モンスターハンター ~碧空の証~   作:鷹幸

3 / 38
第3話 渓流

 渓流――。

 森や渓谷、山々が連なった起伏に富んだ山地のフィールド。

 (かすみ)がかかった岩山、石柱並ぶ鍾乳洞(しょうにゅうどう)、秋深まる時期なら鮮やかな紅色に染まった木の葉が流れる渓谷(けいこく)など、自然が織り成す美しい情景に、訪れた者は皆、嘆声を漏らすであろう。

 

 ベースキャンプ――。

 ベースキャンプというのは、ハンターが依頼を受けてクエストを行う際に拠点とする場所のことである。モンスターが入ってこない安全な場所に設置されているため、狩りの最中に休憩をとるにはもってこいの場所だ。

 ベースキャンプには基本的に、休むためのベッド、ギルドからの支給品を受け取る【支給品ボックス】(青色をしている)、依頼品やアイテムの納品を行う【納品ボックス】(赤色をしている)、食事をするための焚き火が設置されている。

 しかし、これらの設備はギルドが管轄している狩場にしか置いていないことが多く、危険地帯や未開の地はこうした設備が整っていないベースキャンプが多く存在する。

 

 レオンは【支給品ボックス】の(ふた)を開け、中を確認した。

 ギルドを介した依頼の場合、【応急薬】や【携帯食料】などの支給品がこのボックスに入っているのだが、今回は村長からの緊急の依頼であるため、そういった支給品は入っていなかった。

 底の方に、一枚の紙が置かれていた。レオンはその紙をボックスから取り出した。

 

「これは地図、だな」折りたたまれた地図を開きながら彼は言った。

 

 地図にはベースキャンプと各エリアの位置、エリアとエリアを結ぶ道が記されている。

 

「どこから捜そうか……」

 

「とりあえず、手当りしだい捜せばいいんじゃないの?」ナナが地図を覗き見ながら言った。

 

「でも、それじゃ時間がかかってしょうがないぜ」

 

「……フン、好きにすれば」ナナはそっぽを向いてしまった。

 

「言われなくてもそうするさ……」

 

 レオンは地図を折りたたみ、ポーチに仕舞った。そのとき、ベッドの隣に置いてあるタルがガタっと動いた。

 

「え? おい、今なんかタルが動かなかったか?」

 

「……気のせいよ」

 

「いや、確かに動いた気がしたんだけど……」

 

 レオンは恐る恐るタルの方へ近づいた。

 

「タル爆弾じゃないよな、これ……?」

 

 タル爆弾というのは、タルの中に爆薬を詰め込んだ危険物であり、狩りの際によく使用されるアイテムである。今レオンの傍にあるタル爆弾(?)は【大タル爆弾】と呼ばれる爆弾に近い形状をしている。ほかにも、大タル爆弾に【カクサンデメキン】と呼ばれる絶命時に拡散する魚を入れて威力を大幅に増幅させた【大タル爆弾G】、小さなタルに爆薬を詰め込んだ【小タル爆弾】、アイルーやメラルーが好む【マタタビ】を爆薬に配合させた【マタタビ爆弾】、使用すると垂直に真上に飛んでいく【打ち上げタル爆弾】など、様々な種類の爆弾がこの世界には存在している。

 

「こんな変な模様が入ったタル爆弾なんて見たことないわよ」

 

 ナナはタルの側面の上部と下部に入った模様、タルの蓋に描かれた猫の肉球の絵を指差した。

 

「それもそうだよな。じゃ、一体なんなんだこれは?」

 

 レオンはタルの蓋にポン、手を置いた。そのとき――

 

 

「ニャッハ――――ッ!!」

 

 

「おわっ!?」

 

 タルの蓋が勢いよく開き、中からメラルーが飛び出してきた。

 メラルーは閉まった蓋の上にスタッと着地する。笠を被り、右目に眼帯をつけ、口には葉のついた枝を咥え、首に大きな鈴をぶら下げ、腹にはサラシを巻いている。

 

「御用でありやすか?」

 

「え、あ、いや……」レオンは突然のことに目を丸くしている。

 

