クラスメイトの立花響とお好み焼きを食べに行くだけの話   作:幸海苔01

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シンフォギア10周年おめでとうございます。
滑り込みセーフ(アウト)


外出して旧友+αに鉢合うだけの話

 

 風鳴翼。

 

 彼女は世間で言うところの『歌姫』。その圧倒的な歌唱力と、キレのあるパフォーマンスに魅了される人間は多い。国内における若きトップアーティストとして、今も尚第一線を走り続けている。

 

 そして何より―

 

 立花響以外で『あの事件』を生き残った数少ない人間の一人。

 

 とは言っても、立花響の扱いとは裏腹に、彼女に対する世間の風当たりはあまり強くなかった。多少なりとも心無い言葉が向けられたりもしたが、自然とそうした風評被害は消滅していった。

 そうした扱いを受けた大きな要因は、彼女自身、『被害者』としての側面が強かったからだ。

 芸能人であり、多くの人々に絶大な支持を得ていた、というのも勿論あるが、一番大きな要因は前者だろう。

 

 他ならぬ天羽奏(片翼)の存在によって。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 旧友である小日向未来とお好み焼きを食べた後から、幾日かが過ぎた。

 相も変わらず、練習に身が入らない日々が続いていた。このままの状態が続けば、ルーキーリーグのレギュラーメンバーへの選出も危ぶまれる。折角の貴重な試合に出場できる機会を失いかねない。

 そんな焦りとは裏腹に、学校と部活動ともに珍しく休み。簡単な自主練習は許可を出されてこそいるが、後で自分だけ呼び出され、体をゆっくり休めるよう監督に厳命された。曰く、今の状態で練習しても、一切お前のためにならん、とのことだ。終わった後の自主練習に打ち込みすぎだとも言われた。

 多少なりとも自覚していることではあったので、大人しく監督の指示に従うことにして、ユニフォームの洗濯や、スパイクの手入れなどの雑務を行う時間に充てることにした。 

 実家にいる時から、スパイクの手入れなどは日頃から癖づいていたが、洗濯といった煩雑な家事は親に任せっきりだった。実家暮らしの人間が少しだけ羨ましい。家族が裏からきちんと支えてくれていたことで、ここまで来ることが出来たのだと改めて思う。

 ちなみに寮は洗濯機が設置こそされてはいるが、数が限られているので、結構な頻度で奪い合いになっているらしい。幸いにも、先輩のものを洗濯させられるような風土は無いらしいが、どうしても学年が上の人間の方が優先される傾向にはあるとのこと。こういう上下関係は、運動部である以上、仕方のないことだろう。

 

(偶然にしては出来過ぎな気もする)

 

 スパイクの手入れを行いながら考えるのは以前の話。

テレビも点けてこそいるが、自らにとって、環境音以上の役割は果たしていなかった。

 多大なる犠牲を出した、あの日の数少ない生き残りが二人。揃いも揃って同じ学び舎。しかも、そのうちの一人の様子がおかしいらしい。この話だけでも、引っかかることが多すぎる。疑ってくれと言っているようなものだ。

 

 この情報を得られたのは奇跡に近い。何せ、恐らく知っているのは当事者に最も近い、小日向くらいだろうからだ。

 とは言っても、

 

(じゃあどうしろって話だよなあ)

 

 多少勉強やスポーツは得意でも、所詮一高校生である自らに、画期的な秘策が思いつくわけではない。折角のチャンスを生かし切れていない感じがして、どうにももどかしい。

 

(忍び込むか?いや、でもなあ)

 

 夜の女子寮に忍び込む。言葉にしただけで、普通に捕まりかねない案件だ。次の日の一面は飾れなくとも、ネットニュースの話題の一つにはなりそうだ。いずれにせよ社会的に死ぬのは間違いない。

 

 そもそも限りなく怪しいだけで、物的証拠など何もない。そもそも立花が赴いているであろう、目的の場所すら分からない。

 

(だからこそ、でもあるんだけど)

 

 その証拠を掴むために、何かしらの行動が必要なことは確かだ。

 知る以上、リスクは承知の上ではある。こういうリスクは望んでいなかったが。

 

(立花に直接聞くか?)

