魔法科高校の特別講師   作:†AiSAY

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入学編Ⅰ

国立魔法大学付属第一高校。

毎年、国立魔法大学へ最も多くの卒業生を送りこんでいる高等魔法教育機関と知られている。それは同時に、優秀な魔法技能師をもっとも多く輩出しているエリート校と言う事でもある。

 

 徹底した才能主義。

 残酷なまでの実力主義。

 それが、魔法の世界。

 

魔法教育に、教育機会の均等などと言う建前は存在しない。

この学校に入学を許されたということ自体がエリートということであり、入学の時点から既に優等生と劣等生が存在する。

同じ新入生であっても、平等ではない。

 

 第一高校・講堂

 

新入生として、今日入学を迎える司波達也は入学式の為にここを訪れていた。

途中、登校してすぐに妹である深雪とのいざこざや、生徒会長である七草真由美との出会いなどもあったが、今は何事もなかったかのように講堂へと足を踏み入れた。

そして、達也はその建物内を見て思う。

 

(前半分が一科生、後ろ半分が二科生。ここまできれいに分かれてると感心するな)

 

魔法科高校に平等という言葉は存在しない。

この学校の制服がそれを顕著に表している。

左胸に8枚の花弁のエンブレムを持つ一科生-《花冠(ブルーム)

それを持たない二科生-《雑草(ウィード)

入学試験の成績で定員二百名が真っ二つに振り分けられるのが、この第一高校の習わしである。

魔法実技の個別指導を受けられるのは一科生のみ。

二科生はあくまでもそのスペアでしかないのだ。

 

達也は講堂内の席の割り振りを見て、その揺らぎようない事実、いや現実を再認識した。

しかし、その顔に落胆もましてや憤りのかけらすらない。

 

(もっとも差別意識があるのは、差別を受けている者である。か…)

 

と、そんな言葉を思いながら席に座ろうとする。

 

「あのぅ…」

 

すると、隣から躊躇いがちに声をかけられた。

どうやら、自分の隣の席が空いてるかを確認したかったらしく、達也は特に気にする事なく座ることを許した。

声をかけていき眼鏡の少女柴田美月とその彼女の連れらしき快活そうな赤毛の少女千葉エリカが達也の隣の2席に座る。

2人とたわいもない自己紹介まじりの会話をしてると、講堂内に声が響いた。

 

《ただ今より、国立魔法大学付属第一高校入学式をはじめます》

 

その言葉により、入学式が開会せれた。

学校長の言葉に始まり、先ほど入学式の前に会った生徒会長の祝辞がその後に続く。

そして、次はいよいよ妹である深雪の新入生総代の答辞である。

 

その内容は達也からしてみれば、際どいワードが含まれていた。

“皆等しく”

“魔法以外でも”

“共に”

 

等々

 

ただでさえ実力主義の魔法社会は選民意識が強い。

ここはその中でも取り分けエリートと呼ばれる者だけが入学を許された第一高校なのだ。

正直言って、達也は深雪が発した言葉に気が気ではなかったが、どうやら生徒達は答辞の内容よりも深雪の美貌に夢中なのようで、それは杞憂と終わり一人胸を撫で下ろした。

 

(どうやら、何事もなく終わりそうだな)

 

と達也は安堵した。

しかし、それは次に登壇する人物によって打ち崩される。

達也だけではない、第一高校全体がその人物によって困惑の渦に巻き込まれることなった。

 

深雪による新入生代表の答辞が終わると、司会者が最後のプログラムを伝える。

 

『続きまして、最後に当第一高校の名誉講師からの挨拶となります。』

 

