「ほら! 走って走って!」
「……っ、……」
リザにオトモアイルーとして迎えられたあたしは、走り込みをさせられていた。場所は、リザの住んでいる村の平坦なところ。
「ハンターも、オトモも、躰が資本なのに変わりはないわ! まずは躰作り!」
リザがそう叫んでいる。想像以上に、リザの指導は厳しい。でも……
(なんだか……楽しいみゃ)
新鮮な気持ちで、心地がよかった。役に立てるかどうかとか、不安はまだまだ山積み。でも、こうやって一緒にいられる瞬間がとても楽しかった。
突然、視界が真っ暗になった。
頭が痛い。転げてしまったみたいだった。
「……大丈夫?」
わずかに笑い声を含ませたリザの声が聞こえた。
「みゃ……」
あたしは起き上がると、顔をごしごしとこする。
「問題ないみゃ!」
「怪我だけはしないようにね。無理は禁物よ」
リザは、あたしの目の前で一本指を立てた。
「わ、わかったみゃ」
「……そうね、走ってばかりも退屈だから、武器の扱いなんかも教えましょうか」
「武器!」
背筋がすっと伸びるのをあたしは感じた。
「まず、オトモ用の武器には、近接武器、爆弾、それからブーメランがあるわ。別にこれだけに限定してるわけじゃないけど、主なものはこの三つ。オトモはこれを使って、狩りのサポートをするの」
あたしは相槌を打ちながら、その話に耳を傾ける。
「近接武器が一番扱いやすいけど、モンスターに近づく分、どうしても危険性が伴うわ。爆弾は威力が高いけれど、扱いが少し難しい。でも、アイルーは一般的には爆弾の扱いに長けているから、問題はないかもしれないわね。あと、ブーメランは威力こそ低いけど、遠距離攻撃だから安全に狩りができるわ」
「ふむふむ……みゃ」
「どれがいいかしら?」
「みゃ……、迷うみゃ」
「ずっとその武器じゃいけない、なんてことはないのよ。だから、気楽に選べばいいわ」
「じゃあ……、ブーメランでやってみるみゃ」
「持ってくるから待っててね」
と言い残して、リザはどこかへ行ってしまった。そしてすぐ、戻ってくる。
「お待たせ。ごめんね?」
……全然待ってないけど、まぁ、いいかな。
「はい、これ。ブーメラン」
リザは、あたしに自分の躰の半分はある銀色のブーメランを渡してきた。でも、案外軽い。
「軽いでしょ? 超軽量のルミナライト鋼を使ってるから、軽くて頑丈なの。でも、当たるとけっこう痛いわ」
ルミナライト鋼……。あたしの運んでた赤灰色のルミナライト鉱石は、きれいな銀色(でもちょっと白がかってる)になってるんだ……。
「ブーメランは、使い方わかるでしょ?」
「みゃ。投げたら帰ってくるっていうのは知ってるみゃ」
「なら、投げてみなさい」
あたしは、右手のブーメランを力いっぱいに投げ飛ばす。でもそれは、まっすぐ地面に突き刺さってしまった。
「……あれ? おかしいみゃ」
「ただ投げるだけじゃダメなのよね。角度とか、速さが重要になってくるの……」
リザはそのあと、投げ方を説明してくれた。指導通りにことをすすめると、なんとなくコツを掴めてきた気がした。
「うん……、随分と慣れてきたようね」
「慣れてきたみゃ」
「今度は、狙った部位にブーメランを当てる訓練をしましょうか」
リザは、腰に提げたポーチからリンゴを一つ、取り出した。
「リンゴ……みゃ?」
「そう。これを……」
リザはあたりを見回してから、すぐ近くにあった木の杭の上にそれを置いた。
「ここに置いておくから、狙ってみて?」
なあんだ、簡単簡単。あたしはそう思った。だけど……
ブーメランを投げる。空振り。ブーメランが戻ってくる。
ブーメランを投げる。空振り。ブーメランが戻ってくる。
ブーメランを投げる。空振り。ブーメランが戻ってくる。
ブーメランを投げる。空振り。ブーメランが戻ってくる。
ブーメランを投げる。空振り。ブーメランが戻ってくる。
ブーメランを投げる。空振り。ブーメランが戻ってくる……。
「当たらないみゃ……!」
「最初からうまくいくなんて少ないけど、これはどうも、うまくいってないわね」
リザは腕を組んでちょっと唸っていたけど、「こうするしかないわね」とつぶやくと、杭の上のリンゴを回収した。
「も、もう終わりみゃ?」
「ううん、こうするのよ」
リザは、リンゴを頭の上に置いた。
あたしの目が一瞬、点になる。
「さぁ、狙ってきなさい」
「え、ええぇ?」
確かに、こういう訓練は緊張感が出ていいかもしれないけど……。
「どうしたの? 私は気にしなくていいのよ? 動いたりしないから」
気にするな、と言われても……。
外す分には問題ないけど、リザの躰にブーメランが当たってしまったら大変だ。顔なんかに当たったら、一生ものの傷を作ってしまうかもしれない……。
でも、鋭くこちらを睨んでいる。これは、投げないと怒られる。
集中して、確実に、頭の上のリンゴだけを……。
(いけっ!)
