モンスターハンター ~碧空の証~   作:鷹幸

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Hunter Meets Hunter?
第1話 依頼


 何処とも知れぬ、渓流の奥地――。

 

 月影を受け煌々とする、総身を覆う蒼鱗(そうりん)

 強靭な四肢の先端でぎらつく、鋭利な鉤爪。

 頭から背中、尻尾までを覆う、黄土色の甲殻。

 風に(なび)く、雪のように真っ白な体毛。

 天を穿(うが)つ、尖鋭な双角――。

 

 無数に飛び回る黄金(こがね)色の(むし)を引き付け、“無双の狩人”は雷を(まと)う。

 

 背部の電殻が突き立つ――その刹那、轟音と共に青白い一閃が解き放たれ、咆哮が霊山に木霊(こだま)した。

 

 

 

       *

 

 

 

 人間が手を付けられないほどの大自然が広がる世界――。

 この世界には、圧倒的な「力」を持つ〝モンスター〟が到る所に生息しており、人間はモンスター達と共存している。

 そんな世界に、その〝モンスター〟達を〝狩る〟ことで、人類の繁栄を目指し、自然との調和を図る者――狩人(ハンター)――が存在する。

 彼らは、多様な道具(アイテム)や知恵を駆使し、強大な存在である〝モンスター〟と闘う。

 

 狩るか狩られるか、生きるか死ぬか――。

 そのような過酷(シビア)な世界にも拘わらず、狩りの魅力に囚われた者達は今日も狩猟を続ける――。

 

 

 

       *

 

 

 

 木々が青々と生い茂る山々。残暑の厳しい太陽の日差しが燦々(さんさん)と降り注ぎ、一層と緑が映えている。

 そんな山の斜面にある一本の山道を、ガタガタと言わせながら一台の荷車が駆け上っていた。

 荷車を()いているのは、【ガーグァ】というモンスターだ。別称を“丸鳥(がんちょう)”といい、その名の通り、丸っこい身体と色彩豊かな羽、飛ぶには適していない小さな翼が特徴である。

 ガーグァの背中に乗り手綱(たづな)を引くのは、獣人種(じゅうじんしゅ)と呼ばれる種族に分類される、猫に似たモンスター、【アイルー】だ。アイルーは人語を理解し、人間たちの生活に溶け込んで生活している個体も多くいるため、人々にとっては馴染みの深いモンスターとなっている。

 荷車には、一人の男と一匹のアイルーが載っていた。

 男の名は“レオン”。赤い髪で、後ろ髪をツンツンさせた髪型(この世界では“レウスレイヤー”という名の髪型)と、少し吊り上った目が特徴だ。

 燃え盛る紅焔の如く赤い防具【レウスシリーズ】を彼は身に纏っており(頭の防具は外しているが)、彼がハンターであることは、この世界の住人であれば一目瞭然だ。

 彼の傍らに居る、深い青色の瞳をした黒猫アイルーは“ナナ”という名のオトモアイルー。オトモアイルーというのは、ハンターとともに狩猟に挑むアイルーのことであり、狩りにおいては様々な活躍を見せてくれる、ハンターにとっては頼もしい存在だ。彼女はオトモ用の防具【どんぐりネコシリーズ】と、大きなブーメランを装備している。

 

「――村に着くまではあとどれぐらいかかるんだ?」

 

 レオンは、手綱を引くアイルーに尋ねた。

 アイルーは、顔を彼の方に向け、「あと……2時間ほどですかニャ」と答えた。

 

「そうか。ありがとう」

 

 レオンは礼を言うと、荷車の淵に肩をかけた。

 

「結構かかるのね。じゃ、あたしは着くまで寝るから、着いたら起こしてね」

 

 ナナはそう告げ、横になり目を瞑った。

 

「……わかったよ」

 

 レオンは渋々といったように返事をすると、傍に置いてあるバッグから一冊のノートを取り出し、パラパラとページを捲った。

 

 

 

 彼は、オトモアイルーのナナと共に旅をする流離(さすらい)のハンターである。

 彼らの目指す目的地は“ユクモ村”。

 ユクモ村は、新大陸の中央部、山岳地帯に位置する村。この村には上質な温泉があり、湯治(とうじ)目的で村へ向かう者が多くいる。また、村周辺でしか採れない良質な木もあり、林業が盛んな村でもある。

