モンスターハンター ~碧空の証~   作:鷹幸

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 ここにきて、ついに新キャラが登場!




第22話 師匠の師匠

 脳内の幻想から、意識が引き離される。

 急速に開けた視界は、焦点が定まるまでに時を要した。

 

(何か……夢を見てたみたいだけど、……思い出せない)

 

 (からだ)を起こしながら、レオンは思った。

 すっきりしない目覚めだ。しかし、夢を鮮明に覚えていられる方が珍しいので、彼は気にしないことにした。

 ベッドの縁から足を下ろして、大きく伸びをする。

 部屋の中の気温は、少し肌寒いほどだった。ついこのまえまでは、緑に茂る木々が残暑の厳しい陽射しを照り返して暑かったのに、最近では、ひんやりした風が、赤や橙に彩られ始めた木の葉を揺らしている。

 四季が明瞭で、季節の移り変わりを感じられる地域は限られている。ユクモ村はそのうちの一つであった。

 また、泉質の良い温泉が湧き出ているこの村では、紅葉の映え具合に比例して、観光客が増える傾向にあった。ゆったりと湯に浸かりながら眺める自然の色彩は、人のこころを癒すのだ。

 

 レオンは、ベッドから立ち上がると、部屋から出た。そして、ソラたちと朝食を済ませると、再びその部屋に戻ってくる。そのときは、黒猫アイルーのナナも一緒だった。

 彼は、床に整頓して置かれているレウスシリーズに手を掛け、それを装備し始める。彼は、頭の防具を装着しない。視界が狭まり、周囲の様子が観察しにくくなるというのが主な理由だ。だが、危険度の高いモンスターを狩猟するときは例外である。

 最後に、身の丈を超える大きな武器、大剣を装備する。隣ではナナが、オトモ専用の防具を着け終えたところだった。

 彼は今日も、ソラたちと共に渓流へ向かう。最近は、主に採集の依頼を受けていた。素材剥ぎ取りのために小型モンスターを狩猟することはあるものの、目立った個体数変化や大型モンスターの襲来もないので、本格的に狩りをすることはない。しかし、そろそろ何かがありそうな予感が、レオンにはあった。それは、ハンターとしての勘である。

 レオンとナナは部屋から出ると、ソラと共に、家を後にした。

 今日、タイガはいない。彼は、薪割りの手伝いをするそうだ。武器(木刀)を扱うための訓練だ、と彼は言っていた。確かに、素振りをするよりは力がつきそうだ、とレオンは思った。

 

「うーん……」道を辿って村の広場まで向かう途中、ソラが唸った。

 

「どうした?」レオンが訊く。

 

「うん、最近、大型モンスターを見かけないな、って思って」

 

「まえも、そんなこと言ってたな」

 

「あれ、そうだったっけ?」ソラは首を斜めにした。

 

「うん。そんなことを言ってたら、ドスジャギィが現れたんだよ」

 

「あー……。そういえば、そうだったかも」ソラは前髪を指で弾く。「わたしがそう言ったら、モンスターが現れるのかなぁ?」

 

「ある種の勘、かな……」

 

 レオンがそう呟いたとき、

 

「――レオン」

 

「ん?」

 

 呼び止められた気がして、彼は振り返った。だが、誰もいない。

 何だったんだ、という疑問を拭えないまま躰の向きを直すと、目と鼻の先(実際、それくらいの距離)に、女性の顔があった。

 

「わぁぁぁぁぁっ!?」

 

 驚きの声をあげ、レオンは尻餅をつく。彼が尻餅をつくのは、アオアシラ戦以来の出来事である。

 

「……そんなに驚かなくてもいいのに」レオンの目の前にいた女性は、むっとして呟いた。

 

 振り返った瞬間、目の前に顔があれば、誰しも驚くだろう、とレオンは思う。もちろん、それが見知った顔であっても、だ 。

 

「みゃーっ!」ナナが、いつにない満面の笑みを浮かべて、その女性に駆け寄った。「久し振りみゃー!」

 

「あら、ナナ」女性は腰を下ろして、黒猫の頭を()でてやる。「久し振りね!」

 

「ん……? この人、ナナちゃんのお知り合い?」ソラは少し目を大きくさせていた。

 

「あら失礼、紹介が遅れたわね」そう言って、女性は腰を上げる。高い身長に、ソラは女性の顔を見上げた。

 

 その女性は、赤い髪をケルビテール(後頭部の高い位置で髪の毛を一つにまとめ、垂らした髪型)にしていた。目尻が少しつりあがっていて、瞳が大きい。

 

