クラスメイトの立花響とお好み焼きを食べに行くだけの話   作:幸海苔01

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友達とモンハンやってたせいで遅れました。

悪いのは友達です。俺じゃありません。


旧友とお好み焼きを食べる話

 

 

 

 あれから、かれこれ一ヶ月。

 ここのところ、ノイズの出現が妙に多い。

 通常であれば、ノイズの災害自体かなりのレアケース。

 にも関わらず、ノイズの出現率、回数ともにこの街は異常だ。

 あるのだろうか。『何か』が。それさえ分かれば、ヤツらを―

 

「守興!休憩おわりだぞ!」

 

 その言葉に、ハッと現実に立ち返る。

 

 現在は部活動中。

 『どうでもいい』ことを考えても仕方ない。

 そうだ、切り替えろ。自らの度量を弁えろ。出来ることなんて無い。

 

「どうした!守興!そんなパスじゃ通るもの通らんぞ!それとも、相手にパスしたのか!!負けたいなら、余所でやれ!!」

 

「すいません!!」

 

 監督の怒号が響く。

 パスの精度にまで影響が出始めている。無駄なことを気にしているからそうなる。

 このままではあの日の誓いさえ守れない。

 

 そんな自分(理想)になれない自分に何の価値がある。妹さえ守れなかった自分(出来損ない)に。

 

 集中を深く。何も感じないように。何も考えないように。目の前のプレイのみに集中をする。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「守興、お前何か悩みがあるのか?」

 

 練習後。監督から呼び出され、彼の元へと赴き、投げかけられたのは、そんな言葉だった。

 

「…いえ、特には」

 

 そう口にすると、監督からどことなく呆れたような表情を向けられた。

 

「嘘吐くなら、もう少しマシなモンか、バレないように嘘を吐け。それじゃ、悩みがありますって宣言してるようなもんだぞ?」

 

 自分はそんなに分かりやすかっただろうか。

 これでも表情は変えていない自信はあったのだが。

 

「お前、何かを我慢する時とか嘘を吐く時に必ず表情が硬くなる癖、何とかしたほうが良いぞ」

 

 更に考えを読まれた。自分にそんな癖があったとは。何と言うか、人をよく見ている人だ。だからこそ、監督としての仕事を任されているのだろうが。

 

「……」

 

 監督の言葉にバツが悪くなり、思わず俯き、そのまま黙りこんでいると、彼は更に言葉を重ねる。

 

「今日のプレイだが、途中までは明らかに精彩を欠いていたかと思えば、注意した後から動きが良くなっていた。但し、『個人プレイとしては』だが。それは理解しているな?」

 

「はい…」

 

 監督の言わんとしていることは、何よりも自らが一番理解できている。途中までは集中が浅く、途中からは集中が深すぎた。いつものような迅速な切り替えと適度な集中の深さが両立出来ていない。

 

「お前の持ち味はその器用万能さと、俯瞰の能力の高さだ。お前は確かに、同学年の人間よりもセンスもある。だから個人プレイで突出したとしても、同学年同士での練習が多い、『今は』問題無い。実際、お前のチームは勝った」

 

「……」

 

「だが、上の奴らとやったとして、今のままでは九分九厘負ける」

 

 監督の言葉に思わず拳に力が入る。理解している。このままでは駄目だ。

 現在の練習は、いわば慣らし運転。どれだけの人間がどれだけの伸び代があり、どれだけ現状動けるかを把握する意味合いが強い。

 必然的に実力の近しい人間と比べた方が、細かな差も把握しやすい。だからこそ、同学年同士での練習試合。

 

「FWなら良い。ヤツらは誰よりもゴールに対して貪欲であるべきだ。個人プレイで突出しないと意味がない」

 

 既にスカウトを受けている先輩などが良い例だ。誰よりもピッチ上では暴君であるが、同時に絶対的な安心感を与えてもくれる。フィジカルもテクニックも、ゴール及びボールへの嗅覚も突出している。

 彼のプレイはサッカーの技術を磨く上で参考にした部分も多い。だが―

 

「だが、お前はMFだ。FWに行きたいなら別だが、どうなんだ?」

 

 そう、自分はMFだ。FWではない。自分は誰よりも我儘になどなれない。自らの武器を間違えてはいけない。

 

「いえ、自分は…MFが良いです」

 

 絞り出すように、監督の言葉にそう答える。

 

「俺もその方が良いとは思う。お前のその能力は得難い。集中の切り替え速度と、深さを両立させることのできる人間は貴重だ。世辞抜きで、このまま行けば、プロだって目指せると俺は思ってる」