 

 

 

 荷車の振動が収まった。

 

「ハンターさん、着きましたニャ。ここが、ユクモ村ですニャ!!」

 

 アイルーが、声を張り上げる。レオンはハッとしたように顔を上げた。どうやら、いつの間にか眠っていたらしい。レオンは欠伸(あくび)をすると、膝の上に落ちているノートをバッグに詰め込んだ。

 

「おい、着いたみたいだぞ」

 

 レオンはナナの身体を揺すった。

 

「ん……みゃ……」

 

 ナナは目を擦りながら体を起こす。

 

「着いたぞ」

 

「……そう、着いたの」

 

 ナナは欠伸をしながら身体を大きく伸ばすと、すぐに荷車から飛び降りた。

 

「ほら、ボサッとしてないで、早く行きましょ」

 

 寝起きなのに元気な奴だな、とレオンは思った。

 

「ほら、荷物持ってけ」レオンは足元にある荷物全部をナナの方へ投げる。

 

「仕方ないわね」

 

 ナナは澄ました顔で言うと、少しだけ荷物を持ってユクモ村の門へと歩き始めた。

 レオンは、身の丈を超える大きな武器――大剣の【レッドウィング】を背負うと、荷車から飛び降りた。

 

「ここまでありがとう。助かったよ」

 

 レオンは500(ゼニー)をアイルーに手渡した。

 

「ニャニャッ!! 毎度ありニャ!! またのご利用お待ちしておりますニャ~」

 

 アイルーはにこやかな顔でそう言うと、手綱を引っ張り、荷車を発車させた。

 

 そして、レオンの足元には大量の荷物が残った。

 

「おい、ナナ!! もうちょっと持ってくれよ!!」

 

 門をくぐろうとするナナに向かって、レオンは怒鳴りつけた。

 

「アンタの方がよっぽど力持ちじゃない。あたしの荷物も、よろしくね」

 

 ナナは一度振り向いてレオンに物申すと、またすたすたと歩き始めた。

 

「うぐぐ……」

 

 ナナがなかなか自分に懐いてくれないことへの苛立ちを覚えながら、レオンは大量の荷物を抱えてユクモ村の門をくぐった。

 

 門をくぐると、石段があった。その中腹には、一人の男が座っている。男は鋭い眼光でレオンたちを睨みつけてくる。

 

「オイ!! お前は何者だ?」

 

 男の目の前を通ろうとしたとき、二人は呼び止められた。

 

「見たところ、ハンターのようだな? 何しに来た?」

 

 男はレオンの全身をジロジロと見まわした後、グイグイと顔を近づけた。

 

「オ、オレたちは怪しい者じゃありませんよ……?」

 

 男の迫力に、レオンはたじろいだ。

 

「ただ来ただけよ。それだけで、なんか文句あるの? てか、アンタ誰?」

 

 ナナが男を睨み上げる。

 

「……ははは、なかなか強気なオトモだな。おもしろい。オイラはユクモ村の鬼門番(自称)だ。ここに来たハンターを脅すのが楽しくてな、つい……。おっと、もちろん、かわいい女の子ハンターちゃんにはこんなことしねぇぜ?」

 

 随分と悪いご趣味をお持ちのようだ。

 

「オレたち、旅の途中でこの村に来たんですけど、泊まるところはありますか?」

 

 レオンがそう訊ねた瞬間、鬼門番(自称)の目の色が変わった。

 

「おお!! そういうことならウチの実家がやってる温泉宿にぜひ泊まってくれよ!!な!?」

 

 またも男がグイグイと顔を近づけてくる。

 

「は、はぁ……」レオンは渋々といった表情で頷いた。

 

「よしよし、それでいい。通っていいぞ!!」

 

 鬼門番(自称)から解放されたレオンたちは、そそくさと石段を登った。

 一つ目の石段を登ると、踊り場に出た。向かって左側には、小さな門があり、その先には道が続いている。その門の右隣りには、生活に欠かせないものやハンターにとって役に立つアイテムを売っている【雑貨屋】がある。店の前には大きな卵があり、上部からは湯気が立ち昇っていた。