「私は、リザ・ガーネット。……そこに倒れている愚弟の姉よ」

 

「えっ!?」ソラは、さらに大きく目を見開いた。「レオンが愚弟!?」

 

「驚くところはそこなのか!?」レオンが立ち上がりざまに言う。

 

「レオン、お姉さんがいたの!?」ソラは、レオンの方に顔を向けた。

 

「……あぁ」レオンは答える。「そして、ナナの前の(あるじ)でもある」

 

「さらに私は、レオンの、ハンターとしての師匠でもあるの」リザは誇らしげに言った。「レオンは私が育てた、と言っても過言ではないわね」

 

「師匠の師匠……!」ソラの瞳が、煌々と輝いた。「会えて光栄です! わたし、ソラって言います!」

 

「ソラさんね、よろしく」リザは右手を伸ばす。

 

「あ、ソラでいいです」ソラも手を伸ばし、二人は握手を交わした。

 

「私が、師匠の師匠……っていうと、ソラは、レオンにいろいろ教えてもらってるのかしら?」

 

「そうです! いつも助かってます!」

 

「そう……、レオンが……ねぇ」リザは、弟の顔を横目で窺った。

 

「……なんだよ」レオンは眉を(ひそ)める。

 

「いえ、何もないのよ」リザは、刺すような視線を(かわ)した。「それはそうと、ソラ、レオンに何かされてない? 大丈夫?」

 

「ほぇ?」

 

「我が弟は危ないのよね、いろんな意味で好奇心が旺盛だから。ま、何もないのならいいわ。優秀なオトモもいることだし、心配ないわね。ごめんなさい、今の質問は忘れて?」

 

「あ……、はい」ソラは少し腑に落ちない表情だったが、すぐ笑顔に戻った。「それで、リザさんもハンターなんですよね」

 

「そうよ」

 

「うーん……」ソラは、リザの全身を見回した。彼女は、(ほのお)のように赤い装備を身に纏っている。どこかで見たことのあるような装備だ。ソラは、レオンの方をチラリと見た。そこで、彼女は気づく。「あっ! レオンと装備が似てるんだ!」

 

「そう、レウスシリーズね。レオンと同じ」

 

 しかし、同じシリーズといっても、装備は男女で異なっている。一般的に、女性の装備は露出が多い。

 

「あの、その武器は……何なんですか?」ソラは、リザが背中に掛けている、長い棒状の武器を指差した。この地方では見かけない武器である。

 

「あぁ、これね」リザは、武器を左手に構えた。その武器は、片側に刃のついた長棒で、反対側に棍棒のような膨らみがある。「これは、操虫棍(そうちゅうこん)よ」

 

「そうちゅうこん?」ソラは首を傾げる。

 

「聞いたことのない武器だなぁ」レオンは顎に手を当てて言った。

 

「実は、虫も一緒にいるのだけれど……」そう言って彼女は、操虫棍を華麗に振り回す。すると、虫の羽音に似た周波数の高い音が奏でられた。

 

「むし?」ソラが言葉を発するのと同時に、どこからともなく、虫の羽音が聞こえた。

「帰ってきたわ」

 

 

 大きな羽を持った、蝶のような虫が、リザの右肩に止まった。

 

「わ。で、でかい!」ソラは一歩、後ろに下がる。

 

「これは、〝猟虫(りょうちゅう)〟っていうの」リザは、操虫棍を背中に戻す。

 

「……その虫が、狩りをするのか?」レオンが訊く。

 

「主に、狩りのサポートだけどね。猟虫は、モンスターから体液を搾取して、特殊なエキスに変換することができるの」

 

「エキス……?」

 

「そう、エキス。筋肉増強作用とか回復作用のあるものよ」

 

「へぇ……。虫を使うなんて、発想がすごいなぁ」レオンは感心したように、うんうんと頷いた。「で、その……ソウチュウコンっていう武器を振り回して、虫を操るんだな?」

 

「えぇ、そう。虫を操る棍だから、操虫棍なの」

 

「なるほど……」レオンは、リザの背後に回り、操虫棍をじろじろと見つめる。

 

「この武器については、追々説明してあげる」リザは、片目を瞑った。

 

「それで……、姉貴は何しに来たんだ?」

 

 レオンが訊くと、リザは片方の眉を吊り上げた。

 

「我が弟がこの村にお邪魔していると聞いたから、顔を見にやってきたのよ。それで、さっきまで、レオンを探してたってわけ」

 

「ふぅん……それだけの理由で、ここまで?」レオンは怪訝(けげん)な顔をする。「姉貴らしくない」

 