 

「ありがとうございます」

 

 本当にそう思ってくれているのだろう。元々、歯に衣着せぬ物言いをする人だ。お世辞なども苦手な人が嘘を言うとは思えない。

 

「だからこそ、今日のようなプレイを必要な時以外はするな。俺はカウンセラーでは無いが、お前らの監督ではある。悩みがあるならここで吐き出しておくか?解決の保証はできんが、聞くくらいはできる」

 

「…すみません」

 

 こちらのことを慮って言ってくれているのだろう。それは理解できる。だが、出来ない。何せ、解決しようのないことなのだ。他ならぬ自分自身で整理をつける必要がある。

 

「そうか、無理強いはせん。話したくなったら言ってくれ」

 

「ありがとうございます」

 

「話は以上だ。明日は休みだから、体をしっかり休めて、次の練習に備えるように」

 

「はい、失礼しました」

 

 監督は大して問い詰めるわけでもなく、自らに退出を促す。元々今日は注意喚起の予定だけだったのだろう。このようなことが続くようでは駄目だと、釘を刺す意味合いもあったのかもしれない。

 

(どうにか、しないとな…)

 

 焦りは募る。だが、焦ったとして何の意味もない。これといった解決策も思いつかないまま、その日の練習を終えた。

 何だかんだで一番世話になっているDFの先輩にも、今の乱れたプレイのままでは、自主練習をやったとしても変な癖がつきかねないと言われ、久々にまともな自主練習もせずに早々に切り上げた。

 

 とは言っても、身についた習慣というのは、無意識でこそ発揮されるようで。

 

「今日は来る気なかったんだけどな…」

 

 気がつけば足はいつもの『ふらわー』へと向いていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「何か悩みでもあるのかい?」

 

 本日二度目のその言葉に思わず苦笑を浮かべる。

 そんなにも自分は表情に出やすいのであろうか。そのようなつもりはこれっぽっちも無いのだが。

 

「見る人が見れば、かなり分かりやすいタイプだと思うよ」

 

 それは特殊な事例だと声を大にして言いたいが、こうも連続して指摘されると、自らの顔つきがいつもと違うのだろうかと、思わず頬の筋肉をほぐすかのように、手を添え、グニグニと上下に動かす。

 

「話せないことなのかい?」

 

「んー、そういう訳ではないんだけど…」

 

「話したくないってモノの類かい?」

 

「いや、そういう訳でも無いんだけど…」

 

「話しても解決出来ない類かい」

 

「まあ、ね」

 

 恐らく、人に話したところで納得できるような理由を見つけられない。

 参考にはなるかもしれないが、自分自身で折り合いをつけないと納得出来ない、いや、したくないのだ。

 自分で答えを見つけ、乗り越える。そうでなければ、自分は―

 

「もしかして、守興くん?」

 

 聞き慣れぬ、されどどこかで聞き覚えのある声。ふと振り向いた視線の先にいたのは、

 

「小日向?」

 

 久々に顔を合わせる旧友であった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 小日向未来。元陸上部。中学時代の友人の一人。

 中学生の時は、サッカー部と陸上部はグラウンドを共に使うことも多かったので、割と話したりもした。

 妹が生きていた時には、妹への誕生日プレゼントなどの相談に乗ってもらったこともあるが、逆に言えば、学校以外であまり話すことは多くなかった。交友のあった女子の面々の中では、比較的仲が良かった方ではあるが、それだけの関係。

 進学先も全く違ったので、卒業後に連絡を取り合うこともなかった。一応メッセージアプリで連絡を取り合えるようになってはいるが、それくらいの関係性だ。

 ただ何となく印象に残っている。その理由は、

 

『あの』立花響の親友ということに他ならないだろう。

 

 若干、卒業前の出来事は自らにとって黒歴史気味だ。正しいことをしたとは思うのだが、わざわざワックスでキメなくても良かったのではないかとたまに思う。何より恥ずかしいセリフを吐いてしまったのは、未だに思い出して悶える。妹が生きていれば、しばらくは笑いの種にされただろう。

 

 それはそれとして、小日向未来の話だ。

 彼女は立花響から離れていった周囲の人間とは違い、決して立花響を見捨てることはしなかった。最終学年時には別クラスではあったものの、彼女の姿はたまに見かけた。

 彼女とて後ろ指をさされることもあったろうに、立花響の隣に寄り添い続ける彼女のことを、強い女性だとも勝手に思っていた。

 

 進学先については聞いたような気もするが覚えていない。制服は見たことがあるような気がする。朧気な記憶を引っ張り出しながら、旧友に問う。

 

