モンスターハンター ~碧空の証~   作:鷹幸

35 / 38
そうして、あたしは…… (3)

「……リザさん、さっきのリオレウスはどうしたのみゃ?」

 

 リザと肩を並べて(実際は並んでないけど)拠点の方に向かって歩いているとき、あたしはそう訊いた。

 

「さっきのリオレウスはね……、私が、ハンマーで殴って気絶させておいたわ」

 

「みゃ……」

 

 すごい、とあたしは思った。

 何がすごいかっていうと、あの恐ろしいリオレウスに立ち向かえる、ってところ。あたしにはそんな真似できない。逃げることすらままならないのに、闘え、っていうのは到底できない。

 同時に、何か別の感情も覚えた。あたしの中に込み上げてくる何か……。

 それは、『あこがれ』だった。

 自分にはないものを持った者に、あこがれを抱く。

『ハンター』というのは、臆病なあたしにとってみれば超人だ。

 

「……ハンターって、すごいみゃ」

 

 あたしがつぶやくと、リザは

 

「そうかしらね?」

 

 と、とぼけたように言った。

 

「だって、自分よりも大きな相手に、物怖じもしないで掛かっていくのみゃ? すごくないわけがないみゃ!」

 

「……まぁ、それはあるかもしれないわね」

 

「臆病なあたしには、絶対ムリなことみゃ……」

 

「そうかしら?」

 

 今度は、リザが強い口調でそう言った。

 

「絶対ムリなんてことはないわよ。私だって、けっこう臆病だもの」

 

「……みゃ?」

 

 あたしがリザを一瞥すると、彼女は瞼を閉じて頷いた。

 

「本当は、怖いわ。モンスターと闘うなんて、怖い怖い……」

 

「……じゃ、なんでハンターなんて続けていられるのみゃ?」

 

「それはね、楽しいからよ」

 

「たの……しい? みゃ?」

 

「えぇ。狩りを達成できたら楽しい。できなかったことができるようになったら楽しい。そんな楽しみを、喜びを得るために、私はハンターをしているの」

 

 恐怖を楽しさに変える……、そんなことができるんだ、とあたしは不思議に思った。

 

「臆病な人でも、一度楽しいことだと認識してしまえば、恐怖なんか忘れて、どんなことでもできるようになるわ。きっと、ね」

 

「あ、あたしにもできるかみゃ……?」

 

「ん? もしかしてナナは、ハンターに興味があるのかしら?」

 

「みゃ……。さっき、かっこいいなぁ、なんて思ったみゃ」

 

「あこがれを抱いたのね。そうそう、アイルーのハンターもけっこういるわよ」

 

「そ、そうなのみゃ?」

 

 それは初耳だった。アイルーにも、いろんな奴がいるんだ……。

 

「えぇ。アイルーたちだけで狩猟団を結成しているものもあれば、『オトモアイルー』として、人間のハンターと共に狩りをする、なんてアイルーもいるの」

 

「オトモ、アイルー……」

 

「ふふ。狩りに生きてみるのも、いいかもしれないわよ」

 

 そんな会話を交わしていると、あたしの所属するグループの拠点の前に到着した。拠点といっても、岩の洞窟をそのまま利用したものだけど。

 

「それじゃ、私はアルバ村に戻るから」

 

「ありがとうございましたみゃ」

 

 リザに向かって、あたしは深く一礼をした。

 

「じゃあね、ナナ。また会えるのを楽しみにしているわ」

 

「みゃ!」

 

 リザは手を振りながら、道を歩いていく。あたしは、その背中が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。

 

(さて、と)

 

 あたしは躰の向きを変えて、洞窟へ入る。あとは、ボスに鉱石を渡すだけ。これで今日の仕事は終わり。

 

 

 

 ――その日の夜、横になって目をつむったまま、あたしは考え事をしていた。リザの言っていた言葉が気にかかっていたから。

 

 今のような生活をずっと続けるべきなのか。

 それとも、脱却を図るべきなのか……。

 でも、このままでもいいんじゃないか。

 無理に自分を変えようとしないほうがいいんじゃないか……。

 あぁ、やっぱり臆病な自分は、何もできない。

 違う。

 何もしようとしていないだけ。

 やる気がないだけ……。

 なら、気持ちさえあれば何でもできるの?

 自分自身を変えようという気持ちさえあれば、本当に何でもできるの……?

 わからない。

 わからないから、こわい。

 だから、何もできない。

 ……あたしは、このままでいいんだろうか。

 考えれば考えるほどに、わからなくなってくる。

 頭が痛い。そういえば、今までこんなに悩んだことはなかった。

 いつも、逃げていればよかったから、悩まなかったんだ。

 ということは……。

 今回は、一歩を踏み出そうとしているのかもしれない。

 一線を越えて、新しい自分を見つけ出そうとしているのかもしれない。

 なら、悩んでもいいんだ……

 

 いつの間にか、あたしは眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 (4)へ続く
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。