モンスターハンター ~碧空の証~   作:鷹幸

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 突如、渓流にジャギィが大量発生した。ギルドの命を受け、その原因の調査に向かったレオンたち。渓流で彼らが見たのは、群れを統べる者――ドスジャギィの姿だった。




第21話 群れを総べる者

 翌日、ギルドより、ジャギィの群れおよびドスジャギィの討伐令が下された。

 村長からギルドの命を聞いたレオンたちは、一旦ユクモ農場へ向かった。農場に置いてある準備物を取りにいくためだ。

 

「思った通り、討伐令が出たな」

 

 レオンが誇らしげに言うと、ソラは頷いた。

 

「だね。準備はもうできてるし、あとは狩るだけ!」彼女は張り切っている。

 

「それじゃ、ナナ、タイガ、よろしくな」

 

「えぇ」

 

「ニャ」

 

 レオンが2匹に頼んだのは、【大タル爆弾】を荷車に積み、渓流の拠点(ベースキャンプ)まで運ぶ仕事だ。タル爆弾は、衝撃を与えると大爆発を起こすとんでもない代物であるため、爆弾の扱いに長けているアイルー族に運搬を任せた方が無難なのである。拠点からは、爆弾を手で運ぶ。

 アイテムの最終確認を終えたレオンとソラは、渓流へ赴いた。

 拠点に到着すると、二人はギルドからの支給品を受け取り、すぐにエリア1へ向かう。

 そこでガーグァを2、3羽仕留めると、すぐに拠点に戻り、雑貨屋で購入したネムリ草と調達した生肉を調合して(といってもネムリ草を練り込むだけだが)、眠り生肉を複数個作った。

 

「じゃ、ジャギィの群れの位置を調べるとするか」

 

 レオンは目を閉じ、鼻で風を吸う。

 草木や土の匂いに混じる、獣の匂い……。

 近い。

 レオンは、ぱっと目を開く。

 

「分かった?」ソラが訊く。

 

「あぁ」レオンは応じながら、ポーチから地図を引き出す。「匂いの強さと方向から、エリア2に群れがある」彼は、地図上のエリア2辺りを指差した。「あとは、ちらほらモンスターがいるくらい」

 

「エリア2かぁ……案外近いね」

 

「これなら、爆弾を運ぶのもさほど苦労しないな」

 

「ドスジャギィはいたの?」

 

「たぶん……そこにはいないかな。だから、早めに作戦に移ろう」

 

 そこへ、ナナとタイガが荷車を押してやってきた。荷車には、大タル爆弾四つと、そのほかのアイテムが積まれている。

 

「ちょうど、だな」レオンは片手にタル爆弾を、もう片方の手に落とし穴を作る装置を持った。「爆弾は、一人一つずつ運搬だ。眠り生肉、忘れるなよ」そして、歩き出す。「さあ、行こう」

 

 

 

 

 

 

 岩陰に隠れた彼らは、エリア2でジャギィの集団を視界に捉えた。所々にジャギィノスがいるが、すべて眠っている。

 

「ドスジャギィの姿はないな……」レオンは呟くと、持っていたタル爆弾をその場に置いた。「よし。睡眠爆弾作戦決行だ」

 

 レオンは、ソラから眠り生肉を数個受け取ると、ジャギィの群れの中心部にそれらを放り込んだ。

 疑う様子もなく、ジャギィたちは睡眠薬を仕込んだ生肉を(ついば)み始める。どうやら、かなり腹を空かせているらしい。

 ドスジャギィの統率する群れでは、捉えた獲物を食う順番がドスジャギィ、ジャギィノス、ジャギィであるため、ジャギィが腹を空かせているのも納得できる。

 もしかしたら生肉を食わないかもしれない、という一抹(いちまつ)の不安がレオンにあったのだが、その心配も無用に終わった。あとは、ジャギィたちが眠ったところに爆弾を設置、起爆するのみだ。

