属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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本日三話連続投稿(3/3)です。

※残酷描写あり


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【N.C. 992】

 

なんだよ、あれ。

 

オレが呆然としている間にも化物を死体をむさぼっていた。右足をちぎったのが見える。

ボリボリと音が聞こえる。

 

次は左足。ブチブチボリボリ。

 

最後に残った胴体はそのままかぶりついてむしゃむしゃ服ごと食べていた。

 

気がつくと死体はどこにもなかった。

あるのは赤い血だまりだけ。

 

怪物はのそのそと歩き出した。

その方向は実験室だった。

 

 

どこからか火が上がっているようで、二階以上には煙が充満しつつあった。

一階には実験室や先生の部屋があるが、そこは煙は特に見られない。

 

もし何かあった場合は実験室に皆逃げているはず。実験室はちゃんと逃げて扉を施錠すれば、中は守られる。

 

先生は大丈夫なんだろうか。

オレは不安に思い、化物のあとをつける。

 

オレの記憶では5年後研究所が襲われること以外に、こんな出来事は知らない。5年後の襲撃者もあんな化物じゃなくて、人間だった。

 

あの化物はどこから来たんだ。

なんで人を襲って食べたんだ。

 

でも、どこかで見たことのあるような。どこか不完全さも感じる。

 

化物はオレに気が付いていないようで、相変わらずのそのそと歩いている。

 

ふと、近くの扉が開いた。

 

「なに!?何があったの!?」

 

中から出てきたのは先生だった。

化物は先生の方を見る。

そして、三本の腕を伸ばした。

 

「うおぉぉぉぉぉおおおおおっ!」

 

反射的に化物に飛び蹴りをする。

化物はそのまま横に飛ばされ、体勢を崩した。

 

「早く!逃げて!」

 

先生は呆然としていたが、オレの言葉にハッとしてこちらに駆け出す。

 

化物はこっちをゆっくり振り向いた。

顔が見える。

 

それは、口の周りが真っ赤になっていることを除けば、先日見かけた子供たちの一人と同じ顔だった。

 

大人よりも大きな体に不自然につく子供の顔はあまりにも不気味で、オレは言葉を失ってしまう。

 

「まさか、被験体が暴走を……?」

 

先生が呟く。

 

被験体ということは、あれは元々人間だったっていうのか。

 

振り向いた化物は、蹴り飛ばしたためにいくぶんか距離は取れていたものの、こちらに向かってくる。

 

どうしよう。どうしよう。

 

近くにはまだ、先生がいる。

 

……とにかく、戦おう。

 

戦ってきた記憶なら頭の中にある。思うように動けないかもしれないし、まだまだ体は小さいけど、先生を逃がすくらいの時間は稼げるかもしれない。実験室はここから遠回りすれば別ルートでも行くことができる。

 

オレは化物に向かって再び駆け出して、もう一回蹴った。

化物は頭は良くないようで、正面からもろに蹴りをくらって倒れる。しかし、もぞもぞと背中の腕を使って再び立ち上がろうとしていた。

 

どうすればこいつを止められるのか。

腕なんて三本あるから一本つぶしたところでどうにもならなさそうだ。

 

そこでオレはふと思いついた。

 

そうだ、頭を壊せばいい。

 

立ち上がりかけた化物にしがみつくように近づいて顔を殴った。一発殴るごとに子供の顔がぐちゃぐちゃになっていく。装甲は硬くないようでこの分なら簡単に壊すことができる。

 

腕が痛かったけど何回も殴った。

頭の原型がわからなくなるくらいになったとき、化物はピクリとも動かなくなっていた。

 

先生はもう逃げてくれたようで近くにはいない。

 

少し安心して息をつく。

 

すると実験室の出入口の方からまたもや悲鳴が聞こえた。

女の人の声だった。

 

倒した化物を越えて走る。

 

心臓の音がバクバクしてうるさい。

 

実験室の出入り口近くにはすぐ辿り着くことができた。

 

しかし、そこには固く閉ざされた扉にもたれかかる先生と、その前にもう一体の化物がいた。

先生には利き腕の方がなくなっていた。

 

「先生っ!」

 

この距離では間に合わない。直感的にわかった。

でもオレは手を伸ばした。

先生も残った手をこちらに伸ばそうとした。しかし、オレの手をみた一瞬動きが止まった。

 

 

 

次の瞬間、先生の頭は化物にかぶりつかれ、食いちぎられた。

 

 

 

残った体は扉にもたれかかったまま、ずるずると下がった。

オレは動けなかった。

先生の身体が貪り食われていくのをただ見ていた。

 

下半身から食べていき、最後に残ったのは腕だった。

 

