達也達生徒たちの前には入学式から第一高校を騒がしている人物、ジェームズ・モリアーティが立っていた。
その姿は昨日、今日とは少し異なっており上着は来ておらず、ベスト姿そしてメガネもかけておらず手には杖を遊ばせるように持っていた。
皆が呆然とする中、風紀委員長の摩利が尋ねる。
「教授どうしてここに?」
「いやなに、残っている仕事の息抜きと散歩がてら学内を歩いていたところ、キミ達がいたのでね。何やら、騒ぎがあったようだが…」
と、そこまで言うとモリアーティはその場にいた全員を見る。
そして、なるほどと一人納得したような顔をすると、生徒の内の一人、レオに向かってCADを向けた男子生徒に近いた。
男子生徒はバツの悪い顔をしている。
それもそうだろう、この状況がここまで発展したの自分の浅慮さによるものだと理解している。
そして、本人がいないとはいえ今目の前にいる人物を、年長者であり自らが所属する学校の特別講師、それも世界に名を轟かす人物を侮辱してしまった事実がある。
聞かれてないとはいえ、いざ当人を目の前にすると彼も顔を青ざめた。
しかし、モリアーティはそんな彼に向かって口を開き言った。
「ところで、腕は大丈夫かね、森崎クン?」
「え?」
モリアーティの言葉に森崎と呼ばれた生徒。
そして、その場にいる生徒全員が驚く。
しかし、モリアーティはそんな生徒達をよそにレオとエリカにも同じように怪我はないか尋ねる。
そして、言った。
「しかし、いくら若いとはいえ多少の節度は持つべきではないかね諸君。元気なのは良いことだが、だからと言ってCADを使い魔法を使用するのはチョットやり過ぎだと、私は思うよ?」
すると再び生徒達は驚き、目を見開く。
そして、皆が感じている疑問を真由美が代表して聞いた。
「モリアーティ教授、何故知っているのですか?」
「もしかして、見ていたのでは?」
と、摩利が真由美に続き尋ねた。
その言葉には若干の怒気が含まれている。
それもそのはず、モリアーティの言動はまさに目の前で起きた騒動を端的にとはいえ正確に把握している人物のそれだった。
ならばと真由美達は思ったのだろう。
その場にいながら、何故止めなかったのかと。
しかし、モリアーティは困ったような顔をしながら真由美に答えた。
「いやいや、さっきも言ったように私はたまたま通りがっただけだよ。」
「では何故?」
すると、モリアーティはわざとらしく少し驚いた表情をしながら言った。
「何故も何も、当然の論理的帰結ではないのかね?」
「論理的帰結ですか?」
と、モリアーティの言葉に訝しげむ真由美。
どうやら、他の生徒達も同様に疑問を持っているようだと感じたモリアーティは、ならばと話し始めた。
「第一に君たち生徒会長と風紀委員長の2名がいる時点で何かしら問題があったことは明白だ。何せ第一高校の最高権力者たる三巨頭の内2名がいるわけだしね。では、その起きてしまった問題が何かと問われれば、それもまた簡単だ。」
そして、モリアーティは摩利を見る。
突然、目線を向けられた摩利は内心少し驚いたが顔には出さない。
そんな摩利に笑顔を向けながらモリアーティは続ける。
「ここにいるのが生徒会長の七草真由美クン以外に風紀委員長の渡辺摩利クンがいるということは、それは学校内の風紀が乱れたということ、ではどのように風紀が乱れたのか、それは摩利クンが今もなお起動式を展開していることから察せる。まさか服装の乱れた等といった小事にまでいくら摩利クンでもそこまではしないだろう…。しないよね?」
と、自分を見てくるモリアーティに摩利は呆れながら「当たり前です」と言った。
「ならば、それは魔法を使用してまで止めるべきと判断される事案。そう、例えば魔法の規定外の使用ではないかと推測できる。」
そう言って、今度は一科生を見る。
その全てを見透かしたような目線と淡々と事実を見てきたかのような語りに一科生達は全員下を向く。
「もちろん、それだけでは根拠としては不十分だが…、そこに転がっているCADと友人に支えられている女子生徒、光井ほのかクンの様子を見れば予想はつく?」
その言葉に森崎と呼ばれた先ほどの男子生徒と光井ほのかと自分の名を呼ばれた女子生徒の身体がビクリと反応し、怯えたような顔をする。
そしてモリアーティは続ける。
「あのCADは攻撃重視の特化型だ。あのようなものを持っているとしたら、要人の護衛を代々生業としている森崎一門の者以外おるまい。違うかね?」
「はい…」