 1分も経たないうちに、静寂が訪れた。すべてのジャギィは眠りこけ、死んだように動かなくなった。

 レオンが頷くと、総員、爆弾を手に持って静かに移動を開始した。

 生肉に群がるようにして眠るジャギィたちの側に、爆弾を二つ置く。ジャギィノスは数匹が離れて位置しているので、確実に仕留められるかは分からないが、爆風である程度のダメージを与えられる距離に爆弾を置いた。

 その作業を終えると、レオンはエリアの中心辺りに走っていき、落とし穴を作るための筒状の装置を立てる。上部の(ふた)(ひね)ると、地面が穿(うが)たれ、丈夫な網がバッと広がり、落とし穴が完成した。

 落とし穴は、ある重量以上のものが上に乗らないと発動しない仕組みになっており、ハンターや小型モンスターには反応しない。これなら、仮にジャギィたちが目を覚まして落とし穴の上に乗っかったとしても、穴に落ちることは無く、落とし穴が無駄にはならない(数匹が乗っかり発動してしまう可能性は、少なからず存在する)。

 レオンは、既に避難が完了したソラたちの元へと、なるべく音を立てないよう駆けた。

 

「よし。あとは起爆して、ジャギィたちに最高の目覚めをプレゼントしてやろう」

 

「レオン、涼しい顔してけっこうえげつないこと言ってるよね」

 

 レオンは足元に落ちていた石ころを拾い上げる。

 

「みんな伏せてろよ」

 

 全員が(うつぶ)せになったのを確認したレオンは、爆弾目掛けて全速力の直球を投擲(とうてき)するやいなや、即座に体勢を低くした。

 直後、意思を持たぬ石が、タル爆弾を貫く。

 連鎖する爆音、遅れて爆風。

 舞い上がった爆煙と(すな)(ぼこり)が、熱風に乗って彼らを襲った。

 

「……っ」

 

「うわ……っ」

 

 数秒後、風が収まり、彼らは目を開ける。エリアのあちこちから黒煙が上がっていた。

 

「火薬の量、多過ぎたかな……」レオンは困ったような顔をする。

 

「でも、ドスジャギィと闘いやすくなったんなら、いいんじゃない?」

 

 ソラが言うと、レオンは静かに頷いた。

 

「とりあえず、落とし穴の前まで行こう」

 

 ジャギィの固まりがあった場所には、黒焦げになった肉の塊が散乱し、岩肌や地面には、血糊がべっとり張り付いていた。そして、あちらこちらに倒れているジャギィノスは、既に虫の息。事実上、ジャギィとジャギィノスの群れは全滅した。残りは、(かしら)のドスジャギィのみだ。

 火薬の残滓(ざんし)の匂いが立ち込めるエリアを歩き、四人は落とし穴の前までやって来た。

 

「あとは……この落とし穴にドスジャギィを落として、攻撃を仕掛けるだけだな」

 

 レオンが言うと、ソラは「そうだね」と相槌を打った。

 

「それで……、奴が落とし穴に()まったら、あとはオレに任せてくれ」

 

「ん? なんで?」

 

「落とし穴に落とせば、モンスターの動きを拘束できる。そういうとき、大剣は一番相性がいいんだ」

 

「なるほど」ソラは、うんうんと頷く。「そういうことなら、レオンに任せるよ」

 

「よし」

 

 ドスジャギィは、すぐにやって来た。爆発音に感付いて戻ってきたのかどうかは不明であるが、部下を失った怒りからか、縄張りに侵入した者たちへの威嚇なのか、その眼光は突き刺すように鋭い。大きなエリマキは、昨日見たものよりも大きく感じた。

 そして、威嚇の咆哮。

 

「来るぞ……」レオンが呟く。

 

 後脚を蹴り、狗竜は低い軌道で侵入者を襲う。

 だが、侵入者たちは動かない。

 狗竜は感じ取った。何かある、と。

 だが、気付いたときにはもう遅かった。

 

「ギャオウ!?」

 

 狗竜の躰が地面に沈んだ。

 

「落ちた!」ソラが叫ぶ。

 

「よし!」

 