 

 本人の連絡先は知らないが、小日向とは連絡が取れる。快く、とまではいかないまでも、立花本人からの了承を得られればやり取りできるだろう。

 小日向曰く立花は非常に隠し事が下手らしいが、流石に馬鹿正直に話すとも思えない。どうも頑固な面もあるらしく、小日向相手でも口を割らないそうだ。尚のこと、関わりが薄い自ら相手に話すとも思えない。

 

『若き歌姫こと、風鳴翼さんの体調不良による休業を―』

 

(こんな時にテレビなんて点けるんじゃなかったな)

 

 午前中とは言っても、今は昼時に近い。そうすれば必然的に多くなるのが、エンタメ関連を取り扱うワイドショー。そして、そのワイドショーが彼女を取り上げることは何の不思議もない。何せ、日本の歌姫ともいえる存在だ。新曲リリースやイベントを行えば、それだけで話題にもなる。彼女が体調不良により休業するともなれば、連日取り上げられるのも致し方ないことだろう。

 妹の一件以来、風鳴翼とツヴァイウイングのCDや関連商品は一切手元に残していない。実家のものも処分してしまった。元々自らの興味がサッカーの方に向いており、そこまで熱心なファンでは無かったこともあるが、どうにも妹のことを思い出してしまうせいで、素直に楽しむことができなくなってしまった。

 

 立花響への思いと同じく、別段、憎んでいるわけではないが、複雑な思いはどこかで抱いている。

 

――ライブさえ無ければ、妹は死ぬことはなかった。

 

 心の片隅で、どうしてもそういう考えが浮かんでしまうのだ。正直、ノイズの発生を予想しろと責める方が無理な話ではあるし、彼女もまた大切な人を失っている。無茶苦茶な言い分であることは理解している。ただ、極めて個人的な感情面で納得できていないだけ。そのはずだ。

 

(…つまんねえ考え)

 

 雑念を振り払う。このままぼんやりとしていても気が滅入るだけ。外に出れば多少気分も晴れるかもしれない、と思い直す。ちょうどスパイクの手入れも終わったところだ。

 

「――また、防衛大臣死去に関する続報です。――」

 

 惰性で点けていたテレビを消し、着替え、ランニングシューズを履く。昨今は色々と物騒な話題も多くなった。しかし、それが自らの生活に影響を与えるかと言われると、そうでもない。

 多少なりとも動きやすい服装ではあるが、外へと出かける格好としても、おかしくはない程度に取り繕う。

 気が向けば、運動もできるし、外で遊ぶこともできる。良く言えば臨機応変な、悪く言えば中途半端な恰好。

 

(いちいち卑下してどうする)

 

 一つ長く息を吐き、気分を切り替える。そのままの勢いで、ドアを開けた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 外に出ると、そういえば足りないものがあったと、意外とあれこれ浮かんでくるのは何故だろうか。特に、靴下は買わなければならない。そろそろ生地の限界が見えてきている。穴が開いてもおかしくないレベルだ。

 そういう訳なので、取り敢えず、店舗が集中する場所まで出ることにした。部のメンバーを誘っても良いが、何となく今日は一人で居たい気分なので、ほんの少し遠出をする。

 とは言っても、メンバーの行動範囲から外れているわけではないので、鉢合わせする可能性は十分にあるが、その時はその時だ。

 

 ぼんやりとモノレールに揺られながら、市街地の方面へと向かい、到着したのはゲームセンター。もちろん本来の目的地ではない。ただ、せっかくの遠出で、少し憂さを晴らしたかったこともある。友人や妹を連れ立って来たことは何度もあるし、一人で来ることも割と多かった。肝心のゲームの腕前はと言えば、別に上手くはないが、極端に下手でもない。楽しむ分には困らない、そんな程度の腕だ。

 だが、久々に自らの射撃の腕を確かめてみるのも一興かもしれないと思い、足を踏み入れたところで気付く。

 

 

 ドクン。

 

 

 一際大きく鼓動が響いた気がした。

 

 そんなことが?あり得るのか?このタイミングで?