その言葉に達也をはじめ、全員が壇上に注目する。

すると、舞台袖から1人の男が現れた。

整えられたロマンスグレーの髪。

ダークブラウンのスリーピーススーツに白いマオカラーシャツと赤いスカーフ。

正装のためか、その人物はその上から黒いマントを羽織っていた。

見た感じ齢50歳前後といったところだろうか。

慣れたように台の後ろ立つその人物を見て、新入生達は少し驚いた。

何故なら今自分達の前に立つ人物がどう見ても日本人ではないからだ。

ここ第一高校は国立魔法大学の附属となる、その為そこで教鞭を持つ者も等しく現在の日本社会において評価を受けた魔法師達であることは、周知の事実である。

20年続いた第三次世界大戦が終結してから35年が経つ世暦2095年現在、魔法技能師養成のための国策高等学校。

それが魔法科高校である。

魔法技術はその国の一財産であり、外交において重要なファクターである。ましてやここは次代のその財産を育成する第一線、他国の妨害、情報漏洩に関して最も慎重を要する場なのである。

皆その認識だからこそ、今目の前にいる人物に驚きを隠せずにいた。

 

しかし、当の本人はそんな新入生の疑問などは知ったことではない、あるいは知っているが気にするなとでもいうように、話始めた。

 

「うむ、まず一言お詫びをしよう。」

 

そう老紳士が口を開く。

そして続けて言った。

 

「いやはや、仕事とはいえ麗しの生徒会長の祝辞、そして可憐な新入生総代の答辞の後、最後はどんな人物が現れるかと気になっていた紳士淑女の諸君。残念!キミたちの入学式の最後を飾るのは胡散臭いオジサンでした!!」

 

そのやたらテンションの高い声が響き、講堂内で木霊する。

新入生は目の前の状況についていけず混乱していた。

 

国策の第一高校の名誉講師が外国人であること。

その外国人が流暢な日本語を喋っていること。

落ち着いた老紳士然とした見た目に反する、ハイテンションな挨拶。

 

『あ、あの教授?』

 

すると、司会をしていた生徒が名誉講師(?)に呼びかける。

教授と呼ばれた老紳士はその声に反応する。

 

「おっと、すまないね服部くん。少々気持ちが昂っていたようだ。何せ栄えある第一高校の入学式、この国の次代を担う若人達の初々しさに恥ずかしながら年甲斐もなく当てられたようだ。」

 

そう言いながら、老紳士は居住まいを正すと今度は真剣な面持ちで新入生達を見で再び話始めた。

 

「はじめまして、諸君。第一高校特別講師のジェームズ・モリアーティだ。先ほどの紹介では名誉講師などと持て囃されてはいるが、所詮はしがない雇われ教師なので、気を使わなくて結構。」

 

そう言って、ジェームズ・モリアーティと自己紹介した老紳士は笑顔を見せる。

すると新入生達の間からざわめきが起きる。

その中で達也も声には出さないものの、内心驚いていた。

しかし、モリアーティはそのざわめきを気にすることなく、挨拶を続ける。

 

「さて、キミたちは今驚いていることだろうが、その前に…」

 

と、モリアーティは壇上のマイクを外すと、そのまま手に持ち台の前に出てきた。

そして、次の発言に会場内はさらにどよめく。

 

「ところで後ろに居る二科生の諸君、私の声は届いているかね?」

 

その発言に新入生だけでなく会場全体の空気が変わる。

達也もまたその発言に自身の耳を疑う。

第一高校の講師それも名誉講師が何よりもまずニ科生に向けて言葉を発したのだ。

しかし、やはり当の本人はそんな空気を無視して続ける。

 

「うむ、その様子だと私の声は届いているようだ、安心安心。さて、では諸君らの疑問に答えよう。まず、何故私がこの第一高校にて講師をしているかといえば、その答えは単純明快だ。私自身がこの学校で教鞭をとることを希望し、日本そして母国である英国がそれを受理したというだけの話だ。もっとも流石にいくつかの制約はあるし、それをここで語るのも御法度のわけだが。」

 

と、モリアーティはヤレヤレといった風に壇上を歩きながら説明したする。その様子は挨拶というよりは、寧ろ講演といった感じである。

 

「そして、私が講師として担当するのは主に魔法理論が専門となる。魔法工学、幾何学、すなわち実践ではなく理論。なので、将来的に魔法工学技師を目指している者がいるならばいつでも質問に来るといい。」