と、森崎はモリアーティに正直に答える。
「そして、何故あのようなところにCADが転がっているのかといえば…。それは君の仕業かな、千葉エリカクン?」
と、エリカの方を見るモリアーティ。
しかし、エリカは驚きはしたものの森崎とは異なり首を縦にふり肯定はしたものの、特に気に留めていない風を装った。
「うむ、流石は剣の大家千葉家の御令嬢といったところか。その後ろに隠した物で恐らくは森崎クンのCADを弾いたのだろう。森崎一門が得意とするクイックドロウを上回る疾さをもって、対応できるのはキミぐらいなものだろうだからね。そして、それならばCADがあそこまで飛ぶのもうなずける。」
そして、モリアーティは今度はほのかの方を見る。
その目線にほのかはただでさえ縮こませていた身体より、縮こませた。
「そして、光井ほのかクンの今の状況。多少の疲労感と友人に支えられたところを見るとおそらく魔法を発動しようとしたところ何者かにキャンセルされ妨害されたと見える。この中でそんな芸当ができるのはキミぐらいかな、七草生徒会長どの?」
「はい、確かに彼女の魔法をキャンセルしたのは私です。」
そう肯定する真由美にモリアーティは笑顔でうなずく。
「では、最後にこうなった経緯というか経緯だが…」
と、モリアーティは再び現在の状況を見る。
そして、一科生の生徒達の方を見ると、ため息を吐くと呆れたような、残念そうな口調で言った。
「やれやれ、君たち私は言ったはずだ。『花であっても枯れては意味がない』と。」
その言葉に一科生達は驚き、顔を伏せる。
しかし、真由美と摩利はどうやらその言葉の真意をわかっていないようだった。
「どういうことですか教授?」
「あくまでも予想だがね。おそらく、彼らが二科生に対して己の有能性を証明しようとしたのだろう。状況から察するに原因は…」
すると、今度は深雪の方を見て言う。
「キミかな司波深雪クン?」
その言葉に深雪は目を見開くと、やはり顔を伏せる。
達也が深雪の庇うように前に出るが、モリアーティは続けた。
「もちろん、彼女がどうこうしたというわけではない。おそらく、彼女は兄であるキミ達也クンと行動を共にしたいと願ったが、一科生の彼らに誘われていたのだろう。そうこうしているうちに、一科生と二科生の間で恒例の対立が起き、ここまで発展したと言ったところかな?」
そう言って再び一科生の方を向くと言った。
「キミ達が優秀であることは周知の事実であり、それは誇るべきことだ。しかし、キミ達が誇るべき魔法とは、果たしてそうやって使用するものなのかね?」
その言葉に森崎をはじめとした一科生達は下を向く。
「キミ達がしたことは魔法師として以前に人として最低の行為だ。己の才能に自己陶酔し、優越感に浸り、他者を蔑ろにする。それが今のキミ達の姿だ。そんなキミ達は自らが第一高校の生徒、ましてや一科生だのブルームだののたまわっても、この老人の目には滑稽にしか写らんがね。」
そして、今度は二科生の方を見て言う。
「だが、キミ達も単純な被害者というわけではない。事実として森崎クンに手を上げた事実は変わらない。冷静さを持ってすれば十分に対処できたはずだ。《雑草だからと言って、踏まれることに慣れてはいけない。》。この言葉の意味をもう一度考えくれたまえ。」
そのモリアーティの言葉に一科生と二科生達はともに意気消沈する。
そのような状況を打開しようと真由美と摩利が声を上げようとしたその時。
この状況を作り出した本人からありえない言葉が飛び出した。
「と、言うのがあくまでも老人のあくまでも予測の範囲を出ない戯言なのだが…。本当のところはどうなのかね、司波達也クン?」
その一言に全員が、そして達也も驚いた。
そして、その言葉に意味がわからないと言ったふうに真由美がモリアーティに尋ねる。
「え、教授、どういうことですか?」
「イヤぁ〜、どうもこうも言った通りサ。あくまでもコレは私の予想に過ぎないからね。実際、私がくる前に彼が、摩利クンに何かを伝えようとしていたようだからね。本当のところはどうなのかと思っただけサ。」
その一言に摩利が思い出したように達也に近づき尋ねた。
「君、教授はああ言っているが、どうなんだ?」
摩利はモリアーティが言ったことが、正しいのか、そして先ほど達也が何を言おうとしたかを確かめた。
達也は内心考える。
モリアーティは予想と言ったが、もはやそれは事実だ。
しかし、それを肯定してしまえば今後の学生生活が面倒なものとなる。