 思わず自問自答する。だが、見間違えるはずはない。そこまで耄碌してもいない。一瞬の逡巡。しかし、こちらから声を掛けるよりも先に、向こうが気付く。

 

「あれ?もしかして、守興くん!?」

 

 立花響。かつての級友。小日向との間で話題になっている人物。そして今、自らが探し求めていた人物。

 

「どうした、立花?知り合いか?」

 

 連れ立っていたらしき人物が、声を掛けてきた。ひどく聞き覚えのある声。しかし、馴染み深くはない。

 そして、『彼女』を認識し、思考が停止する。

 

 ああ、これはきっと「運命」だ。

 

 決して逃げることも目をそらすこともできない、絶対的なモノ。

 

「よう、立花。久しぶり。お連れの人の名前は、あー、言わない方が良いか?」

 

 思考の停止した頭とは裏腹に、まるで反射のように言葉が自動的に紡がれる。

 それと同時に頭の片隅で、自分は今、決定的なまでに道を踏み外してしまったのではないか。

 

 どうしてか、そう思えて仕方がなかった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 何故か三人で話すことになった。久々に知己と会ったのならば、話すべきだろうと、よりにもよって風鳴翼本人に言われた結果だ。こちらとしては、願ったり叶ったりだが。

 

(つーか、今時話し言葉で、知己なんて言うか、普通)

 

 微妙にズレた、というより古臭い言い回しをする翼に対して、思わず苦笑してしまう。

 

「えーあー、ひ、久しぶり、だねっ!」

 

 立花の話題の振り方が雑過ぎる。それも仕方のないことではある。

 そもそも、例の件があったとは言え、立花とそこまで仲良くはないのだ。むしろ小日向との仲の方が良いと言える。

 

「だな、卒業式以来か。まさか風鳴さんと仲良くなるとは思ってなかったけど。良かったのか?風鳴さんと遊ばなくて」

 

 だからと言って、話すことがない訳ではない。久しぶりの再会だ。積もる話くらいはある。

 

「私からお願いしたことです。気にしないでください」

 

 柔和な笑みを浮かべる風鳴翼に、意図せず心臓が高鳴る。シンプルに顔が良い。なるほど、妹を含め、多くの人間が魅了される訳だ、と心の中で納得する。

 

「そうですか。では、お言葉に甘えます。自分もかの風鳴翼さんとお話出来る機会が出来て嬉しいですし」

 

 少し立花が驚いた顔をする。敬語を使えない人間だと思われていたのだろうか、だとすれば心外なのだが。

 

「なんだよ、立花。その意外そうな顔は」

 

「いや、翼さんと普通に話すんだなぁ、と思って」

 

「ああ、そっちか」

 

 確かに、有名人に会って自然体でいられるのは珍しいのかもしれない。常であれば自分とて、かの歌姫に会えたことに感動して、上手く会話ができなかったかもしれない。

 

 だが、今は違う。

 今は『そんなこと』どうでもいいのだ。

 

「んー、まあどんな芸能人だって、結局は『人』だろ?騒ぎ立てて迷惑かける趣味はないよ」

 

 それはそれとして、芸能人とてプライベートがあるのは当たり前のことではあるし、個人間の関係にそこまで深入りするつもりもない。つまるところ、関わることがないであろう人間のプライベートなど、割とどうでもいいというのが正直な話だ。さすがに犯罪まで起こすようなら話は別だが。

 

「そっか」

 

 少し嬉しそうにする立花。自らの言葉の中に、何か喜ぶ要素があったのだろうか。下世話な勘繰りをする人間も多いので、そういう人間でなくて安心しただけなのかもしれない。

 どうやら、立花と風鳴翼はそれなりに親しい仲であるようだし、風鳴翼のプライベートは立花とて守りたいだろう。

 

「ふっ、貴方は良き御仁ですね。立花が慕うのも分かる気がします」

 

「あー、そうですかね?」

 