 レオンは駆けていくと、大剣を担ぐようにして、腕に、腰に、力を入れた。

 その間、ドスジャギィは落とし穴から抜け出そうと必死にもがいていた。だが、ネットが脚に絡まっているのか、なかなか抜け出せそうにない。ずっと、睨むような視線がレオンの方へ向けられている。

 

(お前も生きるために必死だろうが、狩人(オレたち)も生きるために必死なんだ……)

 

 力は十分に溜まった。

 

「らぁっ!」

 

 雄叫びとともに、蓄積されたエネルギーを解き放ち、大地をも揺るがす重撃が振り下ろされる。

 ズシン、という重たい音が反響し、獣の唸る声が瞬時にして消えた。

 その一撃は、地面に埋まった狗竜の、頭と胴体を分断していた。

 不気味な音を立てて、頭部が刃からずり落ちる。

 レオンは、ふぅっ、と息を吐いた。そして、地面に刺さった大剣を引き抜く。血に彩られた大剣の刃先には、緋色の液体が伝っていた。

 

「うわぁ……」駆けてきたソラが、ドスジャギィの首を見て目を細める。「く、首が……」

 

「まぁ、仕方ない……。人とモンスターが共存するためには、狩りは必要なことだからな」レオンは呟いて、腰の剥ぎ取りナイフに手を掛ける。「素材を剥ぎ取って、村に帰ろうぜ」

 

 レオンが剥ぎ取りナイフを構えて、ドスジャギィの躰に刃を突き立てようとしたそのとき、

 甲高い鳴き声が、彼らの背後を襲った。

 

「え!?」

 

 驚いて振り返る。すると、ジャギィの群れが向かってきているのが見えた。

 

「な!?」

 

 咄嗟(とっさ)に動けなかった四人は、瞬く間にジャギィの軍団に取り囲まれてしまった。

 

「え!? ど、どういうこと!? さ、さっきのジャギィの亡霊!?」

 

「いや、本物ね……。さっきの爆発で倒し損ねた奴らかしら?」

 

「それは分からないな……」

 

 じりじり、とジャギィたちは迫り来る。

 

「ど、どうするの?」ソラは、弓に手を掛けている。「た、闘うの?」

 

「いや……」レオンは、視線をあちこちに巡らせていた。「オレが合図したら、走るぞ」

 

「え?……あ、うん」

 

「遅れずに付いてこいよ」

 

 レオンはポーチから何かを素早く抜き取ると、それを地面に叩きつけた。瞬間、煙幕が広がり、辺り一帯が白に包まれる。

 

「こっちだ……!」

 

「あ……、う、うんっ」

 

 当惑しながらも、白煙の中から聞こえる声の方向に躰を向け、ソラは駆けだす。ナナとタイガも同様だ。

 

「ギャ!?」「ギャオウ!?」という戸惑う鳴き声の渦の中を、四人は走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らはエリア4に逃げてきた。軍団が追ってくる様子はない。

 

「……さっきの煙、何?」息を整えてから、ソラが訊いた。

 

「あれは、【けむり玉】」レオンが答える。「地面に叩きつけると、白煙で視界を遮ることができるアイテムだよ。……ポーチに滑り込ませておいてよかった」

 

 昨日の朝、霧で遠くの山々の景色を見ることができなかったことがヒントになったのである。

 

「で、さっきジャギィは……?」

 

「あぁ……」レオンは鼻息を漏らした。「ジャギィの群れは、二つ、あったんだ」

 

「……二つ?」

 

「うん。ドスジャギィは渓流に2体いた、ってことにもなる」

 

「2体!?」ソラは目を見開いた。「そ、それじゃあ、もう1体いるってこと!?」

 

「……それしか考えられない」

 

「ど、どうするの!?」

 

「待て」今にも突っ掛かってきそうなソラを、レオンは手で制する。「慌てるな。言ったろ? 狩りは、いつも上手くいくとは限らない、って」

 

「う……、うん……。そりゃ、そうだけど……」ソラは俯く。「……ごめんなさい、あまりに唐突なことで、混乱しちゃった」

 

「別に気にすることはないよ」レオンは微笑みかけた。「とりあえず、これからのことを考えよう」

 

