幻の夢を見た鬼の話   作:かくてる

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二話 同族殺し

 天魔に促され、明雅はここまでの経緯をこと細かく天魔に話した。

 これは明雅と天魔が再開して、遡ること半日前の出来事だ。

 

 

 

 

 

 鬼は地底のある大部屋でいつものように宴会を嗜んでいた。

 いや、嗜むなんて可愛いものでは無い。誰しもが口を大きく開けて大笑いをし、ポツポツと殴りあっている鬼達もいた。

 

 そんな鬼達とは離れた場所で一人、窓際に座って外を眺めながら盃を回している鬼がいた。

 窓の外は何も無い、つまらない景色が広がっていた。

 地底という貧困にまみれた世界で唯一生き生きしているのが鬼くらいなもので、別の妖怪たちは生きる場所を見失って行き着く場所でもあるのだ。

 

 紫水晶のような前髪の間から曲線を描き、天を貫くかのような二本の角を持っている少年。

 

 そんな鬼を見つけた一本角の女性。

 華やかな着物は大きく気崩されており、肩から胸元までは白い肌をさらけ出していた。

 右腕を広げ、それは少年の首に回される。

 大きな打撃音と共に少年に女性の体重が全て乗る。その体重に耐えきれず、少年は盃の中の酒を半分ほど零してしまう。

 

「おぉーい! なぁーに黄昏てんだよ!」

「勇儀、一人酒というものを知らないのかい?」

「知ってるさ。ただし、一人酒はつまらん」

 

 星熊勇儀という鬼の四天王が一人。

 怪力乱神を持つ彼女は鬼の中でも最先端を行く実力者だ。

 

「ははっ、勇儀らしいな」

「分かってんならほれほれ、お前も混ざってこいよ!」

「あそこに行くと疲れるんだよ……」

「みんなあんたのこと尊敬してるからなぁ……おーい! お前ら! 明雅も一緒に飲みたいってよー!」

 

「本当ですか!?」「明雅さんこっち来てください!」などと口々に鬼がこちらに走ってくる。

 勇儀の大きな声で9割がた反応したのではないだろうか。

 こうなってしまっては手の付けようがない。諦めて、鬼の仲間たちと飲むことにしよう。

 

 ちょうどその時、明雅に声をかけた一人の鬼がいた。

 

「明雅。少しいいかい?」

「ん? どうしたんだ?」

「悪いなお前ら、少しだけこいつを借りていくよ。明雅、外に出てくれ」

「? ああ、分かった」

 

 明雅は言われるがまま、大部屋の外に出た。

「ここでいいか……」とそう声がかかった瞬間、

 

 突如として、明雅の周りの地面が割れた。

 誰かが人為的に自分を攻撃してきたものだと、直感的に、否、張本人は目の前にいた。

 

 

 

「……何のつもりだ? 萃香」

 

 

 

 大きく地割れした地面を尻目に明雅は目の前で魔力と殺意をふんだんに放出するかつての友がいた。

 

 茶色の長い髪の側頭部には立派な角が対になって伸びている。

 身長は明雅よりも二寸ばかり低く、幼い体つきである。

 そんな幼い子供のような鬼が怒りを体現したかのように拳を握り、歯を食いしばっていた。

 

「何のつもり? 笑わせるなよ」

 

 普段の彼女からは放たれもしない冷めきった声。鬼の四天王が一角の怒りに触れてしまえば、そこで人生は終わると言っても過言ではない。

 

「はて、萃香に笑われるようなことはした覚えはないな」

 

 それでもなお、巫山戯た返答をする明雅に萃香は更に怒りを顕にし、魔力を漂わせた。

 

 萃香の魔力は周りにいた他の鬼たちを戦慄させた。腰が抜け、小さく悲鳴をあげている者もチラホラと見える。

 その輩を明雅は鼻で笑う。

 

「……何故……」

 

 萃香の声には何も怒りだけでは無いようだ。

 萃香は唇が震え、目を細めていかにも悲しげな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

(なかま)を、殺したんだ──」

 

 

 

 

 

 萃香の質問は至ってシンプルだった。

 

