属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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登場人物・組織が多くなってきたうえにややこしくなってきたので解説

アプシントス…ヤバいテロリスト集団その1。
アバドーン…ヤバいテロリスト集団その2。クリュティエ派とオーキッド派の2派閥があり、覇権争いしている。

さらにこの2集団で対立しています。


2-3

【N.C. 998】

 

首都は大勢の人間が各地から集まった都市だ。地下には広大な水道網が存在し、その人口を支えている。地上は徒歩で行き来するには少々大変な面積である。

そのため、乗り物に乗ることで移動するのがもっぱらであるが、都市内は民間の自動車の通行は制限されていて、一般市民は国営のバスか馬車が使っている。もっとも馬車は年々減ってきているらしいが。

 

ちなみに居候のクソガキいわく、

 

「自動車はこの国魔術師ありきの蒸気機関にこだわってますけど、これからの時代は内燃機関なんですよねー!もちろん蒸気機関は蒸気機関で良いんですけど」

 

などと言っていた。なるほど?

 

それはともかく、オレは今、比較的治安が良いとされている地区の裏路地にいた。今日も第三課の方は午前中で勤務終了で、ウィステ先輩は颯爽と退勤していた。よってオレもさっさと帰った次第である。

 

裏路地に入ったところを見られていないか、現在周囲に人がいないかなどを入念にチェックしたあと、服装は普段絶対着ないものに着替えた。

 

つまりはスカートである。

 

最初にはいたときは非常に抵抗があり、かつ、現在も葛藤の末はいている。

 

……ちょっとスースーして心もとないんだよな。

 

髪は放っておくと伸びているので、適当に肩くらいにしているが、今回はカツラを被った。

 

顔は全体的に白くして、目の下に青黒い色をつけ、口に詰め物をする。唇も青い色をうっすらのせる。

あと眉は太くしておこう。

他にも色々といじっていく。

 

鏡を見ずにやったので、最後の最後で顔が変わっているか手鏡で確認する。

 

そこには病気かなにかで体調を崩していそうな青ざめた女の顔があった。

 

うん、化粧ってのはすごいな。人相が変わる。

 

そのまま人に見られぬよう裏路地を進んで、ある建物に入った。ここは表向きはただのコーヒーハウスだ。

 

中に入っても客の姿はなく店主のみ。

こちらを視線を向けた店主に、以前適当に考えた偽名を名乗った後、ある『注文』をした。

 

「グレナデンコーヒーを一つ」

 

するとそのまま地下に通される。

 

地下への階段を下る間、オレは顔に目だけが空いた白い仮面をつけた。どこからどうみても怪しい。

 

地下室の扉を開けると、そこには人が集まっている。そして皆一様に仮面などで顔を隠していた。オレが訪れたあとも何人かが地下室に入ってくる。しばらくすると、ある男が前に出て演説を始めた。周りの人間はありがたそうに聞いており、オレも同じ動作をとる。

 

あるフレーズが耳に入った。

 

「だからこそ我々は、地上の人間すべてが『主』に魔力子を還すよう、働きかけていかなければならないのだ!」

 

こんな言葉が聞けてしまう場所はどこか。

 

アバドーンの集会所である。

 

 

 

かねてより忍び込んでいた下位団体内で得た情報で驚いたのだが、首都という警備の厳しそうなこの場所に、オーキッド派は拠点を一つ持っていた。『前回』、少なくともオーキッド派と対立するクリュティエ(クソババアのことである)派は、同じアバドーンという組織でもここの存在を知らなかったはずだ。

 

まず出入りしている者を猫につけてもらったところ、誰もが一見ごくごく普通に暮らしている一般市民だった。今のところ、本人や家族が軍属という者は見つかっていない。

 

次に表のコーヒーハウスに入った。そこで一般人を組織に引き込んでいるようだった。猫指導のもと、出入りしている人間を参考に勧誘されやすそうな変装をし、オレは入り込むことができた。他にもアバドーンに所属する多くの者に見られる『ある特徴』の真似もしたことも成功の要因だ。

 

そして今はこの地下室に出入りしている。

 

オーキッドは非常にビビりな男なので、やつ自身がここに姿を表すことはないが、あの男に近いと思わしき人物は来ることがある。地下室に集まる者たちはそういった人物の語る思想に感化されている様子だった。

 