狙う――!
そして、弧を描きながら宙を走るブーメランは……
リンゴだけを捉え、果汁を爆ぜさせた。
「……、できるじゃない」
「で、できた……みゃ」
「本当に危なかったら避けようと思ったけど、その必要はなかったようね。集中力さえあれば問題ないみたい。だから、数撃てば当たる、じゃなくて、しっかりと集中力を高めて投げればいいわ」
そこまで言うと、リザは長い赤髪を掻いた。
「うん……。あとは訓練すればなんとかなる。がんばりましょ?」
「みゃ!」
そのあとも訓練は続いた。
そして、あたしがリザと出会って二年が過ぎたころ。
そのころには、あたしも一人のオトモアイルーとして、リザと共に幾多の狩りに出かけるようになっていた。
そんなときだった。
「ナナ、あなたに仕事を任せるわ」
「みゃ?」
突然、リザに告げられた言葉。
「実は私、旅に出ることにしたの」
「旅みゃ?」
「えぇ。それで、ナナ。あなたには、弟・レオンのオトモアイルーをしてほしいの」
「レオン……?」
あの男か。ちょっと頼りなさそうな奴……。
「そう。レオンは危なっかしい子だから。私が旅に出ているあいだ、お願いできないかしら?」
「うん……リザ姉の頼みなら……、断れないみゃ」
「ごめんね? 面倒な仕事を押し付けちゃって」
「ううん、大丈夫みゃ」
「それじゃ、
「みゃ」
それから数日後、リザは発ってしまった。
これからは、リザの代わりとして、あたしはあの男の監視をしなきゃいけない。
ま、オトモくらいなら別に大丈夫かな……。
「――あ、えっと……よろしく、ナナ」
図体の割には、少しなよなよしてるのが、この男、レオン。
リザ姉の言いつけどおり、ハンターとしてもまだまだ未熟なこの男を、あたしは見守る義務がある。
あたしは腕を組んで、
「えぇ。よろしく、レオン――」
……そうして、あたしはレオンのオトモアイルーになったのだった。
以上、短編『そうして、あたしは……』でした。
ナナとリザの出会いですね。
このお話は、本編22話の、
後ろを歩いていたソラとナナは、楽しそうに会話をしていた。
「……へぇ、それで、ナナちゃんはリザさんのオトモになったんだね」
「そうみゃ。あの頃から変わらず、リザはかっこいいみゃあ」
この部分に通じています。
いまいち全貌が書けていないような気もしますが、これはこれで置いておきます。
あとはご想像におまかせします……!(これはひどい)
一つ言えることは、本編でナナの口調がリザっぽかったのは、ナナが〝リザのように振る舞う〟ことを意識していたからですね。
あれ……? 本編に同じことを書いたかな?(まぁいいや)
……あと、ここだけの話ですけど、この話には、(時間と気力があれば)書くかもしれない続編のネタも少し含んでいます。
私事ですが、今日また一つ歳をとりました。