 鬼という種族は殴り合いの喧嘩はあれど、殺し合いはご法度なのである。

 喧嘩したあとは決まってお酒を酌み交わし、まるで宴会のように盛り上がるのが今の鬼という種族のならわしでもあった。

 しかし、明雅という男はそれすら破った大罪人として、今まさに伊吹萃香に裁かれようとしていた。

 

 明雅は酌量の余地はないと考え、自ら罪を重ねようとしていた。煽るように萃香を鼻で笑う。

 

「はっ、殺して何が悪い? 自分に害を与えた奴に裁きを下すのは当然だろう?」

「……その裁きが……「殺害」だと言うのか?」

「ああ、その通りだ」

「巫山戯るなッ! 鬼とあろうものが、殺しを働くなんて……お前だってわかっているはずだ。鬼という存在である以上、一番の大罪は「生き物を殺すこと」だって……」

「もちろん知っているとも」

 

 萃香の返答に間もなく即答していく明雅。

 彼の瞳には無機質な感情が浮かび上がっている。それを悟った萃香は更なる怒りを積み上げていく。

 

「仲間を殺して、何も感じないのか?」

「どういうことだ?」

「後悔も、悲壮も、何もかもを感じないその眼はなんだ」

「そんな言い方をされると傷つくなぁ。まぁ、何も感じていないのは事実だ」

 

 瞬間、地面を思い切り蹴った萃香の硬い拳が明雅の額に、頭蓋骨を割るようなグーパンチが明雅の肌を捉える──その寸前で明雅はひらりと横に避けて躱した。

 

 勢いの余った萃香は大部屋のある建物と道を挟んで向かいにある小屋までスピードを落とさず突っ込み、その小屋そのものを破壊した。

 そして、倒壊し崩れ落ちる瓦礫が萃香を潰すかのように崩れ、完全に音がしなくなった。

 

「な、何が起こったんだい!?」

 

 大きな物音に反応して、酔っ払ってどんちゃん騒ぎしていた鬼達が慌てた様子で降りてきていた。

 その先頭になっていたのは先程まで酒をぐびぐびと呑んでいた勇儀だった。

 

 ついさっきまでの勇儀の眩しい笑顔とは対照的に心配するように顔を歪めていた。

 

「ああ、勇儀。お前からも萃香に言ってくれ」

「は、……」

 

 倒壊した小屋の瓦礫が今度は重力に逆らって明雅目掛けて飛んできていた。

 明雅はそれをまたもや躱した。

 明雅の目線の先には瓦礫に埋もれていたくせに傷一つついていない萃香がいた。

 

「おい萃香、何をしてるんだい。喧嘩するならもう少し広い場所で──」

「勇儀、こいつは……」

 

 勇儀の言葉を最後まで聞かず、萃香は遮るように口を開く。

 その威圧感に勇儀はもう一度口を開くほどの度胸はなかった。

 

「こいつは……仲間を、鬼を……殺したんだ……!」

「……は、えっ」

 

 勇儀は盃を落とす。そのままそこで呆然と立っていた。

 酒をこよなく愛する勇儀にとって、盃が命の次に大事だと言わんばかりにいつも持っていたはずなのに、今回ばかりはそれをも簡単に手放した。

 

「ま、待てよ……明雅が……仲間を……殺した?」

 

 途切れ途切れの言葉を紡ぎつつ、勇儀のひん剥くように見開いた目を明雅に向けた。

 それは何も勇儀だけに限った話ではなかった。周りにいた鬼も全員が信じられないと言わんばかりに目を丸くして明雅に視線を集めた。

 

 それを明雅は感じた途端、「ハハハハっ」と一度声を大にして笑う。

 その笑い声にここにいた全員が背筋に冷たいものを感じた。

 

「そうだったね。勇儀達にはまだ言っていなかったよ」

「お、おい……冗談だろ? お前が冗談言うなんて、そんなにお前の呑んでいた酒は毒酒だったのか?」

「いいや、酔っ払ってなんかいないさ」

 

 ここでいくら言い訳を述べても、誰も信じまい。もしかしたら、勇儀はいくらか融通が利くのではないかと思ったが、今の萃香の状況を見ても、事実としてもどちらが悪かなど一目瞭然だ。

