「私ね。この世界が好き。……好きに、なれたんだ」
少女が言った。愛らしくもあり、どこか神々しさもあった。
「昔は、ただつまらないから、自分が楽しくなるようにすることだけ考えていて……。そんなこと、微塵も思ってなかったんだけどね」
近くに倒れる傷だらけの少年にほほえみながら語りかける。少女と少年は顔立ちが似ていた。
「でも、あなたがいたから。私は気がついたの。あなたを、ここを、守りたいって。私は感じていたい。信じていたい。皆が生きているこの世界は、素晴らしいって」
「……だからって、お前が犠牲になるなんて、間違ってる!そうでもしないと生きられない、こんな世界、オレはいらない!アイリスがいないのに、オレに生きる価値なんてどこにもない!」
少年が泣き叫んだ。体はとうに限界を迎え、一歩も動くことなどできない。しかし、彼は這ってでも彼女へ近づこうとする。手を伸ばす。少女はその姿を見てしゃがみこみ、膝をついた。少年の手を両手で包み込んで、困ったように笑う。
「もう……、泣かないで。犠牲に、だなんて気持ちじゃないよ、私。……確かに心残りはあるけどね」
「なら、アイリス、何で…………」
少年も手を握り返そうとするが、力が入らない。するりと彼女の手は抜けていった。
「私しか、できないことだから。だから、ただやるだけだよ」
力強い声だった。そして彼女は立ち上がり、少年に背を向けた。
「でも、もしあなたが私のこと大切に思ってくれてるなら、私がいなくなったあとも、あと少しだけ頑張ってくれる?」
少年は這って少しだけ進んだ。だが、少女は振り返らない。彼女には届かない。
「きっとそれは、あなたにとって、つらい道になるよ?」
「なんだってやってやる!だから」
いなくなる、なんて言わないでくれよ。
そう言い終わる前に、
「そう……。なら、よかった」
「おい、待てよ……、いかないでくれよ」
彼女の名前を呼ぼうとしても、声がかすれてしまう。
背中が遠ざかる。
自分の体は悲鳴をあげていて、視界も霞んでいく。
でも、少しだけ一瞬こちらを振り向いていて。
「どうか、あなたは…………」
そこから先の、彼女の最期の言葉は、オレに届かなかった。
あの人は強い人だった。
オレに色々なことを教えてくれた。たくさんの物をくれた。無機質な世界が色づいた。
でも、オレは何も返せなかった。
オレの手はどこにも届かなかった。
もし、願いが叶うのなら、彼女の伝えたかった、あの言葉を―――。
クライマックス感があるのとか、マモレナカッタ…みたいなのも好きです。