「アンタ誰?」ナナは物怖じもせずに訊く。

 

「おっと、申し遅れやした。あっしは『転がしニャン次郎』ってェ通り名でタル配便ってのをやっとりやす」

 

「タル配便?」

 

「簡単に言いやすと、このタルの中にアイテムや荷物、郵便物を入れて配達するサービスでありやすニャ」

 

 ニャン次郎は腕を組み、自信に満ち溢れた顔で言った。

 

「へぇ……。それは、なんでも配達できる?」

 

「まぁ、たいていのもんは確実にお届けに参りやす」

 

 ニャン次郎が頷くと、鈴がシャランと音を立てた。

 

「いろいろと面白いものがあるんだな……」レオンは感心したように頷く。

 

「……レオン、急がなくていいの? もう日が暮れるわよ?」

 

 ナナの言ったとおり、あと1時間もすれば陽は沈みそうだ。

 

「あ、そうだった。じゃ、また用があればそのときはよろしくお願いします、ニャン次郎さん」

 

「それじゃ、あっしはまた一眠りさせていただきやす!!」

 

 そう言い残すと、ニャン次郎はタルの中へ入った。

 

「よし、行くぞ」

 

 レオンの掛け声で、二人は走り出した。

 

 

 

 

 

 エリア1――。

 エリア1は比較的小さなエリアだ。小さな滝があり、そこから流れる水がエリアの中に広がる、水辺のフィールドになっている。見渡す限り、今は小型モンスターはいない。

 

「こんなトコにはいないよな。ベースキャンプの隣のエリアだし」

 

「ここで迷子になるなんて大バカよ」

 

「だよな……。次のエリアに行くか」

 

 レオンはポーチから地図を取り出し広げ、歩き出した。

 

「このまま進むと……エリア4に行くのか。……エリア2に行く道もあるな」

 

 レオンは地図から目を離すと、首を左に回してエリア2へ続く道を見た。

 ――と、そのとき彼は何かにぶつかった。

 

 

「クワァァァァァツ!?」

 

 

 脇の茂みから飛び出してきたガーグァだった。ガーグァは目を真ん丸にして驚き、あたふたしながら茂みの中へ去って行った。

 

「オレよりもガーグァの方が驚いてたみたいだな」

 

「臆病なモンスターなのね。あら……? 何か落としたみたいよ」

 

 ナナの指差す先に、光っているものがあった。ガーグァの落し物のようだ。

 

「ホントだ」レオンはしゃがみこみ、落し物に顔を近づける。

 

 落し物は、卵型をしていた。というよりは、卵だった。しかし、普通の卵ではなかった。

 

「……金の、卵?」

 

 金色に光り輝く卵。そんなもの、彼は今まで一度も見たことがなかった。

 

「珍しいわね」

 

「す、すげぇ……」レオンは金の卵に手を伸ばそうとする。

 

「レオン、そんなことしている暇じゃないでしょ」

 

「いや、わかってるけど、なんか、ワクワクするじゃん」

 

 レオンの瞳には金の卵しか映っていない。

 

「はぁ……オトコってよくわかんないわね。仕方ない……」

 

「持ち帰りた……イタタタタタ!!!! ナナ!! 耳、引っ張るな!! 爪!! 爪立てるな!!」

 

 ナナはレオンの左耳を掴んでレオンを引き()る。

 

「村長の依頼より自分の興味の方が大事なの?」

 

「つ、爪!! く、喰い込んでる!! わ、わかったから放してくれ!!」

 

「はいはい……」そう言うとナナは腕を離した。

 

「いってぇ……」

 

 レオンは耳を押さえる。血こそは出ていないが、赤く腫れている。

 

「なんだよ、最初の方は乗り気じゃなかったクセに」

 

「つべこべ言わない」

 

 ナナはキッとレオンを睨みつける。レオンは溜め息をついた。

 

「……ま、ナナの言うことは間違いじゃないからな……。ん……?」

 

 彼は鼻をヒクヒクさせた。

 

「何か臭うの?」

 

「獣のニオイ……。どこだろう……?」

 

 レオンは座ったまま再び地図を広げた。

 

「エリア……5?」

 