そうすることで仲間を増やし、さらにはその知人、友人……。こうやって勢力を拡大しているのか。

 

クリュティエ派がメンバーを国家魔術師に逮捕されるなどして人材に苦慮するなか、オーキッド派はどこからともなく人が増えていたのはこういう理由だったのかとも納得してしまった。余裕ぶっこいてたけど、思い返すと実のところダメダメじゃねーか、あのババア。

 

前に立つ男の話は続いている。

 

「『主』は我々に語りかけてくる。『主』のものであったはずの力を、盗人猛々しく使う人類に鉄槌を、と。……安心しなさい、我々の運命は『主』とともにある。全ての人間から魔力子を取り返したあかつきには、我々の魂もまた『主』の元へ還り、永遠の安らぎを得るであろう」

 

アバドーンに所属する者によく見られる『ある特徴』。

 

奴らの崇める『主』の語りかけてくる声が聞こえる、らしい。

 

その超常的な存在はよっぽど人間がお嫌いらしく、他の人間を殺せと囁くのだそう。

 

それが聞こえた者は自然と同じ場所に集まってくる。それもあって、このコーヒーハウスで新たな仲間を確保できているのだろう。

 

あいにくオレはそんな声、聞いたことなど全くない。ただ、その声を聞いたと主張する人間がどういう言動をするのかは良く知っていたため、真似することは可能だった。まるでどこか熱に浮かされたのかのような発言には、自分で言っていて頭が痛くなるが。

 

そんな頭のおかしい連中が一般市民に危害を加えようとするのだ。軍だって排除しようとする。だから、アバドーンのオーキッド派は軍の力、とりわけ魔術師の力をなんとか削ぎたいと、内通者を送り込んだ。

 

内通者もまた、このような集会から奴らの仲間になったんだろう。

 

オレは内通者がここに現れることを期待しているが、自分から「裏切り者やってます」なんて言うはずない。そのため出入りしている人間の後を猫につけさせたり、集会中の発言から今後のアバドーンの動きを探ろうとしているわけだ。

 

今のところ尻尾もつかめていないし、国家魔術師を狙う犯行を示唆する発言も出ていない。

 

そう考えていると、長々と続いた演説は終わろうとしていた。

 

「各地で『主』のために奉仕活動に献身する我々の同志の中で、この地にて素晴らしい偉業を成し遂げようとしている者がいる。その同志のためにもより一層祈りをささげよう」

 

この地……、首都で何かしようとしてる奴がいるってことか?

 

その言葉を締めに、集会は解散した。

 

集っていた人々は少しずつ地下室から出ていく。オレもそれに紛れて部屋をあとにした。部屋を出ると皆、仮面を取っていつもの日常に戻っていく。

 

なぜあんなに人への憎悪に共感を示した後に、平然と人と接している者たちの神経がわからない。

 

オレはコーヒーハウスを出ると、演説をしていた男の待ち伏せをした。

男は建物から出てくると、そのまま住宅の多い地区の方角へ向かっていく。どうやら自宅に帰るみたいだ。

 

一応人目を気にしているのか、裏路地を進んでいる。

 

ちょうどいい。このままいけば、地下の下水道への非合法な入口の近くを通るし、周囲に人もいない。

 

オレは先回りして、こちらに歩いてくる男の方へふらふらとした足取りですれ違う。

 

そしてすれ違いざま、

 

「がはっ!?」

 

男の腹を壊れない程度にぶん殴り、下水道へ引きずり込んだ。

 

 

「……うっ、あ。ここは」

「勝手にしゃべんな」

「がっ」

 

腹を殴った後頭もとりあえず殴っておいたので、男はしばらくの間気絶してしまっていた。

手を縛って地面に転がしておいたら意識が戻ったので、今度は軽く頭を蹴った。

 

「よお。お前に聞きたいことがあるんだよ」

「な、なんなんだお前っ!軍、いやアプシぶっ!!!」

「オレの質問についてだけ口を開け」

 

腹を蹴って横向きの身体をうつ伏せにする。

オレはしゃがみ込んで、男の頭を掴んで持ち上げた。

 

「軍にお前らの仲間がいるだろ?」

 

下水道は悪臭が酷く、人は殆ど立ち入らない。国の重要な施設につながる下水道は別として、首都の下に広がる水道網はコソコソ動くのにうってつけだ。ごくまれに雨風をしのごうとする貧しい者がいることがあるので、それだけ警戒しながらオレはアバドーンの男に聞いた。