 通路を挟んで右側には、武器や防具の購入や強化ができる【加工屋】がある。その内部では、紅蓮(ぐれん)の炎が炉を熱する前で、職人と思わしき人物が、鉄敷(かなしき)の傍に立ち真っ赤な鉄を熱心に鍛造していた。

 鉄を打つ音に耳を傾けながら、レオンは口を開いた。

 

「ユクモ村と言えば温泉って聞いたけど……。どこにあるのかな?」

 

「そんなこと、あたしが知ってるわけがないでしょ」

 

 ナナがそう冷たくあしらうと、レオンは「そうだけど……」と呟きながら、表情を曇らせた。

 

 レオンは、朝からずっと防具を着けている。身体中を覆う鎧を身に着けていれば、大量の汗を掻くのは当然のことだ。しかも、まだ夏の暑さが残る時期であり、あまり動かなくとも、汗がドッと出てくる。

 

「暑いんだよな……。あと、防具が汗臭くなって困る」

 

「……なら、普段着で来ればよかったのに。バカね」

 

「でも、移動中にモンスターに襲われる可能性だって否めないだろ?」

 

 そう言いながら、レオンは視線を上方に向ける。

 すると、六角形の屋根が段々に積まれた構造の建物から、湯けむりらしきものが立ち上っているのが、目に留まった。

 

「……もしかして、あそこに温泉があるのかな?」

 

「ん?」ナナも、つられて見上げる。「そうなんじゃない?」

 

「だよな。なら、とりあえずあそこを目指せばいいか」

 

 少し足を速め、踊り場をまっすぐ進んだ先にある短い石段を登りきると、先程より少しばかり広い踊り場に出た。

 左側には先程と同じように道があった。

 右側には小さな温泉、そして木でできた橋があり、その先にはどこかへと通じているだろう道がある。

 まっすぐ進めば長い石段があるのだが、その石段にさしかかる場所に腰掛があり、誰かが座っている。大きな傘がその人物の顔を隠しており、どのような人物なのかは分からないが、立派な着物を着ていることから、偉い人なのではないか、と想像できた。

 村において一番偉い人となれば、大抵は村長だろう。別に、挨拶などしなくともよいのだが、ハンターとして村にお邪魔する以上、面識があった方が好ましい。

 レオンは荷物を置いて、その人物の方へ近づいた。その人物は、誰かが近づいていることを察したのか、傘を少し傾けた。

 そのとき、その人物の顔が(あら)わになった。

 顔に白粉(おしろい)、頭には派手な髪飾りをつけ、先の尖った耳が特徴的な女性であった。長く尖った耳をしていることから、彼女は竜人族(りゅうじんぞく)であることが、レオンには分かった。

 

 竜人族とは、レオンたち人間とアイルーなどの獣人種以外の種族の一つであり、鍛冶や調合などにおいて高度な技巧を持ち、長寿ではあるが、人口は少ない種族である。耳が尖っているほかに、指が4本であるなどの特徴がある。

 

「こんにちは」レオンは微笑みながら声をかける。

 

「……あら、こんにちは」彼女はそういいながら軽くお辞儀をした。

 

「はじめまして、私は温泉宿の女将(おかみ)兼ユクモ村の村長をしておりますの。見たところハンターのようですわね」

 

「はい。レオン・ガーネットといいます。旅の途中でこの村へ来ました。こっちはオトモの……」

 

「ナナです」続いて、ナナもぺこりとお辞儀をした。

 

「どうも。……あら、ガーネット?」村長が首を傾げた。

 

「どうかされました?」

 

 レオンが尋ねると、村長は思い出したように目を見開いた。

 

「あぁ、もしかして、あなたのお父さんはアレックスさん、じゃなかったかしら……?」

 

 突然、父の名前が出てきてレオンは驚いた。

 

「そ、そうです」

 

 レオンがそう答えると、村長は納得したように頷いた。

 

「やっぱり。貴方、お父さんにそっくり。お父さんは元気?」

 

