エヴァの記憶だけ吹っ飛ばされた人がエヴァ世界に飛ばされた話 作:フィアネン
「はァー。」
「どうしたんだい?少し前に見たような飄々とした雰囲気が全くないじゃないか。」
「カヲルにゃ関係ねぇよ。」
「そうかい、無愛想だねぇ。ねぇ、シンジ君は何か知らないのかい?」
「悪かったな。」
「ええ!?えっと、その…」
ミサトからの電話かなり流し聞きしてたけどコレ、シンジに見られたっつーことだよな、色々…。あーあ、俺もうオシマイだな。
「そんな言えないことなのかい?それじゃあさ、屋上で聞かせてよ。そこなら誰もいないだろう?」
「あ、ちょっと、カヲル君!?」
あ、連行された。頑張れ、シンジ。はァー、にしても一昨日の夜のこと、アレ犯罪でしょ。ミサトに前にイジった「子供には手を出さない」がシャレになっちゃない。コレがミサトに知られたらマジでイジりで留まってくれるかどうか…。
「エーイジ!どうしたのよ今朝からさ。」
「アスカ?あいや、別に何でも…」
「知ってるのよ、あたしは。戦いの後の夜のこと。」
「あーあ、やっぱりか。俺はもう終わりだぁ…」
「そんなこと無いわよ。あんた達、やっと男と女になったんじゃない。後で私にも付き合ってもらうわよ。」
「そう言うと思ったよ。もうどうにでもなれ…」
音楽室。誰も居ないと思って入ったと思ったら、シンジとカヲルが話していた。
「あ、こいつは失礼―」
「いや、いいさ。だろ?シンジ君。」
「え?あ、うん。エイジ君は何しに来たの?」
「ピアノ弾きに来た。もう10年近く触ってないから弾けるかどうか…って感じだけどね。」
「へぇー、エイジ君、ほんと何でもできるんだね。」
「音楽か。いいよね。」
「俺もそう思う。それじゃ―」
昔のように、椅子を調節してカバーを開く。昔、何かで聴いて弾きたいって憧れた曲。
まずは指を慣らして―Cメジャーで2オクターブ分、流れるように…え?何でこんなに弾けるんだ?終えて、自分の指を見つめる。
「どうしたんだい?」
「あいや、失礼。それじゃ…」
勢いよく弾き始める。この曲は静と動のコントラストが好きなんだよな。最初はバーンって始まってから、軽快なリズムが人の心を掴む。んでその次は流れるような、でも力強い旋律。今度は静止しながらまた軽やかなステップを踏むような感触。また最初のリズムに戻り、最後は盛り上がり切って終わる。やっぱこの曲は好きだ。でも、何に使われていたのかが全く思い出せない。そんな昔の曲じゃなかったはずだけど―
「すごい、あんなに指が動いて絡まらないなんて―」
「いい曲だったね。何て曲なの?」
「”Quatre Mains”。何の曲かは忘れちゃったけどね。」
「4本の腕か。凄いね、君。」
「いや、俺がやってたような感触が―」
「いいや、この曲は君が弾いてるさ。君の感情があふれでてきている。」
「え?」
「迷ってるのかい?」
「…それはそうかもしれない。俺はカヲルが使徒だとほぼ確信してる。でも、これには先例があるから、普通の人間としても接していけるんじゃないか―そう思うんだよ。」
「それは無理だ。君も聴いただろう?僕の同類の声を。」
「ああ。あいつら、生意気にも俺を取り込んで学習しようとしてたからな。…にしても、カヲルは幾らなんでも感情がありすぎる。それは既に人間じゃないんかな?それはどう思う、カヲル。」
「最早、そんなことはどうでもいいんだよ。本部の地下にある巨人に僕が接触すれば、サードインパクトが起こるらしいよ。接触した生命、全ての種、勿論君たち
「…だろうな。」
「そんな―」
「だけど、俺のケジメとして、お前の正体は確認せにゃならん。…シンジ、絶対にパニックになるなよ。」
「え?何を言ってるんだよ?さっきから話が難しすぎて、何がなんだか―」
俺はシンジの言葉を無視して、銃とサプレッサーを取り出す。組み立て、カヲルに対して向ける。
