モンスターハンター ~碧空の証~   作:鷹幸

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そうして、あたしは…… (2)

 ハンターに助けられてから数日が経った頃。

 あたしは、相も変わらず火山へ向かっていた。もちろん、鉱石の運搬のため。

 これが、あたしの生きる意味でしかないように……、日常は繰り返される。もう飽き飽き。

 

 ―ー火山内部へ進入する。

 目前に広がる、流れ出た溶岩の海。何もかもを焼きつくしてしまいそうなその紅蓮からは、見ているだけで熱を感じる。

 躰中が毛に覆われたアイルーにとっては酷な環境だけれど、慣れればどうってことはない。でも……、暑いことに変わりはない。

 火山の山頂付近で採掘をしている仲間たちの元へ辿り着くと、採れた鉱石を受け取って籠に入れる。そして、元来た道を引き返す。モンスターなんかに出くわさないことを願って。

 でも、現実は、願望とは逆のことが起こるもの……。

 灼熱のエリアから脱出して、一息ついたときのことだった。

 

「……!!」

 

 あたしは、危機に直面してしまった。

 目の前に、赤い甲殻を纏った飛竜、火竜・リオレウスが現れて……。

 

「空の王者」とも形容されるそのモンスターに遭遇したが最後、あたしになす術はない。

 逃げようにも、足がすくんで動かない。

 恐怖だけが、躰を束縛している。

 熱気が立ち込めているはずなのに、あたしの躰はとても冷たく感じられた。

 冷静にはなれなかった。考える頭も持ち合わせていなかったし、何より、あたしはとても臆病で、何かあるとすぐにパニックになってしまうから……。

 リオレウスは、その鋭い眼光をあたしに向けた。

 もう、これで終わりなんだ……と思ったそのときだった。

 目の前に、2体目のリオレウスが……。

 と思ったら、違った。それは、リオレウスの甲殻をふんだんに使った装備を纏った……

 

「あなた、このまえのアイルーさんね?」

 

「みゃ……!?」

 

 このまえのハンターだった。大きなハンマーを持っている。

 

「最近、よく会うわね。……といっても、まだ2回目かしら」

 

 彼女は首を捻って顔だけをあたしに向けていた。

 

「とにかく、早く行きなさい。私があの邪魔者を片しておいてあげるから」

 

 あたしは、その言葉を信じて、走った。ただ逃げることだけを考えて、走った。

 どれくらい走ったのかは覚えてないけど、息も切れ切れになってきたところで、あたしは足を止めた。そして、草の上にへたり込む。

 

(あ……、危なかったみゃ! ほ、ほんとうに危なかった……)

 

 一瞬、死さえも覚悟したほど。あたしは、本当に臆病でひ弱なアイルーだった。

 目を閉じて息を整えていると、足音が聞こえてきた。動く気力も体力も削がれていたから、あたしはそのままの体勢でその場にいた。

 

「アイルーさん」

 

 声がした。瞼を開いて顔を上げると、そこに、さっきのハンターがいた。

 

「大丈夫かしら? 随分お疲れのようだけど……」

 

「……みゃ。だ、大丈夫みゃ」

 

「そう」ハンターは女神のように微笑む。「ならいいの」

 

「あ、あの……、二度も助けてくれて、ありがとうございましたみゃ……」

 

「いいのいいの。たまたまよ、たまたま……」

 

 ハンターは顔の前で手を振ってみせた。

 

「散歩してたら、リオレウスを見つけちゃってね。レウスと遊ぼうかしら、なんて思ってたら、あなたがいて……。危ない状況かも、と思ったから中に割って入ったの」

 

「……そうだったんだみゃ」

 

「それで、あなたはここに来て何をしているのかしら?」

 

「……こ、鉱石の……、採取した鉱石を運んでるみゃ」

 

「ん、これね」

 

 ハンターは、あたしの持っていた籠から、鉱石を一つ摘(つま)み出す。

 

「あぁ……、ルミナライト鉱石。高値で取引されている鉱石だわ……」

 

 ハンターは、鉱石に見入っていた。

 もしかして、このハンターに脅されて鉱石を盗られてしまうのではないか――?

 そう思ってしまったあたしは、無意識のうちにハンターの手から鉱石を奪うようにして取った。

 

「……」

 

 ハンターは目を丸くしていたが、すぐに穏やかな表情に戻す。

 

「……私は盗らないわ。あなたの大事な商品でしょう?」

 

「みゃ……。ご、ごめんなさいみゃ……」

 

「ふふ、気にしなくていいのよ。大事なものは、盗られたくないものよ」

 

 大事なものだから、っていう理由は不適切だと、そのときに思った。本当は、「鉱石を運べなかったら、あたしが怒られる」から……。でも、そんなことは言わなかった。

 

「そうそう。あなた、お名前は?」

 

「みゃ?」

 

「名前。名前はないの?」

 

 あたしは、黙り込む。あたしに名前なんてないから。

 

「……名前はないみゃ。仲間からは、『黒いやつ』とか呼ばれてるだけみゃ」

 

「あら、名前はないのね。そう……なら、私がつけてあげましょうか」

 

「……みゃ?」

 

 あたしは、思わずハンターの顔を見た。少し真剣な面持ちをしている。

 

「あなた、女の子よね?」

 

 訊かれたので、あたしは頷く。

 

「じゃあ……『ナナ』、なんてどうかしらね?」

 

「ナ……ナ、みゃ?」

 

「そう、ナナ。アイルーさんには発音しにくいかしらね?」

 

「ううん、大丈夫みゃ。でも、どうして、ナナっていう名前なのみゃ?」

 

「可愛い名前でしょう? 女の子らしくって」

 

 可愛いかどうかは分からなかったけど、『名前』を生まれて初めてもらえたことが、あたしにはうれしかった。ハンターが微笑んだので、あたしもつられて笑顔になる。

 

「ふふ。それじゃ、これからあなたのことはナナって呼ばせてもらうわ。よろしくね?」

 

「よ、よろしく……みゃ」

 

 嬉しくも少し戸惑いつつ、あたしは返事をした。

 

「……あ。私の名前、教えていなかったわね」

 

 そう言うと、ハンターは胸に手を当てた。

 

「私はエリザベス。呼ぶときはリザでいいわよ」

 

「リザ……みゃ?」

 

「そう」リザは、ゆっくりと頷く。「それじゃ、改めて。ナナ、よろしくね!」

 

「よろしくみゃ。……リザさん」

 

 そうして、あたしはリザと知り合った。

 

 

 

 

 

 

 




 (3)へ続く
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