 やはり風鳴翼の言葉のチョイスは少し変だ。今時の女子高生は「御仁」とか言わないと思うのだが。 

 褒められて悪い気はしないが、少し気恥ずかしい。しかし、今は良いタイミングかもしれない。話を切り替える意味でも、本題に突っ込んでみるべきか。今を逃せば、永遠に同じような機会が訪れることはないかもしれない。

 意を決する。

 

「つーか立花、あんま小日向に心配かけんなよ」

 

「えっ?」

 

 あくまでもさりげなく。確信を持ってから。逃げ道があれば、誤魔化されるかもしれない。確実に繋ぐのだ。真実への道筋を。

 

「何か帰り遅いとか聞いたぞ」

 

「ええっ!?な、何で知ってるの!?」

 

 この焦りよう、やはり何か知っているのだろうか。いや、まだだ。まだ確信が持てない。

 

「いやだから、小日向に聞いたんだよ。何だ、夜遊びか?」

 

 半ばからかうような口調でカマをかけてみる。あくまでも自然な話の流れで。

 

「いや、夜遊びなんてしてないよ!」

 

 簡単に引っかかりすぎて、こちらが不安になるレベルだ。将来、詐欺師などに引っかからないと良いのだが。あまりの正直さに思わず毒気を抜かれそうにもなるが、そうもいかない。追い求めて止まなかった手掛かりが目の前にあるかもしれないのだ。

 

「じゃあ、何で夜遅いんだ?」

 

「それは、えっと―」

 

 動揺する立花。これで多少情報を引き出せるかもしれない。微かな罪悪感とともに、そう確信した時だった。

 

「立花には、私のリハビリに協力してもらっているんです」

 

 すかさずフォローするのは、これまで静観していた風鳴翼。流石に一筋縄ではいかないようだ。むしろこれまでが上手く行き過ぎた。

 

「はあ、リハビリ、ですか?」

 

「ええ、実はちょっとした怪我をしてしまいまして」

 

 体調不良による休養は既に発表されている。辻褄は合う。

 

「あー、ニュースで見ました。怪我って、大丈夫なんですか?」

 

 落ち着け、焦るな。少しずつ、確実に。

 怪しいと思われてしまえば、手掛かりを逃してしまう。何気ない会話を装え。必死に自らにそう言い聞かせ、早まる鼓動を落ち着ける。

 

「はい、今は」

 

「しかし、どうして立花を?同じ学校なのは知ってましたけど」

 

 知ったのはつい最近だが。色々と愚痴ついでに教えてくれた小日向には感謝だ。

 

「立花にはどうやらリハビリの経験もあるようですし、色々と話す機会にも偶然恵まれ、付き合ってもらっているのです」

 

(偶然、ね)

 

 確かにここまでも辻褄は合っている。小日向からの前情報がなければ納得したかもしれない。いや、色々と踏まえたとしても、納得できる要素の方が多い。だが、

 

(違う。何か隠してる)

 

 勘だ。ただの勘。不思議と確信がある。サッカーと同じだ。フェイントでこちらの目線を誤魔化そうとしている相手と同じ匂いがする。

 何より、そうであるならば、立花が小日向に隠す理由が分からない。彼女は決して口は軽くない。重要な話だと分かれば、口を噤むに決まっている。少なくとも、自らに世間話がてら話すとも思えない。親友である小日向にも言えないこと。それこそ、非常に重要で、取り扱いが難しいような内容であるはずなのだ。『その程度』の情報を小日向に話さないわけがない。

 

(間違いない。何か知っている。一般人に知られるとまずいことを)

 

「なるほど、そうだったんですね。でもまあ、あまり無理せずに。無理しても良いことないですよ」

 

 白々しい。自分でも嫌になるくらいの作り笑い。

 

「お心遣い感謝します」

 

 しかし、分かったところで簡単に踏み込めるものでもない。

 

 そう、『簡単』には―

 

 

 

「妹が生きていれば、この状況に喜んだでしょうけど」

 

 

 

 ああ、

 本当に、自分が嫌になる。

 

 

 

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