 どうやら、彼の父はこの村を訪れたことがあるらしい。

 

「……父は旅に出たっきりで、オレは会ってないんです」

 

「そうなのですか。あの方はおもしろい方でしたわ。腰の痛みを取るという湯治目的でここにいらしたのに、モンスターが現れたときはいの一番に名乗り出て、『オレが狩りに行く!!』とおっしゃったの。狩りの方は無事に終わらせたのですけど、腰の痛みがひどくなられたようで……。それで、少々治療の方もさせていただきましたのよ。当の本人は大丈夫だ、なんておっしゃっていましたけど、私、内心では心配しておりましたの」

 

 村長はオホホホ、と高らかに笑った。

 

「そうだったんですか……。父がご迷惑をお掛けしました」

 

「そんなたいそうなことじゃありませんのよ」

 

 村長は広い心をお持ちのようである。

 

「では、オレはこれで失礼します」

 

 そう告げたとき、「あ、少し待ってくださる?」と村長がレオンを引き留めた。

 

「なんでしょうか?」

 

「この村へお越しになって温泉に入りたいというところを申し訳ないのですけれど……。一つ、依頼を受けて頂けないかしら?」

 

「依頼……ですか?」

 

 村長直々の依頼だ。重要なものだろう。

 

「それはどういった……?」

 

「――迷子のハンターを捜してほしいんですの」

 

「迷子の……ハンター、ですか?」

 

 それは一体どういうことなのか。レオンにはよくわからなかった。

 

「ええ。この村のコなのだけれど、村人の依頼を受けて狩り場に行ったきり、帰ってこないのよ。だから、迷子になっているのではないかしら、と思って……」村長は少し俯いた。

 

「なぜ、オレに依頼されるんでしょうか……?」

 

「……そのコは初心者のハンターで、あまり狩場慣れしていないから、そのコが受けた依頼は採集なのだけれど……モンスターが現れるかもしれない危険性を考慮すると、あなたのように強いハンターに頼むしかありませんのよ」

 

「……では、今この村にオレ以外のハンターはいないということですか?」

 

「ユクモ村には専属のハンターは一応いるのですけれど、今は二人とも出払っていますのよ。だから、申し訳ないけれど、引き受けていただけないかしら?」

 

 レオンは少し黙考すると、すぐ答えを出した。

 

「……わかりました。父が迷惑をかけたようですし、その尻拭いといっては何ですが、引き受けます」

 

 その言葉を聞いて、村長は微笑んだ。レオンの足元にいるナナは、退屈なのか、眠いのかはわからないが、大きな欠伸をしている。

 

「ごめんなさいね。急にお願いをしてしまって……」

 

「いえ、気になさらないでください。それで、そのコの特徴はどういった……?」

 

「この村独自の装備をしていたはずよ。でも、【渓流】に入っているのはそのコだけのはずだから、見つけやすいとは思いますの」

 

〝渓流〟は、ユクモ村の近辺にある、ギルド管轄フィールドを指すようだ。

 

「わかりました。その渓流へ行くには、あの橋の先にある道を辿ればいいんですか?」レオンは橋の方向を指差しながら言った。

 

「はい。あの道を辿れば、渓流のベースキャンプに出ますの。地図はそこにあるはずですわ」

 

「わかりました」

 

「お荷物は、私がここで見ています。……もうすぐ夕暮れで暗くなりますし、初めての場所でわからないことだらけだとは存じますけど、どうかお気をつけて」

 

 村長は、レオンに向かって深く頭を下げる。

 

「はい」

 

 レオンは頷くと、荷物の中から必要だと思われるアイテムを選んで、ポーチに手際よく詰め込んだ。

 

「では、行ってきます。ナナ、行くぞ」

 

「仕方ないわね……」ナナはまた一つ大きな欠伸をした。

 

 村に来ていきなりの依頼。しかも村長直々だ。様々な依頼をこなしてきたが、今回のような人捜しの依頼は初めてだな。そいつはどんな奴なんだろうか。これから向かうフィールドはどんな所で、どんなモンスターが生息しているのだろう――渓流へと続く道を辿りながら、レオンの脳内では様々な考えが駆け巡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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