「え、エイジ君!?何をしてるのさ!」
「これは俺の意思表明だ。邪魔しないでくれ、シンジ。」
「ふぅん。君、だいぶ強引なところがあるね。面白いよ。」
「よく言われる。…正体を晒しやがれ、使徒。」
「エイジ君やめて!」
「ちょっとあんた達、音楽室で何をやってんの!」
「アスカ!?来ちゃダメだ!」
「シンジ?何を言って―」
5発、カヲルに向けて発砲。俺の予想通り、カヲルのATフィールドに弾かれた。
「…ありがとう、カヲル。これで俺はお前を受け入れることができそうだ。」
「君らは不思議な生物だ。よくわからないよ。」
「それは、もっと生きればわかるさ。もっとも、この先で生きていけりゃ、だけどな。」
指先を舐めてサプレッサーを外し、何もなかったかのように振る舞う。
「よォ、アスカにレイ。この感じ、ピアノの音に惹かれて来たんか?」
「「エイジ、相変わらず滅茶苦茶なことをするんじゃない!!!!!」」
NERV・赤木研究室
「どうも、先日は失礼しました。」
「仕方ないわ、あの時はだいぶ体調崩してたようだし。もう平気なの?」
「ええ。20時間くらい寝たらだいぶよくなりましたよ。んで、先日のデータ、どうでしたか?」
「最高ね。やはり、ロンギヌスの槍のデータを使うのは当たりだったわ。それより、もっと重要な話があるの。」
「もっと重要?それは一体―」
「参号機が使徒を、S2機関を取り込んだわ。」
「な!?え、あいつは自死をしたんじゃあ…!?」
「それが、死の間際に敵のATフィールドが消失したようなの。その際、参号機のコアが使徒を取り込んだようね。」
「なーんでこんなことに…。」
「エヴァには、私ですらまだわからないことがあるわ。パイロットが取り込まれることだって…」
「ほんと、滅茶苦茶なものを作ってくれましたね。」
貰ったコーヒーを飲みながら、どうしたもんかと考える。でも、俺としては都合がいい。指揮をしてるのに稼働時間やケーブルを心配しなきゃならんのはホント、気が散る要因だ。嬉しい誤算だった。
また学校。今日もカヲルはシンジに、ちっとばかし近すぎるくらいに接近して色々話している。だが、昨日のことで、まだ踏ん切りがつかないようだ。そらそうか。俺だって、最後の最後まで信じたくはなかったけど―
「ねえ。」
でも人型の使徒なら、どうやってリリスに接触するんだ?まだ部外者の彼が、どうやって本部に侵入し、ドグマまで入り込むんだろう?それがわからない。
「ちょっと!」
もしかしたら、ロックを外せる?まさか、流石にファンタジーが…いや、あり得ない話じゃない。最近の敵は、心理攻撃をしてきた。特に鳥なんて、成層圏から攻撃をしてくるとかいう、訳のわからないことをしてきた。セキュリティを突破するなんて、造作もないのか―
「エーイージー!!!!」
「おわっ!?!?!?れ、レイ?何だ一体?」
「酷いよ!?最近私を避けてるでしょ!」
「い、いやー、俺には何のことかさっぱりね…じゃ!」
「あ、逃げた!待てエイジ!」
こんな時くらい逃げさせてくれ。
最近、俺たちの間では有事に備えて機体の乗り換え実験を多くやってほしい、と赤木博士に頼み込もうという話題になっている。俺が話を通したら、すぐやってくれた。
俺の成績はというと、
零号機:32.8%
初号機:22.2%
弐号機:63.9%
参号機:54.1%
となった。俺は
アークでの連動試験を終え、目を閉じて考えていたら、突然警報が鳴る。
[エヴァ参号機、起動!]
[どういうこと!?]
[参号機にプラグは挿入されていません!無人です!]
[そんなバカな…!?]
[セントラルドグマにATフィールドの発生を確認!]
[参号機!?]
[いえ、パターン青!間違いありません、使徒です!]
つまり、カヲルが動き始めた、か…。
「初号機を先行させろ!本部、俺は弐号機で出る。」
[え、僕!?]
[えぇー!?あんたが弐号機!?]