その腕すら食べられてしまった後、自分が悲鳴を上げていることに初めて気がついた。

 

 

化物はオレに見向きもせず、実験室の扉に何度も何度も体当たりをしていた。

扉は多少傷ついたものの、壊れて開く気配はない。

 

しばらくすると化物は急に苦しみ始めるようにうごめきだした。腕から足が生え、頭から指が生え、体が膨張して、最後にはドロドロと崩れてしまった。まるで、何かに耐えきれなくなって壊れてしまったみたいだった。

 

研究所に静寂が戻った。

 

研究所の各部屋には人がいる気配は全くなく、唯一可能性のある実験室も、化物が体当たりをして鍵穴がゆがんでしまったのか、開く気配はない。

 

扉に耳をつけるとかすかに音が聞こえた。

中に誰かいる。

 

…先生の部屋だ。先生の部屋ならガラス越しに実験室内を見ることができる。

 

先生の部屋までいくと、相変わらず書類だらけで、どこからか物音が聞こえた。

書類の山の向こうにはガラス窓がある。

 

そこにはさっきの化物1体に追われ、殺され、食べられている大人たちの姿があった。

子供も1人いた。接近されて風の魔術を使ったのか、化物から生えていた複数の腕のうち、一本が切り飛ばされる。しかし残りの腕につかまれて、あっという間に物言わぬ肉塊と化した。

 

さっき先生を食べたのも、実験室の中にいるのも、どちらも顔だけはいつか見かけた子供のものだった。

 

いつしか実験室内の人間は全ていなくなっていた。あちこちに血がへばりつき、まさに地獄だった。

化物はこのガラスに向かって体当たりをしている。

 

ふと、近くの書類が目に入った。

 

タイトルは『I計画』。

 

無意識のうちに手にとって読んだ。

 

そこに書いてあったことは、この計画は元々魔術を使えない人間が多数だった時代、魔術を使える人間に対抗するため、魔力子を持たない普通の人間の強化・改造を試みていたこと。

 

しかし、いつしか全ての人間に魔力子が宿るようになり、魔力子による人類の進化が目的となったこと。

 

外部からの魔力子体内注入は、大人であると副作用が起きてうまくいかず、子供を使用したこと。

 

大勢の子供で実験したが、いまだに目標の成功体である『天使』には至っていないこと。

 

もしも『天使』の作製に成功すれば、その体は魔力子そのものとなり、順調に調整を重ねることで時間や空間はおろか事象そのものに直接作用することができるようになると目されていること。

 

そして、最後の方には新しいページが数枚追加されているようだった。

 

それには、現段階である第6世代の残り6体のうち、全く魔力子の宿っていない個体がいること。

 

……これはオレのことだろうか。

あと、他の5体はここにいた子供のことか。

続きを見る。

 

処分も検討したが、現在の人類は魔力子を極端に喪失すると死亡してしまうことから、おそらく人類で唯一魔力子を持たない貴重な個体であるため残したこと。

この個体には過去計画の実験を行ったところ、肉体のスペックそのものの上昇がみられること。

他5体には順調に強化が進んでいること。

 

最後のページには、こう記されていた。

 

『先日、肉体強化のために強制成長をVI-6に促す投薬を先行して行ったところ、意識不明および発熱の症状がみられた。この個体の投薬実験を一時中断、VI-1~5については投薬を中止し、代わりに急遽、新型の魔力子活性剤を投与した。

 

中断したVI-6には5歳程度の成長がみられるという予測がたてられた。このことにより、中止した他個体の投薬実験ではさらに成長が見込まれる。また、活性剤の影響はまだ現れていない。

 

追記1:後発の『人工天使計画(通称:AA計画)』が発足し、データの引継ぎが求められている。よって、本計画(*1)はさらに計画の遂行を急ぐ必要がある。

 

追記2:実験中断中のVI-6により、未知の現象の報告。「未来の知識を得た」との発言がある。当初は幻覚や興奮の副作用があるとみられていたが、本人の知りえない情報を持っていた。これは非常に重大な報告である。再現性の確認をするため、VI-1~6に中止していた強制成長投薬実験を行った。

 

追記3:強制成長投薬実験後、VI-4の体の一部に肥大化がみられた。しかし、意思疎通は正常に行える模様。

 

 

「体の肥大化……」

 

それで思い出したのは、先ほどの化物だった。

 

子供の顔に肥大化した体。

 

なんであんなことになってしまったのか。

 

書類にあるVI-6、これは間違いなくオレだ。

 

そうすると、

 

「オレが、未来の話をしたから……?」

 

その結果、先生たちはオレ以外の被験体に強制成長の投薬を行い、被験体はあの化物になってしまった。

 

