「……リザさん、さっきのリオレウスはどうしたのみゃ?」
リザと肩を並べて(実際は並んでないけど)拠点の方に向かって歩いているとき、あたしはそう訊いた。
「さっきのリオレウスはね……、私が、ハンマーで殴って気絶させておいたわ」
「みゃ……」
すごい、とあたしは思った。
何がすごいかっていうと、あの恐ろしいリオレウスに立ち向かえる、ってところ。あたしにはそんな真似できない。逃げることすらままならないのに、闘え、っていうのは到底できない。
同時に、何か別の感情も覚えた。あたしの中に込み上げてくる何か……。
それは、『あこがれ』だった。
自分にはないものを持った者に、あこがれを抱く。
『ハンター』というのは、臆病なあたしにとってみれば超人だ。
「……ハンターって、すごいみゃ」
あたしがつぶやくと、リザは
「そうかしらね?」
と、とぼけたように言った。
「だって、自分よりも大きな相手に、物怖じもしないで掛かっていくのみゃ? すごくないわけがないみゃ!」
「……まぁ、それはあるかもしれないわね」
「臆病なあたしには、絶対ムリなことみゃ……」
「そうかしら?」
今度は、リザが強い口調でそう言った。
「絶対ムリなんてことはないわよ。私だって、けっこう臆病だもの」
「……みゃ?」
あたしがリザを一瞥すると、彼女は瞼を閉じて頷いた。
「本当は、怖いわ。モンスターと闘うなんて、怖い怖い……」
「……じゃ、なんでハンターなんて続けていられるのみゃ?」
「それはね、楽しいからよ」
「たの……しい? みゃ?」
「えぇ。狩りを達成できたら楽しい。できなかったことができるようになったら楽しい。そんな楽しみを、喜びを得るために、私はハンターをしているの」
恐怖を楽しさに変える……、そんなことができるんだ、とあたしは不思議に思った。
「臆病な人でも、一度楽しいことだと認識してしまえば、恐怖なんか忘れて、どんなことでもできるようになるわ。きっと、ね」
「あ、あたしにもできるかみゃ……?」
「ん? もしかしてナナは、ハンターに興味があるのかしら?」
「みゃ……。さっき、かっこいいなぁ、なんて思ったみゃ」
「あこがれを抱いたのね。そうそう、アイルーのハンターもけっこういるわよ」
「そ、そうなのみゃ?」
それは初耳だった。アイルーにも、いろんな奴がいるんだ……。
「えぇ。アイルーたちだけで狩猟団を結成しているものもあれば、『オトモアイルー』として、人間のハンターと共に狩りをする、なんてアイルーもいるの」
「オトモ、アイルー……」
「ふふ。狩りに生きてみるのも、いいかもしれないわよ」
そんな会話を交わしていると、あたしの所属するグループの拠点の前に到着した。拠点といっても、岩の洞窟をそのまま利用したものだけど。
「それじゃ、私はアルバ村に戻るから」
「ありがとうございましたみゃ」
リザに向かって、あたしは深く一礼をした。
「じゃあね、ナナ。また会えるのを楽しみにしているわ」
「みゃ!」
リザは手を振りながら、道を歩いていく。あたしは、その背中が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
(さて、と)
あたしは躰の向きを変えて、洞窟へ入る。あとは、ボスに鉱石を渡すだけ。これで今日の仕事は終わり。
――その日の夜、横になって目をつむったまま、あたしは考え事をしていた。リザの言っていた言葉が気にかかっていたから。
今のような生活をずっと続けるべきなのか。
それとも、脱却を図るべきなのか……。
でも、このままでもいいんじゃないか。
無理に自分を変えようとしないほうがいいんじゃないか……。
あぁ、やっぱり臆病な自分は、何もできない。
違う。
何もしようとしていないだけ。
やる気がないだけ……。
なら、気持ちさえあれば何でもできるの?
自分自身を変えようという気持ちさえあれば、本当に何でもできるの……?
わからない。
わからないから、こわい。
だから、何もできない。
……あたしは、このままでいいんだろうか。
考えれば考えるほどに、わからなくなってくる。
頭が痛い。そういえば、今までこんなに悩んだことはなかった。
いつも、逃げていればよかったから、悩まなかったんだ。
ということは……。
今回は、一歩を踏み出そうとしているのかもしれない。
一線を越えて、新しい自分を見つけ出そうとしているのかもしれない。
なら、悩んでもいいんだ……
いつの間にか、あたしは眠りについていた。
(4)へ続く