第一高校入学2日目
1年E組となった達也は教室にて選択科目の履修登録も終わり、もう間も無く始まろうとしているガイダンスを含めたオリエンテーリングを待っていた。
その間、入学式で見知った顔である柴田美月と千葉エリカに加え、達也のタイピングの速さに反応したをきっかけに、西城レオンハルトとの交流もあったが、それ以外は特に何事もなく時間が過ぎようとしていた。
予鈴がなり、全員が着席すると間も無く前のドアが開く。
達也が目を向けるとそこには白衣を着た女性が入室したが、達也はその女性の後ろにいた人物の存在に目を見開く。
いや、達也だけではない。
教室にいた全員がその姿に驚いた。
忘れもしない、昨日の入学式において場を荒らすだけ荒らして何事もなかったかのように退場したあの老紳士、いや第一高校の名誉講師ジェームズ・モリアーティである。
(またか、一体今度はなんなんだ…)
達也は目の前の出来事に珍しく頭がついていけず、ただただ成り行きを見守ることにした。
モリアーティは教壇に立ち、生徒達を見つめる。
生徒達もまた何が始まるのかと身構えていた。
が、その空気は一瞬にして破壊されることとなる。
「Good Morning!!Every one , Boys&Girls!! 久しぶりだね、正確には約24時間ぶりと言ったところかな?改めて入学おめでとう!」
「は?」
まるでかつての中学校の英語の授業のような挨拶に誰かがおもわず言った。
しかし、ここにいる全員が口に出さずとも同じ反応だったのか、それはスルーされた。
「あ、あのモリアーティ教授?」
すると、後ろに控えていた白衣の女性が声をかける。
モリアーティはその声にハッとすると、今の第一声を無かったことにしたらしく、改めて話し出した。
「うおほん!あぁ、失礼失礼!諸君らの若々しさに負けないようにと、昨日から気合いを入れて考えた掴みの挨拶だったのだよ。イヤだって、第一印象って大事だもんネ!」
と、年甲斐もなくウィンクしながら同意を求める初老の男性講師にどう反応したらいいのか分からず、生徒達は呆気に取られ放心していた。
「アレ?遥クン、もしかして私スベってるかな?」
「いや、今のでいけると思ったんですか教授?見て下さいよ、生徒達の反応をアレが答えです!と言うか、一晩考えた挨拶がアレですか!?」
と、遥クンと呼ばれた女性がモリアーティにつっこむ。
その様子を見て生徒達は思った。
一体自分達は何を見せられているのだろうと。
そんな空気を感じたのかモリアーティは再び無かったことにして、今度は少し真面目に話し出した。
「失敬。さて、改めて自己紹介といこうじゃないか。私はジェームズ・モリアーティ、昨日の入学式でも話したがこの第一高校にて特別講師をしている。主に座学である魔法理論が担当となるわけだが、ここでは座学の教員などお飾りでしかないがね。なにせ授業はオンラインにて行われる為、直接指導は主に実技のみとなる。とはいえ、それも一科生に向けてのものだから、キミ達にはあまり関係ないと言えば関係ないか…」
その言葉に教室の空気が沈んでいく。
モリアーティが言ったことは事実であり、自分達もそれは重々承知していた。
とはいえ、いざ面と向かって言われるとやはり気にせずにはいられない。
すると誰かが呟いた。
「昨日は平等に扱うって言ってたのに…」
すると、静寂の為かその呟きは思いの外、教室内に響いた。
そして、それはもちろんモリアーティにも聞こえたため、モリアーティはその言葉の方へと目を向ける。
その眼差しは先ほどまでの陽気さとは打って変わって、力強いものだった。
その眼力に教室の生徒達はたじろぐ。
仮にも教員に向けて非難の言葉を吐いたのだ、誰もがモリアーティの気分が害されたと思い、この後にあるであろう叱責を覚悟した。
しかし、モリアーティが口にしたのは叱責とは異なるものだった。
「ふむ、気分を害してしまったのなら申し訳ない。」
そう言って頭を下げる講師の姿に皆が目を疑う。