 

 これなら、もう自分が悪者を()()()()()()()()と腹を括った。

 口端を上げ、ここにいる全員を嘲笑するように。まるで、鬼という種族を見下すように、笑った。

 

「確かに、俺は同族を殺したよ。この手でね」

「ッッ!」

 

 勇儀が静かに息を呑んだ。

 ──裏切られたような感覚があった。

 勇儀の中でまだ明雅を信じている思いがあった。

 明雅という鬼の中でも温厚で心優しく、喧嘩を好まない彼に、生き物を、ましてや同族(なかま)を殺す度量は無いと思っていた。

 

 否、それが今ここで洗いざらい打ち明けられてしまった。

 そんな絶望を更に濃く塗り付けるように、明雅は続けて口を開いた。

 

「あぁ、そういえば最後に「死にたくない」って命乞いもしていたな。全く、最後の最後まで足掻いていて欲しかったよ」

「明雅……」

 

 明雅の顔がどんどん邪悪に染まっていく。

 いつもは綺麗だと思っていた紫色で透き通っている髪が、今度はもう毒々しい残酷な色にしか見えない。

 

 これは錯覚だとそう思いたい。

 勇儀からしてみれば、明雅は萃香よりも心を許せる親友だったのだ。

 誰よりも優しく、ただお酒ともなると最後まで付き合ってくれる。

 喧嘩したいといえば、勇儀が満足するまで殴りあってくれる。まぁ、一度も明雅からやりたいとは言われたことは無いが。

 心身ともに気丈であった勇儀が唯一甘えることの出来る存在だった。

 

 勇儀からはまるで兄のように見えていた明雅が、今、誰よりも悪を堪能していた。

 

 勇儀がそんな明雅に感じていた感情は恐怖でも悲壮でもなく、

 

 ──ただ「後悔」だった。

 

 明雅が「同族殺し」という大罪を犯してしまう前に私が止めることは出来なかったのか。

 明雅が仲間を殺してしまうほど追い詰められていたのならば、どうして支えることが出来なかったのか。

 今悔やんでも遅いとは思うが、どうしても思わずにはいられなかった。

 

 そんなことを思う勇儀なんてつゆ知らず、明雅は言葉を続けていた。

 

「さあ、萃香、勇儀。鬼の四天王である君達が私を裁くといい」

「……!」

「もっとも、殺そうとするなら、俺もそれなりの抵抗をするがね。まぁ、俺の実力じゃお前達には羽虫程度なんだろうが」

「明雅……どうして殺したんだよ……」

「言っただろう勇儀。おっと、これも勇儀達には言っていなかったか。そいつはね、うーん、そうだなぁ……俺の生活を脅かそうとしていたから、かな?」

「いつもみたいに、喧嘩で終わらせれば良かっただろ! どうして、殺しなんて……」

 

 鬼という種族は、妖怪の中でも体力と魔力は頭三つ以上抜けている大妖怪なのだ。その中でも「体力」だけはどの妖怪よりも強いと言われてきた。

 つまりどんな攻撃でも浅い傷なんかは秒針が動くよりも早く再生する。

 

 そんな能力が全員に備わっていたからこそ、地上では人間に手を尽くされて、こうして地底まで追いやられたということなのだ。

 

 そこからは静かに地底で暮らしいてた。

 静かかどうかは地底にいる周りの妖怪の見解なので、明雅達には分かることはないが、少なくとも嫌がられはしなかったと思っている。

 

 そうして、酒をたくさん酌み交わしていた鬼達は順風満帆の生活をここ数百年は過ごしていた。

 少なくとも、明雅自身はそれを心の底から他の鬼と同じように楽しく感じていたと思う。

 それは一番明雅の近くにいた勇儀が自信を持って言えることだった。

 

「いいや、殴り合いなんかで終わる問題では無かったんだよ。そんな物騒な問題を解決するには、どちらかの息の根を止めるのが最善だと思った訳さ」

「……私達に、相談しようとは思わなかったのか?」

 