何よりこのまま話が進めば、ここにいる全員が風紀委員から指導を受け、一科生と二科生の軋轢は入学2日目から明確なものとなってしまう。
そして、それは達也と何より深雪にとって良い状況とはあまりにも言えない。
そして、達也は気づかれないように目線を動かす。
その先にあるのは、こんなデタラメな状況を作り出した張本人のジェームズ・モリアーティだ。
すると、達也とモリアーティの目が合う。
そして達也は見た。
モリアーティが自分を見て目を細めたのを。
達也は驚きが顔に出ないよう努めた。
(仕方がない…)
そう思い覚悟を決めて言った。
「申し訳ありませんが、モリアーティ教授が仰ったことは違います。」
その言葉にモリアーティ以外の全員が目を見開く。
そして、達也は摩利と真由美に言った。
あくまでも悪ふざけであったと。
ことの発端は森崎一門のクイックドローを後学の為に見せてもらうだけだったが、あまりのスピードについ手が出てしまったのだと。
そして、光井ほのかも同様であり、彼女が発動しようとしていたのは威力が抑えられた閃光魔法に過ぎないと。
その説明に摩利は訝み、納得いく様子ではなかった。
しかし、真由美の取りなしにより何とか不問となった。
こうして、事態はやっとの収束を迎えた。
最後に真由美と摩利がモリアーティに向かい言った。
「と、言うわけで教授。」
「今回の件はこのような形となりましたが、よろしいですか?」
すると、その言葉にモリアーティは笑顔で答えた。
「モチロン!学園最高権力者のキミ達の決定だ。私になどにそれを覆す権利も反対する権利もない!」
「もぅ、その最高権力者っていうのやめて下さいってば!」
「あぁ、まるで私たちが悪のボスみたいじゃないか?」
するとモリアーティはさらに笑顔で言う。
「何を言っているのかね!悪のボス!結構じゃないか!もっとも、それを自覚していないあたりは流石と思うがネ!!」
と、そのモリアーティの一言に二人の怒りが周囲に見えた。
二人はせめてもの意趣返しにと悪い笑顔を浮かべて言った。
「それにしても、教授の推理見事でしたね。」
「あぁ、流石は世界最高峰の魔法理論の権威ジェームズ・モリアーティだったな。」
しかし、そんな嫌味もどこ吹く風。
モリアーティはそんな二人の言葉に対して、心底楽しそうに言った。
「いやなに、外れたが私が赤っ恥をかくだけですんだのだ。生徒諸君が学生生活の始まりでつまずかなかったことを心から喜ぶことにするよ。キミ達二人もそうだろう?詳細はどうあれ、コレもまたキミ達が直面すべき課題なのだから。」
と、飄々と語る目の前の老紳士の懐の広さというか、柳に風、暖簾に腕押しなその余裕な態度に真由美と摩利は相手が悪いと思ったのか、その皮肉には反応せず、ただ一言。
「では、今回の報告書の作成にこの後、ご協力お願いしますね。モリアーティ教授。」
と言って、去って行った。
モリアーティは新たにできた仕事にトホホと言いながらも、その顔には勝者の笑みが浮かんでいた。
そして、モリアーティも立ち去ろうとしたが、
一度、止まってから振り向くと達也を見ながら全員に言った。
「ではまた諸君。改めて今後とも宜しく頼むよ。」
夕焼けに赤く染まる校舎へと向かうその後ろ姿に生徒達はお辞儀をして見送ったが、
唯一達也のその背中を見る瞳は一抹の疑心に満ちていた。
to be continued
『魔法科高校の特別講師』をご愛読の皆様
まずはこの場にて、ご評価、誤字のご指摘を賜りましたこと、この場にてお礼を申し上げます。
さて、前回も申しました通り、モリアーティというキャラクターは非常に魅力的な人物ではありますが、その反面と申しますが、非常に動かすことが困難なキャラクターです。
それはひとえに、その人物像の理解が複雑怪奇であることが理由として挙げられますが、私自身はその理解できない不明瞭さが彼の魅力なのだと思っております。
まだ、入学編の序盤の序盤ではございますので、あまりモリアーティの本質と言いますか本来の姿を出せていないのは私としても歯痒く思っております。
ですが、少々のネタバレとなってしまいますが、現状の彼の行動、言動は、まぁ地盤固め的なモノと思っていただければと考えております。
ですので、「アレ、新茶ちょっと良い人すぎない?」と思うかもしれませんが、気長にお待ち下さい。
今後とも、皆様のご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い致します。