「もう1体いるはずのドスジャギィは、討伐するのよね?」ナナが訊いた。

 

「あぁ、そのつもりだ。たぶん、ギルドもそう判断するだろうしな」

 

「でも、それだと……」ソラは唇に指を当てた。「あのジャギィの群れを相手しなきゃダメだよね」

 

「もちろん、そうなる」

 

「爆弾は使いきっちゃったし……、どうするの?」

 

「昨日言ってた、もう一つの作戦……」レオンは、腰のポーチに手を入れると、あるアイテムを取り出した。「閃光玉を使う」

 

 ソラは眉を吊り上げて、「そうだったね」と頷いた。

 

「閃光玉は、オレとナナで投げる」レオンは、もう一つ閃光玉を取り出すと、ナナに手渡した。「投げる時は言うから、合図したら、目を瞑れ。直視したら、数十秒は見えなくなるからな。……そのあとは、矢でジャギィたちを倒してくれればいい。ドスジャギィは、オレがやる」

 

「うん、わかった」

 

「ねぇ……」ナナが口を開く。「さっきから空気になってるけど、アンタ、どうしたの?」彼女の視線は、タイガに向けられた。

 

「そういえば、タイガはさっきから何にも喋ってないね」ソラは少し困ったような顔をする。「どうしちゃったの?」

 

 ソラが訊いても、タイガは答えず、ただ地面を見つめているだけだった。

 

「……拠点(ベースキャンプ)に来るまでは元気そうだったのになぁ」ソラは溜め息をつく。

 

「前の……、アオアシラと闘ったときのことがトラウマになってるんじゃないのか?」レオンが言う。「ここに来たことで、あの出来事を思い出したんだろう?」

 

 あの出来事とは、タイガがアオアシラに拘束され、怪我を負わされたことだ。

 

「そうなの?」

 

 ソラが言うと、タイガは微かに頷いた。

 

「も、モンスターが……怖いニャ……」

 

「うーん……」レオンは、顎に手を当てて唸った。「次は総力戦になるから、タイガにも頑張ってもらわないといけないんだけどなぁ……」

 

「相変わらずヘタレなのね」言葉の節々を尖らせ、ナナが言う。「アンタは、ハンターのお供をする、オトモアイルーなのよ。つまりは、アンタもハンターなの。やるときにやってもらわなきゃ困るのよ。……ちょっとは良いとこ見せようと思わないの?」

 

 タイガは、再び黙り込んだ。それを見て、ナナは溜め息を漏らす。

 

「……まぁ、アンタの気持ちも分からなくはないわ」ナナは軽く瞼を閉じた。「そう、誰しも、最初から強かったわけじゃない。あたしもそうだったし……、ソラだってそうだったでしょう? でも、恐怖に打ち()って、勇気を出してモンスターに立ち向かっていったことで、自信をつけることができたのよ」ナナは一度、言葉を切った。「……小さな勇気が、大きな行動を起こすことができる。いつまでも逃げ回ってるようじゃ、ずっとヘタレでいることになるわ」

 

 ナナは、タイガの顔を覗き込んだ。

 

「そんなヘタレのままでいいの? 勇気を振り絞ることもできず、何も行動を起こせないままで、アンタは満足? そんな、つまらない人生を送りたいワケ?」

 

 数秒の沈黙が流れる。

 

「ぐぅ……っ!」タイガは小さな牙を剥き出した。「……そ、そこまで言うのなら……、やってやるニャァァァァ――――ッ!」

 

 彼の瞳に火がついた。いや、実際に燃え上がったわけではない。そんなことになれば、彼は瞬く間に炭と化してしまうだろう。

 

「ふふ、その意気よ」ナナは目を細めた。「……そうね、アンタのことだから、ジャギィたちを食事だと思って掛かっていけばいいわ」

 

(メシ)! 飯ニャね!! よっしゃあ!! あいつら全部平らげてやるニャァァァァッ!」

 

 腕を大きく広げて、タイガは叫ぶ。彼の場合、大声を出すことで気合いが入るのだろう。そのあと、タイガは、背中に掛けた無傷の木刀を振り回し、準備運動のような行動をとり始めた。