「二人とも、そうだ!シンジ、お前カヲルと仲よかったろ、お前が先に行け!弐号機借りるからな!…アーク、ここは頼むぞ。」
ーわかったわー
…?気のせいか。行かなければ。アークから降り、弐号機のケイジへと走る。
[目標は第4層を通過、尚も降下中!]
[ダメです、リニアの電源は切れません!]
[目標は第5層を通過!]
[セントラルドグマへ続く全隔壁を緊急閉鎖!少しでもいい、時間を稼げ!]
思ってたよりかは降下速度が低い。まだ余裕で間に合うな。
「本部、弐号機ケイジに虎の子を準備してくれ、後は直接移動する!」
[了解!]
初号機との秘匿回線を開く。
「シンジ、聞こえるか!?」
[聞こえる!どういうことだよ、カヲル君がこれと何の関係が…!]
「昨日見ただろう、あいつは使徒だ!サードだけは起こさせんなよ!」
[そんなこと言ったって、僕に彼は殺せないよ!友達なんだ!]
「俺は過去にお前に言った!『殲滅するだけが戦いじゃない』って!それを実践してみせろ!」
[そ、そんな簡単に…]
「いいや、思いは伝わる!行け!俺だって最終手段を使いたかァねぇんだ…!」
[…やってみる。]
「頑張れ、シンジ。」
[エヴァ初号機、ルート2を降下。目標を追撃中!]
[第9層に到達、目標と接触します!]
[続いて弐号機、上方500mを移動中!]
「ここからは目標との相対速度0にしてくれ!」
[了解!]
アーク、初号機の通信を傍受しろ。
-わかったわ-
[待って、カヲル君!]
[遅いよ、来ないかと思ったよ。]
[どうして!使徒なのに、敵なのに、どうして僕と友達になってくれたんだ!]
初号機と参号機が組み合う。
互いに力は拮抗しているが、参号機の方が若干強い。S2機関の有無もあるだろう。
[どうせ戦うことになるのに、どうしてこんな事を!]
互いにナイフで組み合う。まずい、ナイフ術は俺が参号機で散々シミュレーションをした。シンジが不利だ!
(キョウコさん、この後しばらく一人で頼みますよ。ライフルを向けとくだけでいいです。)
(わかったわ。アスカから聞いたとおり、ほんとに無茶をする人ね。)
ライフルを構え、参号機の左手に照準する。カヲルのATフィールドはだいぶ強い。腕カッター以来の強さじゃないか?AATFSを出し惜しみはできない。発射された弾は、カヲルが発したATフィールドを貫き、参号機の手からナイフを離させる。
「初号機にコントロールジャック!」
-わかった-
さっきから聴こえるこの相槌は何だ?弐号機のプラグ内から初号機を手振りだけで操り、参号機をなるべく傷つけずに無力化する。
「シンジ!この隙に対話しろ!」
[わ、わかった!…カヲル君、君はどうしてATフィールドを発生することができるの?]
[何故?君だって持ってるくせに。何人にも侵されない聖なる領域。心の光。君にもわかってるはずだ。]
拒絶する心?
「ATフィールドとは、誰もが持ってる心の壁だということを。」
[そんなの、わからないよ!ATフィールドを持ってるのは、エヴァと使徒だけだ!]
前にレイから聞いたな。アンチATフィールドはATフィールドを消滅させ、結果として個体の生命がLCLになる…それは魂の解放と言っていた。ATフィールド、つまり他者と自分の境界線があるから人は個々で存在できるってことか?だいぶ哲学的な話だが、それを理論として動かせるのがエヴァとS2機関…つまり使徒ってことか。
[エヴァ3機、最下層に到達!目標、ターミナルドグマまであと20!]
[エイジ君聞いて。あなたたちの反応が万一消えて、もう一度変化があったときはここを自爆させるわ。よろしくね。]
「よろしくじゃあないでしょ!?よくも軽々しくンな事を―」
[ごめ―]
「葛城三佐?…おいミサト!!何?アーク!本部へ繋げろ!」
-………-
何だ?通信ができなくなった!?初号機のコントロール権がシンジに戻り、俺も弐号機に戻ってきた。何が起こった?