「うーん、そうね、それだけと言われれば、それだけじゃないわ。父からユクモ村のことを聞いてから、ずっとここに来たかったから、っていうのが大きいかしら。それに、ここの温泉は有名だし。一度は来ておくべきだと判断したの」

 

「……あ。そういえば、親父は?」

 

「まえに会ったときは、元気にしてたわよ。今はどこにいるか知らないけどね」

 

「そうか……」

 

「伝言。『どこかで会えるのを楽しみにしているぞ』だって」

 

「はっ」レオンは笑みを溢した。「親父らしいな」

 

「あの、リザさんも旅をされているんですか?」とソラ。

 

「えぇ、世界各地を巡っているわ」

 

「わぁ……。姉弟(きょうだい)二人とも、旅をしてるんだ……」

 

「自分の知らない世界をこの目で見るのは、いいものよ」リザは軽く目を閉じる。「また、旅の話でもしてあげましょうか?」

 

「ぜひ、お願いします!」

 

「オレにも頼むよ」

 

「分かったわ。それで……」リザは、二人の顔を交互に見た。「レオンとソラは、これからどうするつもりなの? 狩りに行くの?」

 

「今、村長のところへ向かってるところなんだ」

 

「あぁ、村長さんのところ……」

 

「で、依頼を受けて、渓流に向かう」

 

「なら、私も同行していいかしら? いろいろ見て回りたいから」

 

「オレは構わないけど……」レオンは、ソラを見る。「どうする?」

 

「全然、問題ないです!」

 

 ソラが言うと、リザは微笑んだ。

 

「それじゃ、よろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らが受けた依頼は、ケルビの角3個の納品だった。

 ケルビとは、班模様のある緑がかった体色が特徴的な、温暖な気候の地域に生息する小型の草食獣である。雄と雌で見た目が少し異なっており、雄は色合いが明るく、若干大きい。雌は暗い色で、耳が垂れている。また、雄は細い角を持っていて、雌にも角はあるものの、雄ほど発達していない。

 ケルビの角は、万病に効く薬の材料となることで有名である。ゆえに、取引価格も高い。

 

「ケルビの角の納品、ね……」渓流へ向かう途中で、リザは少し残念そうな顔をして呟いた。「操虫棍の腕前の披露は、お預けね」

 

「まぁ、いつでもいいよ」彼女と並んで歩いているレオンが言った。

 

「2週間くらい滞在する予定だから、その間には見せてあげたいわ」

 

「そうだ、他の武器は持ってきてないのか?」

 

「片手剣と双剣、ライトボウガンくらい。その他の武器は、大きくて重たいから、持ってきてないわ」

 

「しかしまぁ、よくもそんなに武器を扱えるよな……」

 

 リザは、ほぼ全ての武器種を扱えるハンターである。ハンターは基本的に、一つの武器を専門として扱うので(二つや三つを扱う者もいるが)、彼女のように多種の武器を扱える者は極めて稀なのだ。

 

「武器って、いろんな長所や短所があっておもしろいじゃない。あんなの、すぐ扱えるようになるわよ」

 

「そんなもの……なのか?」

 

「武器特有の癖を見極めれば、あとはなんとかなる。人間、慣れればどうってことないもの」

 

「うん……、ま、それもそうか……」

 

 そこで一旦、二人の会話は途切れた。

 後ろを歩いていたソラとナナは、楽しそうに会話をしていた。

 

「……へぇ、それで、ナナちゃんはリザさんのオトモになったんだね」

 

「そうみゃ。あの頃から変わらず、リザはかっこいいみゃあ」

 

「たしかに、リザさん、かっこいいよね。立ち姿も綺麗だし、落ち着きがあって……」

 

「でも、活発な人みゃ」

 

「そうそう……さっきから気になってたんだけど、ナナちゃん、喋り方もいつもと違うね?」

 

「うん。あたし、元々こういう喋り方みゃあ」

 

「そうなんだ。……でも、そっちの方が可愛くていいかも」

 

「ナナが可愛い、かぁ」レオンは、空に浮いた雲に視線を合わせた。「そんなこと、思ったことないな」

 

「レオンは、ナナに振り回されてるのね」リザがクスッと笑う。

 

「厄介なところだけ、姉貴に似てきて困る」

 

「あら、私、厄介者かしら?」リザはわざと、とぼけた顔を作った。

 

「昔よりはマシ」レオンはぶっきらぼうに答える。

 

「ふふ、可愛い奴」

 

 リザは、レオンの頭に手を乗せると、ぐしゃぐしゃにするように撫でた。

 