「あー、学校この辺だっけ?音楽学校かなんかだったよな」

 

「守興くんって、たまに適当なとこあるよね。私立リディアン音楽院、だよ。割と有名なはずなんだけど」

 

 どことなく呆れたような声音と視線に少しだけばつが悪くなる。

 

「あー、聞いたことあるような無いような」

 

 サッカーの対戦校(予定)以外の情報はあまり知らない。確か女子校のはず。間違いなく対戦することはないので、どうにもうろ覚えだ。

 

「サッカー以外にももう少し興味持ったら?」

 

「ニュースは見てるんだけどな…」

 

 小日向から呆れたような視線さらに強くなった気がした。それから逃れるように、自らの目線をちらりと横に向け、言い訳がましく呟く。以前、妹のプレゼントの相談をした時も似たような視線を向けられた気がする。

 

「はいはい、スポーツニュースと政治経済ニュースだけでしょ。チョイスが微妙におじさん臭いよね」

 

「前に話したの覚えてたのか……」

 

 反論したかったが、言葉が出てこなかった。妹にも以前全く同じことを言われた。普通に傷つくのでやめてほしい。

 

「まあ、いいけど。でも、守興くんがいるとは思わなかった。そう言えば、スカウトされた学校この辺だったから、おかしくはないか」

 

 どうやら、彼女は自分の進学先を覚えていたらしい。さらにばつが悪くなる。

 

「知ってたんだな、俺の進学先」

 

「守興くん、私たちの中学で割と有名人だし」

 

「そうか?」

 

「スカウトまでされたら、そりゃそうでしょ」

 

「そんなもんか」

 

 そうかもしれない。もともと普通の公立中学だ。サッカー部も中体連で、そこそこ目立ってはいたが、全国まで駒を進めたわけではない。

 そんな中で有名校にスカウトされたのだ。ある程度噂が拡がるのも、当然と言えば当然の帰結だ。スカウトは渡りに船だったから受けただけで、意識してはいなかったが、周囲からはそう見られていなかったのかもしれない。

 卒業式に幾人からか告白を受けたのは、そうした要因もあるのかもしれない。サッカーに集中したいのと、遠距離恋愛が面倒に感じたので、断りはしたが。

 そこでふと気付いた。

 

「小日向、何か元気なくないか?俺の気のせいかもしれないけど」

 

 自らの言葉に少しばかり驚いたように目を見開く小日向。どうやら当たりだったらしい。

 

「……守興くんって、周囲への興味薄いくせに、たまに鋭いことあるよね」

 

「MFだからな」

 

「それ関係あるの?」

 

 少しだけ胸を張って答えると、クスリ、と微かに彼女の顔に笑顔が浮かぶ。

 

「でも、守興くんも同じでしょ。何かテンション低いよ」

 

「んー、あー、まあ、な」

 

 これで指摘されるのは三度目だ。どうやら自分は相当に隠し事が下手らしい。割とポーカーフェイスの自信はあったのだが。

 

「人の心配ばっかり。変なとこで響と似てるんだから」

 

「立花と?」

 

 思い出されるのは、彼女の沈んだ顔。最後に関わった時期が時期なので、イマイチ想像がしづらい。しかし、人の心配ができるくらいには元気を取り戻したのだろう。

 

「うん」

 

「悩み事は立花関連?」

 

「……守興くんってエスパー?」

 

 半分勘だったが、またもや当たりらしい。とは言っても、

 

「いや、ここで立花の名前出したら何となく察するだろ。伏線的な」

 

「まあ、そうかも?」

 

 ここにいない第三者の名前をいきなり出せば、そう思うのも無理からぬことだとは思うのが。

 

「立花が何かやらかしたのか?」

 

「まあ、響は割と頻繁にやらかしてはいるけど」

 

「ええ…立花ってそんな奴だったか?」

 

 関わりが薄いせいもあり、そんなイメージは全く持ってなかったが、意外と問題児らしい。まあ、成績は芳しくなかったような気もするが。

 

「多分、守興君が想像しているようなものじゃなくて、こう、善行で結果的に問題起こしちゃうって言うか…」

 

「多分だけど、フォローになってねえぞ」

 

 まあ、素行不良でないなら、大きな問題ではないのかもしれない。

 

「まあいいや、その立花がどうかしたのか?」

 

 善行を行っているだけなら、小日向もここまでは心配することはないだろう。恐らく、何かあるのかもしれない。

 

「最近、響の帰りが妙に遅いの」

 