 萃香が苦虫を噛み潰したような歪んだ表情をしながら、恐る恐る問う。

 

 萃香も、勇儀と同じく、明雅とは大変分厚い絆で結ばれていたと思っていた。

 勇儀ほどでは無いが、よく共に盃を交わしていた。鬼の四天王とは言われるものの、まだまだ心は幼いつもりでいる萃香にとって兄弟のような、たまには妹に、たまには姉に。

 そんな関係に萃香はとてつもなく幸福感を覚えていた。

 

 酒を飲むことだけが幸せと思っていた萃香にとって、新しい幸せはまるで新世界に降り立ったかのように変わっていった。

 

 その新世界とやらが、「裏切り」として崩れ去っていった。

 

「お前らに相談? はは、笑わせないでくれよ?」

「……」

「例え相談したとして、お前らはどうやって俺に協力するつもりだった?」

「それは……」

「殺さなきゃいけないくらいの重い問題だったんだぞ。それが例え鬼の四天王様でも解決するのは不可能なんじゃないか?」

「そ、そもそも! その問題って何だよ!?」

 

 勇儀の質問は簡単だった。

 殺さなきゃいけないほどの大問題。その内容を明雅以外の鬼達は心当たりすらない。

 

 それがもし、明雅が苦しんで決めてしまった決断なら、向き合うしかない。

 だが、逆に明雅の快楽として同族を殺したのならば、それ相応の裁きを下さなければ四天王としての顔が立たない。

 

 ──頼むから、お前が望んで殺した訳では無いと言ってくれ。

 

 勇儀は心の底からそう願っていた。

 この話を丸く収め、安堵した後にまた明雅と酒を飲みたい。

 その願いはいとも容易くへし折れた。

 

「それは言えないね。ただ一つ言えるのは」

 

 更に口角を上げ、不気味な笑みを浮かべる。

 その雰囲気にここにいる誰とが恐怖したはずだ。

 

 

 

 

 

「殺す行為そのものがあんなに楽しいこととはね」

 

 

 

 

 

 ──裏切られた。

 もう今の彼は勇儀や萃香が好きだった明雅では無い。

 ただの殺人鬼ともはや何ら変わりない。

 

「……そうか」

 

 諦めたように萃香はため息をついた。

 そして、その場で胡座をかいて座る。

 

「おや? 俺に攻撃して来ないのかい?」

「みくびってもらっちゃ困るね。ここでお前を殺したら、お前と同罪じゃないか」

 

 萃香の冷めた声にももう情も何も込められていなかった。

 ただただ、明雅を突き放すように明雅を睨みつける萃香の顔はいつにもまして呆れと怒りが植え付けられていた。

 

「失望したよ、明雅。お前なら、いつかは鬼という存在を大きなものにしてくれると思っていたのに」

「萃香のご期待に添えなくて残念だよ。ただし後悔はないさ。さて、俺はどうすればいい?」

「出ていけ」

「……」

 

 萃香の即答に流石の明雅も何も言い返せなかった。

 瓢箪をひっくり返し、盃にトクトクと入れられた酒を一度大きく飲み干すと、萃香の細められた眼は明雅を捉えることは無かった。

 

「お前の居場所はもう存在しない。地上へ出ていけ。さもなくばお前は私と勇儀が無力化する」

「……ほう、追放令と言うやつか? いいだろう、ここにはもう二度と足を踏み入れないよ」

「……ああ、世話になったね」

「ちょ、ちょっと待ちな!」

 

 萃香の独断で決められた判決に未だ納得出来ていない勇儀が一歩前に出て、必死に口を開いた。

 しかし、それを遮ったのは明雅だった。

 

「もう、これ以上話すことは無いよ。勇儀、達者でな」

「おい! 待てよ!」

「みんなも、楽しかったよ。私みたいになるなよ」

 

 誰も、その声に反応することは無かった。

 明雅程温厚な鬼は居ないと思っていたのに、そんな奴が何故。と、全員がそう思っていたはずだ。

 

 明雅は歩いて地底と地上の連絡通路へと歩いていった。

 勇儀はそれを呆然と見るしか方法は無かった。

 

「……くそっ!」

 