「ほらほら……、そういうの要らないからさぁ」乱れた髪を直しながら、レオンは姉を睨みつける。

 

「あら、怖ぁい……」

 

 誰かの溜め息が、風に乗ってどこかへ飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渓流のベースキャンプに到着すると、レオンは、設置されている青の支給品ボックスの中を覗き見た。しかし、空っぽだったのですぐに蓋を閉じる。

 

「ふふ……、なんだか、ワクワクするわね」

 

 リザにとって、渓流は初めてのフィールド。誰しも、初めての場所に向かうときには、緊張したり、興奮を覚えたりするものだ。

 

「でも、こういうワクワクって、同じ場所に何度も来てると感じなくなっちゃうのよね。……こういうとき、慣れって厄介」

 

 リザの言葉を聞いて、レオンは「確かに」と思った。

 彼が初めてここにやってきたのが、二ヶ月ほどまえのことだ。そのときは、見るもの感じるもの全てが新鮮に映えていて、驚きや興奮が絶えなかった。

 だが、今はどうだろう。

 毎日毎日、機械的に渓流を訪れる日々。

 最初に抱いた感情は、擦りきれてしまっている。

 退屈こそ感じないものの、少し物寂しい気分だ。

 こういうとき、人は刺激を求めるのだろう。狩人にとっての刺激といえば、“狩猟”である。

 そう考えると、家を出たときにソラが呟いた言葉は、狩人としての心情を鮮明に反映しているのかもしれない。

 

「だからこそ、旅はいい刺激になるんですね?」ソラが訊いた。

 

「そうね」リザは目を細める。「風の違いを感じたり、いろんな人に出会って話したりできるもの。刺激にならないはずがないわ」

 

「わたしも……旅、してみたいなぁ」

 

「なら、私についてきたらどう?」

 

「え、いいんですか?」

 

「いいわよ。旅は道連れって言うし、仲間といた方が、楽しさは数倍にも数十倍にも膨れ上がるもの」

 

「あ……、でも、旅に出るのは、お父さんが帰ってきてからになるかなぁ……」

 

「お父さん? 今はどちらにいらっしゃるの?」

 

「タンジアの港、っていうところらしいです」

 

「ここから、そう遠くはないわね」リザは少し頷く。「それで、お父さんとご相談なさるの?」

 

「うーんと、そういうんじゃなくて……、お父さんに、私の頑張りを見せてから、旅に出たいなぁ、って……」

 

「おぉ」リザは、眉をつり上げた。「それ、いいじゃない。うんうん、いいわぁ……」

 

「でも、いつになるか分からないし……一緒には行けないかもしれないですね」

 

「ううん、気にしなくていいのよ。明確な夢があるなら、それに向かって一所懸命に走るのがいいわ。旅なんて、いつでも出来るんだから」

 

「はいっ」

 

 元気に返事をするソラを見て、リザは微笑んだ。そして彼女は、弟の方を向く。

 

「……さて、行きましょうか、レオン」

 

 だが、彼は、その声に気づいていないようだった。

 

「レオン?」右頬を突っついてやる。そこでようやく、彼は気づいた。

 

「ん……?」

 

「行くわよ」

 

「あ……、あぁ」

 

「どうしたの?」

 

「いや、何も」

 

「何か考えごと?」

 

「でもない」

 

「気になるわね……」

 

「……何か」低い声で呟く。「何かが、いる気がする」

 

「渓流に?」

 

「あぁ。そんな匂いがする」

 

「匂い……ね」リザは、鼻で深呼吸をしてみる。「うーん……私には何も分からないわ。ま、その正体も探りながら、依頼を遂行しましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベースキャンプを発った彼らは、岩場のエリア2に向かった。そこで、数匹のケルビがたむろしているのを確認した。

 

「ここは、わたしが」

 

 ソラは弓を構え、矢筒から矢を引き抜いた。

 鏃を獲物に向け、獲物との距離を測りながら、引き絞る。弦がキリキリと音を立てた。

 矢筈を離す。

 直線を描いて、矢はケルビの喉元を貫通した。

 悲鳴で驚いた他のケルビたちが、蜘蛛(くも)の子を散らすように逃げていった。

 

「お見事」リザは手を叩く。「でも、3匹を同時に仕留めることもできるはずよ」

 

「えっ? そんなことができるんですか?」

 

「できるわ。〝曲射(きょくしゃ)〟を使えばね」

 

「きょくしゃ?」

 

「確か、この地方の弓なら、対応してるはず……」

 

「それって、どうするんですか?」

 