 

「……よし、作戦はここまでだ」レオンは口元に笑みを浮かばせて言った。「あとは、そのときになってみなきゃ分からない。臨機応変に対応するように」

 

 ソラはゆっくりと頷く。「がんばるよ」

 

「閃光玉は、ジャギィ(ども)が十分に集まってから使う。ドスジャギィも来れば上等だな」レオンは手に持った閃光玉をいじくり回していたが、急に、その動きを止めた。「……そろそろ、奴らがやってくる頃かな」

 

「え?」

 

 ソラが声を出すのとほぼ同時刻に、十数匹のジャギィが四方八方から現れた。軍団は、あっという間に侵入者たちを取り囲む。どの方向にも、等間隔にジャギィが配置されており、逃げようとすれば、たちまち餌食(えじき)になってしまうだろう。

 その中に交じって、一際(ひときわ)大きなジャギィ――(いな)、ドスジャギィがこちらを見て唸っていた。

 

「わっ」ソラは咄嗟に、弓に手を掛けた。「ドスジャギィ! 来たよ!」

 

「飛んで火に入る夏の虫……」レオンが呟く。「いや、虫はオレたちの方か……」

 

 狗竜の軍隊は、じりじりと寄ってくる。ジャギィの輪の直径は小さくなり、伴って、円の面積も急速に減少していく。

 ナナはブーメランを構え、タイガは木刀を構えた。

 このとき、レオンは迷っていた。

 

(この陣形を取られたら、閃光玉を投げる場所が無い……)

 

 閃光玉は、(ひかり)(むし)という虫と、手投げ玉の元となる素材玉とを調合させたものである。光蟲は、絶命時または衝撃を受けた際に強烈に発光する虫で、閃光玉は、その性質を利用している。閃光玉を投げることで慣性力を与え、その衝撃で、閃光玉内部の光蟲が強い光を発するのである。また、衝撃を受けてから発光するまでに若干のタイムラグが存在するため、投擲(とうてき)後、閃光玉はすぐに発動しない。

 それらを踏まえ、現在の状況を考える。

 現在、レオンたちは、ジャギィたちが作る輪の重心位置、すなわち円の中心にいる。ここから閃光玉を投げると、閃光玉の炸裂する場所は、輪の外になる可能性が高い。仮に、閃光玉がその場所で炸裂した場合、効果があるのは、炸裂地点を向いているジャギィのみだ。簡単に言えば、閃光玉を投げた方向にいるジャギィたちは、目が(くら)まない。これでは、群れ全体の行動を制限することは難しく、今後の情勢に悪影響を及ぼしかねない。

 

(どうすれば……)レオンは、思考を張り巡らせる。

 

 適当な方向に投げて、半数か、半数以下のジャギィの動きを束縛し、自由に動けるジャギィを先に倒すか。しかし、それは効率的でない。

 ならば、ドスジャギィの目に、確実に閃光が当たるような方向に投げるか。そうすれば、奴だけは確実に狙える。だが、ジャギィの攻撃を受ける覚悟で行かなければならない。それだと、自分のみならず、ソラたちも危険な目に合わせることになる。

 現状を打破する案がなかなか浮かばない。

 ちらりと空を見る。太陽が高々と昇っていた。

 その瞬間、何かが脳天を突き抜ける感覚が、彼を襲う。

 

(……いや、方法が一つあった!)