「え?お前ら同棲してたの?」

 

 そう口にした瞬間、小日向の眉がピクリと動いた気がした。

 

「寮生活だからね」

 

「なる。すまん、続けてくれ」

 

 その後、特段反応することも無く、話を続ける小日向。

 それを要約すると、

 

「ある日を境に、立花の帰りが毎日のように遅くなっている、と。で、何か危険なことに首突っ込んでんじゃないかって?」

 

「…うん」

 

「根拠としては薄い気もするが、立花と一番親しい小日向が言うなら、あながち間違いじゃなさそうな気もするな」

 

 普通に考えれば、質の悪い夜遊びにでもはまっている程度の認識だが、どうにも気になる。その一番の理由が。

 

(ある日ってのが、近場でノイズが発生した日と被ってる…)

 

 何より、その日辺りからノイズの発生が異常な増加傾向にある。

 

(何か、あるのか?)

 

 ノイズの大災害から奇跡的に生き残った少女。そして、彼女の帰りが遅くなった日はノイズの発生日。偶然にしてはあまりに様々な事柄が符合し過ぎている。

 ひょっとするとノイズは―

 

「守興くん?」

 

「ん?ああ、悪い」

 

 考え込みすぎてしまった。これでは小日向の心労が増えるだけだ。

 

「立花がどこ行ってるかってのは分かんねえのか?」

 

「さっぱり」

 

「でも、遅くまで出てる割に普通に寮内に帰ってこれるんだな。女子寮ってそこそこ監視の目が厳しい気がするんだけど」

 

「言われてみれば、そうかも?」

 

 不自然なのだ。小日向曰く、寮監の目を盗んで遠出するような器用な真似が立花響にできるとは思えない、とのこと。それはそれでひどい気もするが、ひとまず置いておく。

 であれば、寮監自体が承知済みなのか、それとも、

 

(目的地がそもそも寮内か、校内、とか?)

 

 伝聞情報通りの立花ならば、前者の方が可能性は高いような気もするが。

 とは言っても、立花響とてたかだか自らと同い年の高校生。何かある可能性の方が低い。ただ、妙に引っかかってしまうのは、彼女が『あの事件』の関係者であるからなのだろう。

 

「んー、小日向が出来ないことを俺が何とかできるとも思えないけどなあ…いっそのこと直接聞くとか?」

 

「やっぱり、それしかないよね…」

 

 小日向が諦めたように溜息を吐く。実際問題、解決策が思いつかないのだ。情報があまりになさすぎる。どれもこれも推論かつ状況証拠ばかりで、確信を持つには至らないのだ。

 

「何はともあれ。飯だ飯。腹減ったままじゃロクな考えも浮かばん」

 

「何それ」

 

 クスリ、と自らの言葉に対し、小日向が笑みを浮かべる。笑う要素はなかったようにも思うが、まあ良いだろう。

 

「そう言えば、私ばっかり話してたけど、守興くんも悩み事あったんじゃないの?」

 

「ん?まあ、これは自分で折り合いつけなきゃいけない類だからな。詰まった時には助けてもらうようにするよ」

 

「そう?なら良いけど」

 

 しばらくの間、誰かに話す気は持てそうに無い。少しだけ気になることもできたが、何はともあれ腹ごしらえ。

 

「守興くん、自分で焼くの?」

 

「たまにはな。今日はあんま疲れてないし」

 

「焼けるの?」

 

「舐めんな。これでも料理はそこそこ得意だ」

 

「へえ、意外かも」

 

「失敬な」

 

 などと旧友とくだらないやり取りをしつつ。手早く生地を混ぜ、鉄板へと綺麗な円を形作るように流し込む。

 横から覗く小日向にドヤ顔を向けるのも忘れない。呆れた視線を向けられたが気にせず作業を進める。

 そこでふと、疑問に感じていたことを思い出した。

 

「そういや、小日向は何で自分とこの学校のこと、割と有名だって言ってたんだ?音楽学校って一般人からしたら、そんな有名なイメージ無いんだけど」

 

「まあ、世間一般じゃそうかもしれないけどね。でも、世間一般から見ても比較的有名だと思うよ。私たちの学校」

 

「え?マジ?」

 

 なぜそう言い切れるのだろうか。何か理由があるのだろうが、思いつかない。

 

「うん、だって――」

 

 小日向の声に、生地の焼ける音が一瞬かき消され、

 

 

 

「―――私たちの学校、風鳴翼さんがいるんだよ?」

 

 

 

 

 カチリ、と自分の中で何かが嵌まった音がした。

 

 

 

 

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