 

「は!?知らない、私は知らないぞ!」

「いるかいないかで答えろよ」

 

掴んだ頭を二、三回地面に叩きつけるとダラダラと流れた鼻血が地面についた。

 

「で、これから首都で何しようってんだ」

「私は、本当に何も知らない……、知らないんだ……。ただ、オーキッド様から言伝を……」

「へぇ、国家魔術師を殺すとかか?」

「ただ、我らの同志が首都で尽力しているとだけ……」

 

しらばっくれている可能性もあるので、ちゃんと喋らせたいな。

 

「このぉぉぉぉおおおおお!!!」

「うわっ」

 

男は突然手の拘束をやぶった。

とっさに距離をとり、よろよろと立ち上がった男を見ると、その両手からは火が上がっている。

 

一応火の魔術なら使えるらしい。もっとも、まだ混乱で身体強化や治癒には手が回らないのか、皮膚がじりじりと焼けている臭いがする。

 

「きききさまぁああ!この背信者めがぁぁぁっ」

 

げっ、こっちに殴り掛かってきた。

 

いくら素の身体能力が高いといえど、燃やされてはたまらん!

 

相手の大ぶりの拳を避けて、隠し持っていたナイフで伸びてきた腕を刺す。

 

「あがあああ!!」

「隙だらけだクソ野郎」

 

オレはもう一度男の腹に拳を叩き込んだ。

 

 

 

二度目の腹への攻撃はかなり思いっきり殴ってしまったので、男は血の混じった吐しゃ物をまき散らして倒れている。ヒューヒューとした呼吸音がかすかに聞こえた。

また手から火など出されたら面倒なので、腕に突き刺していたナイフを抜いて、手首あたりを骨を避けて何回か刺した。まあ保険だが。

 

「ひ、あ、ひゃ……」

「お前、本当に知らない?」

「しらない……なにもしらない……」

 

知らない知らないと繰り返して、目がうつろになる。

もうこれ以上はダメだな。……下水道は首都から離れたところで川に合流する。流すにはちょうどいいだろう。

 

オレはナイフを振りかぶりながらつぶやいてしまった。

 

「背信者ね……、魔力子を『主』に還せとか言っておいて、自分たちは都合よく魔術使うんだから、ほんといいご身分だよ」

 

 

 

下水道を通っての帰り道、カツラをとり、血の付いたスカートで顔を拭いた。

 

 

 

§ § §

 

 

 

首都の外れの自宅に戻ると速攻服を脱ぐ。

 

「うわ、ちょっとお師匠!うら若い乙女がそんな恥じらいもなく……、ああ折角のスカートが。また下水道通ってきたんですか?」

「ああ、シャワー浴びてくる」

 

首都の外れの古びた集合住宅には住人も多くなく、会うこともないが、下水道を通ってきたことがばれれば怪しまれる。

 

この家はシャワーの設備だけはお湯が出るなどしっかりしていたので、悪臭をとるため急いでシャワールームへ駆け込んだ。

 

服をすすいだあと、頭からお湯を浴びる。

足元にすすいだ服をべチャリと置いてままだったので、足を使って隅に退けた。

 

その時嫌でも自分の裸が目に入る。

 

胸はささやかであるが丸みを帯びていた。

一応15歳の少女の体だった。

 

……男でなくなってしまった問題は5年以上一時保留しているが、年を追う毎に自分の知らない体になるのはモヤモヤする。

 

モヤモヤを追い払いたいがためについ言ってしまう。

 

「というかいっそ胸があるなら大きくしろよ。なんでここ中途半端なんだよ」

 

もしもこの世に神がいるなら、このことにケチをつけたい。

もちろん、アプシントスやアバドーンが言う『神』はノーサンキューである。

 




・「スカートはいたらスース―する」という表現が気になる方へ
…男性の場合はスカートはいてみてください。
 女性の場合はスカートの中に弱風送ってみてください。

・自動車の歴史に詳しい方へ
…電気自動車のことは頭を打って忘れて下さい。

・文明はいつくらいの年代をイメージすればいいの?という方へ
…西欧の18~19世紀くらいを下地にしています。日本なら明治~昭和初期あたり。でも異世界ファンタジーだから(震え声)
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