俺らは最下層にたどり着く。シンジは未だ暴れる参号機にたいして実力行使をした。これは仕方ねぇな。許せ参号機、毎回毎回乗っ取られんのが悪い。
[待ってカヲル君!クソ、離せ!]
「大人しくしろ参号機!」
ライフルのストックで参号機の頭を殴りつける。あーあ、またシンクロ率低下の原因を作ってしまった。まだ暴れてるからもう2発。やっと大人しくなってくれた。
俺らは初号機を先頭に、リリスの間の外壁を破壊して侵入する。
[カヲル君…それ以上少しでも進んだら、容赦…しない。]
[たとえ僕が使徒でも、人の形をしたものに君が手をかけられるの?前にも言ったとおり、僕がこれに接触すればサードインパクトで全て滅びる。]
[僕は…僕らは、君と一緒に生きていくって選択をしたいんだよ!だから、もうやめてよ!]
[“一緒に生きていきたい”、か―
そうだ、もうひとついいことを教えてあげるよ。サードが起こっても、人はただ滅びるんじゃない。新しい形で生まれ変わるんだ。一つに結合して単体の生命としてね。そうすれば、君が望んだ世界が訪れる。ATフィールドも必要ない。戦いや争い、人との繋がりから起きる苦しみや悲しみ。君はその全てから解放されるんだ。
それでも君は、僕を止めるの?]
[僕は…!]
シンジ…!
[サードも起こさせないし、カヲル君も失わせはしない!]
「それがシンジの答えか?」
[…うん。]
「本気で考え抜いた末の答えか?」
[……そうだよ。]
わかった。キョウコさん。
(わかっているわ。)
弐号機はカヲルに近づき、プラグを自ら排出し、俺を手に乗せる。そのまま俺を彼の目の前まで運ぶ。
「よォ、久方ぶりだな、渚カヲル君。」
「正直、君までくるとは思ってなかったよ、影嶋エイジ君。」
「お前の”自由意思”ってのはねぇのか?」
「あるさ。でも、このまま引き下がっても老人達が黙ってない。あいつら、速攻で僕を消すだろうね。もともと僕の命はあいつらが握ってるのと同然だ。」
「だから、死んでもいいと?」
「僕に残された絶対的自由は、自らの意思で自らの死の形を選べるってところだけだ。だから、君たちの手で消してほしい。」
「……俺の回答はコレだ。」
カヲルの左頬を殴る。意外な俺の回答に、カヲルも驚いている。
「俺が買いかぶり過ぎてたようだなこりゃ。お前、人間のこと何もわかっちゃねぇな。」
「何を言って―」
「お前の言ってることは生きる意思の喪失だ。そんな状態の人間なんて、脱け殻でしかない。お前自身の意思は、そこにはないからな。
お前っつーのは人間の体をしてるのに全く…。」
「なるほど、『足掻け』というのか、君は。それは茨の道だというのにかい?」
「それが人間だ。」
「…それも面白そうだ。ありがとう、君のお陰で少しだけ人間というものがわかった気がするよ。」
「そうだ、これからも生きてもっと人間のことを知るんだ。君の存在はまだ使徒として確定してない。『渚カヲルって人間』に関してはね。」
「随分楽観的な考え方じゃないか?それが毎回使徒に対して勝利してきた指揮官の考え方か?」
「そんなもんなんだよ。ATフィールドさえ出さなきゃいいんだ。それだけで解決するんだぜ?驚くほど簡単なモノさ。…シンジに送ってもらえ。」
「わかったよ、エイジ君。」
上には使徒は自滅したと報告した。ついでに、まるで最初から保護してたかの如く言い方でカヲルをNERVに保護してもらった。言ってることはだいぶ危ういが、俺の権限でどうにかなった。階級社会のよくない面だなほんと。
にしても、さっきの声が頭のなかで響き続けている。
-わかった-
どこかか細い、昔のレイのような声。アークの意思ってやつなのかな。俺にはまだわからない。
ゼーレの奴ら、カヲルが裏切ったことは容易に判断できるだろう。だとすれば、次の敵は…同じ人間だろうな。
補完計画発動も、使徒騒ぎの後のごたごたもない本当の大団円endを読みたいですか?
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はい
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いいえ