 

 レオンは閃光玉をぐっと握りしめる。

 

「全員、目を閉じて伏せろ!」

 

 指示を出すと、他の三人は言われた通りにする。

 僅かな時間を置いて、強烈な閃光が辺りを覆った。

 それは、瞼を強く閉じていても眩しく感じるほどの光だった。

 ジャギィの悲鳴が聞こえる。

 彼らが目を開けると、すべてのジャギィが盲目状態となり、混乱していた。

 

「よし!!」レオンは大剣の柄に手を当てる。「それじゃやるぞ!!」

 

「うん!!」ソラは矢を番え、ジャギィに狙いを定める。

 

「飯ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」タイガは木刀を振り(かざ)し、ジャギィの方向へ。

 ナナは無言のまま、痺れ薬を塗ったブーメランを投げた。

 

 ――レオンが閃光玉を投げた方向は、真上であった。

 真上に投げ上げることで、炸裂した光が、全てのジャギィとドスジャギィの目を刺したのである。

 この発想の起点は、〝太陽〟にあった。正確には、恒星と惑星の関係だ。

 惑星は、光り輝く恒星を中心として(精確には中心ではないが)、その周囲を回る(これを、公転という)。そして、恒星の光は、公転するすべての惑星に行き渡る。

 彼は、この事象から想を得た。

 自分が円の中心にいるのであれば、その地点からの発光で、中心を向いているジャギィたちの目を眩ませることができる。中心位置で炸裂すれば、どこであろうと効果はあるので(遥か上空や、地中では効果は認められないが)、彼は鉛直上方向に閃光玉を投げたのである。

 

 

 

 

 ソラが放った矢を喉元に受けたジャギィは、(うめ)く間も無く倒れた。その反対側では、ナナがブーメランで斬り、タイガは木刀を振り回している。

 その様子を一瞥してから、レオンは、一時的に視力を失った狗竜に攻撃を仕掛けていた。

 だが、ドスジャギィは、気配を察知し、半歩後ろに退いた。瞬間、鋼鉄の刃が目元を掠める。

 

(やるな……)レオンは目を細める。

 

 さすがは群れのリーダー。伊達(だて)に大きいだけではない。

 だが、こちらに分があることに変わりはない。見えているか見えていないかの違いは、かなり大きい。

 視力が失われている隙に仕留めたいが、それは無理だろう。しかし、致命傷を与えることなら可能だ。

 レオンは足を踏み出すと、躰を捻り、大剣を()ぐ。円弧を描く剣先が、喉を掻き斬った。

 

「ギャンッ!」

 

 悲鳴を上げて、狗竜が(ひる)む。

 レオンが体勢を立て直したとき、狗竜は、躰を半回転させた。長い尻尾が(むち)のようにしなやかに振るわれ、レオンに襲いかかる。

 彼は、大きな刀身を盾にして、その攻撃を防いだ。

 

(攻撃が重い……)

 

 少し距離を置いて防御の姿勢を解きながら、彼は思う。その間、ドスジャギィは再度、同じ方向に半回転した。

 

(長い尻尾を活かした、広範囲に渡る攻撃か……)

 

 同時に、厄介だな、とも思う。尻尾の薙ぎ払いに当たれば、肋骨を何本か持っていかれそうだ。体勢を低くとれば攻撃に当らない気もするが、体勢を低くして近づくのは、大剣では困難である。

 ドスジャギィはまだ視力が回復していないらしく、レオンの目の前で回転を繰り返していた。これでは、近寄れない。

 その場で(たたず)んでいると、いち早く視力を取り戻したジャギィたちが、彼の方へ近寄ってきた。

 彼は大剣で、数匹のジャギィを払う。こういうとき、リーチの長い大剣は役に立つ。吹っ飛んだジャギィは、地面の上で苦しそうにもがいていた。

 そうこうしているうちに、ドスジャギィは視力を取り戻したらしく、その場で足踏みをして、威嚇の鳴き声を上げた。

 その瞬間に、レオンは大剣を振り、斬り上げる。

 しかし、狗竜は大きくバックステップして、それを回避した。

 

「……くっ」

 

 後方に打ち付けた大剣を持ち直そうとしたとき、狗竜が口を開けて飛び掛かってきた。

 足に踏ん張りをきかせ、レオンは大きく大剣を薙ぎ払う。

 刃はエリマキを切り裂いた。狗竜は少し怯んだが、ものともせず突進してくる。

 

「ちっ」

 

 レオンは、その攻撃を前転して避けた。そして、起き上がりざまに大剣を払う。

 だが、刀身は狗竜を捉えなかった。距離が離れすぎていたのだ。

 レオンが体勢を元に戻そうとするとき、ドスジャギィは躰の側面をレオンの方に向け、腰を大きく落としていた。

 次の瞬間、巨体が目の前に迫った。

 

