モンスターハンター ~碧空の証~   作:鷹幸

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 短編です。
 本編にも関係しています。

 では、どうぞ。


そうして、あたしは…… (1)

 あたしはアイルー。名前は、まだない。でも、毛並みが黒だから、「黒い奴」なんて呼ばれることはよくある。

 新大陸・火山地方で生まれたあたしは、あるときからアイルーのグループに所属していた。

 そのグループでは、火山で鉱石の採取なんかをしている。主に採取している鉱石は【ルミナライト鉱石】で、それは人間たちが高値で買い取ってくれる。買い取ってくれるといっても、アイルーなんかが人間のお金を持っていてもしょうがないから、食料だとか、いろんな物資と交換する。

 ちなみに、ルミナライト鉱石は、精錬すると超軽量で高強度の金属が得られる、希少価値の高い鉱石。それらは、火山の入り組んだ場所に鉱石が分布しているから、アイルーにしか採れない(人間にも採取ができないことはないけれど、(からだ)の小さなアイルーの方が、採取には向いている)。

 あたしは、そのルミナライト鉱石の運搬を担当していた。籠にいっぱいの鉱石を詰め込んで、火山内部から麓まで運ぶだけの簡単な仕事だけど、上手くいかないこともよくある。なぜなら、途中、小型モンスターに遭遇することも少なくないから――。

 

 

 

 ……あるとき、あたしは、赤灰色のルミナライト鉱石が詰まった籠を持って下山していた。

 

(ひ、一人は怖いみゃ……)

 

 慎重な足取りで、あたしは足を進める。道中では、ウロコトルやフロギィの群れなどに出くわしたり、運が悪いとウラガンキンやアグナコトル、リオレウスにまで遭遇したりすることがよくある。そうなれば一巻の終わり。

 アイルーの速力で逃げ切れないことはないけれど、荷物を捨てないと全力は出せない。でも、捨ててしまえばあたしが怒られるし、あとで回収しなきゃいけなくなって面倒。

 だから、なるべくモンスターに見つからないように……運搬しなきゃいけない。

 でも、そのときは運が悪かった。

 灼熱の火山内部から出ようとしたとき――

 

「ギュオアッ!」

「ギィァッ!」

 

 そんな鳴き声が、周囲から聞こえた。

 

「みゃ……!?」

 

 気づいたときには、あっという間に、フロギィたちに囲まれてしまっていた。

 あたしの毛並みは黒いから、隠密行動に向いていると自負していたけれど、そうでもなかったみたいだった。野生のモンスターの勘は、アイルーよりも鋭い。

 

(ど……どうしよう)

 

 フロギィの吐き出す毒霧に呑まれれば、命の保障はない……。

 逃げたくても、背負った希少鉱石を置いていくわけにはいかない……。

 こんなときに……!

 

「……」

 

 あたしがその場で立ち止っていると、

 

「伏せて!」

 

 突として、声がした。

 緊張状態だったあたしは、その言葉に従った――と、その刹那、

 無数の(あられ)が、落ちてくる。

 そして、悲鳴、赤い霧……。

 頭を抱えて震えていると、何かが着地した音がして、

 

「もう大丈夫よ。顔を上げて」

 

 という声が聞こえた。

 あたしが顔を上げると――

 

「……」

 

 にっこりと微笑んで手を差し伸べる、人間の姿があった。

 

「大丈夫? 立てるかしら?」

 

 その人間が訊いてくる。あたしは、声も発さず、視線だけを動かして人間を見回した。長い髪の毛と高い声から判断するに、この人間は女。そして彼女は、躰中に、硬そうな赤い鎧を身につけていた。肩には、よくわからない武器? みたいなものをかけていた。

 

(……ハンターってやつかみゃ?)

 

 モンスターを狩猟することを生業(なりわい)とする人間を、ハンターと呼んでいるのは知っていた。実際に、ハンターがモンスターと闘っているところを見たことはないけれど。それどころか、あたしは人間さえあまりまともに見たことがない。だからなのか、人間に対して憎悪や恐怖を感じているわけではないけど、やはり身構えてしまう。

 

「……警戒してるのかしら?」

 

 ハンターは口元を綻ばせた。そして、長い髪を掻き上げる。

 

「ふふ……、ま、見ず知らずの人間が現れても戸惑うだけよね……。大丈夫よ、あなたを食べようってわけじゃないんだから。安心して?」

 

 ここまで言っている人間を疑うわけにはいかなかったから、あたしは、差し出された手に腕を伸ばした。

 

「あ……危ないところを、ありがとうございましたみゃ」

 

 腕を引かれるがままに立ち上がってから、あたしは礼を言う。

 

「ふふ、無事でよかったわ。じゃあね、アイルーさん♡」

 

 ハンターは身を翻すと、颯爽と火山の奥へ向かっていく。あたしは、次第に小さくなる彼女の背中をずっと見つめていた。

 あとには、立ち尽くす黒いアイルーと動かなくなったフロギィだけが残った。

 

(……。こうしている暇はないみゃ。早く鉱石を運ばないと……)

 

 そのあと、モンスターというモンスターに出くわすことはなく、あたしは無事、拠点に帰ることができた。

 あのハンターのおかげだ、とあたしは思った。人間にはいろいろな奴がいるって聞いたけど、とても親切な人間で助かった。もしあの人間が近くにいなかったなら、あたしは今ここにはいない……(かもしれない)。

 拠点に帰るとまず、運搬してきた鉱石を、グループのボスアイルーに引き渡す。渡した鉱石は、ボスが人間のところへ行って物資と交換してくる。そして、それはグループのために使われたり、みんなに配られたりする。でも、それは決して均等じゃない。あたしは下っ端的存在だから、不遇なことだってたくさんあった。

 ……正直に言って、あたしは、この仕事を続けていきたいとは思わない。楽しくなんかないし。でも、そうしない。それは、グループを抜け出せないからじゃない。グループから抜け出すのは自由だけど、それからあと、どうやって生きていくべきかという問題があるから。何もかもを自分の力だけでやって、生き延びていかなきゃならない。でも、あたしにそんなことをできる自信がないから、このグループの中で暮らしていくしか、生きる術がない……。理由は、そんなところ。

 つまり、平穏無事に暮らせれば、楽しみなんてなくとも、今の待遇に不満があったとしても、別にどうでもよかったの。別に、どうでも……。

 そんなことを思いながら、あたしは生活していた。

 

 

 

 

 

 




 (2)に続く……
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