「簡単に言うと、空に向かって矢を放つの。そのときに使う矢は、空中で弾けるような特別なものよ。でも、曲射は通常の攻撃と違って、攻撃が当たるまでに時間を要するから、高度な技ではあるわ」

 

「うーん……、簡単そうだけど、難しそう……」

 

「慣れれば大丈夫よ。それに、曲射ができるようになれば、曲射のタイプで異なるけど、広範囲への攻撃、集中的な攻撃が可能になるの。その弓は、たぶん放散型に対応してるはずだから、広範囲への攻撃ができるわね」

 

「そうなんだ……」ソラは、弓を見つめる。

 

「知って損はないわ。また教えてあげる」

 

「ありがとうございます」

 

 ソラは弓を納めると、倒れたケルビの元へ駆け寄った。レオンたちも彼女に続く。

 

「そういえば……」ソラがケルビの角にナイフの刃を当てたとき、リザが口を開いた。「ケルビの角って、生きたままの状態で剥ぎ取った方が、薬として使うとき効能が良くなるらしいわね」

 

「仕留めない方がいいんですね?」

 

「そう。気絶させれば大丈夫」

 

 ソラとリザの二人は、レオンに視線を向けた。

 

「なぜそこでオレを見るんだ」

 

「この三人の中で、一番打撃に向いている武器といえば……大剣でしょう?」とリザ。

 

「でも、動きの(のろ)い大剣じゃ、近づいても逃げられるんじゃないか?」レオンは反論する。

 

「じゃあ、弓で?」

 

「角を狙え、っていうことですか? そんな高度なこと、わたしにできるかなぁ」

 

「……と、ここで、私の出番かしらね」リザは鼻を鳴らす。

 

 レオンとソラは、顔を見合わせた。

 

「その武器を使うのか?」

 

「……あ。もしかして、虫を使うんですか?」

 

「正解よ、ソラ」リザが微笑みかけると、ソラもつられて笑顔になった。「この猟虫は、打撃攻撃ができるの。これでケルビの頭部を狙えば、一発よ」

 

「へぇ……。虫も侮れない存在だな」

 

「ホント、虫を使おうなんて、一体誰が考えたのかしらね」

 

「姉貴も、何か武器を作ってみれば?」

 

「一度、オリジナルの武器を作ろうとしたことはあるけれど……ダメね、全然ダメだったわ」

 

「難しいんだな、武器を作るのも」

 

「そう。専門的な知識がないと、まるっきりダメね。あとは、非凡な発想力と、高い技術力。それを考えると、職人さんって、ホントにすごいわぁ……」リザは目を閉じる。「そうそう、スラッシュアックスは超絶技巧の宝庫ね。あの変形機構は格別だし、ほかにも、摺動(しゅうどう)部に摩耗しにくい素材を使っていたり、攻撃時に重撃を与えられる構造になっていたり……いろいろ考えられていて、とっても魅力的」

 

「リザさん、武器が大好きなんですね」ソラが言う。

 

「まぁね」リザは目を開いて、ソラを見る。「好きこそものの上手なれ、ってね」

 

「どういう意味ですか?」

 

「好きなことには、(おの)ずと熱が入るから、早く上達するってこと」

 

「なるほど……」

 

「自分のやりたいこと、好きなことはとことんやればいいのよ。自分に嘘をつかず、正直になって、ね」リザは軽くウインクをした。「さて、ケルビを探しましょうか」

 

「えっと、どっちに行きます? あっち?」ソラは、向かいの道を指差す。

 

「あっちは、エリア6……か」レオンは片目を細める。

 

「あら、そこに何かいる、って言いたげな顔ね」

 

「あぁ……、そこに『何か』はいる」

 

「それなら、行ってみましょうか?」

 

 リザが言うと、レオンは顎に手を当てて数秒唸った。

 

「……そうだな。さきに正体を知っておいた方が、今後の行動を考えやすい」

 

「なら、行きましょう」

 

 そして彼らは、歩きだす。

 

「何がいるのかしら……楽しみね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、エリア6。

 

 滝から落ちる無数の雫が、清らかな川に注ぎ込まれている。

 その川面(かわも)のあちらこちらに、色づいた葉が浮かんでいた。

 そして、そのエリアに、「何か」はいた。

 黄緑色を基調とした極色彩(ごくしきさい)の躰、

 大きな(くちばし)

 赤の鳴き袋……。

 そのサイケデリックな風貌に、彼らの視線は釘付けになった。

 

「あれは……」

 

 誰かの口から、その者の名前が洩れる。

 

「クルペッコ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 強力なモンスターが……!? と思ったら、クルペッコかよw
 と、心の中で突っ込まれた方、ごめんなさい。
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