 

その説明に一旦は生徒達の疑問は解消されたのか、先ほどまでのざわめきはおさまった。

しかし、ただ1人達也だけは未だに納得がいかずにいた。

 

確かに現在第一高校に限らず、日本において魔法師の教員は不足している。ただでさえ、魔法師の総数は少ない。その大半は分野を問わず第一線での活躍が望む為、後進の育成に割く余裕はないのが現実だ。

それこそ、海外からの講師を招く教育機関も少なくはない。

しかし、それがジェームズ・モリアーティとなれば話は変わってくる。

 

ジェームズ・モリアーティ

その名を知らない魔法師は存在しないと言われるほどの魔法理論の研究者である。

かつては主に若き天才数学者として名を馳せ、魔法が体系化されるとその分野においても頭角を現した。

先の大戦においてもその理論は運用され、多大な影響を世界に与えた。

はっきり言って、大戦後欧州連合が分裂した後も今の英国がある一定の地位にあるのは、彼の功績があってのものと言っても過言では無いほどだ。

 

そんな大人物が何故日本の高校での講師を自ら希望し、両国が受理しているのかが達也は理解できなかった。

英国にとってみれば自国の生命線を人質に取られているようなものであり、日本にとっては後進の育成という点や他の点についてもメリットは多大だが、他国の要人に今後の自国の魔法師の手の内を明かす、獅子身中の虫になる。

 

(やはり、水面下で日本と英国に密約があるのか?いや、しかし…)

 

そんなことを考えている達也をよそにモリアーティは話を続けていた。

 

「諸君らも眉目秀麗な女性の話の余韻を味わっていたいと思っていたところ、このような枯れた老人の与太話に付き合わせてすまないね。だが、まぁ学園長のありがたいお話にも付き合えたのだから、この老人の話にも耐えられると信じているよ」

 

と、冗談交じりに問題発言をする。

その言葉に先程の緊張感や懐疑的な空気など無かったかのように、学生たちのクスクスとし笑い声が聞こえ、講堂内は和やかな雰囲気となる。

最も学園長本人や教師陣、生徒会役員などはそこに含まれていないのだが。

 

「さて、長々と話して申し訳ない。そろそろ、終わりにしよう。」

 

そう言って、モリアーティは台の後ろへと戻る。

そして、目の前の生徒達を見据えて言った。

 

「さて最後に諸君伝えるべきこと、それはここにいる全員に向けての言葉だと思って欲しい。」

 

先ほどまでの陽気な雰囲気とは打って変わって真剣な、しかしどこか皮肉めいた顔でその老紳士、ジェームズ・モリアーティは言った。

 

「花を咲かせたからと言って、枯れては意味がない。雑草だからと言って踏まれることに慣れてはいけない。」

 

その言葉により、再び講堂内がざわめいた。

達也もまた心の中で頭を抱える。

登場しただけでも混乱を招き、それが収束した途端に特大の爆弾をその男は落とした。

それはたとえ海外からの来賓講師だからといっても、第一高校の属する者が口にしてはいけない言葉だ。

 

(自分が今何を言ったのかわかっているのか?)

 

「正直に言って、私には枯れた花も朽ちた雑草も見るに耐えないのでね。私的には花であっても草であっても、その可憐さや青々さは眩しく見えるものだ。まぁ枯れた老人の戯言だと思って頭の片隅にでも置いておいてくれたまえ。」

 

そういうと、モリアーティは何事もなかったかのように壇上を後にしようと、歩きはじめた。

が、何かを思い出したように足早に元の位置に戻ると再び生徒達を見て言った。

 

「諸君。遅ればせながら、入学おめでとう。」

 

そう言って、今度こそ舞台を後にし消えていった。

嵐の過ぎ去った後、そう思えるような静寂が講堂内を支配していた。

 

これが魔法科高校の劣等生 司波達也と特別講師 ジェームズ・モリアーティの邂逅であった。

 

to be continued

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