モンスターハンター ~碧空の証~   作:鷹幸

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 このお話は、本編の文章を改変して、短編に仕立て上げたものです。
 なので、本編と関連性のない、独立した物語になっています。

 本編第7話、ソラたちがガーグァ討伐に向かうシーンから始まります。
 では、どうぞ。


Side Story
【短編】 声


 渓流、エリア1。

 水辺のエリアにガーグァが3匹、群れている。ソラ、レオン、ナナの存在に気付いているようではなく、それぞれが(くちばし)で草を(つい)ばんでいる。だが、草を食べているようではなかった。

 

「まだ気付かれてないみたいだな」茂みに身を潜めながらレオンが言った。

 

「そ、そうだね」緊張しているせいか、ソラの声が裏返った。

 

「さて、どいつを狩ろうか……」

 

「こ、殺すの……?」

 

「あぁ。残酷な話かもしれないが、これが、ハンターになるための第一歩なんだ」落ち着いた声でレオンが言う。

 

「ソラなら大丈夫よ」ナナが励ます。

 

「う、うん……」

 

「よし、じゃあ、一番手前にいるあいつをターゲットにしよう」

 

 レオンが指差す先にいるガーグァは、尻を三人の方に向け、水辺で呑気に佇んでいた。

 

「じゃ、武器を構えて」

 

「う、うん」

 

 ソラは片手剣を腰の後ろから引き抜くと、盾を装備した右腕を前に突き出し、半身(はんみ)になって剣を構えた。

 

「よし、行ってこい」

 

 レオンに背中を押され、少しよろけながらもソラは茂みからおそるおそる飛び出した。今、ガーグァが彼女に気付いている様子は無い。

 そして、ゆっくりと、ガーグァの方へ忍び寄る。

 

 ――大丈夫、大丈夫。

 

 自分にそう言い聞かせながら、じわじわとターゲットに近づいてく。

 一歩、一歩と近づくたびに、ただならぬ緊張感が全身を襲う。

 ガーグァとの距離、1メートル。

 

(ここで踏み込めば――)

 

 ガーグァの背中を見つめ、ソラは剣を持った左腕を振りかざすと、左足を踏み込んだ。飛び散った水飛沫(しぶき)が袴を濡らす。

 そして、研ぎ澄まされた鋭い刃をガーグァの背中に――斬りつけることはできなかった。彼女の胸中に一瞬の躊躇いがあったからだった。

 

「クワッ?」

 

 水の()ねる音に気が付いたガーグァは、長い首を後ろに捻った。ソラは、剣を振りかざしたまま(からだ)を動かさなかった。

 ガーグァと目が合う。嘴には虫が咥えられていた。

 

(このコには悪いけど、やらなきゃ……!!)

 

 ソラは、剣の柄を掴む左手にぎゅっと力を入れた。手汗が滲んでいる。

 走っているわけでもないのに、息が荒くなっていた。

 見つめあったまま動かないガーグァとソラ。潤んだように見えるガーグァの瞳は、何かを訴えかけているかのようだ。

 

(ううう……。そんな目で見つめないで!!)

 

 ソラは歯を食い縛る。

 

(剣を振り下ろさなきゃ……)

 

 そうは思っていても、躰が動かない。

 ――剣を振り下ろせば、このガーグァは傷つく。傷口からは血が溢れ、痛みが躰を支配し、悶え苦しむ。

 このあとに待ち受けるだろう光景を想像すると、彼女の躰はますます動かなかった。

 

(う……。ダメだ……)

 

 彼女が目を閉じて、諦めかけたそのときだった。

 

(あなた……私を殺すのね)

 

 そんな声が聞こえた。

 

「……え?」

 

 目を開ける。

 

(……いいのよ……殺しても)

 

 また声。

 それが、目の前にいるガーグァのものだと気付くのに、一拍を要した。どうしてモンスターの声が分かるのかなど、考える余裕はなかった。ただ、今の状況を受け入れるしかなかった。

 

躊躇(ためら)うことなく……、一思いに、私を殺しなさい)ガーグァは言う。

 

「なんで……? 死ぬのが怖くないの?」ソラは問う。

 

(……生き物は、いつかは死ぬものなのよ。その瞬間が、早く訪れただけ。そう、運命なの……。だから、死ぬのは怖くないわ)

 

「でも……わたしに、あなたは、殺せない」

 

(どうして? あなた、ハンターなのでしょう?)

 

「そ、それは……そうだけど」

 

(ハンターというのは、〝狩る〟者なのよ。狩るのは……、運命なの)

 

 運命。それが何だというのか。

 

「でも……そんなの、おかしいよ。運命だからって、あなたを殺す理由にはならない」

 

(何もおかしくなんかない。あなたが狩人という()()を選んだのだから、あなたは私を殺すしかないの。狩りを生業(なりわい)としている者が、私を殺すことを躊躇っていては駄目)

 

 ソラは黙り込む。後悔の念が、脳裏を過ったからだ。

 ハンターなんか、目指すべきじゃなかった。

 進むべき道を誤った。

 

(――でも、あなたたち狩人がいるおかげで、私たちは守ってもらったり、人間の役に立てたりしているの。だから、私たちは感謝しているわ)

 

 感謝? ソラは訊き返す。

 

(そう、感謝。感謝を忘れてはいけない。どんな運命であっても、感謝することが大事よ。この大いなる自然に、多様な運命を孕んだこの世界に……)

 

 声は続く。

 

(そして、私を殺す――いえ、狩ることで、あなたが狩人としての一歩を踏み出すことができるのなら、私は役に立って死んでいくことができる。これは、感謝すべきこと。そういう運命に、私は感謝するの)

 

「…………」

 

(さぁ、私の心の準備はできているわ)

 

 ガーグァは、しっかりとソラを見つめる。

 

(運命には、抗えないもの……)

 

 決意の強さを感じ取ったソラは、苦虫を噛みつぶしたような顔になりながらも、左手に持った剣をガーグァの喉元に突き刺した。

 温かさを含んだ血が、少し零れる。

 

(それで……いいの)そんな声が、聴こえる。(……ありがとう)

 

 ソラは瞼を強く閉じて、腕を横に払い、首を掻っ切る。

 何かが飛び散る音、血に倒れ込む音。

 目を開けると、ガーグァは血の海の上に倒れ、動かなくなっていた。

 

「ごめん……なさい」思わず言葉が洩れる。

 

 死んでしまったものは生き返らないし、生き返らせることはできない。これは、生を受けたものとしての運命……。

 そう、これは運命なのだ。

 運命には、抗えない。

 しかし、どうなろうとも、感謝を忘れてはいけない。

 生きていることに、自然の中に生かされているということに……。

 狩人として大切なことを、このガーグァから学べたのかもしれない。

 ならば、わたしはこう言うしかない。

 

「…………ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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