 

 

       *

 

 

 

 十数匹のジャギィに囲まれた状況で、ソラは、ジャギィを一匹ずつ、矢で的確に仕留めていく。

 事実、以前よりも、彼女の命中の精度は上がっていた。日々の努力の積み重ねが、今の彼女を創り上げている。

 しかし……。

 

(数が多すぎる……)

 

 素早く矢を引き抜き、番え、射る。この所作の連続。

 既に視力を取り戻し、四方から飛んでくるジャギィたちを(さば)ききるのは、困難を極めた。

 ナナやタイガも奮闘しているが、それでも、ジャギィの数は一向に減らない。むしろ、増えているのではないかと思うくらいだ。

 しかし、実際に数は増えていない。ジャギィが縦横無尽に動き回るせいで、あたかも数が増えているかのような錯覚に陥るのである。

 思った以上に、この戦闘は辛い。

 先ほどの爆弾を使った作戦が、いかに有効な策であったかが窺える。

 ソラの放った矢が、ジャギィの躰を掠めた。

 

(……集中が……続かない)

 

 獲物を精確に射抜くのには、かなりの集中力を要する。

 数が多いと、集中すべき対象が増える。矢で獲物を狙いつつ、周囲にいるジャギィの位置を把握しなければならない。目が三つも四つもあれば少しは容易になるのだろうが、あいにく目は二つだ。視覚だけに頼るのではなく、聴覚など、他の全ての感覚を研ぎ澄ます必要がある。

 しかし、その集中力も、長くは続かない。とくに、現在の状況なら尚更だ。

 矢で射止めきれなかったジャギィが飛び掛かってくる。

 ソラは矢筒から矢を引き抜き、それをジャギィの頭部に突き刺した。

 

「……っ」

 

 だが、彼女は、背後から迫るもう一匹のジャギィに気付いていなかった。

 

「ソラ!! 後ろ!!」ナナの叫ぶ声。

 

 だが、振り返ったときにはもう遅かった。反応できず、彼女の躰は固まる。

 小型モンスターとは言っても、全長ならば、人間を軽く凌駕(りょうが)するジャギィだ。飛び掛かってこられれば、小柄なソラは大怪我を負う可能性がある。

 彼女は強く目を瞑り、躰を縮こまらせた。

 その刹那――

 

「ニャァァァァァァァッ!!!!」

 

 タイガの小さな牙が、ジャギィの喉元を捉えた。

 

「飯ィィィィィィィィィィッ!!!!」

 

 そして、タイガは皮を噛み千切る。かなり深く抉ったらしく、ジャギィの頸動脈から血が噴き出した。

 

「タイガ!」

 

「マズい!!」着地したあと、タイガは口に含んだ肉塊を吐き出す。

 

「助けてくれたの?」

 

「ニャ。飯が飛び掛かっていってたから、ソラに取られてはまずいと思ったのニャ」

 

「うん、言ってることはよく分かんないけど、とにかくありがとね!」

 

「ニャんの。ボクだって、やるときゃやりますニャ!!」

 

 タイガの力強い言葉に、ソラはふふ、と笑みを溢す。

 

「よぉーし! ジャギィたちを、ぜーんぶ倒しちゃおう!!!!」

 

「了解ニャ!!!!」

 

「それじゃ、二回目の閃光玉、行くわよ!」ナナの声が響いた。

 

 

 

       *

 

 

 

 眩しい光が、視界の隅で膨張した。

 レオンは反射的に瞼を閉じ、すぐに開いた。

 彼に向かってサイドタックルを仕掛けようとした狗竜は、閃光を喰らい、彼の目の前で静止している。

 

(……好機(チャンス)!)

 

 レオンは大剣を大きく振り翳し、

 

「っらぁ!!」

 

 ガラ空きの体側部に、鋼刃を振り下ろした。

 肉を断裂する感触が、手に伝う。深紅の液体が宙を舞い、狗竜の躰が地面に崩れ落ちた。

 

(やった……!)