 モンスターに当てるとニオイと色で居場所が分かる【ペイントボール】など使わなくともモンスターがどこに居るかが分かるほど、レオンの嗅覚は鋭い。

 レオンはぱっと起き上がると、エリア4へ続く道へとスタスタと歩き始める。

 ナナはレオンの後姿を見ながらフッ、と笑うと、彼の後を追った。

 

 

 

 

 

 エリア4――。

 このエリアは、どこのエリアよりも広くなっており、エリアのあちこちには廃屋がある。

 小型モンスターらしき影は、このエリアも見当たらない。

 

「なんか、小型モンスターすらいないって変な気分ね」ナナが呟く。

 

「そうだな……。なんか、不吉な予感もするな」そう言いつつ、レオンは地図を確認する。「不吉な数字だもんな……5は」

 

 ある事件がきっかけで、ハンター達やギルドの中では5は不吉な数字だとされている。クエストに同時に出発できる最高人数が4人であるのも、これに起因している。

 

「ま、オレはそういうのあまり信じてないから、大丈夫だろ。夜行性のモンスターが多いのかもな」

 

 そう言うとレオンはエリア5へ向かって駆けた。ナナもすぐあとを追いかけた。

 

 

 

 

 

 エリア5――。

 木々が至る所に生えており、薄暗い。エリア中央部には大きな切り株がある。そこから少し離れた木の傍を、二つの影が駆け抜けた。その後を、青い巨体が追いかけていた――。

 

「おい、あれ……」レオンは目を細めた。

 

「誰かが、襲われてるわね……?」

 

「もしかしたら、あいつらが〝迷子のハンター〟か……?」

 

 二人が呆然と立ち尽くしていると、「誰か……助けて!!!!」という高い声が聞こえた。と、同時に、その声の主は地面にバッタリと倒れた。

 

「!!」

 

 瞬間的に、レオンは走り出していた。

 

「ちょっ、レオン、待ちなさいよ!!」ナナはレオンの後を追いかける。

 

 熊のようなモンスターは吼えると、腕を振りかざした。倒れた人影は、モンスターを見上げているようだった。

 

 なんとかして、あの二人を助けないと!! 大剣でモンスターの攻撃を受け止めるか? いや、距離が遠すぎる。どうにかして奴の気を引くか? だが、奴が必ずこちらに気を向ける保障はない。一体どうすれば――。

 

 走りながら、レオンは様々な思考を巡らせていた。

 レオンはポーチの中を探った。そのとき、あるアイテムが手に当たる感触があった。

 

 これだ!! レオンは直感的にそう感じた。

 

「目を伏せろっ!!」

 

 レオンはそう叫ぶと、そのアイテムをモンスターの目の前に向かって投げ、彼は手で目を覆った。

 

 直後、凄まじい閃光がモンスターの目を射た。

 レオンが投げたアイテムは【閃光玉】。絶命時に猛烈な閃光を発する【光蟲(ひかりむし)】と呼ばれる虫を利用した、モンスターを目眩ましさせるアイテムである。

 視界を奪われたモンスターは、一瞬怯んで呆然と立ち尽くしていた。

 その隙に、レオンはすかさず〝迷子のハンター〟と思われる人物に駆け寄る。

 

「お、おい。大丈夫か?」

 

 声を掛けるが、反応が無い。レオンはしゃがみこむと、人物が頭に被っている笠を掴み、頭の後ろに遣った。そのとき、切り揃えた前髪と肩まで伸ばした髪が揺れた。(つや)のあるきれいな黒髪だった。幼さの残る顔立ちで可愛らしかったが、瞼は閉じており、顔色が良くない。どうやら、気を失っているようだ。彼女の隣には気を失ったアイルーがいた。彼女と似たような装備をしていることから、彼女のオトモであることが窺える。

 レオンは彼女を両腕で抱え、ナナに「こっちのアイルーを頼む!!」と言うと、もと来た道へ向かって駆けた。

 エリア4に続く道に差し掛かったとき、レオンは首だけ振り返った。

 視力を取り戻したモンスターは地面に座り込み、器用に何かを掴んで食べていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。