 地面を力強く殴ったのは萃香だった。

 萃香は下唇を血が出るほど強く噛み、地面に叩きつけていた拳をさらに強く握りしめる。

 

「どうして……明雅が……」

 

 一番強く、後悔しているのは、もしかしたら萃香かもしれない。

 萃香の顔は酷く歪んでいた。

 涙こそ出るわけもなかったが、その表情からは寂寥の感情が読み取れてしまった。

 

「……萃香」

 

 しかし、いち早く行動を起こそうとしたのは、勇儀だった。

 今はただ、明雅が仲間を殺したという事実を受け止めるしか方法は無かった。

 

「……ちっ」

 

 勇儀もまた、後悔をしていた。

 未だ、まだ何か別の理由が存在しているかもしれない。そんな期待をしている自分に嫌気がさした。

 

 ──明雅は鬼を殺したんだ。

 

「いつまでも未練がましいな……私……」

 

 その日はただ明雅の背中を見て、その姿が消えるまでただ呆然としているしか無かった。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

「とまぁ、こんな感じかな」

「ほぅ……」

 

 明雅は天魔についさっき起こった出来事を話し終えた。

 天魔は驚愕の表情を浮かべ、目を見開いていたが、咳払いをして直ぐに表情を戻す。

 

「なるほどな。しかし、お前ともあろうものが、殺生を働くとはな」

「いやぁ、色々ストレスもあったんだよ」

「……どんな理由があったかは聞かないが、天狗(わたしたち)には手を出すなよ。手を出したら……分かってるな?」

 

 天魔の眼は殺意にまみれていた。いくら友人とはいえ、家族同然の天狗達を殺されでもしたら、流石の天魔も黙ってはいない。

 

「……はは、そんなことしないさ。今は、ね」

「……信じていいんだな、その言葉」

「もちろん。鬼という誇りに賭けてね」

 

 意味深な明雅の笑みに何が隠されているのか一瞬探ろうとした天魔だが、すぐに諦めて、執務机の椅子に腰掛けた。

 

「それで、一体なんの用なんだ?」

「おっと、本題を言っていなかったね」

「大方わかってはいるけどな」

「流石天魔様だね」

「……とっとと言え、私の予想が合ってるとも限らん」

 

 お世辞を軽々と話す明雅に苛立った天魔は冷めた目で睨みつけた。

 

「おっと悪い。この地上で住むところが欲しいんだ」

「ふむ」

「数百年ぶりなのでね。何か小屋でもいいから、空き家を貰えたりしないだろうか?」

「……あるにはあるが、本当に狭い小屋だぞ?」

「構わないさ、俺一人しか住まないからね」

 

 ただ衣食住が整えば、明雅にとっては規模など二の次三の次程どうでもいいことだ。

 

「まぁ、料理とかするのであれば、人里に買い出しにでも行くさ。今の人間は、妖怪とも友好的なんだろう?」

「紫にでも会ったか?」

「ああ、幻想郷を創造者らしいね。そうしたら、俺よりも年上かな?」

「かもしれんな。まぁいい、とりあえず、文に案内を頼むから、文が来るまで外で待っているといい」

「ありがとう、恩に着るよ」

 

 天狗は元々、鬼の支配下に置かれていた。

 支配下と言ってもほぼ対等な関係にあったのだが、妖怪の山を管理していたのは元々鬼の仕事だったのだ。

 そんな鬼が地底へ降りていった際に、妖怪の山の管理権は天狗達へと移行され、今この場で天魔がその長をやっているということなのだ。

 

 なので、今現在も鬼と天狗の関係は良好と言ってもいい、明雅は元々天魔が偉い地位に立つ前から酒を飲み交わす仲だった。

 互いに遠慮のない二人の仲は明雅にとって勇儀や萃香の次に心を許せる相手でもあるのだ。

 

「じゃあ、また別の機会に」

「ああ」

 

 そう言って、明雅は執務室の扉を開け、廊下に出た。

 一つ背伸びをして、外に向かって歩き出す。

 玄関を出る頃にはもう文は準備万端だったそうで、ニコニコと笑いながら明雅の手を引いていた。

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