」

 腕組みして見ているハルキ

 

 今日はドスランポス退治

 そして私の武器の選択

 

 前の村でセンスが無いと言われ、

辞めていた片手剣を使ってみるが

「おかしいの?」

 ナズナも首を傾げる

 

 前の村で生徒を集め、訓練していた

ハンターに言われたのだ

「センスが無い」

「才能が無い」

 そして他の生徒からバカにされ続けた、

 みんな私をバカにしてた

 

「そのハンターよ、自分のランクについて

何も言ってねぇのかよ?」

 

「ランク?」

 ブロンズとかシルバーとかのアレ?

 

「下位とか上位とかよ」

 

「あー!もしかして!」

 ハルキを見るエミナ

 

「そうかもしれませんね」

 三人は納得している…

 

 何が?

 

「あくまでも可能性ですが」

 ミハエルが説明してくれた。

 一流と言われるハンターほど無駄が少なく

基本に忠実、そして毎日の積み重ねの結果

として技術がある、

 そのハンターが何のつもりでセンスなんて

言葉を使ったか知らないが、センスは努力の

先にある、駆け出しの素人に備わっている

モノであるはずがない。

 

 強いハンターであるほどそれを知っている。

 

 センスや才能なんて言葉が出る時点で、

少なくともハンターの指導には向いていない。

 

「そのハンターは下位…か…」

 ミハエルは顎に手をやりながら呟くが

 

「落ちこぼれかも知れねぇぞ?」

 真っ直ぐナズナを見る

 

「落ちこぼれ?」

 正面から見られるのがツラい、目をそらす

 ハルキの視線は強すぎる

 

「たまにいるらしいぜ?ハンターの

なりそこないが教えるってヤツ」

 

「実力のない人だったのかも知れません」

 その上謝礼など要求していたら…悪質ですね

 

 まさか…そんなこと考えなかった。

「じ、じゃあ片手剣使っても大丈夫?」

 髪の隙間から上目遣いに見る貞○

 

「お、おおう!良いんじゃね?」

 …怖ェ

 

 

 …………

 

 

 

 四人で採取しながら移動する

「ナズナはちゃんと採取するねぇ」

 エミナに褒められた、年下から褒められ

るのは複雑な気分

 

「その分なら地形も把握できてますね?」

 

 誉められ慣れてないから照れる、

 だけどそりゃあ採取もうまくなるし地形も

覚えるよ?

 だってこれで日銭を稼いでる訳で…

キャンプの跡地でペイントボール拾ったり…

 

 …恥ずかしくて言えない…

 

「ハルキ!」

「メンドクセェ!」

 ハルキはなぜこんなにいい加減なんだ?

 全部買えるほど金持ち?

 回復薬なんて買ってたらお金がいくら

あっても足りないんだけど

 

「じゃあ次だね」

 エミナが指を指すのは大型の猪、

ブルファンゴ

 

 突進を避けて追いかける、

 抜刀斬りから斬り上げ、斬り下ろし、

一歩前進してさらに斬る、

 また走るのをよけて

 最後に盾で殴るとブルファンゴは力尽きた、

 返り血が臭い、気持ち悪い、

 死んだ生き物の目が怖い

 

 …けどなんだろう、ガンナーだといっぱい

撃たないとダメだったけど、剣なら砥石一つ

使わない、…低コスト?

 

「最後に回転斬りできないの?」

 一番威力があるのに

 

「あ、あの、背中向けるのが怖くて…」

 視界が狭いんだ、前髪で…

 でも髪切れない、人の目が怖くて見れないから

 

「なるほど、モンスターの隙を理解してませんね?」

 

「隙?」

 見た目サ○コが振り返る

 

「ブルファンゴが停止から方向転換するまで何秒掛かると思います?」

 視界の外も見えてない、なのにガンナー、益々理解できなくなっていくはずですね

 

 

 

 

 

 

 …………………

 

 

 

 

 

 場所は2番 三人とも高台から見下ろす

 

 そして下でドスランポスと戦う私、

しかも一人で

 

 なにこれイジメ?

 ゼイゼイ言いながら地面を転がる

 

「ナズナ!横!」

 エミナの指示が飛ぶ

 何とか転がり回避するとドスの嘴が空を切る

 

「ヒイッ!」

 ムカつく!生臭い!

 なに考えてるか分からない生物の目が

こちらを見る!

 恐い!キモい!返り血臭い!

 じたばた四つん這いで逃げる

 

「足元抜けろ!」

 何?何の指示?!ハルキは何言ってんの?!

 理解が追い付かない、年下から指図されてムカつく、恐い、情けない!

 

 色々な感情が込み上げて戦いながら泣き出す

 私だけこんな目に合う

 いつもいつも私だけ

 私何か悪いことした?

 

 なんとか立ち上がり斬り掛かる

 

 

 私だっで…わだじだっで…

 がんばっでるのにいぃ!!

 

 いつもこうだ、いつもこんな感じだ、

思うような動きが出来ない

 悔しい悔しい悔しい!!!

 

 

 ボスっ!

 突然何かが降ってきた、

 砥石?

 

 その途端

 「ガシィッ!!」

 ドスランポスの鱗に弾かれた、切れ味落ちた?

 

「目ぇつぶって!落ち着いて!」

 エミナが閃光玉を投げ

 

「今のうちに研げ!」

 砥石はハルキが?何てタイミング!

 ハンターナイフの切れ味を計算してる??

 

 研ぎ終わるとまだ目を回しているドスランポスに

 

「でぇい!」

 泣きながら女らしくない声を出して斬り掛かる、

 回転斬りは恐いからチマチマ斬るが

 

「喉狙って!」

 

 最後に思い切り頭上を斬り上げた

 

 

 

 

 

 

 …………………

 

 

 

 

 

 

 ゼェゼェ言いながら地面に転がる、

一人で勝てた…いや、

ハルキとエミナに助けられて…

 

 

 …あれ?ミハエルは?!

 

「おい、こっちも剥ぎ取れよ」

 

 !!!

 

 3番の入り口、その前にランポスが何匹も。

 一人で勝ったんじゃない、

皆が支えてくれてた…私なんかのために

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 ギルドに帰り精算する、

 弾丸代が掛からないから

 余裕がある!食事が出来る!

 

 久しぶりにチーズたっぷりの肉を

 

…しかし…

 

 なぜか二人がニコニコしている

 

「昨日はさぁ、ナズナがすぐに

帰っちゃうから話せなかったじゃん」

 

 「今日は色々話しましょう」

 

 何?この圧力? 

 思わず後退る

 ギルドでビールは飲んでも食事は

しない、いや…できない

 理由はお金が無くて食べられなかった、

だから明るい内にやることがあるんだ…

 

 自炊だよ!!

 

 でも今日はギルドの食事ができる…けど

 話すの苦手なんだよ私

 

「私らの事は知ってるのにナズナは

自分の事は話さないしさ」

 テーブルに着く三人、一つだけ席が空いている

 

「え…?私何か聞いた?」

 立ち尽くす

 

「昨日ギルドマスターから私達の概略を

聞いたでしょう?」

 

 …聞いてない

 

「ミハエルに見とれてたからな」

 ハルキだけは興味が無さそうで

ギルドガールのいるカウンターへ行ってしまう

 

 あの時か…!

 

 『帰さない』

 という空気が二人から、

 いやギルドから出ている

 

「ううぅっ」

 冷や汗が背中を伝う

 怖い怖い怖い怖い

 




だから私はこの単語を使って
話す人は好きになれない

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