そして、モリアーティは頭を上げると、冷静に語り始めた。
「なるほど、だが初めに言っておくが、実技授業において君達が直接指導を受けられないのは事実だ。そして、その理由が君達が二科生であることに由来していることも分かっていることだと思う。そして、何故君達が二科生なのかと問われればそれは単純に君達の入学試験の成績に由来する。」
そう冷静に淡々と述べる講師の言葉は紛れもない事実である。
その為、今度は誰も反論の余地なく黙って聞いていた。
「だが、考えても見たまえ。そもそも定員二百名である第一高校において、一科生と二科生の割り振りは上位百名以上と以下という何ともまぁ単純明快な組み分けだ。そこでだ、諸君。成績100位の生徒と101位の生徒にいかほどの違いがあると思う?」
その言葉に生徒達は目を見開いた。
モリアーティはその様子を見ると笑顔で頷き、続けた。
「そうともだから君達と一科生の差なんてそんなものなんだヨ。もし君達の目の前で100位の生徒が101位の生徒に対して『やーい101位でやんの!俺は100位!』と言っている場面に遭遇したとしたら、滑稽なことこの上ない。」
そう言うと、生徒達の先ほどまでの雰囲気が明るいものとなった。
「まぁ、もっともだからと言って1位と200位を同じように考えるのは厳しいがね。純粋な実力社会である以上、上と下は存在するが、それは世の常と思って受け入れるしかない。だから、今一度、君達にこの言葉を伝えよう。」
そう言ってモリアーティは教壇前に出て来た。
その姿を見る生徒達の目は先ほどまでの悲嘆にくれたものとは違い、真剣な眼差しである。
「1年E組の二科生諸君。あえて今この場では《
そう語ると教室が一瞬静寂に包まれる。
すると口火を切ったように教室が拍手に包まれる。
「さて年甲斐もなく熱く語ってしまったが…。これで、最初のスベった失態は取り戻せたかな?」
と、冗談めいたように言うと生徒達から笑いが起きた。
その様子をモリアーティは安心したように満足した顔になると再び教壇の後ろに下がった。
「さて、本当はこんな話をするために来たのではなくてね。今日はこの学校における私の立ち位置、もっと言えば諸君らにとっての私の使い方について話に来たのだよ。先ほども言ったようにこの学校における座学はオンラインで行われる。一科生、二科生ともに一年生は例外なくね。そうなると、本当に私はただ有るだけの飾りになってしまうのでね。なので希望者は私が直接指導を行うことにしたのだよ。なので、私の指導を受けたいと言う物好きは履修登録の際にそれを踏まえて登録してくれたまえ。」
その言葉に生徒達から驚きの声が上がる。
達也もまた口には出さないものの、驚きを隠し得なかった。
魔法理論学の権威たるジェームズ・モリアーティの直接指導が受講できる。
魔工師志望の者ならこれ以上ない機会であるからだ。
「まぁ無理にとは言わんよ。座学に関心のある者、あるいは私を置物にしたくない慈悲深い生徒がいたら考えて見てくれたまえ。詳細はこれから行われるガイダンスにて説明が行われるので、詳しくは彼女に聞いてくれ。では、諸君らの学生生活が実り多きものとなるよう祈っているよ。」
そう言って、モリアーティは教室を出ていった。
そして、残された白衣の女性、第一高校の総合カウンセラーである小野遥がその後を引き継ぎ、説明が始まった。
そんな中、達也は登録の終わった自身の履修内容を再度確認した。
そして、少し考えると再びタイピングをして、再登録を行う。
その内容の中には先ほどまでにはなかった授業が登録されていた。
《魔法理論学総合 講師:ジェームズ・モリアーティ》
その登録された内容を見て達也は思う。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか。どちらにしろ、これはいい機会なのかもしれない。)
その心情の中には二つの思惑があった。
一つは魔工師としての興味、そしてもう一つは…
to be continued