そして、5年後の襲撃を待たずに、みんな死んでしまった。

 

「ぜんぶ、オレのせいなのか」

 

くしゃくしゃに握った最後のページ。下の方にまだ一行だけ続きがあった。

 

 

『*1:アイリス計画(通称:I計画)』

 

 

「アイ、リス……」

 

ああ…………。

 

そうだった、そうだったんだ。

 

あの子の名前は、ずっとオレの近くにあったんだ。

忘れていたことは全部思い出した。

 

そもそも、この計画はアイリスという成功体で終わったんだ。だから、他の個体はもう必要なかった。オレがあの子供たちに覚えがないのも当然だ。

 

強制成長も、新型の魔力活性剤も、こんな実験行わなくてよかった。

 

けれど、この世界のどこにもアイリスは存在しない。

 

計画は終わらない。

 

そこにオレの記憶がやってきたからか投薬か、オレは高熱を出して、実験の変更があって。

 

全部、悪い方向に物事が転がり落ちていったんだ。

 

それに気がつきもせず、アイリスのことも未来のこともちゃんと思い出しもせず、能天気に未来を変えるなんて言って。

 

結局、オレはいらなかった。

今回もたまたま生きているだけなんだ。

 

前回の世界で研究所が壊れた時、アイリスはオレを助けてくれた。そのあとも何回も助けてくれた。

でも今回、オレは誰一人助けることができなかった。

 

ガラス越しに体当たりしていた化物は、扉前のものと同様にいつの間にかドロドロに溶けてしまって、部屋は静まり返っていた。

 

だから、この部屋にはオレ以外いないはずだった。

オレはよろよろと立ち上がり、せめてこの部屋にあるもの、この研究所にあるものは全てなくしてしまおうと思った。こんなものは世にでない方がいい。この惨劇は前回通りなら起こるはずのないものだったんだ。

 

そのとき、がさりと部屋の隅から音がした。

 

そちらを向くと同じくらいの年頃の男の子が先生の部屋に隠れていたようだった。この間オレを囲んだ子供たちの1人だ。

 

「あ……」

 

ひとり、生きていた。

 

自分以外にも、生きていてくれた。

 

しかし、その男の子は、

 

「……て」

「え?」

「…してよ、もう僕を殺してくれよぉぉぉぉおおお!」

「なにを言って」

「いやだ、僕はあんな化物になりたくない!殺して、殺してよ!」

 

オレに掴みかかってくる。

その男の子の左腕は、体格に見合わない大きさに肥大化していた。

 

最初にオレが殺した個体、先生を殺した個体、実験室内で皆殺しをした個体、実験室内で変化前に殺された個体、そして、この男の子。

 

やっぱりこれらがオレ以外の5体だったんだ。

 

オレは未来でこの化物がある種完成してしまった姿を知っている。

ネフィリム。

こうなってしまってはもう元の人間には戻れない。

 

泣きながら掴みかかる男の子の首を両手で掴んだ。

この身体になって、初めて掴んだものみたいに強く強く。

 

男の子の身体から力が抜けてこちらにもたれかかる。

 

それをそっと横たわらせた。

 

……せめてこの子の遺体だけは奇麗な姿で丁寧に葬りたい。

 

そう思ったけれど。

 

「こ……て」

 

「ころして」

 

種類によっては頭を完全に潰さないといつまでも死なないものもある。

 

だからオレは、近くにあった先生お気に入りの花瓶で、何回も何回も殴った。

とっても硬い優れものだから、花瓶は割れることはなかった。

 

 

 

二階以上からは火が上がっていた。どんどん火の気は強くなっているので、放っておいても一階も燃えてしまうだろう。

でもオレは先生の部屋に自分の手で火をつけた。

書類も何もかも全部燃やした。

 

先生の部屋の机の上には鏡があった。

そこに映るのは女になっても、アイリスと全然違うオレの顔。

返り血であちこちが赤くなってて、とても醜い。

鏡を割ってちょうど良くなる。

 

炎はどんどん燃え広がり、オレは外へ出た。

 

『私がいなくなったあとも、あと少しだけ頑張ってくれる?』

 

オレは、頑張れなかったよ。

 

いつしか燃えるものもなくなって、火は消えた。

建物内に残ったのは灰と、もう誰も入ることのできない実験室だけだった。

 

『きっとそれは、あなたにとって、つらい道になるよ?』

 

オレは何もわかってなかった。

それでこんなことになった。

 

だから、あと少しだけ頑張って、全部終わりにするんだ。

 




生まれて初めて直接的に人が死ぬ描写書いたんですけど、思いのほか大惨事になっててビックリしました。
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