 

 レオンは息を吐くと同時に、全身の緊張を弛緩(しかん)させる。

 だが、それがいけなかった。

 

「ギャウッ!!」

 

 背後からの声に驚いて、レオンは首だけ振り返る。

 一匹のジャギィが、飛び掛かってきていた。

 

「っ!」

 

 慌てて回避を行おうとするが、重みを感じる躰は、言うことを聞かなかった。

 

「あぶないっ!」

 

 ソラの声がした瞬間、風を(まと)った一閃がジャギィの目を貫いた。矢を受けたジャギィは、水平回転運動をしながら地面に叩きつけられる。

 

「レオン!」ソラが叫んでいる。「大丈夫!?」

 

「あ、あぁ……!!」大剣の刀背を肩に掛け、レオンはソラの元へ駆け寄った。「助かったよ……ありがとう」

 

「ううん、無事ならよかった。それで、ドスジャギィは……?」

 

「たぶん、倒せた」レオンは、近寄ってきたジャギィの顔面に蹴りをかました。周囲に目をやると、狗竜軍団の数は残り数匹、というところだった。「リーダーがやられたというのに、逃げ出そうとしないんだな」

 

「そうみたいだね……」

 

「逃げるんなら、追って殺すような真似はしないけど、向かってくるのなら倒さないとな」

 

「うんっ」

 

 彼らは、残ったジャギィを討伐しにかかった。

 そして、1分も経たず、二つ目の群れも全滅を迎えた。

 

「ふぃ~っ」ソラは弓を納め、周囲を見回す。

 

 エリアには多数の死体が転がり、血溜まりもできていた。血生臭い匂いが鼻につく。

 

「けっこうな数がいたんだね……」

 

「そうだな……」レオンは大剣を納めながら言う。「一度の狩猟でこの数のモンスターを討伐したのは……初めてだよ」

 

「アイテムを使って闘うのと、そうでないのとでは、けっこうな差があるんだね。これからもどんどんアイテムを使っていかなきゃ」

 

「でも……今回使ったアイテムは、一例に過ぎない。アイテムはたくさんあるし、組み合わせも無限にある。そのときそのときに応じたアイテムを使って、強大なモンスターを相手に上手く立ち回ることが必要になってくるんだよ」

 

「そのためには、勉強しなきゃダメ?」

 

「もちろん。基礎があってこその応用だからな」

 

「やっぱり?」ソラは舌を出す。

 

「……タイガも、今回は活躍できたようだな」

 

「ニャ。新しい世界が開けた気がするニャ」タイガは拳を作った。

 

「踏み出してみるまでは、何があるかも、何が起こるかも予測できないからな……」レオンは腕を組んで頷いた。「一度力を与えてやれば滑り続ける氷上の物体のように、あとは惰性(だせい)でなんとかなる」

 

「ボクも強くなれるのかニャァ……」

 

「あぁ」レオンは微笑むと、手を叩いた。「よし、ジャギィたちとドスジャギィの素材の剥ぎ取りをして、村に戻ろう!」

 

 おぉ、という狩人たちの声が、エリア内に響いた。

 

 

 

 

 同じ頃……。

 一つの大きな影が、渓流に降り立った……。

 

 

 

       *

 

 

 

 

 ≪レオンの日記≫

 

 今日は、ドスジャギィとその群れの討伐に向かった。

 眠り生肉でジャギィたちを眠らせ爆弾で討伐する作戦を取り、見事に成功。

 群れの(かしら)も、落とし穴に落としてから、一撃で倒した。

 だが、そのあとで予想外の事態が起こる。

 なんと、もう一つ、ジャギィの群れが出現したのだ。

 オレたちは、ドスジャギィ率いる軍団と再び一戦交えることになった。

 そして、とくに誰も怪我をすることなく、狩猟は成功した。

 また、今回は、タイガがなかなかの活躍を見せてくれた。

 彼の今後に期待だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 対ドスジャギィ編、落着!

 そして、影の正体とは……?
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