何卒、よろしくお願い致します。
魔法。
それが伝説や御伽噺の産物ではなく、現実の技術となってからもうすぐ一世紀が過ぎようとしていた。
世界中の国々が“魔法師”の育成に日々邁進しており、それはこの国日本も例外ではない。
ー2095年8月7日ー
『ただ今より、九校戦新人戦二日目!《
アナウンスの声に競技場中から歓声があがる。
そんな中、一方の控室内では間もなく始まる試合を前にした選手に檄を飛ばしていた。
「そろそろだな…」
控室に設置されたモニターを確認した、男子生徒がそう呟く。
「エリカたちは観客席で応援するようだ。それに生徒会長と風紀委員長がわざわざここに来てくださっている。頼もしい応援だが逆に緊張するなよ。深雪。」
“深雪”、そう呼ばれた少女はこれから自らが所属する学校の威信をかけた試合前だと言うのに、朗らかな笑顔を浮かべ、声をかけた男子生徒へと近づいて言った。
「大丈夫です。だって…」
そう言葉を区切ると、近づけた身体をさらに男子生徒へと寄せ言った。
「お兄様がいてくださるのですから。」
そう蕩けた、しかし自信に満ち溢れた顔で目の前にいる男子生徒、自らの兄である《達也》に答える。
その様子を応援に来ていた生徒たちが苦笑いをしながらその様子に関して各々思ったことを口にしているが、当の本人達は特に気にしていない様子だ。
「じゃあ行っておいで、深雪。」
「はい、お兄様。」
その言葉を最後に深雪は会場へと歩みを進めた。
達也もまたその後ろ姿を信頼した様子で見送る。
そして、今まさに始まろうとしているのだという緊張感が控室を含めた会場全体を包んだ。
すると
「いやぁ〜、相変わらずお熱いネ!結構結構!!」
その緊張感など全く意に介さない声が響く。
控室の全員が声の方を向くと、そこにいたのは1人の成人男性であった。
いや、そういうと少し語弊があるかもしれない。
成人男性ということはそうなのだが、その風貌はそれまでいた生徒達とは全く異なっていた。
白髪というのに、決して不潔感を感じさせない髪の色。
この場合はロマンスグレーと言った方がしっくりくる髪が整えられ、ダークブラウンのスリーピースのスーツに白いマオカラーのシャツ。
首にはネクタイ代わりの赤いスカーフを身につけている。
そして、その風貌はその場にいる生徒達と比べて年齢も異なれば、人種すらも違っていた。
「いらしていたんですね。」
と達也がその人物を見て口を開く。
その声には普段あまり感情を表に出さない彼にしては少しうんざりしたような、呆れたような雰囲気が含まれており、心なしかその目つきは鋭かった。
「アレ?もしかして私歓迎されていないカンジ?」
と、その男は眼鏡の奥のブルーの瞳を見開くと、ガックシという音が聞こえそうなくらいにワザとらしく肩を落とす。
その様子に達也以外の生徒も呆れた表情をみせた。
「いいえ、貴方の様な方がこの様なところにまで足を運んでいるのが意外だったので…。」
「うむ、確かに!」
達也がそう言うと、男性は先ほどまでとは打って変わって、背筋を伸ばした。
「まぁ、本来ならば私の様な研究畑の枯れた老人に、青春真っ盛りの未来ある若人達が集うような場は似使わないのは認めるがネ!イヤァ〜、もう若者の煌めく笑顔と迸る汗が眩しいのなんの!!」
自虐的であるのに、どこか自信溢れている。
そんな矛盾に満ちた様子の男性を生徒たちは再び呆れたような、残念なものを見るような目で黙って見ているが、やはり本人はそんな視線などお構いなしに達也達へと近づいてくる。
そして、男は達也の横に立つと彼の方を横目で見て言った。
「教え子の晴れの舞台だ。一教師として見にこないわけにはいくまい。」
「そうですか…。」
達也は男から目線を外し、妹が映し出されたモニターへと目線を戻す。
そして、言った。
「なら、せめて人の妹の晴れ姿をあまり不謹慎な目で見るのだけはやめて下さいね。」
「む、失礼なコレは娘を見守る親心に溢れた目だヨ!」
達也の言葉に教授と呼ばれた男が返す。
そして、続けて言った。
「もっとも第一高校の生徒は皆、私にとっては子供のようなものサ!君も含めてね達也クン!」
「それはどうも…。ありがとうございます、モリアーティ教授。」
そう男の名前を呼ぶと試合終了のブザーがなる。
結果はもちろん妹の圧倒的な勝利だ。
そして、目線だけをモニターから再び横にいる男へとむける。
そこに映ったのは、笑顔だった。
しかし、それまでの好々爺のようなものではない。
例えるならそう好奇心に溢れた笑顔。
だが、達也は感じていたその笑顔と好奇心の底にある、何処か悪意に満ちた何かを。
そして、思い返す。
初めてこの男、ジェームズ・モリアーティと出会ったあの日。
自分と妹が第一高校に入学したあの日のことを。
to be continued