ミラージュボヤージュ   作:エリオット・ウィット

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パラダイスロビー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だ、だ、だ、騙されたな!』

 

 パスファインダーがミラージュのデコイに手を振るとシュンッと消えていく。

 

『やあミラージュ、元気にしてた?』

 

「全然だ、全然、こきゅ……故郷にいた時の方がピンピンしてる」

 

「滑舌が良くないよ、大丈夫? 僕の音声ファイルが必要?」

 

「俺はロボットじゃないぜ」

 

「じゃあ……お手本になる喋り方をしよう! 僕はロボットだからね」

 

 ミラージュはなんの参考になるんだと首を傾げる。

 

「あ、い、う、え、お、か、き、く」

 

「も、もういいぜ、分かったから」

 

 

「口を大きく開けるのもいいよ、練習足りてる?」

 

 パスファインダーがグッと親指を立てる。

 

 ここはAPEXゲームのロビー。

 

 

「お前はバーカウンターに立つセンスがある、タバスコを傷口に落とせるんだ、カクテル作りも上手いだろうな」

 

「ブラッディマリーだね! 僕知ってるよ! どんな味がするんだっけ?」

 

「青いロボットみたいに不愉快な味だが、目が覚める」

 

「僕、嫌われてるの?」

 

 悪意だけは的確に読み取れる笑顔の素敵な青いロボット。

 

「言葉の綾だ、忘れてくれ」

 

「嫌われてないんだね、それは良かった。ところで綾さんって誰?」

 

「おいおい壊れちまったのか? あやさんなんて居ないだろ」

 

「ああ! 言葉の方のこと? ニュアンスが読み取れなくて、ごめんごめん」

 

 ムッとしたミラージュの隣にレイスが近づいてきた。

 

『あまりそういうことを言わないであげて欲しいわ、いつも戦闘の合間に早口言葉を練習してるの』

 

 

「そ、それは言うんじゃねえ」

 

 やめろとミラージュの手がレイスに伸びる。

 

「へえ、ミラージュって努力家なんだね! 僕と同じだ!」

 

 ハイタッチをしよう。キシュンと伸びた右手をミラージュは仕方なく返す。

 

「調子が狂うな、全く」

 

 そう言い残してその場をレイスに託すと、デコイを置いていってしまう。

 

「あっ、うん……またお話したいな」

 

「全部見てたけど、喧嘩でもしたの?」

 

「実はそうなんだ、怒らせちゃったのかも」

 

 人差し指と人差し指をディスプレイの前に持ち出すとパスファインダーは寂しそうに液晶を青く光らせる。

 

 

「大丈夫よ、人間は寝ると忘れる」

 

「どうやって忘れるんだい?」

 

「リフレッシュ、それだけで少し前のことなんてどうでも良くなるわ」

 

「うーん、それでも僕はちゃんと仲直りがしたいよ、ミラージュの話は面白いから!」

 

 ピカピカとディスプレイがやる気に光る。

 

「プレゼントをしてあげたらどう? それも寝て起きて寛容な朝に」

 

「レイスは何がいいと思う?」

 

 

「いつも眠そうにしていたかしら、髪のセットに早く起きてるみたいよ」

 

 

「僕も髪があったらなあ」

 

 パスファインダーがツルツルの丸い頭に手を置く。

 

「……そうだ! 朝から元気になってもらおう、そうすれば髪も作ってもらえるね!」

 

「それは無理だと思うけれど……」

 

「髪をセット、できるんでしょ? 楽しみだなあ!」

 

 パスファインダーはスキップを踏みながらロビーを後にしていった。

 

 それから一日が立ち、ロビーにパスファインダーとミラージュの姿がレイスに映る。

 

 パスファインダーの頭にはペンか何かで茶色の線が引かれている。

 

「……あなたって二重だったのね」

 

『そうだ、聞いてくれよ、朝起きたらこいつが部屋に立ってたんだ』

 

「僕の手はピッキングもできるくらい繊細なんだよ!」

 

 ミラージュは思い出したと言わんばかりにレイスに起きたことを話す。

 

「起きたら髪をセットして欲しいって言われて、ないだろって返したんだが、ペンを持ってきたんだ」

 

「その線は髪なのね」

 

 

「僕イケてる? かっこいい?」

 

 レイスが優しく、そうねと相槌を打つ。

 

 

「俺の髪をセットしてくれたのはパスファインダーなんだぜ」

 

「良いプレゼントを貰ったじゃない」

 

「これはレイスの案か、そりゃ妥当だな」

 

「これは、って他にも何か貰ったの?」

 

「もちろん、最悪なものを貰っちまった」

 

 

 ミラージュが今にも辛そうな顔を作る。

 

 

『この顔なんの真似か分かるか? レヴナントじゃないぞ俺の真似だ、いちごジュースだと思って一気飲みしてやったら、ブラッディマリーだったからな』

 

 

 

 レイスは虚空でその場を後にすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ブラッディマリー、トマトジュースにタバスコとウォッカと好みでブラックペッパー少々を混ぜた刺激的な飲み物だぜ。俺はパラダイスラウンジでバーテンダーをしてたから知ってる、くらいやがれ眠眠打破!
ちなみに色が変わる要素はほとんどない、トマトジュースとの見分けはデコイより分からない。
俺はデコイをいつ出したか覚えてるんだ、嘘じゃないぜ。

ランパートショッピングネットワーク!かっこいいな!俺がゲストとして招待されるかもしれない、されないって? 夢は本物が良いだろ?

  • 白羽の矢で止まりやがったのか、アミーゴ!
  • 私は大砲よ。シーラよりも優れているわ。
  • これだけは言える……誰かが死ぬ――
  • お! 飲み放題にしてくれるのかー?
  • どうしよう、私も出たい。

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